第12話 ファーマ君、浮遊島へ行く
ラグナ山の高さを約3000mから約2000mに修正しました。
エミル達と合流し宿の部屋に戻って話をしようと思ったのだけど、困った事に城ケ崎さんが大き過ぎて宿に入れない。城ケ崎さんの身長はドアを遥かに超えていて、宿の1階の天井より高い。見た所、城ケ崎さんの身長は3m72㎝、草乃薙さんは城ケ崎さんよりだいぶ小柄だけど2m94㎝、草乃薙さんがギリギリドアを通れるくらいだ。
『宿には入れないみたいだから、どこか別の所で話をしましょうか』
『申し訳ないでござる。拙者達、地上の町に来たのは初めてでござるが、これほど家が小さいとは思わなかったでござる』
家が小さいというよりは竜人族が大きいだけな気がする……城ケ崎さんは武者達より頭2つ分くらい大きかったから、たぶん竜人族の中でも特別大きいのだろう。
町の中には2人が座れる場所も無いし、異国の服装が珍しいのか、やたらと注目も浴びるので仕方なく町の外に出る事にした。ベンチにも座れないし地べたに座らせるわけにもいかないから、仕方ないよね。
町を出て、適当な大きさの岩がある所に移動して2人が座れるように岩を錬成して椅子とテーブルを作り、僕達用の椅子も作る。足は届かないけど2人と同じテーブルにつくにはこの高さじゃないと厳しい。
テーブルにはお茶とお茶請けに町で売っていたクッキー、それとギルドで購入したアイスクリンをそれぞれの前に並べる。僕のやっている事を不思議そうに観察している城ケ崎さんと草乃薙さん。僕の錬成は竜人族から見ても異常なんだろうか?
エミルとレオナは日本語……いや日那国語が解らないので僕と日那国の2人で会話を始めた。
『んー、この白い食べ物美味しいですねー。地上の食べ物は初めてですけど感動ですぅ』
草乃薙さんはアイスクリンを口にした途端口調が砕けた。どうやらこっちが素の様だ。
『巫女殿、御子様の前でござるよ?』
『あっ、失礼致しました御子様』
城ケ崎さんにツッコまれて我に返った草乃薙さんが顔を真っ赤にして肩を竦めている。
『大丈夫ですよ。僕はそんなに偉くないですから、普通に話してもらえる方が楽です。ところで神託の御子ってなんですか?』
『つい先日、巫女殿に羅呉那武斗様という我らが神から、先程の町に御子様が居られるので羅呉那武斗様が住まわれている御山に案内するように神託が下ったでござるよ』
城ケ崎さん達も詳しい話は分からないようで、神託だからとしか説明のしようがないようだ。日那国の中で神託を聞くことが出来るのは巫女である草乃薙さんだけらしく。草乃薙さんも神託を受けるだけで会話は出来ないので、指示に従っているだけだという。ただ、神託と同時に僕の姿が頭の中に浮かんだので呼ばれているのは僕で間違いはないという事だ。
この2人の話しぶりや雰囲気を見る限り悪い人ではなさそうだし浮遊島の上はかなり興味深い。たぶん、今を逃したら行く機会はないだろう。
けど、エミルとレオナは付いて来てくれるだろうか? 2人をテルホイで待たせておくのは何かと不安だし、ここで2人と契約解除して別れるなんて選択肢はない、もしエミルとレオナが行きたくないというならこの話は断ろう。
「エミル、レオナ、浮遊島に招待されたんだけど、一緒に行ってくれる? 2人が嫌なら断るけど」
「ファーマ様が行くのであれば何処へでもついて行きます」
「あぃ、いつも一緒です」
二つ返事で付いて来てくれると言ってもらえたけど、本当に良いのだろうか?
「本当に良いの? 危険な場所かも知れないんだよ?」
「はい、問題ありません。ファーマ様の行きたい場所であれば何処までもお供します。それに、実を言うと私も浮遊島の上には興味があるのです」
「あぃ、レオナも行きたいです」
そうか、そう言ってくれるなら付いて来てもらおう。
『仲間も一緒で良かったらあなた達に同行しても良いです。問題ないですか?』
『勿論でござる』
同行すると答えると、2人は嬉しそうに僕達を見て微笑み一礼した。その直後、城ケ崎さんは空に向かって手を伸ばし、神力を集め放つと、上空で炎属性神術が発動し大爆発が起こり、真上に有った雲が吹き飛び青空が広がる。
『い、今のは何のために?』
『ああ、失礼したでござる。今のは先程の者達に戻ってくるよう伝える合図でござるよ』
ただの合図にしてはとんでもない威力だ。町の人達は腰を抜かしているんじゃないだろうか? と、思って町の方を遠視を使って確認してみると、門番の正騎士さんが真っ青な顔をして空を見上げて呆然と立ち尽くしていた。
……やっぱりそうなるよね。
それはそうと、そこの山に居る訳だし、さっきのドラゴンの速度を考えると直ぐに戻ってくるよね? ポークン置いて行くわけにもいかないし取りに行かせてもらわなきゃ。
『すいません、荷物を宿に置いているので取りに行っても良いですか? それと僕達が移動に使っている乗り物と生き物も一緒に連れて行きたいんですけど』
『問題ないでござる。御子様が戻ってくるまでここで待っているでござるから、ゆっくり行ってくると良いでござるよ』
『ありがとうございます。それと1つお願いがあるんですけど?』
『なんでござるか?』
『御子様と呼ばれるのはどうも違和感があるので、僕の事はファーマと名前で呼んでもらえますか?』
『それは失礼したでござる。ではファーマ殿と呼ばせてもらう事にするでござるよ。拙者の事も名前で呼んでくれるとありがたいでござるよ』
『はい、ではこれから新右衛門さんと呼ばせてもらいます。直ぐに準備を済ませて戻ってきますね』
待っている間に食べられるようにお茶とクッキーとアイスクリンを多めにテーブルに置いて宿に戻った。
1時間後。宿を引き払い、商業ギルドにマルガンさんへの手紙を預け、バザールさんに日那国の人達が国へ帰る事を伝えて新右衛門さん達が待っている場所に戻ると、武者3人と草乃薙さんが何故か言い争いをしていた。
どうやら武者さん達もドラゴンもみんな無事のようだ。
言い争いの内容は、クッキーとアイスクリンの残りを誰が貰うかという話。アイスクリンは既に溶けて飲み物になっている。……喧嘩になるほど気に入ったのか。レシピはギルドで買ってあるから材料さえあればいつでも作れるんだけど。
『お待たせしました』
『おお、ファーマ殿。早かったでござるな。おや、牛車でござるか久しぶりに牛を見たでござるよ』
『新右衛門さんは牛を知っているんですか?』
『知っているでござるよ。日那国にはいないでござるが、前に住んでいた所では普通に家で飼っていたでござるからな』
ん? 前に住んでいた所? 国主なのに日那国の出身じゃないのか?
『その牛は、どこで手に入るでござるか? 日那国でも飼いたいので持って帰りたいでござる』
『この生き物は正確には牛ではなくてポークンという生き物ですが、町の商業ギルドか生産者から直接仕入れれば手に入りますよ。さっきの町でも売っているので買っていきますか?』
『おおっ、そうでござったか。似た生き物が居るのでござるな。是非買って帰りたいのでファーマ殿、通訳を頼んでも宜しいでござるか?』
『勿論です』
日本語を知っているし牛も知っている。前世と似た文化を知っている人と交流を深められるのは有難い。人柄も良さそうだし、良い友達になれるかも。
新右衛門さんと草乃薙さんを連れてもう1度テルホイに戻り、商業ギルドでポークンを雌雄5頭ずつ購入。
流石のモンロウお姉さんも竜人族には驚いたようで、対応がぎこちなかった。
素手で10頭は運べないので檻も一緒に購入し、5頭入りの檻を新右衛門さんと草乃薙さんが軽々と背負って鎧武者さんが待っている所まで戻った。
ちなみに、この国では日那国のお金は使えないので、代金は日那国に行った時に何かで返してもらう事にして僕が立て替えた。
荷車はバラシて収納魔法道具に収納して、うちのポークンは一緒に檻に入れてもらい、檻は武者さんが運んでくれる。僕は新右衛門さんの騎竜に、エミルとレオナは草乃薙さんの騎竜に一緒に乗せてもらって浮遊島に向かった。
ドラゴンの乗り心地は想像以上に良い。空から見下ろす壮大な景色、体に感じる心地良い風、僕も騎竜欲しいな。と、楽しんでいたら、あっという間に浮遊島の目の前まで到着した。
浮遊島に着いて驚いたのは、町から見て予想していた大きさを遥かに超えている事。肉眼では地平線が見えるほどの大きさだ。
遠視を最大限使って見ても向こうの端が見えないので反対側まで50kmを軽く超えている事になる。島の高度は地上から約1万mぐらい。島の外は気圧も低く空気も薄く気温もかなり低かったのだけど、島に入ると同時に地上とほとんど変わらない環境に変わった。
不思議だな? どういう仕組みで島の環境を保っているんだろう?
エミルとレオナは環境の変化に付いていけなかったみたいで、ぐったりとして吐きそうになっている。まあ、生身でこの高度まで一気に上がったら普通の人は耐えられないよね。ポークン達が平気そうなのは凄いな。
2人は辛そうだけど草乃薙さんから水を貰って少し落ち着いたようなので、2人の事は草乃薙さんに任せて、僕は新右衛門さんに浮遊島について色々質問してみた。
島の直径は25里強(約100km)、中央にラグナムト様が住む御山、羅呉那山という大きな1つ山があり、その周りは木々に囲まれている。山は見た所標高2000mぐらい、あれが神の住処なら山を囲む森林はたぶん聖域。あの辺りの魔物はかなり強力だろう。
浮遊島はラグナ山を境に北側が日那国があるドラグナ(日那国に住む竜人族の部族名)の領域。南側が竜の縄張りがある竜の領域。基本的に住み分けられているけどドラグナも竜も互いの領域に入る事は多々ある。今乗せてもらっている騎竜という竜も竜の縄張りから持って帰った竜の卵を孵化させて育てたものらしい。
日那国の総人口は約4000人。ラグナ山から北に5里(約20km)程の場所に町を作っているそうだ。ラグナ山に近い場所程、獣(日那国では魔物と言わない)は強く離れる程弱いと言っていたので、デザリアにある聖域付近と似たような環境ということが解る。
話しを聞きながら御山に向かう大自然の中に日那国の人達が住んでいる町を発見した。教科書に載っていた江戸時代の町のような純和風の街並みに、あれは……
『ひょっとしてあれは水田ですか? 日那国にはお米があるんですか?』
この世界に来て初めて水田を見た。日那国に行けば7年ぶりいや、転生の誤差を考えるなら8年ぶり? まあ、どっちでも良いや。久しぶりにお米が食べられるかも知れない。
『そう、水田でござる。デザリアにも米はあるのでござるか?』
『いえ、こっちに生れてからは初めて見ました』
『ん? こっちに生まれてから? でござるか?』
あっ、しまった。お米があるのが嬉しくて、つい余計な事を言っちゃった。
『ファーマ殿はもしかすると拙者と同じ境遇の人でござるか?』
同じ境遇? ひょっとして新右衛門さんも?
『同じ境遇ってどういう事ですか?』
『ここでは他の者の目があって話し難いでござるからファーマ殿が御山から戻ったら話すでござるよ』
『分かりました』
どうやら、間違いなさそうだ。新右衛門さんも他の人には話していないってことだよね。
数分後。僕達はラグナ山の梺の森林の淵に降り立った。
◇ ◇ ◇
ファーマが竜人族に連れられて浮遊島に行き、20日ほど経った頃。グラダの商業ギルドにマルガン宛ての1通の手紙が届く。
「マルガン様、またファーマ君から手紙が届きましたよ。今度はテルホイからですね」
ギルド受付嬢のニーナがファーマから届いた手紙をマルガンに渡すがマルガンの表情は何故か曇っている。
「ぶふぉっ! なんじゃとぉー!!」
手紙を開いて内容を確認したマルガンは飲んでいたお茶を吹き出し、大声で叫んでしまう。
「どうしました? マルガン様が大声をあげるなんて珍しいですね」
「何を考えておるんじゃ、あの小僧は……今度は選りにも選って竜人族の国に行ってきますじゃと?」
ファーマの手紙には
〝ドラゴンの巣という浮遊島の上にある日那国という竜人族の国に招待されたので行ってきます。試験日までにはアインスに行きますので心配しないでください。追伸、珍しいものがあったらお土産に持って帰りますね〟
と書かれていた。
「ドラグーンって大昔に災悪と呼ばれて恐れられたという亜人ですか? 確か、レムール大陸のどこかに住んでいるという話ですよね。浮遊島にもいたのですね」
ワナワナと震えるマルガンの横から手紙を覗き込み、冷静な態度で話すニーナ。
「おまえさんやけに冷静じゃな? 驚かんのか?」
「充分に驚いていますよ。でも、あのファーマ君ですから。今更何かしでかそうと不思議ではありませんよ。テルホイに到着する前にも色々とやっていますし」
手紙を開ける前に曇っていたマルガンの顔の原因は、ファーマが行く先々で何かをやらかしているからだ。権利を持たないのに魔法を教えたり、町の正騎士ともめたり、ステイール家の人間の目の前で錬成を使ったりと、一部本人は悪くない事も含まれるが何かと面倒に首を突っ込むので手紙を読む方も気が気ではないのだ。
「あ奴個人が何か妙な事をしでかそうと、大抵の事はワシの力でどうにでもなるが、今回は竜人族の国じゃぞ? レムール大陸に竜人族が住んでいるという噂はあるが、竜人族が国家を形成しておるなど初めて聞いたわい。万が一にも対応を誤って戦争にでもなったりすれば国が亡ぶ。そんなところに小僧1人で行くなど、正気の沙汰ではないわい」
「1人ではなく3人じゃありませんでした?」
「そうじゃった、奴隷も居ったのう……そうではない! 冷静に突っ込んどる場合か!」
と、頭を抱え込むマルガン。考えてもどうしようもない事は解っているのだが、万が一にもファーマが竜人族を怒らせやしないか不安でたまらない。マルガンがファーマに渡した家証は通常の家臣に渡すものとは違い、エンドール家の分家相当の地位を与えるという物。
ファーマには、そんな大それた物だとは知らされていないのだが。ファーマが功を成せばエンドール家の功になるがその逆もまた然り。
テルホイに竜人族らしき亜人が現れた事、エンドール家の家証を持った子供が通訳の為に仲介に入り、その後の対応を任されていた事等は、別ルートからの知らせで知っていた。当然、国王や国の重鎮には同じ知らせが入っている。
一緒にドラゴンの巣に向かったという情報は手紙で初めて知ったのだが、この状況から考えて、この後に竜人族が大昔の手記にあるように世界中で暴れ出した場合、その子供が何かやらかしたと勘繰られるのは間違いない。当然、エンドール家にも何かしらの調査は入るのだ。
「大丈夫ですよ。あの子なら竜人族と仲良くなってギルドに大きな益をもたらしてくれますって」
「そうであれば、ええんじゃがのう。お前さん何故そう言い切れるのじゃ?」
「ふふふっ、女の勘です」
「はあっ?」
勘という不確かなもので自信満々に大丈夫と答えるニーナに呆れるマルガンだが、今更考えた所で時すでに遅し。デザリア国には浮遊島に向かう手段などないのだから。
大きな溜息を吐くマルガン。ファーマが無事にデザリアに戻ったという知らせが届くまでマルガンの心労は続く。
次回更新は10/18になります。




