第10話 ファーマ君、ルギイ山の梺の町に着く
ステイール家の人達と別れて2日もう直ぐテルホイの町に到着する頃だ。浮遊島なんてファンタジーなものを見る機会があるのは嬉しい事だ。
ドラゴンというのは少し怖いけど、まあ、100年も梺には下りて来ていないというのだから、そう心配しなくても大丈夫だろう。
「ねぇ、エミルはドラゴンの巣って島、見た事ある?」
「いえ、噂には聞いたことありますが、実際に見た事はありません」
「エミルも見た事ないのかぁ。じゃあ、見てみたいと思う?」
「そうですね。どんなものか興味はあります。ですが、ドラゴンはかなり危険な魔物なので出来れば遭遇したくないですね」
まあ、普通はそうだろうね。僕だって恐竜が目の前に現れたら怖いと思うし……でも、図鑑でしか見た事のない恐竜を生で見られる機会はそうそうないからドラゴンというのにはかなり興味がある。怖さ半分興味半分だな。
「レオナはどう?」
「あぃ、ドラゴン戦うは、まだ早いです」
ドラゴンはキャッツ族にとって戦う対象なんだな。まだ早いって事はいずれ戦いたいって事なのか?
「ドラゴンは見た事あるの?」
「あぃ、村に骨あるます」
おおっ、骨があるって事は倒した人が居るって事だよね? 凄いな。ドラゴンがどのくらい強いのか知らないけど、前に見たプテラノドンみたいなのくらいだとしたら結構強いはずだ。遠目で見た限りではギガントフロッグより危険な感じがしたし。
そうこう話をしている内にテルホイの町に到着。今のところ浮遊島は見えない。
町の中に入ると、結構多くの人で賑わっていた。商人風の人や重装の人や冒険者風の人が多く居る。みんな心持ち表情に緊張が見える。何かあったのかな?
とりあえず僕達は町の情報と宿を紹介してもらう為に商業ギルドのテルホイ支部に行くことにした。
タンハの町以降、宿はギルドに紹介してもらう事にしている。それでも宿泊を断られた町も1つあったんだけど直接交渉するよりは確実なのだ。この町はタンハに比べると人口はだいぶ少ないのだけど、宿場町というだけあって人の出入りも激しいらしく、宿や露店が多いし、商業ギルドもそれなりに大きい。調味料や保存食がだいぶ減ったし補充しておこう。
「こんにちは、僕はギルド会員のファーマといいます。今日は相談したい事があってきました」
ギルドに入り、受付に居たドシッとした体形の熟年の女性に声を掛けた。
「おや、子供のギルド会員とは珍しいねぇ。あたしゃ、ここで30年受付やってるモンロウだよ。相談ってのはなんだい?」
モンロウって聞くとスカート押えて「ワオッ」っていう,昔の女優さんの真似をする中2の時の担任教師(男)を思い出す。この人がやっても破壊力が凄そうだ。正直見たくはない。
余談はさて置き、僕はレオナの事とこれまでの事を話して、紹介してもらえないか聞いてみた。
「━━出来れば、個室に湯舟が付いている宿を紹介してもらえると有難いです」
「そりゃ大変だったねぇ。よし、モンロウお姉さんに任しときな」
……お姉さん? 今、ここで30年受付やってると言わなかったっけ? と、いうことは最低でも46才は越えているはず。もう、お姉さんって年でもないような?
「なんだい? なんか言いたい事でもあんのかい?」
「いえ、なんにも無いです」
鋭い眼光を向けられ迫力に押されてしまった。この人ひょっとしてギガントフロッグより強いのでは?
1時間ほどギルドで待機し、希望通りの宿が見つかったという事で、ギルドからの紹介状を貰って宿の場所と名前を教えてもらった。
「話は付いてるけど、人目があるからその子にゃ、ちゃんと外套着せてフード被せてバレないようにして訪ねなよ?」
「はい、ありがとうございました。ところで1つ聞いても良いですか?」
「あぁ、お姉さんに解る事なら何でも聞きな」
この人やたらとお姉さんを強調するな……まあ、気にしないようにしよう。
「町に重装の人や冒険者風の人が沢山居たんですけど、何かあったんですか? ただ山道の通行止めで足止めされているにしてはちょっと雰囲気が重かったので」
「ああ、あれはドラゴンを討伐する為に領主様が自領の兵を派遣してんのさ。それと冒険者やその人ら相手にする商人が少し前から留まってんだよ。ドラゴンってのは危険な魔物だけど素材は高く売れるし色んな使い道があるからねぇ」
なるほど、そういう事か。普通の旅行者らしき人の姿が見えないのもそれなら納得だ。でも、冒険者が多いのはちょっと嫌だなぁ……あの人達って亜人を逆恨みしている人が多いらしいから、あまりご一緒したくないんだよね。ベングさん(ロイスの相方)みたいに直接絡んでくる人は多くないだろうけど、あの一件以来どうも冒険者って好きになれない。あの人達が山に行って町からいなくなるまでは、宿の中で大人しくしておこう。
僕達は紹介された宿に向かい、とりあえず7日分の予約を取った。モンロウさんに聞いた情報によると、浮遊島の現在地と速度から計算すると、明日には浮遊島がこの町から見える位置に到着し、バチェル山脈上空を通り過ぎてドラゴンがこの辺りに下りて来る危険性が無くなる日まで凡そ7日。状況次第ではもう少し長く通行禁止になる可能性があるけど、とりあえず最短日数で予約を取ったという訳だ。
「カナイ村の後、あんまりゆっくり出来る日が無かったから2人とも疲れてるよね。ここに居る間は、しっかり休もうね」
タンハや、そのあとで立ち寄った2つの町でもあまりゆっくり出来なくて、やっぱりこの国は亜人に厳しいと思い知った。
町の外では人の目を気にしなくて良いのだけど、キャンプは硬い地面に薄いシートを敷いただけだったので熟睡も出来なかっただろうし、僕の錬成で壁を作っていたとはいえ、絶対に安全とも言えないから気も休まらなかっただろう。この町はどうなのか、まだ分からないけど、どうせ動けないんだし出来るだけゆっくりしてほしい。
「お気遣いありがとうございます。ですが、それほど疲れてはおりませんので、何なりとお申し付け下さい」
「レオナも疲れ、無い。今日狩り行くも、大丈夫です」
2人ともそう言ってくれるけど、やっぱり顔に疲れは見えているから無理はさせないように気を付けよう。とりあえず、宿は少し値が張るけど、希望通り部屋に大きな湯舟が付いているので、久しぶりに3人でゆっくりお風呂に入る事にした。
3人で入るには少し狭いけど、やっぱり、お風呂に浸かる事ができるのは気持ちいい。エミルやレオナも久しぶりの湯舟に満足しているようだ。体も温まったので体を洗おうかと湯舟から立ち上がると
「ファーマ様、お背中を御流しします」
「レオナがやるです」
と、2人も一緒に立ち上がる。
「いや、自分で洗うから、今日くらいはゆっくりして大丈夫だよ」
「いえ、久しぶりのお風呂ですので私にお背中を流させてください」
「レオナがやるです」
……なんでそんなに背中が流したいんだ? まあ、どうしてもというなら流してもらおうか。
「じゃあ、2人でお願い」
「はい」「あぃ」
嬉しそうに湯舟から上がり、背中から腕まで洗ってくれる。
「ちょっ、レオナ、前は自分で洗うから」
流石にそこは恥ずかしい。レオナには羞恥心というモノを持ってもらわないとな。お返しに2人の背中は僕が洗ってあげた。
◇◇◇
ファーマ達がテルホイに到着した頃。テルホイの数十km南を浮かんでいる浮遊島の一角。純和風のお城の畳敷きの大広間に集まった大男達が居た。
「殿、先程巫女より神託が下ったと知らせが入ったでござる」
広間の最奥で座椅子に腰を掛けている一際大きな男に、伝令の男がそう報告をする。
「どういった内容でござるか?」
「明日辺り見えるようになる、竜が好む果実がある山々の東の梺にある、小さな町にいる白髪の少年を御山へ連れてくるように、との事でござる。くれぐれも丁重に扱うようにと念を押されたようでござる」
「ふむ、神託を下されるという事はかなり重要な少年なのでござろう。ならば拙者自ら巫女を伴って御迎えに行くでござる。他の者、異論はないでござるな?」
「御意、では護衛を3名程付けるでござる」
「護衛を付けるのは構わぬでござるが、神託の御子を迎えに行くのでござる。血の気の多い者を選んではいかんでござるよ?」
「勿論でござる。先代が褐色の小さき者と交わした約定もあるのでござるから、地上で暴れるようなうつけは選ばぬでござるよ」
そう、言い残し配下の男は広間を出て行った。




