第6話 ファーマ君、仲介する
盗賊を返り討ちにした後、村はお祭り騒ぎだ。この村くらいの規模の村は、比較的、盗賊に襲われる事が多いらしいけど、今回の様な大規模な襲撃で人的被害(死者、重傷者)が0というのは前例がないらしい。
今日襲ってきた盗賊は、この辺りでは結構有名な盗賊だったらしく、盗賊の親玉には懸賞金も掛かっていて、村長さんは臨時収入で大喜びだ。盗賊の人数が約100人、1人当り1000デニールで売却されるらしいから村に入るのは8万デニール。懸賞金は丸々貰えるらしいのでプラス1万デニール。人的被害0で日本円にして900万円の利益だ。
この村の1年半分の純利益と同等くらいらしいから喜ぶのも無理はないだろう。因みにこの国の平民の平均年収は1万4千デニール程度なので、そう考えると凄い利益と言えるだろう。
盗賊は重犯罪奴隷でも最重罪の1つなので死ぬまで奴隷からは解放される事はないらしく、大抵は過酷な労働や国家間の小競り合い(戦争)で盾にされて長期間は生きられないらしい。まあ、自業自得と言えば自業自得なんだけど、厳しい世界だな。
ディアスキンさん達は、今日は村に1泊して明日帰るらしく、今は村人達と酒盛りを楽しんでいる。しっかりとお酒を売って、売り上げを伸ばしているのは流石商人というところだな。買い物をしたかったけど、今日は無理そうだ。
━━1夜明け、ディアスキンさん達は朝から昨日中断した商品の売買を始めた。
「辛そうですけど大丈夫ですか?」
「ああ、ただの二日酔いだから気にしないでくれ」
二日酔い? あのお酒を飲み過ぎるとなるやつか。なった事がないから辛さが分からないけど、かなり辛そうだ。回復神術で良くならないかな?
「それって回復魔法で治ったりします?」
「怪我じゃないからな。回復魔法では無理だ。浄化魔法でも使える奴が居れば酒が抜けて治るんだが」
おお、浄化神術で治せるんだ。
「浄化魔法使えますけど、掛けましょうか?」
「マジか? 助かる」
「その代わり、商品割り引いて下さいね」
交渉は成立、1割引きを獲得した。
治療には詠唱での初級浄化魔法【ケスァル】を使う。無詠唱でも良かったんだけど、あまり子供の内から無詠唱魔法を使える人は居ないという事なので目立たない様に詠唱式にした。それと、初級浄化魔法の効果がどの程度なのかを知っておきたいという理由もある。植物にしか試した事ないしね。
「ああ~、癒されるぅ。今回はキャラバン内に光属性魔法を使える奴が居なかったから助かったよ。一応二日酔いの薬は飲んでいたんだが、大して効果ないんだよな」
ほほう、それは良い事を聞いた。商売に出来るかも知れない。
ディアスキンさんに「他に二日酔いで辛い人が居るなら、1回10デニールでケスァル掛けますよ」と声を掛けると、護衛の正騎士さんや村の人達に広まり、キャラバンの隣で長蛇の列が出来、臨時の治療院になった。二日酔い以外にも怪我や病気の人が来たりして、一律、魔法1回10デニールで治療したんだけど、かなり喜んでもらえたようだ。僕も儲かったし人間相手に初級魔法(イルォー、ケスァル)が、どの程度効果があるのかもだいたい分かった。
「にしても、君は凄いな。これ程連続で魔法使うと普通の奴は倒れるものだぞ?」
あっ、しまった。自重しようと思って詠唱を使っていたのに、神力量の事は気にしていなかったな。
「マルガン様の言っていた通り異常な魔力量だな。マルガン様の庇護があるとは言ってもあまり目立つ事をしていると悪い奴に目を付けられるから気を付けろよ?」
「あははっ……はい、次から気を付けます」
「それと、もう1つ。君は知らないんだろうけど、初級の魔法でも治療魔法1回10デニールってのは安すぎる。こんな破格で治療するのは今回だけにしておけよ」
えっ? これでも安すぎるの? 1回10デニールって1回1000円って事だよ? 高くない? あ、でも魔法薬の値段を考えると安すぎるかも……
「普通はどれくらいの値段でやるものなんですか?」
「安く治療してくれる教会へのお布施でも、その10倍くらいが相場だな。この村の人の稼ぎじゃ、おいそれと治療系の魔法なんて掛けてもらえねぇんだ。まあ、光属性の魔法をまともに使える奴なんて2千人に1人程度だからその値段も仕方ねぇんだけどな」
なるほど、魔法薬に比べるとお手頃価格だけど、初級魔法はそれぐらいの値段になるのか。知らずに商売にしていたら価格破壊を起こしてあちこちからクレームが出るところだった。最悪、捕まるかも知れないし次から気を付けよう。
「あっ、大事な事を忘れるところでした。ディアスキンさん、魔力水ってここで買い取ってもらえますか?」
前にライラさんと話した時に、キャラバンの商人さんに売る事に決めていたけど、値段交渉が不安だった。商業ギルドが相手なら無茶な値引きもされないし、色々と助けもあるから最適な取引相手だ。
「魔力水? そういえば錬金も出来るんだったな。持っているなら買い取るぞ」
一応マルガンさんには錬金と錬成の魔法が使えるという事は伝えてあるんだけど、ディアスキンさんも知っていたんだな。使える事を教えていないと、後々不便になりそうだから教えたんだけど、あの時のマルガンさんの喜びようは凄かった。他にも色々使えるって知ったら気が狂うんじゃないだろうか?
「いえ、僕ではなくて教会のシスターさんがあと少しで作れるようになるので、定期的に買い取ってもらえると助かるんですが?」
と、僕が言うと、ディアスキンさんがガシッと僕の両肩を掴み━━
「本当か!? その話、他ではしてないよな?」
僕を揺さぶりながらそう言った。この世界では驚く事があると両肩を掴んで揺さぶる風習があるのだろうか?
「まだ、作れないので他の人には言ってないです。お、落ち着いて下さい。目が回りそうですー」
「ああ、すまない。少し取り乱した」
……少しではないと思います。
「ところで、あと少しで作れるようになるとはどういう事なんだ?」
「鑑定魔法で見てみたら適性があったので、今、僕が教えている最中なんですよ」
そう説明するとディアスキンさんが少し困ったような表情を浮かべた。
「ファーマ君、君は知らないだろうから教えておくけど、学問ギルドから発行される許可証を持たない者が、人に魔法を教えるのは禁止されているんだ。この国の魔法は学問ギルドが開発したものだから知識の権利は学問ギルドにある。魔法を自分で使用するのは自由だが人に教える場合には学問ギルドが発行している講師証を取得して高い年会費を払わなければいけないんだ」
なるほど、それで魔法を学ぶには高額な授業料が発生する訳か。
「それは不味い事しちゃいましたね」
「まあ、やってしまった事は仕方ない。今回は偶然適性を持っている人を見付けたから商業ギルドが依頼して教えた事にしてもらえるよう、マルガン様に頼んでおくさ。マルガン様もお気に入りのファーマ君の為だから動いてくれるだろうしな」
「それって大丈夫なんですか?」
あんまりマルガンさんに大きな迷惑を掛けるのは忍びない。
「ああ、商業ギルドは毎月一定額の金銭を学問ギルドに払う事でそういう権利を持っているから大丈夫だ。優秀な人材を確保する為には必要だからな」
「なるほど、申し訳ないですけどお願いします」
「ああ、次からは気を付けろよ。毎回都合よく事が運んだりしないからな? まあ、とりあえずその人に会わせてくれ」
ディアスキンさんに頭を下げるとディアスキンさんは僕の頭をワシワシと撫でてニカッと笑った。充分反省したところで、教会にディアスキンさんを連れて行きライラさんと顔合わせをしてもらった。
まだ魔力水を作り出す事は出来ないので顔合わせだけだけど、次回来る時には作れるようになっている筈なので、その時に正式に契約を結ぶ事になるだろう。それと、教会のみんなには僕個人が勝手に教えているという事はキツく口留めして、商業ギルドが僕に依頼して教えた事にしてもらった。
ライラさんと商業ギルドで専属契約が結ばれる予定なので、本決まりになればライラさんは他所で魔力水を売る事は出来なくなるけど、作った魔力水は余す事無く商業ギルドに買い取ってもらう事が出来る。
ライラさんの今の神力量からして作れるのは最低回復量の初級魔力水(100mlで60回復)が1日に1~2本。少し回復量の多い中級魔力水(100mlで120回復)でも1日に1本くらいは生産出来るだろう。生産開始は次回キャラバンが来た時に魔力測定器という魔法道具を持ってきてから。これで魔力水の神力含有量を測定して一定の回復量の魔力水を作れるようになるらしい。
次にキャラバンが来るまでに試作した魔力水は、含有量によって値段を付けてくれるらしいので、どんどん作ってくれという事だ。
━━キャラバンが帰り1夜明けた。
今日も朝から、ライラさんの魔法特訓は続いている。詠唱魔法の発動は直ぐに出来るようになったので神力を水に変化させる感覚を覚える為にひたすら反復練習をして神力枯渇を繰り返している。
神力枯渇時の体のダルみや吐き気には慣れてきたようで、膝を突きはするものの直ぐに僕が作った魔力水を飲んで休憩を入れ、体調が戻り次第訓練を再開する。魔力水を飲み過ぎてお腹タプタプになりながら頑張っている。
それから7日の特訓の末、ついに水魔法が無詠唱で使えるほどにまで習得する事が出来た。まだ無詠唱で水を作り出すのに2分ぐらいかかってしまうけど、戦闘に使う訳ではないので充分だ。
今日はキャラバンがカナイ村に来る日。ギリギリ間に合ったな。
ここまで出来ればあとは、魔力水を作るだけ。前回キャラバンが来た時にディアスキンさんが置いて行ったガラスの小瓶を煮沸消毒し、綺麗な布の上に逆さに立てて自然冷却する。急激に冷やすと割れちゃうから。
冷やした小瓶にライラさんが魔法水を注ぎ2本の魔法水入りの小瓶が完成。
「あとはこれに、最初に練習した神力操作の応用で中に神力を少しずつ注ぎ込んで浸み込ませるように流して下さい」
「解った。やってみる」
ライラさんの表情は真剣そのもの。周りでは子供達がワクワクしながら見ている。
「こんなものかしら?」
40分後、小瓶の水が良い感じの薄黄色に変化した。神眼で確認したところ、初級魔力水の基準値は上回っているので問題なく商品として出せる。今は40分も掛かっているけど、毎日やっていれば半分以下の時間で作れるようになるだろう。まあ、神力の回復時間を考えたらそんなに早く出来てもあまり意味は無いんだけどね。
完成した方の小瓶に栓をして地下の保管庫に作った魔力水置き場に保管する。冷暗所に置いておかなくても30日は使用期限があるから保管庫に入れる必要はないのだけど、ここは気持ちの問題らしい。完成品にはちゃんと作成日を書いた紙をぶら下げている。
初級魔力水1本を400デニールで買い取ってもらえるのだから扱いも慎重になるよね。材料費は小瓶の購入費だけだから利益率はかなり高い。市販価格よりは安値だけど、確実に全部買ってくれるし、他から強引な売買を持ちかけられるような問題事が起こった時等は、交わした契約書を見せれば貴族相手でも黙らせる事が出来るので安心して作れる。万が一、ライラさんに手を出そうものなら商業ギルドを敵に回す事になるんだから余程バカでない限り揉め事は起こさないだろう。
念の為ディアスキンさんが村長さんに話を通して仲介に入ってもらう事になっている。村長は仲介料が貰えて税収が増えるので喜んで承諾してくれた。貴族の後ろ盾も得られたので2重に安心だ。まあ、その分ライラさんの儲けは減るけど……
これで、ダン達も危険を冒して村の外に子供達だけで出て行かなくて済む。お金に余裕が出来れば、狩りをしている人を雇って子供達に教えてもらう事も出来るだろう。ライラさんの予定としては、農場の仕事はこのままダン達に譲り、今まで農場での仕事に充てていた時間は教会で村の人に文字や計算を教える事にするらしい。
本当はライラさんも僕と同じように人に魔法を教えたいと思っていたらしいのだけど、例の許可証を取得するには馬鹿みたいに高額な年会費を払わなければいけないので断念した。
「ファーマ君、色々とお世話になりました」
「いえ、どういたしましてです」
「あなたのお陰で、空腹に悩ませず子供達を育てる事が出来ます。見ず知らずの私達にここまでして頂いて返せるものは持っておりませんが、もし何か力になれる事が出来たなら私を始め子供達も全力でご恩に報いると誓います。その時は遠慮なくお声かけ下さい」
教会の子供達を整列させてライラさんが丁寧な言葉遣いでそう言ってみんなでお辞儀をしてきた。
「急にそんな口調に改まられると気持ち悪いですよ」
「もう! 折角、感謝の気持ちを伝えたのに台無しじゃない。気持ち悪いとか失礼しちゃうわ」
ライラさんが腕組みしてぷんぷん怒っている。うん、この方がライラさんらしくて良い。ダン達もそれを見て笑っている。
さて、お節介もここまでにして、そろそろ旅を再開させよう。
僕達は、ライラさんと商業ギルドの契約成立を見届けてカナイ村を後にした。みんな笑顔で「またね」と挨拶して別れた。良い村だったな。ちょっとしたハプニングはあったけど居心地が良くて本当に楽しかった。次の所もこんな感じなら良いな。
次回更新は10/11になります。




