第1話 ファーマ君、エミルから教わる
大変お待たせしました。今日から第2章の更新開始します。
自分では良い感じに書けたと思っていますが、面白くなかったらすいません。
楽しんでもらえると嬉しいです。
グラダの町を出て3日目、今日も順調に旅は進んでいる。グラダの町近辺は襲ってくる魔物が多かったのだけど離れるにつれて魔物の数が減り今日は1度も魔物に襲われていない。
魔物にも生息域というのがあるらしくグラダ近郊から東が特別多くの魔物がいたという事なのだ。ここから次の町までの街道沿いには殆ど魔物が出る事はないらしいけど、まったくでない訳ではないし、魔物の減ってくる地域には盗賊が出る事があるらしいので油断は大敵だ。
ポークンはママチャリ程度の速度(時速5~6km)で1回2時間は走り続けられる。1度だけ見かけた馬は速度が滅茶苦茶早かった。荷車は引いていなかったけど、時速60km~80kmは出ていたんじゃないだろうか? サラブレッドはそれぐらいの速度で走るって本に書いてあったけど、この世界の馬はサラブレッドより大きく体重も重いのにあの速度。しかも全力で走っている感じではなく余裕のある走りだったので隣り町ぐらいまでなら一気に走ってしまうんじゃないだろうか?
マルガンさんに乗せてもらった馬車はゆっくり走っていたけど、荷車を引いてあの速度で走れるとしたら、荷車は絶対に壊れるだろう。壊れなかったとしても補装もされていない地面であんな速度で走られたら中の人は無事では済まない筈だ。……想像すると恐ろしい。
牛車は2時間走って1時間休憩を繰り返し、1日は6時間分進む。やはり、生き物なので最後の2時間は速度が落ちる。あまり無理をさせて身体を壊すと可哀想だし急ぐ旅でもないので、今日からは少し早めに進むのを止め、ポークンを休ませることにした。
操車はずっとエミルに頼り切り。僕も覚えようとしたら、自分の仕事だからとエミルに断られた。仕方がないので、僕は広域視で警戒をしながら、レオナと一緒にマルガンさんがくれた試験対策の本で勉強中。
とは言っても、内容が前世の小学性低学年レベルの算数と、この国の公用語の読み書きなので1通り目を通して、今はレオナに教えている。それとは別にこの国の地理や領地、領主について書かれている本も貰ったので有難く読ませてもらっている。
「ファーマ様、書く、出来た……です」
「惜しい、そこのマルは反対にこう書くんだよ」
「あぅ、失敗……です」
レオナは思ったより記憶力は良いらしく、読む方はだいぶ出来るようになってきた。けど、書くのは苦手らしい。猫手で器用にペンを持って何度も同じ文字を書く姿はとても可愛らしくて癒されるな。
ちゃんと書けた時に褒めてあげると、凄く嬉しそうな笑顔になるから教えている僕も幸せな気持ちになる。可愛い妹が出来たみたいで嬉しいな。……ん? ちょっと違うな、妹が可愛いと思った記憶は殆どないし。
レオナに文字や算数を教えながら、エミルとも話をしている。エミルはまだ打ち解けられないのか態度が硬い。もっと仲良くなれるように色々とやってはいるんだけど……
「エミル、疲れてない? あまり無理して進めなくても良いからね」
「はい、ご心配ありがとうございます。先ほど休憩したばかりなので、まだ大丈夫です」
いつもクールな対応が返って来る。契約上奴隷と主人の関係なのだけど、もっと対等に接する事が出来れば旅も楽しいだろうから頑張って仲良く成ろう。
仲良くなるための方法として操車中に果物を切って食べさせてあげたりしている。今日は町で買っておいたピウチという果物を取り出して切ってあげる事にした。ピウチは見た目がアボカドみたいなゴツゴツした感じの黒っぽい皮に覆われている拳大の果物で、中身はぶどうのようにプルプルの水分の多い実だ。ほんのり甘くて爽やかな酸味があり、こういう暑い日には持って来いだ。
「はい、エミル。口開けて、あーん」
「あ、ありがとうございます。お手数おかけして申し訳ありません」
僕が食べさせてあげようとすると、普段はクールなエミルも照れ臭いのか少し恥ずかしそうに眼を泳がせる。最初の内は「奴隷が主人に食べさせてもらうなんて恐れ多い」と遠慮していたけど、日に数回これをやっていると慣れてくれたのか、素直に食べてくれるようになった。少しずつだけど仲良くなれた気がするのでこれは続けて行こうと思っている。
「ファーマ様、レオナ、食べる……ます」
「うん、直ぐ切るから待ってて」
エミルに食べさせてあげているとレオナがおねだりして来たので、僕はもう1つピウチを取り出して、1口大に切り分けると、食べさせてと言わんばかりにレオナが口を開けて待っているので、レオナにもあーんしてあげた。
レオナは子供だけあって打ち解けるのが早く、僕の所に来て直ぐの頃からこうやって甘えてくれる。エミルも今すぐここまでとはいかなくても、もう少し甘えてくれると嬉しいんだけどな。
今日の進行距離分、移動したところで街道を外れ森近くで野営の準備をする。レオナは森で薪集め、エミルにはテントを張ってもらい、僕は錬成で地面の土を使って防壁作り。高さ3mの4m四方の壁を作り、寝るときには完全に壁で囲うようにして外敵から身を守るのだ。土の壁とは言っても錬成で固めているので、この辺りの魔物に破られる心配はない。起きたら元の土に戻すので誰かの迷惑になる事もないのだ。
ポークンにも土壁で簡易厩舎を作って魔物に襲われない様に対策してある。荷車はポークンの厩舎の横に置いて、盗難防止のため冷蔵庫はブレスレットの中へ。寝床を確保したら、エミルとレオナはポークンを濡れた布で拭いて餌をやり、今日の働きを労う。僕はその間にご飯の準備。
ポークンは濡れ布で拭いてもらうのが好きらしく、1日の終わりには必ず拭いてやるようにと教わった(水浴びでも可)。これをやっていないと段々懐かなくなり、逃げ出して野生に帰る事があるらしいから必須事項なのだ。食事は人参とアプリルの実が好物らしいので餌の飼葉には毎日どちらかを混ぜてあげている。
料理もエミルとレオナが作ると言っていたのだけど、残念ながら2人は料理の腕が今一つ宜しくない。グラダにいる時に作ってもらった事があるんだけどちょっと凄い物が出て来たので、話し合い(説得)の結果、僕が調理担当になった。2人は申し訳なさそうにしていたけど、ご飯を作るのは好きなのでなんの問題もない。
2人が僕の所に来てから色々食べた中で、だいたいの2人の好みは解ってきた。エミルは果物と乳製品が特に好きで、レオナは兎に角お肉が大好き、あと2人とも甘いものが大好きで嫌いな食べ物は今のところ無いようだ。まあ、奴隷商でろくなものを食べさせてもらっていなかったんだから、どの食べ物が嫌いなんて言ってられないよね。
今日の晩御飯は、みんな大好きハンバーグ。ハンバーグの中にはチイズを入れて、切るとトロッと溶けたチイズが流れ出て肉汁と絡み合いとても美味しそうだ。栄養のバランスを考えて、付け合わせは数種の野菜をさっと茹でた温野菜、デザートには果物とアイスクリンを用意した。
トマトケチャップやソース、マヨネーズといった調味料があればハンバーグや温野菜も、もっと美味しいのだろうけど、ギルドにはそういったものは販売されていなかった。ギルドに売ってないんだから他所にも無いはず。せめて醤油があれば違うのになぁ……
大豆の醤油は作り方を知らないから作れない。なので現在収納魔法道具の中で魚醤を作成中。これは簡単に作れるし結構味は良いのだけど問題は臭いだ。鼻の良いレオナが嗅いだら大変な事になりそうだよね。それとは別に香辛料と野菜、果物を使ってソースが出来ないか研究中である。
相変わらず、2人は何を作っても美味しそうに食べてくれる。これだけ喜んでもらえるなら作っている方も作り甲斐があるってもんだよね。前世じゃ文句は言われても殆ど美味しいなんて言ってくれた事なかったし……
食事をしながらの会話も交流を深める為の大切な事。エミルとは魔法(神術)や術式についてなんかの話をよくしていて、レオナとは狩りや戦闘についての話をよくする。主に僕が質問してエミルとレオナが答えるのがいつものパターンだ。
エミルの知識は凄い。物心ついた時から母親に魔法術式、精霊術、薬学を教わり研究の手伝いをしていたから、色々な知識を持っている。しかも研究だけに偏らず狩りの実戦も積んでいるのでまさしく文武両道の言葉がぴったり当てはまる。
性格も落ち着きがあって、真面目で優しい。何から何まで完璧だ(料理は除く)。
「ファーマ様は6大属性全てに適性があるのですよね?」
今日は珍しくエミルから質問が来た。
「うん、そうだよ」
6大属性というのは炎、水、天、地、聖、邪の6つの属性の事だ。
「それほど多くに適性を持ち、高位の術が使える方というのは聞いた事がありません。適性が多いほど才能は分散され高位の術が使えなくなるというのが普通ですから、本当に驚きました」
「でもエミルって適性数5つあるけど適性値もそれなりに高いよね?」
6大属性に限定しても4つあるから多い方だと思う。全ての適性値が高い訳ではないけど、今まで鑑定で見てきた人の中では高い方だ。
「適性値? ファーマ様は資質の高さまで正確に鑑定できるのですか?」
「普通は出来ないの?」
「はい、そこまでの鑑定は精霊術でも魔法でも魔法道具でも聞いた事がありません。通常の鑑定で見えるのは適性の有無と大まかなマナ(神力)の量程度です」
へー、それは知らなかった。って事は生命力、腕力、瞬発力、耐久力なんかの情報も普通の人には分からないってことだよね? 人前で鑑定の話をする時は気を付けよう。
余談だけど、エミルが使っている精霊術という名称は、エルフ族が精霊族から術を学んだ事から、そう呼ばれるようになったらしい。この世界に精霊が存在するという話はデーア母さんから聞いていない。まあ、全種族の情報を教わっている訳ではないので精霊は存在するのかも知れないな。まあ、それはさて置き。
「それで、さっきの疑問なんだけど?」
「あ、失礼しました。6大属性以外はこの統計には当てはまらないようです。無属性というのはまだ知られていないモノも多いので統計に入れられないのでしょう。ですが、この統計結果は概ね合っているようで、多少の個人差はありますが適性数の少ない人の方が、高位の術が使えるというのが各国共通の常識とされています。特にファーマ様のように6大属性全てに適性があって高位の術が使える方は私が知る歴史上、存在しないですね」
なるほど、気を付けなきゃいけない事が山積みだな。一般常識は最優先で身に付けないとまた変な人に目を付けられて面倒な事になるかも知れない。
もう、初級魔法書に掛かれている魔法は全部使えるようになった。無詠唱で使えるのは聖属性だけだけど。あと生活に便利そうな炎と水の属性も優先的に無詠唱で使えるように練習するとして、魔法以外の知識も欲しいので、今日からエミルに薬学について教わる事にした。(薬草も調合道具も無いのでとりあえず話だけ)
「まず、薬についてですが、大きく分けて2種類に分類されます。通常の薬とポーション、この国の呼び方だと魔法薬です。通常の薬は数種~十数種の薬草を乾燥させて調合して作る物の事で、ポーションというのは薬草から特別な魔法道具や魔法、精霊術を使って抽出した成分を調合して作られる薬の事を言います━━」
ただし、魔力水という消費した神力を回復させるポーションは、他のポーションと違って該当する神術(魔法、精霊術)があれば作れるらしい。
作り方は神力(魔力)を水魔法で作り出した水(通称魔法水)に、錬金で魔力を含ませるだけ。水属性神術と錬金さえ使えれば誰にでも作れる。
怪我や病気や毒等色々な症状を治す魔法薬は各症状に合わせて薬草を調合しないといけないので、これらには薬学の知識も必要なので適性だけ持っていても作れない。適当に作ると体に害を及ぼす事も多いのでちゃんとした知識を持たずに調合を行ってはいけないのだ。
通常の薬と魔法薬の1番大きな違いはその即効性と効果の高さで、魔法薬は飲んで数秒で効果が表れるという事だ。(症状の重度によっては効果が遅い事もある)
魔力水の回復の度合いは含まれる神力(魔力)の量に左右されるらしい。魔力水は神力濃度(含有量)によって色の濃さが変わり、初めは薄い黄色で濃度の濃いものは真っ黄色になるらしい。
ちなみに、市販されている最も効果の低い初級魔力水と呼ばれる物で1本(100ml回復量約60)が600デニールで売られているそうだ。
傷回復魔法薬は高価で一番安い初級傷回復魔法薬でも1本1000デニール。これ1本で単純骨折レベルの傷はあっという間に治るらしいので高い買い物とは言えない。
毒消し魔法薬という数十種の毒に対して効果を発揮する魔法薬もあるらしい。
飲むだけ掛けるだけで裂傷や骨折が数秒で治ったり、致死性の毒が瞬時に消せたりするのだからポーションは本当に凄い。この世界の薬学は前の世界より上だな。因みに通常の薬は前の世界でいう所の漢方みたいな物らしく、即効性はないし骨折を治す程の効果はないという事だ。
値段が値段なので収入の低い平民がおいそれと買える物ではない。殆どの魔法薬は貴族、もしくは1部のお金持ちにしか縁の無い物だ。大量生産でも出来れば誰にでも買えるお手頃なものになるんだろうけど、魔法道具と同じでそれはまだ先の話だろうな。
このポーションでも治療できない怪我や病気等もあるらしい。特に部位欠損はこれらのポーションや現代の魔法(神術)では治療できないので怪我には気を付けなければいけない。
そして、製法は解明されていないけど、1瓶(約50ml)飲むだけで、どんな酷い怪我も病気も状態異常も致命傷でさえも瞬く間に治り神力も体力も全快し、欠損した部位まで生えてくるという奇跡の魔法薬が存在するらしい。綺麗な半透明の赤い魔法薬で、劣化する事もなく半永久的に使用が可能なんだとか。名前は【神の雫】。
製法が解らないのに何故存在が確認されているのかというと、デザリアとは別の国の幾つかの古代遺跡や迷宮と言われるところから合計十数本発掘されたという情報が各国に広まっているからだ。エミルがお母さんから聞いた話では現在3カ国が所持しているらしい。つまり古代の技術では作れていた可能性があるという事だ。現代の研究者の多くがこの神の雫の製法を解き明かす研究をしているという事だ。
「━━私の母も神の雫を作る研究はしていたのですが本物を見た事も無ければ文献にも製法や詳しい効能が書かれた物は無く、まったく成果は出ていませんでしたが」
と、色々話してくれた。時折、懐かしそうにこういう事を母に教わったと言った後に少し悲しげな表情をするエミル。やっぱり会いたいんだろうな。
気丈に振舞っていてもまだ15才の女の子、僕達といる事で少しでも寂しさが紛れてくれると良いな。




