第18話 ファーマ君、旅に出る
昨日の夜のミルクパーティーは最高だった。溶かしたバタアにパンを付けて食べたり、僕の作った湯沸かし器でチイズを溶かしてチイズフォンデュにしたり。食事の時に飲んだのはミイルク。ミイルクは前世で飲んだ給食のパック牛乳とは比較にならないくらい濃厚で甘みもあってめちゃめちゃ美味しかった。もう少し多めに買っておけば良かったな。ヨウグルは無糖のもので好みが分かれる。僕はあまり得意な味ではなかったので砂糖をまぶして食べたら美味しく食べられた。ミミとレオナも僕と同じで、リリとエミルは無糖ヨウグルがお気に入りになったらしい。大人の味って事なのか?
概ね乳製品は気に入ってくれたようで、リリとミミは「ファーマが来てから食事が豪勢になって太っちゃったけど、美味しすぎて止まらないー」と、楽しそうにしていた。
エミルとレオナはやはり、食事の時は何を食べても目に涙を浮かべ一生懸命味わいながらガッツいていた。奴隷の時の食事が余程酷かったんだろう。ちなみにレオナは予想通り猫舌で、チイズフォンデュが中々食べられなかった。
1夜明け、今日は朝から冷凍庫付き冷蔵庫の作成に勤しんでいる。
「ファーマ様は魔法道具まで作れるのですか?」
「うん、昨日チイズを溶かすのに使った道具も僕が作った物だよ」
「どういう育ちをすれば、そのお年でそれほど多彩な能力を身に付けられるのですか? 驚き過ぎて言葉がありません」
俗にいうチートという奴なので今は話せない。
「まあ、僕を育ててくれた母さんが凄いとだけ言っておくよ」
エミルとレオナには誓約があって、僕の能力については人に話せないから作業を見せても大丈夫だろう。作業中、エミルは常に驚きっぱなしだった。レオナは退屈そうにしていたので、ボールを貸してあげたら楽しそうにコロコロ転がして遊んでいる。
冷凍庫付き冷蔵庫の術式は水冷器に使った術式を応用した。水結晶はそのまま使うより加工した方が内蔵出来る神力が増えると本に書いてあったので、錬成で収納魔法道具に使われているのと同じ形状に加工。内蔵できる神力値が約1.5倍になり、それを冷蔵庫にセット。神力の供給はこれで問題なし、1日動かし続けて神力消費30程度なので、この水結晶なら1月近くは神力補充しなくても稼働し続けられる。収納魔法道具の中に入れておけば勝手に僕の神力を補充出来るので、僕が持っている限り半永久的に内蔵神力が切れることは無い。
完成したのは、上蓋式の冷蔵庫。冷凍側は幅45㎝、奥行き45㎝、深さ50㎝。冷蔵側は幅が1mになっている。内側は銅で作り外側は保温性を高める為、木で覆い、その外を革で覆い多少衝撃にも強くなっている。術式部分は魔銅を使っているので、結露で錆びて魔法文字が潰れてしまう事は無いだろう。
これも収納魔法道具の中に仕舞えるので持ち運びは問題ない。ただ、取り出すときに下手すると落下の衝撃で壊れてしまうので取り出すときは地面すれすれで出さなければいけないのが難点だ。
冷蔵庫に生鮮品を入れ、ブレスレットの中へ収納。
「さて、だいたい旅に必要な物は揃ったし、次は野営と狩りの訓練だね。エミルは何か使える魔法とかあるの?」
適性を持っている事は鑑定で解るのだけど、実際に魔法を覚えているのかまでは分からない。
「私は、魔法とは少し違うのですが精霊術というエルフ流の魔法のようなものを使えます。使える精霊術は天属性の風と雷、聖属性の結界と浄化、それと邪属性を少々ですね」
精霊術と魔法は呼び方が違うだけで原理は同じ神術だってデーア母さんが言ってたけど、人界での認識では違うモノって思ってるんだな。エミルは僕が思っていた通り結構色々使えるようだ。他にも薬の調合なんかも出来るらしいから今度教えてもらおう。
レオナは魔法適性を持っているけど、魔法を知らないという事なので、とりあえずは近接戦闘が出来れば良いのだけど、身体能力は人間の大人並みでもまだ子供、無理はさせないようにしよう。
「あまり強い魔物がいない狩場を教えてもらったから、今日は其処で狩りをしようか。くれぐれも無理はしないようにね」
「はい」
「あぅ」
僕達は徒歩で町を出て、前もって調べておいた比較的安全な近くの狩場に向かった。グラダ近辺の狩場は魔性の森に近くなるほど強い魔物がいて、町の近辺や町から西に行くとマッドドッグの様な比較的弱い魔物がいるらしい。僕達が狩りに来たのは西の安全な区域だ。
僕とレオナが先行しながら、エミルがいつでも弓を放てるようにすぐ後ろで矢を番えたまま警戒する。広域視で索敵しながら歩いているので不意討の心配はないのだけど、2人には話していないのでエミルはだいぶ神経をすり減らしている事だろう。
狩場は大小様々な岩と木が所々に生えた平地。冒険者さんとは遭遇しないように誰もいない場所に移動していると、250mほど離れた右斜め前方に2頭のイノシシみたいな魔物を発見した。
「あっち、獲物、いる……です」
僕がイノシシらしき魔物見するとほぼ同時に、レオナがその場所を指さして僕に話しかけてきた。
「獲物? どうやって見つけたの?」
「生き物、臭い、音、2つ……です」
獣との距離は凡そ300m。間には木や岩があって普通に見たのでは目視する事は出来ない。イノシシは鳴いている訳でも暴れている訳でもなく普通に歩いてその辺りの野草を食べているだけなので音という音も出していないし、匂いに関しては僕には土や草木といった自然の匂いしか分からない。キャッツ族の嗅覚と聴覚は人間とは比べ物にならないくらい鋭いみたいだ。索敵はレオナの仕事になりそうだな。
「よく見つけたね。レオナは凄いな」
僕が誉めるとレオナは嬉しそうに笑顔になった。
「じゃあ、見つからないように慎重に近づいて、倒せそうなら狩ろうか。レオナ、他にも気付いた事があったら教えてね」
「あぅ、頑張る……ます」
なるべく物音を立てないように、息を殺して進み、イノシシまで約50mの位置に着いたところでイノシシとの間に大きな障害物がなくなり視認できるようになった。
「あれは、スタンブゥですね。まず、私が1頭仕留めます」
そういうと、エミルはグッと弓を引き絞り、スタンブゥ目掛けて一直線に矢が放たれた。矢はスタンブゥの目に直撃すると、そのまま頭を突き抜けた。
突然1頭のスタンブゥが倒れた事に驚いたもう1頭は、慌ててその場から逃げようと走り出す。
レオナは岩の上や木の枝を伝いながら一直線に逃げるスタンブゥの前に回り込み、鋭い爪で顔を引っ掻く。僕は少し出だしが遅れたけどレオナの後を追いかけ、スタンブゥの背に乗り、脳天にサバイバルナイフを突き立て、スタンブゥは白目を剥いて倒れた。
「2人とも凄いな」
狩りに慣れているのか動きに無駄がない。身体能力は僕の方が圧倒的に高いのに完全に動きで負けている。
「エミルのアレは風魔法?」
「はい、纏矢と言って矢に精霊術を付与して放つ技法です」
面白い使い方だな。風魔法を纏わせる事で矢の速度、飛距離、威力共に桁違いに強くなっているし、軌道も操れるらしい。弓が得意という訳が解るな。
「エミル、今度さっきの技を僕に教えてくれない?」
「喜んで」
「ありがとう。レオナも木や岩を足場にして回り込むなんて凄いね。良い勉強になるよ」
「あぅ、狩り、好き、役立つ、嬉しい……です」
思っていた以上に2人とも頼りになる。レオナの索敵能力にあの動き、エミルの狙撃能力。学ぶことばかりだ。エミルの狙撃は獲物を視認できれば300mくらい離れていても狙った部位に当てる事が出来るらしい。これでも、母親に比べれば、まだ未熟なんだとか……エルフの狙撃術はとんでもないな。
この日は、レオナとエミルの活躍で10頭の魔物を仕留める事が出来た。神眼での警戒もそれほど必要なかったな。デニスさんがこの2人の能力を知ったらもっと高く売るんだったって悔しがりそうだ。
今日の収穫。スタンブゥ5頭、マッドドッグ3頭、ハグドベア1頭、極彩ポッポゥ1羽。
この中でハッグドベアが1番強く、仕留めるのに時間が掛かった。風矢がヒットしても致命傷を与える事が出来ず、レオナの爪も硬い毛に阻まれて通らなかった。アダマンタイトのサバイバルナイフはその剛毛も物ともせずさっくりと通ったのだけど、斬っても突いても致命傷にはならず倒れてくれない。
最終的に、エミルの矢で両目を潰して、出血多量で倒れるのを待って倒したのだけど、レオナは役に立てなかったと、落ち込んでしまった。充分に役には立っていたんだけどね。
極彩ポッポゥは、ハグドベア戦の汚名返上をしようと奮起したレオナが、大木の上に止まっていたのを見付け、器用に爪を掛けながらスルリと木に登って素手で捕まえてきた。
ポッポゥを持って帰ってきたレオナが誉めてほしそうな顔をしていたのが可愛くてキュン死する所だったのは内緒。
とりあえず、スタンブゥ1頭とポッポゥはその場で解体して入るだけ冷蔵庫に入れ、残りはそのまま収納魔法道具へ。他はそのままエミルとレオナの収納魔法道具に入れて持ち帰った。
商業ギルドで、解体していない魔物を買い取ってもらうと、僕達だけでこれだけの魔物を狩った事に凄く驚かれた。特にハグドベアは僕達が狩りに行った区域でも強い魔物で冒険者でも2つ星ランク程度の強さがないと厳しいらしい。
2つ星ランクがどれくらい強いのかは分からないけど、まあ、強いんだろう。
「本当に君達で倒したのか?」
「はい、エミルとレオナが活躍してくれたんで余裕でした」
解体所のおじさんは僕達を見て、信じられないという表情をしている。まあ、この面子見たら誰でもそういう顔になるよね。子供2人に華奢な女性が1人のグループだし……
魔法石はスタンブゥ、マッドドッグ、ハッグドベア共に土の魔法石だったのでそれも売却。売り上げはきっちり3等分にした。エミルとレオナは受け取りを拒否しようとしたけど、3人で狩った獲物なんだから等分にするのは当然の事なので無理やり押し付けた。今回1番の収穫はレオナが捕ってきたポッポゥの魔法石。
天結晶だった。大きくはないけど1番高値が付いた。これは使い道が多そうなので、とりあえず持っておいて、レオナに使える道具を作ってあげようと思う。
1週間程、狩りを繰り返し、しっかりと食事と休息も取らせ、エミルとレオナの体調も万全になったので、いよいよ旅に出発だ。
僕達は、お世話になったリリ、ミミ、ワックスさん、アンナに挨拶を済ませて、最後にマルガンさんの所へ行った。
「やっぱり、行くんじゃな」
「はい、色んな所を見て回ろうと思います」
「ファーマ、1つ提案なんじゃが、お前さん学校に行ってみる気はないか?」
「学校!?」
それは是非とも行ってみたい。前世で僕の唯一の憩いの場だった所だし。
「そう、学校じゃ。お前さんも魔法道具を作るのなら、売っている本だけで勉強するより学校で習った方が良いモノが作れるからな」
「行けるのなら行ってみたいですけど、本だけではダメな理由ってなんですか?」
「魔法や魔法文字、魔法術式等の本の権利は国と学問ギルドが持っているんじゃよ。一般にワシらが販売出来るのは、初級や基礎の物だけで、ちゃんとした良いモノを作ろうと思ったら王立学園に通って専門的な知識を学ばねばならんのじゃ。それに自己流でやるより、専門家から学んだ方が得るものも多かろう」
なるほど、それはその通りだ。
「今からでも通えるものなんですか?」
「勿論じゃ。学園に通えるのは初等部が10才になる年から3年、中等部が13才になる年から3年じゃからな」
6年制? いや、初、中って事は高等部もあるはず。
「中等部で終わりじゃないですよね?」
「よく分かったのう。高等部もあるぞ。しかし、高等部に上がれるのは中等部最終成績上位100名で試験を行い選別された上位25名だけじゃからのう。無理に行く必要もなかろう」
行く必要がないと言っているけど、たぶん行けないと思っているんだろうな。まあ、それは良いや。
「初等部や中等部も無試験ではないが、もう魔法道具が作れておるお前さんなら問題はなかろう。あとは、簡単な読み書きと算術が出来れば問題は無い、これをやるから試験までに勉強しておくんじゃぞ」
4冊の本を受け取り、お礼を言って試験日と会場を教えてもらった。試験日は9才の年の12月の初め、会場は学園都市アインスにある王立学園初等部館。試験日前にはマルガンさんも学園都市の商業ギルドに来ているから必ず顔を出すように言われた。
試験日の1ヶ月前くらいに着いておけばゆとりをもって試験が受けられるだろう。
「ところで、ずっと気になっておったのじゃが。お前さんの後ろに控えておる、その美女はもしや?」
「はい、あの時の娘です」
「ほおっ、治らぬ難病じゃと聞いておったが、どうやって治したんじゃ?」
「普通の食事を摂らせて薬を飲ませていたら普通に治りましたよ?」
勿論、嘘だけど。
「ふおっふおっふおっ、そうか、そうか、それではそういう事にしておこうかのう」
マルガンさんは僕の嘘を見抜いているようだけど、色々と察してくれたようで、それ以上は聞かないでくれた。
「お前さん達の狩りの成果は聞いておるが、町の外は危険が多い。油断して足をすくわれんように気を付けるんじゃぞ?」
「はい、ご忠告ありがとうございます。行ってきます」
短い間だったけど、このグラダの町では前世では出来なかった色んな楽しい事を経験出来た。良い人に出会って良い友達が出来て、良い仲間にも巡り合えた。旅先でもっと色んなモノを見て色んな事を経験して、また良い出会いがあると良いな。




