第10話 ファーマ君、魔法道具を作る
連休3日目。
今日は、錬金に挑戦しようと思う。【初級魔法書】によると、錬金魔法は、無詠唱魔法が1つでも使えるほど魔力操作が出来るなら、あとは適性が高ければ普通に使えるようになるらしい。
錬成の感覚で良いなら、問題なく出来るから適当に金属を買ってくれば家にいても出来るな。
と、いう事で、金物屋で鉄と銅を1㎏ずつ買ってきた。値段は鉄1㎏15デニール、銅1㎏が24デニール。魔鉱が如何に高いのかがよくわかるな……
先ずは、鉄に神力を浸み込ませる。ジッと、待っているのも退屈なので、鉄を色々な形に変化させながら遊んで待つ。
変化、変化……猫の鉄像。変化、変化……僕の鉄像。変化、変化……象の鉄像。変化、変化……鉄の自転車模型。
と、遊ぶこと30分。【鑑定】でどれくらい神力が定着したか確認してみた。
【神鉄鉱】(神力を37%含んだ鉄)
どうやらだいぶ定着しているようだ……そういえば普通の【魔鉄】はどれくらいの神力が含まれているのか調べてなかったな……これは調べておいた方が良いよね?
でも、あんまりお金は使いたくないんだよな……ギルドで聞けば見せてくれるかな?
と、いう事で、早速ギルドに足を運んでみた。
「こんにちは」
「あら、また来たのね。今日は何の御用?」
「あのですね。魔鉱って見せてもらう事は出来ますか?」
「それは構わないけど、見ても面白くはないわよ?」
「魔道具造りには必要になるから見ておきたくて」
「研究熱心なのね。良いわ、ついていらっしゃい」
受付嬢さんは笑顔で魔鉱と魔鉱石の保管庫に連れて行ってくれ、色々な魔鉱、魔鉱石を見せてくれた。鉄、銅、銀、金、それとミスリルなんてのもあった。……あ、アダマンタイトを発見。
「あの? これってもしかして」
「ああ、それはあまり触っちゃダメよ。とーっても高いんだから。その大きさでも5万デニールは軽く超えるのよ」
……僕の拳くらいの大きさのアダマンタイト鉱石で、そんなに高いのか……サバイバルナイフは気軽に人に見せない方が良いな。
余談はさて置き。魔鉄から確認したところ、含まれている魔力(神力)にはバラツキが見られる。一番少ない物で33%、多い物で37%。って、事は僕が作った魔鉄は魔鉄の中でも良質な物って事か?
他の魔鉱は、伝導率の高い金属になるにつれ含有量は平均3%ずつくらい多いようだ。ただ、アダマンタイトだけは含有量85%以上と、別格に高い。これは元の金属が解析できないから、元からアダマンタイトという鉱物なんだろう。って、事は錬金で作り出すのは不可能なのか?
「受付嬢のお姉さん」
「あのね。人を呼ぶ時は、名前で呼ぶものよ?」
「あ、ごめんなさい。名前聞いた事なかったですけど、なんていう名前ですか?」
「ニーナよ。で? どうしたの?」
「ここにある魔鉱って全部錬金で作られた物なんですか?」
「まさか。ほとんどは採掘された物よ。錬金で作られる魔鉱なんて全体の1%以下なのよ。錬金魔法を使える人がもっと多ければ魔鉱も安くなって、魔法道具も一般に普及できるんだけどね」
なるほど、じゃあ、やっぱりアダマンタイトは錬金では作れないって考えた方が良さそうだ。そういえば、図書館で読んだ本にも錬金と空間の魔法が使える人は少ないって書いてあったな。
ニーナさんにお礼を言って、家に帰った。
【魔鉄】とりあえず完成したので、今度は【魔銅】を作成してみた。
【神銅鉱】(神力を40%含んだ銅)
鉄の時と同じ時間馴染ませたのに含有量が上がったのは、銅の方が神力の伝導率が高いからなのかな?他の金属でも試してみたいな……まあ、それは金銭的にもっと余裕が出来てからで良いか。
案外、簡単に魔鉱が作れることが解ったので、目立たない範囲で自作して、魔法道具作成をやってみよう。
錬金はこれで良し、と……今度は術式魔法の勉強だな。
術式魔法は以前読んだ本にも書いていた通り、魔法文字と呼ばれる文字の組み合わせで作られる。
魔法文字には1文字1文字意味があるらしく、それを、特定の法則でパズルのように組み合わせる事で、特定の魔法を発動させることが出来るらしい。
先ずは、魔法文字を理解しなければいけないので【魔法文字辞典(下)】を開く、文字というよりは模様という感じの文字が書かれている。これ単体では理解し難いので【術式構成の基本】の本も開いて、両方を読みながら法則を読み解いていく。
術式は文章を作るのと似ている。効果を表す文字を、接続を表す文字で繋げていく。英語の筆記体のように文字どうしを繋げて書いて、文の頭から最後まで順に流れるように神力を通すと発動する仕組みになっているようだ。
魔法陣の中に書く場合は左から右に向いて神力を流せば巡回していく仕組みになっているのか……面白いな。【術式構成の応用】も取り出して、一通り全部目を通す。前世で本ばかり読んでいた所為か、これくらいのページ数なら読み終えるのに、それほど時間は掛からない。【真理】先生を開放しなくても、チカラの片鱗【理解】があるから内容は簡単に覚える事ができた。この辞典に書かれている魔法文字では大きな術式は使えないようだけど、今はお試しだからどうでも良いか。
本の内容を把握したので、簡単な術式なら直ぐに組めそうだ。早速実験開始。【魔鉄】を少量取り分け、長方形の板状に形成し、文字を刻む。手で彫るのと違って【錬成】で出来るから小さな文字も楽々彫れるな。最後に術式に神力を通して発動を確認。
問題なく発動したようだ。ここまで、出来たら次は便利な魔法道具作りに取り掛かろうか。なんか科学の実験みたいで楽しいな。
日常で役に立ちそうな……そうだな、飲み物を温めたり冷やしたり出来る道具があれば便利そうだな。これなら単純な術式で出来る。
先ずは、図面を作成。神力操作が出来ない人の為に、手にしてスイッチを入れれば発動できる術式を組む……スライド式のスイッチを付けて、最後の1文字をはめ込むと起動するようにすれば、無駄に神力を消費しなくて済むよね。
錆びたら不味いから、水気に触れる部分は錆び難い銅で作ろう。スイッチ部分と術式部分は魔鉄を使い、それを銅の部分に繋げ、銅の部分の温度が変化するように組み立て、火傷しないように外側は木製にしよう。
部品別に加工した物を組み立てて湯沸かし器の完成だ。容量は2リットル、温度は90度まで上がるようにした。蓋を付けてポットみたいに出来れば完璧なんだけど、どうしても水気を漏らさないようにしたら固くなり過ぎて開け閉めが出来なくなるので、これは後々良い方法を考えよう。あとは、上手く起動してくれれば……
僕は台所に移動して水を注ぎ、試作魔法道具1号のスイッチを入れた。30秒ほどで水が温まり始め、2分経つ頃には湯になった。実験は成功だ。
ただ難点は自身の神力をエネルギー源にしているから、温まるまで神力の供給口に触れていなければいけないのと、普通の人は使いすぎると神力が枯渇してしまうところだ。
魔法石をはめ込めば解決するんだろうけど、値段が高くなりすぎて一般庶民むけじゃなくなるんだよね……
今回使った材料は、【魔鉄】50g、【銅】400g、材木。約60デニールか……湯沸かし器がこの値段と考えるならお手頃だよね? 水1リットルが、だいたい1分ぐらいで温まるし家庭で使うなら良いかも知れない。
湯沸かし器の逆バージョン、水を5℃まで冷やせる水冷器も作り、見分けがつくように湯沸かし器には湯気のマーク、水冷器には雪だるまのマークを入れた。魔法式が違うだけで原価は同じ……そうか、原価がこの値段だったら、もう少し高く売らないと赤字になるじゃないか……個人的には魔鉱は自分で作った物だから10デニール掛かってないんだけど、一般販売しようと思ったら必然的に高くなっちゃうよね……でも、ちょっと無理すればリリ達でも買える値段か。神力の消費はどちらも2リットルを設定温度までにするのに10ぐらいなので、調子に乗って使い過ぎなければ、無理なく使えると思う。
まあ、とりあえず、販売するかは別として、リリとミミ、それとワックスさんとアンナにも使ってみてもらおう。
気が付けば、ご飯も食べずにもう夕方。熱中しだすと時間を忘れるのは悪い癖だな……お腹が空いて目が回りそうだ……
湯沸かし器と水冷器を2セット作り1セットは収納魔法道具にしまい、もう1セットはリリとミミが帰ってきたら使ってもらう事にした。
━━その日の夜。
「凄-い。これ本当に、ファーマが作ったの?」
「うん、こういうの、あったら便利だと思って」
「お姉ちゃん、お水が冷たくなったよ」
「あまり、使いすぎると体がだるくなるから気を付けてね」
ちょっとした時に、お湯を沸かすのに薪を使わなくて良いのと、場所を選ばず状況に応じて使い分けすればいつでも暖かい飲み物も冷たい飲み物も用意出来るので使い勝手がとても良いと2人には大好評だ。特に水冷器は、これから暑い季節なので、仕事の休憩に冷たい飲み物が飲めるのは嬉しいそうだ。
値段設定も、高級品ばかりの魔法道具から考えると、一般庶民でも買える値段なのでとても良いと言ってくれた。
これだけ喜んでもらえるなら、明日ワックスさんとアンナの意見も聞いて、売り出す方向で考えるのも良いな。たぶん、一般庶民向けの魔法道具なんて出回っていないだろうから、喜んでもらえるはず。
湯沸かし器と水冷器は、そのままリリとミミにプレゼントした。