第23話 ファーマ君、おもてなしする その3
休み明けのお昼休み。
「ファーマ、次の闇の曜日って空いてるの?」
「うん、予定は特に入ってないよ」
「じゃあ、次の闇の曜日に魔法の勉強会をやらない? ファーマの家で」
「うん、いいよ」
次の闇の曜日か。セビアスさんに報告しなきゃな。
「ロザリーも一緒に行く? 珍しいものがいっぱいあって結構楽しいと思うわよ?」
うちは娯楽施設ではないのだが……ってか、勉強会じゃなかったの?
「ご一緒してもよろしいのですか?」
「勿論よ」
こらこら、そこはターニャが返事するところではないよね? まあ、いいか。
「大丈夫ですよ。1人来るのも2人来るのも大して違わないですから」
「でしたら、ご一緒させて頂きますわ」
最近、少し慣れてくれたのかロザリアさんは距離さえ適度に取っていれば僕とも会話をしてくれるようになった。まあ、まだ僕と会話をする時は少し緊張気味なんだけどね。
因みに2m以内に近づこうとすると本人の意思に関係なく? 手か足が飛んでくる。まあ、避けるのは難しくないんだけど、ターニャが止めに入らないと2撃目3撃目が飛んでくるので困りものだ。
でも、パニックになっている感じではないんだよね? ひょっとして態とやっているんだろうか? いや、疑うのは止めておこう。
「あっ、そうだ。ロザリア様は異種族に偏見があったりしませんか?」
「あっ、それは聞いておかないとダメだったわね。平気?」
「異種族?」
「はい、一般的には亜人とか魔人って呼ばれている種族です。もし、異種族に偏見があるならお招きする事は出来ません」
「直に見るのは初めてですので、平気かは分かりませんが……ターニャは平気ですの?」
おや? 闘技場には見に行った事ないのか? 自分の家の領地なのに。いや、惨殺シーンなんて子供には見せられないか。
「私は異種族の子達、大好きよ。レオナちゃんもコテツちゃんも凄く可愛いし、頭や腕がフワフワのモフモフで最高よ?」
「……ターニャが大好きというのなら恐らくは大丈夫だと思いますわ。1つ確認させて下さい。その異種族は男ですの? 女ですの?」
そこなの?
「どちらも可愛い女の子です」
「それでしたら何も問題はありませんわ」
女の子なら種族は気にしないのか……それなら良かった? でも、男は同種族でもダメなんだよね? ダン達には近寄らないように言っておこう。
そんなこんなで闇の曜日の朝。
やってきたのはステイール家の馬車1台だけだった。
「おはようございますテレスティナ様。どうしてグレイシス君がテレスティナ様の前に乗っているんですか?」
普通なら馬車の中に乗っている筈のグレイシス君がテレスティナさんと一緒に馬に跨っている。
「少し面倒な事情があってな」
「今日はロザリア殿が一緒だから気を利かせたのだ」
なるほど、一緒の馬車に乗ると攻撃されるからか……
テレスティナさんと話をしているとターニャとロザリアさんが馬車を下りてきた。
「おはようファーマ。レオナちゃんとコテツちゃんは?」
第一声がそれか。
「今日は朝から狩りに出かけてるよ。お昼には戻ってくるから」
「えー、そうなの? 残念だわ」
「まあ、獲物が冬眠から覚めて、やっと狩りの季節だからね。しょうがないよ」
というのは表向きの理由。
ターニャが来る事を教えたら『じゃあ、狩りはやめとく』って言ってくれたのだけど、レオナ達が居るとターニャは勉強そっちのけで遊んでしまいそうなので、午前中だけ狩りに行ってもらったのだ。
「2人だけで狩りをしているの? 危なくない?」
「2人だけじゃないよ? エミルともう1人が一緒。それにレオナ達は狩猟民族だから狩りには慣れているよ」
因みにもう1人というのはランカだ。ランカはこっちに引っ越して来てからも定期的にエミルに弓と狩りを教わっている。折角習い始めたから人並みに狩りが出来るぐらいまで鍛えたいんだそうだ。
まあ、冬場は獲物が少ないから殆どは木を相手に弓の練習をやってたんだけどね。
「大人が一緒でも心配だわ。怪我とかしないかしら?」
「大丈夫、心配ないよ」
この辺りの魔物だけなら先ず、怪我をする事は無いだろう。万が一、盗賊とかが近くに居たとしてもレオナの索敵能力なら余程の手練れでもない限り先手を取られる事は無いだろうし、ランカを連れていても逃げるのは難しくない。
最近は隠形の魔法道具を使われた時を想定した訓練をやっているので、隠形の魔法道具を使われても半径100mぐらいの距離で気付けるようになったのだ。
「さて、2人が戻ってくるまで予定通り魔法の勉強をやろうか?」
「魔法? あー、そうだったわね……」
さては、やる気なかったな?
「でも、私まだ無詠唱魔法は使えないわよ? 練成魔法の練習って出来なくない?」
「そうだね。だから今日は学園の授業と同じ詠唱魔法の練習をやろうか。もう詠唱は幾つか暗記してるよね?」
「ええ、今のところ水と光の詠唱を暗記しているわ」
「じゃあ、今日は魔力の動きを意識しながら練習しようか」
「それはいいけど、どこでやるの? 適当な場所でやると捕まらない?」
「大丈夫だよ。ここは町の外だしエンドール家の私有地だから魔法を使っても咎められる事は無いよ。僕の工房の横に武器の試し斬り場があるから、そこに的を立ててやろうか」
と、いう事で工房の方に移動した。
「農場の防壁は全部、耐魔法煉瓦で造られているから的を外しても大丈夫だからね」
今、学園で教わっている神術の威力なら何十発撃ち込んでも壊れる事は無いだろう。
「的には魔鉄鉱(神鉄鉱)を使おうか。これならそう簡単に壊れないし」
通常の鉄に比べて神鉄は神術への耐久性は高い。神鉄鉱を練成して平らな人形を作成し地面に立てる。
なんか看板みたいになっちゃったな。
「相変わらず、出鱈目な練成魔法だな」
「金属の練成をこんな早さでする方は初めて見ました」
「お母様が家臣にしたがる訳よね」
「ターニャだって練習すればこれくらいは出来るようになるよ?」
本気でやったら秒も掛からず出来るんだけど、今回はちゃんと加減して一般の人でも訓練次第で可能な速度で練成したのだ。
「いや、無理でしょう?」
「無理だって思っていたら出来る事も出来ないよ? 同じ全属性持ちの僕に出来るんだからターニャだって出来るよ」
「えっ? そんな速度で金属の練成が出来るのにエクサなのですか?」
「はい。でも僕もターニャも、ただエクサという訳ではなく12属性全部持ちです」
「えっ? 今、12属性と仰いました?」
「はい、12属性です。6大属性と無属性全部ですね」
まあ、普通は12属性も持っているなんて思わないよね。
「あはは、驚くのも無理はないわよね。エクサってだけでも珍しいのに無属性も全部持っているなんて普通は思わないもの」
「俺もターニャから聞かされた時は驚いたぞ。ターニャだけでも歴史上、恐らくは初の全属性持ちだというのに、まさか同じ年に2人の全属性持ちが現れるとは誰も思わんだろう? しかも、その1人がこんな異常な練成魔法の使い手とか言われても信じる者は少ないと思うぞ?」
「そういえばグレイシス君とロザリア様は無属性の適性ないの?」
「ああ、俺は火、水、土のトゥアンだ」
「私は水、風、土、闇のスケアですわ。無属性はありません」
なるほど、平均的な適性数だな。
「一緒に魔法の練習する?」
するなら的を増やさなくては。
「そうだな。折角だからやらせてもらおう。新詠唱魔法はまだ使い慣れていないからな」
「わ、私もお願いしますわ」
という事で、神鉄鉱の的を4つ、壁際に立て練習開始だ。
全員詠唱を1つか2つは暗記できているので詠唱用紙を見る必要はない。
ターニャは水属性を練習している。学園で教わった詠唱は水弾を撃ちだす神術。人間族の平均的なトゥアンの人が使うとバスケットボールぐらいの大きさの水弾が撃ちだされるのだけど、ターニャが使うと野球のボールぐらいの水弾になる。威力も当然低い。
前にターニャが話してくれた情報だと、クレイエ様が成長補正を付与してくれているという事なので訓練を続けていればトゥアンの人より凄い効果の神術が使えるようになるだろう。
グレイシス君が練習しているのは火属性。僕達の最初の基礎魔法学の授業でルクシーネ先生が使ってみせてくれた神術だ。効果はルクシーネ先生と大差ないな。いや、僅かに先生の火弾の方が大きいか?
ロザリアさんが練習しているのはターニャと同じ水属性。スケアというだけあってターニャの水弾より大きく威力も強い。ロザリアさんの水弾はバレーボールぐらいの大きさだ。
グレイシス君とロザリアさんが暗記できているのは今使っている神術の詠唱だけ。授業中しか詠唱の書を見せてもらえないので今の時期に1つ暗記しているだけでも大したものだ。
ターニャが2つも暗記できたのは理解の才能のお蔭だろうな。
僕が今使っているのは天属性の風神術。みんなに気付かれないように態と間違えて、無詠唱で威力を抑えて発動させている。
何故そんな事をやっているのかというと、僕の適性値が高すぎるので普通に詠唱神術を使ったらデザリアで言うところの上級魔法以上の威力が出てしまうのだ。
流石に防壁が吹き飛んでしまうような神術を発動させるわけにはいかないもんね。修理費が大変な事になるから……