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ファーマ君の気ままな異世界生活  作者: 幸村
4章 王立学園
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第17話 ファーマ君、お見合い? をする

直接的な表現を避ける為に一部伏字を使っています。

予めご了承ください。

 会食の3日後、グラヴァさんから連絡があり、ゴルドオウル侯爵の娘さんと顔合わせ日取りが決まった。


 次の光の曜日だ。場所はアインスの貴族街にあるゴルドオウル侯爵家の別荘、という名の子供が学園に通っている間のみ利用する家。


 その前日は囲碁の勉強会の日なんだけど? 僕の休日がどんどん削られている。あっ、レオナとのお出掛けどうしよう? 流石に遊びに行くからという理由で顔合わせの日を変えてもらう事はできないよね? 仕方ない、謝って1週だけ待ってもらうか……




 そんなこんなで今日はお見合いの日だ。朝10時にアインスの商業ギルドに顔を出し、前の会食の時に用意してもらって着ていなかった服に着替える。(あの日、用意されていた服は全て入用の時の為にとプレゼントされたのだ)


 今日もグラヴァさんが一緒。


「只の顔合わせだから気楽に構えていいよ」


「はい、そうします」


 食事会の時も似たような事を言われたけど気楽じゃなかったんだよね……少し不安だ。


 馬車に揺られる事15分。到着したのはターニャの所の別荘から同じ通りの10軒先だった。


「ようこそお越しくださいました」


 家の入口に馬車を付けるとゴルドオウル侯爵家の使用人さん達が出迎えてくれ、その中の1番偉い人らしき中年男性が部屋まで案内してくれた。


「おおっ、よく来てくれたな」


 部屋に入るとゴルドオウル侯爵がよく通る声で出迎えてくれた。どうやら娘さんはまだいないようだ。


「本日はお招き頂き、ありがとうございます」


 グラヴァさんの挨拶に合わせて僕も一礼する。


「座ってくれ」


 ゴルドオウル侯爵に促され、ゴルドオウル侯爵の正面の席に2人並んで座る。


「ロザリアを呼ぶ前に少しだけファーマに伝えておく事がある」


 娘の名前はロザリアさんというのか。


「ロザリアは少々病んでいるところがあってな。度々おかしな行動を取る事があるが気にしないでやってくれ」


 病んでいる? まあ、少々行動がおかしいのは気にしないけど、病気なら寝てなくて大丈夫なのかな?


「ランバル、ロザリアを呼んできてくれ」


「畏まりました」


 僕達を部屋まで案内してくれた使用人の男性、ランバルさんがロザリアさんを呼びに行って5分ほどで、部屋に入ってきたのは、金髪ポニーテールの女の子。女性にしては珍しくスカートではなくズボンを履いている。


「ロザリア! またそんな恰好をしているのか!?」


 ロザリアさんを見たゴルドオウル侯爵は余程驚いたのか、立ち上がりながら呆れたように声を上げる。


「お言葉ですがお父様、男性にお会いするのなら動き難い恰好は危険なのですわ。って、あれ?」


 真顔で反論するロザリアさん。僕の方にチラッと視線を向け一瞬目を丸くして、一転とても良い笑顔になった。


 一応、顔合わせという事なので身分が下の僕から挨拶しておいた方が良いだろう。


「お初にお目にかかりますロザリア様。私はエンドール家の家臣で、ファーマと申します。どうぞお見知り置きを」


 椅子から立ち上がり、ロザリアさんに1歩近づいて胸に右手を当て、貴族式の挨拶礼をすると


「お父様が『合わせたい者がいる』なんていうから、てっきり男性だと思っていましたわ。ごめんなさい。私はロザリア。ゴルドオウル家の四女ですわ。仲良くしてください」


 ニコニコしながら僕の手を取り、自己紹介するロザリアさん。僕がゴルドオウル侯爵の方に視線を送ると目を逸らされた。続いてグラヴァさんの方に──以下同文。


「あの?」


「はい、なんですの?」


「大変、申し上げにくいのですが、僕は男です」


「……」


 驚いたようで笑顔のまま硬直している。そして──


「おっ……」


 お?


「おとこー!」


「ちょっ、危ない」


 ──僕の手を離したかと思うと1歩踏み込み斜め下から抉りこむように鋭い左回し打ちを、僕の右脇腹の肝臓辺りに打ち込んできた。僕はそれを寸前で躱し、広い方へと逃げる。


「突然何するの!?」


「やらなければ……やられる前にやらなければ……」


 あれ? なんかおかしい。何かブツブツ呟いているし、目の焦点が合ってないぞ?


 ロザリアさんは、僕に向かって拳を構え上体を揺らしながら距離を詰めてくる。そして手の届く距離に入った瞬間顔めがけて右突きを打つ──フリをして、身を沈ませ僕の懐に潜り込み、体ごと突きあげるように顎めがけて左回し打ちを繰り出す。僕は一歩下がりながら上体を逸らせてそれを躱した。


 子供にしては鋭い体術だ。


 攻撃を仕掛けながらずっと何かをブツブツと呟き、ロザリアさんは更に激しく上体を左右に揺らし、段々∞を描くように変化させながら僕を睨み、距離を詰め──


「落ち着け馬鹿者」


「んきゃっ」


 ──ようとしたところで、見かねたゴルドオウル侯爵に後ろから手刀を叩き込まれた。


「痛いですわ……」


 ロザリアさんは頭を押さえてその場に座り込み


「あれ? 私、今なにを?」


 辺りをキョロキョロと見渡している。どうやら正気に戻ったようだ。


「『なにを』ではない、馬鹿者。少し触れられたぐらいで殴り掛かるなと何度言えば分かるのだ」


 いや、僕が触ったみたいな言い方をしてるけど、手を握ってきたのは彼女だからね?


「えっ? 私、また……申し訳ありませんでした」


 ロザリアさんは頭を下げて部屋を飛び出していってしまった。


「やはり、こうなりましたね」


「すまんな。ファーマなら大丈夫だと思ったのだが、やはり無理だったか」


 いや、僕なら大丈夫ってどういうこと?


「何だったんですか? 今のは」


 おかしな行動をとるというのは聞いていたけど、いきなり殴り掛かってくるとは思わなかった。


「こんな事になったのだから教えん訳にもいかんな。あまり話したくはないのだが、ロザリアは男性恐怖症なのだ」


 なるほど、病んでいるというのはそういう事だったか。


「話せば長くなるのだが……ロザリアは6才の頃までは何処にでもいる普通の女児だったのだが、その頃に我がゴルドオウル家に支える伯爵家の嫡子を、領地運営を学ばせる為にうちで預かっていたのだ。ディルギアはロザリアの10才年上なのだが、暇が出来るとロザリアの相手をして妹のように可愛がってくれ、ロザリアも兄のように慕っていてな。その感情が恋慕に変わるのもそう時間は掛からなかった」


 ふむ、その男の人が何かやったのかな?


「年齢差的にも丁度良いから将来は嫁がせるつもりでいたのだが、ある日の朝、丁度ディルギアが朝の《ゴゴゴゴッ》を侍女に《ズバシュッ》して静めてもらっている最中に、ロザリアはノックもせずにドアを開けてしまってな。丁度、《パキューン》の瞬間を目にしてしまったのだ」


「ぶふぉっ……なっ、侍女に何やらせているんですか!? そりゃ、6才の子がそんな瞬間を目にしたら衝撃でしょうよ」


 あまりに衝撃的すぎてお茶が吹き出たよ。


「強要している訳ではないぞ? 使用人の中には意中の相手にそういう事をする者もいるのだ。昔はそんなうらや──けしからん風習は無かったのだが、多くの成功例があった所為で女の使用人の間で1つの手段として広まったのだ。言っておくが《ズバシュッ》以上の事はされんぞ? 流石に《ドッゴーン》してしまっては嫁ぎ先が無くなってしまうからな」


 いやいや、そういう問題じゃないよね?


「まあ、そんな事はどうでもいいです。でも、それで男性恐怖症になるものなのでしょうか? 嫌悪するというのなら理解できますが」


「いや、その時は妻とロザリア付きの侍女の説得の甲斐あって2カ月ほどで立ち直ったのだが、その後に仲良くなった同じ年齢の男がいてな」


 ふむ、その子も何かやったのか?


「子供というのはいたずらが好きだろう?」


「はぁ」


 まあ、そういう傾向はあるよね。


「仲が深まるにつれていらずらをされるようになってな。いたずら自体はよくあるような子供のいたずら程度だったのだが、ロザリアは少なからず初恋相手の衝撃を引き摺っていたのだ」


 ああ、なるほど。嫌悪が酷くなったのか。でも、恐怖には繋がらなくない?


「まだ恐怖症には繋がらないんですけど?」


「それだけならな」


 まだあるの?


 その後も着替えを覗かれたり、スカートを捲られたり、泥団子を投げられたり、大声で脅かされたり、等々、出会った男の子が立て続けに色々やらかした結果、嫌悪に段々恐怖心が加わり今では男性が近づくだけで冷静さを失い、触れられるとパニックを起こして襲い掛かるようになったそうだ。


「いずれ慣れるだろうと、あまり気にかけていなかったのが災いしてな。その後のロザリアの行動もあって噂は広がり、今ではまともな貴族家との婚約は難しくなったのだ。ろくでもない家からの申し込みは未だ減らんのだが、俺も人の親だ。娘には出来るだけ良い家に嫁いでもらいたい」


「で、ぱっと見、女の子に見える僕なら大丈夫かもと、紹介したんですか?」


「そうだ」


 認めたよ……


「だが、それだけではないぞ? 俺は貴様を気に入ったのだ。さっきも言ったように娘には出来る限り良い相手に嫁いでもらいたい。貴様なら嫁がせるだけの価値があると評価して会わせたのだ」


 そんなに評価されるような事をした覚えはないんですけど?


「でも、そこまで拗れてしまったら時間をかけて少しずつ男性恐怖症を治すしかないんじゃないですか? 焦って婚約者を探すのは逆効果だと思いますよ?」


「まあ、それは重々承知しているのだが、ロザリアも今年11だ。成人するまでには婚約者を立てておかんと貰い手がいなくなってしまうからな。あれが男であれば時間をかけて治療する事も出来るのだが」


 ああ、確かにこの国ではそうかも知れないな。


 デザリア(貴族社会)では女性の結婚適齢期は15才から20才なのだ。20才を過ぎてしまうと嫁ぎ先が極端に少なくなり、25才を過ぎるとほぼ結婚は諦めなければいけないそうだ。因みに男性は出世を優先する人が多いので40才くらいまでは焦らなくてもいいらしい。


「まあ、そういう事だ。学園で見かけたら積極的に声を掛けてやってくれ」


 そういう事ってどういう事?


「いや、顔を見かけたら挨拶くらいはしますけど、無理に近づくのは逆効果だと思いますよ?」


「頼むぞ?」


 そんな威圧感たっぷりに言われても困るんですが? まあ、偶然見かけた時に会釈ぐらいはしてもいいだろう。


「では、顔合わせも終わった事ですし、我々はそろそろ失礼しますね。エルリック殿、今後とも宜しく」


「ああ、こちらこそだ」


 えっ? 顔合わせって本当に顔を合わせるだけなの? ほぼ、会話もしていないんだけど?

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