第13話 ファーマ君、ステイール侯爵と会う
感想頂きました。
感想、誤字報告、ブックマーク、評価、ありがとうございます。
祝、累計100話(おまけ込)
今後も宜しくお願いします。
「おはようファーマ、今日の夕方って時間ある?」
挨拶も早々にターニャが予定を尋ねてきた。
「ん? これと言って用事は無いけど」
何かあるのか?
「ちょっと言い辛いんだけど、今日の帰りに私の家に寄ってもらえない?」
「それはいいけど、どうしたの?」
ターニャが何やら困ったように目を泳がせている。
「実は、昨日の夜からお父様達がこっちに来ているのよ」
そういえば今日から領主会議だったな。
「でね。友達になったファーマに是非、挨拶がしたいって……」
何故目を逸らす?
「うちの父ってあれでしょ? ちょっと過保護だから男友達なんて紹介しちゃったらどんな行動に出るか」
どんな行動に出るんでしょうか?
「ま、まあ、お兄様みたいに、いきなり斬りつけたりは……しない……と、思う……の、だけどぉ……」
どうして段々小声になるんだ? それ、もう斬りつけますって言っているようなもんだよね?
「間違っても殺される事はないから安心して」
安心できるかー!
「うん、急用が出来ました。ターニャのお父さんがアインスを去るまで僕は忙しいです」
あっ、しまった……週末には嫌でも会わなきゃいけないんだった。どうしよう?
「ファーマが逃げるとエンドール家に手をまわして呼び出す事になりそうなのだけど……」
……そこまでして会いたいのか? どうせ週末に会うのに。
「わかった。今日行くよ」
回避不可なら面倒事は早めに済ませておく方がいい。
「本当? ありがとう。じゃあ、授業が終わったら正門前に集合ね」
という事で今日も平和な学園生活を過ごし、帰りの時間。
「お待たせ」
「私も今終わったところよ」
そうだろうね。科目は違っても同じ時間、授業を受けていたんだから。
「なんか嫌そうね?」
「嫌という事はないけど、ちょっと怖いよね」
「大丈夫よ。朝はちょっと大げさに言ったけど、子供相手に本気で斬りかかったりしないから。あっ、でもお父様の前では愛称で呼ぶのは止めておいた方がいいわ。本気で不味い事になりかねないから」
「やっぱり帰ろう」
「ウソ、ウソ。冗談だから帰らないで」
ターニャに捕まり馬車に乗せられステイール家アインス邸に到着した。
「お帰りなさいませ、お嬢様」
「ただいま、今日は友人が一緒だから客間に案内してあげて」
「畏まりました」
「じゃあ、ファーマ。またあとでね」
「うん」
ターニャは着替えの為、使用人さんと自室に向かい、僕は客室に案内された。
「こちらで暫くお待ちください」
「はい、案内ありがとうございました」
僕を部屋に案内すると使用人さんは丁寧に一礼して部屋を出て行き、僕は1人客間に残された。
やっぱり、学園にいる間だけの家というだけあって王都でお世話になったエンドール家のお屋敷に比べると、こじんまりした屋敷だな。
それでも、うちの倍は部屋がありそうな豪邸だ。流石は侯爵家って感じだよね。
ジッと待っているのも暇だったので客間を適当に散策してみる事にした。部屋は20畳ほどの広さだけど色んなものが置いてある。
先ず、最初に見るのは本棚だな。やっぱり本はいいよね。
壁に直接設置されたガラス扉付きの本棚には100冊を超える本が置いてある。小説っぽい題名の本が殆ど、歴史書も数点、変わった題名のものだと【円滑に統治をおこなう100の方法】なんていうのもあった。
こういう啓発本みたいなのはこの世界にもあるんだな。
面白そうだったのは【勇者バルザクの華麗な日常】という題名の本だ。〝英雄〟の称号があるのだから〝勇者〟もあるんじゃないかと思っていたけど、本当にあったんだな。でも、何故〝華麗な日常〟? 勇者なら冒険とか戦記ではないだろうか?
しかも、同じシリーズの本が23巻もあるところを見ると人気作なんだろう。最新刊を手に取って最後のページを見てみると〝つづく〟になっていた。まだ続刊するらしい……って、著者のところに〝バルザク〟という名前が書かれているんだけど? 自伝なのか?
「失礼します」
僕が勇者バルザクに興味を引かれているとノックの音が聞こえ、さっき案内してくれた使用人さんが扉を開けたので、本を棚に戻し振りむくと
「お久しぶりね、ファーマ。元気そうでなによりです」
「ご無沙汰しております。クレスティア様もお元気そうでなによりです。こちらにいらしていたのですね」
部屋に入ってきたのはターニャのお母さん。ステイール侯爵夫人のクレスティアさんだ……あれ? 少し太ったか? 全体的にふっくらしているような?
「貴方が今、何を考えているか分かりますよ?」
……この世界にはサトリが多いな。
「言っておきますが太ったのではありませんからね? 今、3人目がお腹にいるのです」
3人目? ああ、なるほど。
「ご懐妊、おめでとうございます。でも、妊娠中にグラダからアインスまでの長旅って大丈夫なのですか?」
「激しく動かなければ問題ないわ。今回は良い物が手に入ったから、とても快適に旅が出来たのよ」
ああ、そういえばグラダで作った飛行車1号機はステイール家に納品されたんだったな。馬車や牛車だったら揺れて大変だろうけど、飛行車なら操車ミスでもしない限り殆ど揺れないから快適に旅が出来ただろう。
因みに貴族家に納品された飛行車は王様に献上した物とは内装、外装ともに違うけど、乗車定員は同じ6人だ。
「ターニャと友人になったのですね。嬉しいわ」
「はい、タータニヤ様には良くしてもらっています」
「そんなに堅苦しい話し方しなくても大丈夫よ? 普段はターニャの事を愛称で呼んでいるのでしょう? 私の前ではいつも通りに呼んでも大丈夫だから肩の力をお抜きなさい」
「お気遣いありがとうございます。ところで、今回はどうしてこちらに?」
「領主会議というのを知っているかしら? 今日から始まったのだけど、毎回最終日に食事会が開かれるのよ。いつもは面倒だから使用人に同伴を任せるのだけど、今回は子供達の顔も見たかったし飛行車の乗り心地も知りたかったから、夫に付いてきたのよ」
なるほど……って事は、クレスティアさんには僕が飛行車の制作者だってバレてしまうんだな。
「あの人が戻ってくるのはもう少し先になるでしょうから、それまでは私達と楽しくお話でもしましょうか」
「はい、お言葉に甘えさせて頂きます」
少し早く来過ぎたようで、侯爵様が戻ってくるまであと2時間ぐらいかかるそうだ。
クレスティアさんと話していると、テレスティナさんが部屋にやって来て、続いてターニャも合流、そしてグレイシス君も呼ばれてやってきた。
5人で軽い雑談をして使用人さんが用意してくれたお茶とお菓子を堪能する。話はターニャやグレイシス君の学園生活の話と、僕の日那国での話。やはり、竜人族の国の話というのはみんな興味があるようだ。
そして、ターニャが遊びに来た日に問題を起こしたベロニカさん達の話も少し出た。
どうやらベロニカさんが解雇されてしまったらしい。セラの手を叩いた事がそこまで大事なのか? と思ったが、それは切っ掛けの1つに過ぎなかった。
ベロニカさんの問題は主人であるターニャに逆らった事とターニャとテレスティナさんの命に従わなかった事。主人が間違っている場合であれば使用人は逆らってでも諫めなくてはいけない。だけど、先日の件は諫められたにも拘らず反抗し、詫びろという命にも従わなかった。
その上、屋敷に戻ったテレスティナさんに指導を受けたにもかかわらずベロニカさんは、自分の意見を曲げなかったそうだ。
今後、改善の余地があれば暫く謹慎で済んだそうなのだけど、その余地は無さそうだったのでアインスでの使用人に対する全権限を任せられているテレスティナさんの権限で解雇。昨日、侯爵様にも正式に報告したという事だ。
うーむ、確かに態度は悪かったけど解雇は厳しいな。自業自得なのだけど、うちの農場での出来事が切っ掛けなので少し心が痛む……
因みにカレナさんの方は反省が見られたという事で3日謹慎の後に職場復帰しているそうだ。
暫くターニャ達と色々話をしていると、扉をノックして使用人さんが誰かを案内してきた。
応接室に入ってきたのは身長2m程の大柄でがっちり体形の強そうな人。ターニャのお父さんだ。
前情報によると年齢は42才、クレスティアさんとの年の差は13才。ターニャと同じ茶色の髪でオールバック、どことなくグレイシス君と似た顔立ちで、太めの眉がきりっとしていて、とても厳格な雰囲気の人だ。
「待たせたようだな」
「お初にお目にかかります侯爵様。学園でタータニヤ様とは同じクラスで、仲良くしてもらっています。ファーマと申します」
僕は席を立ちデザリア式の敬礼をしながら挨拶をする。
「ふんっ、多少礼儀はなっているようだな。まあいい、座れ」
侯爵様はクレスティアさんの隣の席に座り、それに続いて僕も座る。
「ターニャと友人になったそうだな」
「はい、光栄なことに仲良くさせてもらっています」
「それ以上の関係になったら許さんぞ?」
あー、どっかで聞いたセリフだ……やっぱり親子だね。威圧感はこの人の方が強いけど……
「勿論です。そんな気は微塵もありません」
「貴様、ターニャに魅力が無いと言いたいのか?」
言われると思った。
「いえ、タータニヤ様はとても魅力的だとは思いますが、身のほどは弁えております。恐れ多いので、これ以上の関係は望んでいないという意味です」
ふふふっ、あれから僕も成長した。この返しもバッチリだ。
「では、そういう目で見た事はあるという事だな? 許せ──ぐぷっ!」
「まったく、親子そろって同じセリフでファーマを困らせないでください」
僕を睨みつける侯爵様にクレスティアさんがツッコミを入れる。
……グーだった。しかも、結構な威力があったようで侯爵様の頬が赤くなっている。
「ごめんなさいね、ファーマ。この人は娘の事になると、おバカさんになるから適当に聞き流していいですよ」
「なにをするのだ、クレア。俺はこの小僧に警告をだな」
「貴方とグレスがそんなだから未だにターニャには友人と呼べる者が出来ないのでしょう? いい加減子離れなさい」
いや、いるよ? ターニャにも友人。
「い、いや、俺はただ、ターニャに悪い虫が付かぬよう──」
「はい? 何か言いたい事でも?」
侯爵様の言葉を遮るように、クレスティアさんが冷たい視線を送りながら右手に持っていた扇をパシッと左手に打ち付ける。
「ぐっ……忠告はこの辺りにしておいてやろう」
すると侯爵様は苦々しくクレスティアさんから目を逸らし僕への忠告を止めた。どうやら滅魔の英雄さんも奥さんには弱いようだ。グッジョブ、クレスティアさん。
「先日はターニャ達が世話になったそうだな」
ん? うちに遊びに来た件か?
「いえ、大したおもてなしも出来ず恥ずかしい限りです」
「ふんっ、デザリアでは手に入り難い希少な食材を使ってもてなしておいてよく言う。過ぎた謙遜は嫌みになるだけだぞ? グレスが珍しく良い勉強になったと零していたからな。素直に受け取れ」
「はい、ありがとうございます」
『いい勉強』? なんの事だろう? まあ、いいか。
「き、貴様の事を認めた訳ではないからな!」
何故か真っ赤な顔をしたグレイシス君が慌てている。
「まったく、グレスも誰に似たのか素直じゃありませんね。昨日は散々ファーマの事を褒めていたではありませんか?」
「か、母様……あれは、その、違うのです」
ほほう。グレイシス君が僕の事を褒めてくれていたのか。
「貴様っ! ニヤニヤするんじゃない。認めん、絶対に認めんからな」
動揺丸出しで捨て台詞を吐きながらグレイシス君は部屋を出て行ってしまった。
「ところで、グレイシス様に褒められるような事をした覚えはないのですが? 何を褒められたのでしょうか?」
斬られそうになった事はあるけど、褒められるような事やった覚えがないんだけど?
「さっきも言ったが、謙遜も過ぎれば嫌みになる」
「いえ、謙遜ではなく。本当に何を褒められたのか分からないんです」
いや、マジで。
「平民の生活環境、それに奴隷や貧民の扱いについてグレスに語った事があるだろう?」
おおっ! あれか。
「農場に来訪頂いた時に話しましたね」
「その話がグレスには刺さったようだ。昨夜、我が領地の平民や貧民の扱いについて大層な資料を用意して熱弁していたぞ」
「僕の話した事が少しでもグレイシス様のお役に立ったのなら光栄です」
「ふふっ、貴方もグレスの話を聞いて『やっとグレスも嫡子としての自覚に目覚めてきたな。ファーマという者には感謝せねばならん』とかなんとか仰っていたではありませんか。ターニャとの仲を認めても良いのではありませんか?」
「それとこれとは話が別だ。ターニャと友人以上の好い仲になりたければ俺と戦って勝ってからでなくては許さん」
「貴方に勝てる者がこの国に何人いると思っているのです? ターニャを一生独り身にしておくつもりですか?」
「それでも構わん。俺が死ぬまで面倒をみれば済む事だ」
……どっかで聞いたセリフだ。親子だな。クレスティアさんは呆れて頭を抱えている。ってか、話の流れがおかしな方向に向いているけど、僕とターニャは只の親友であって恋愛とかそういう方向には向かないよ? ねぇ?
と、ターニャに視線を送ると、兄と同じ発言をした父に呆れたのか。クレスティアさんと同じく凄く疲れたような顔で項垂れている。
「ところでファーマ。色恋の話は一旦置いておいて。貴方、ターニャに練成魔法を教えてくれませんか?」
はい?
「練成魔法ですか? それなら僕に教わらなくても学園の先生が教えてくれると思うのですが?」
「学園の教師が貴方より腕が良ければこんな事は頼みません。私の知る限り、この国に貴方より練成魔法の腕が良い者はおりませんし、より腕の良い者に教わる方がターニャの腕も伸びるでしょう。全属性持ちのターニャが貴方ほどの使い手になるとは思いませんが、多少でも腕が伸びてくれれば将来生活に困る事も少ないでしょうから」
「いや、だからターニャの面倒は」
「貴方はお黙りなさい!」
「ぐぅっ……」
テレスティナさんの気迫が凄い。あんなに大きな侯爵様が小さく見える。
「どうですか? 勿論、謝礼は言い値で払います」
「いえ、謝礼はどうでもいいのですが、確か魔法を人に教えるには特別な資格を持っていなければいけませんよね? 僕は持っていないのですが?」
「その辺りはどうにでもなります。貴方、口利きをしてください」
「無茶を言うな。いくら俺でも勝手に資格を与えるような真似は出来ん」
そりゃそうだよね。国家法で決まっている事を侯爵が覆したりしたら大変な事になる。
「まあ、冗談はさておき」
冗談だったのか?
「抜け道はあります。魔法は学園の教師から教わるというところまでは、これまでと同じです。ファーマは少し優秀な生徒、同級生としてあまり魔法が得意ではないターニャに自分なりの助言を与える。と、言う態で教えれば良いのです。これくらいなら誰でもやっている事ですから全く問題はありません」
なるほど、確かにそれなら問題はないかも知れない。魔法(神術)に限らず出来る子に分からない部分を聞く事はよくある事だ。
「貴方、それくらいは良いですね?」
「まあ、それでターニャの魔法技術が伸びるのなら構わん。だが、助言以上の行いはしてはならんぞ? それ以上の指導がしたいのなら資格を取ってからだ」
おおっ、親バカだけど物分かりの良い人だ。
「分かりました。そういう事であれば僕の方に否ありません。あとはタータニヤ様が宜しければですが」
「私は大歓迎よ」
「決まりですね。では、頼みますよ」
「承りました」
「では、報酬を決めましょうか?」
「いえ、簡単な助言程度で報酬を頂いてしまったら僕はタータニヤ様の友人とは言えなくなります。受け取れません」
「本当に子供とは思えない程堅物ですね。では、報酬の代わりにエンドール家と懇意にしていると公言する事を許可するというのはどうです? 貴方」
「まあ、世話になるのだ。悪用さえしなければそれくらいは許可してやろう。だが、ターニャと友人以上の関係になる事は許さんぞ?」
「承知しました」
「まったく……ターニャの将来が不安でならないわ。ファーマ、ターニャを頼みましたよ?」
いや、その言い方だと聞きようによっては嫁に貰うみたいに聞こえないか?
「はい、友人として出来る限りの助けになれるよう頑張ります」
「では、魔法のコツを教わる日取りを決めましょうか。光の曜日は社交界の予定が入る事が多いですから闇の曜日がいいですね」
ん? 何かおかしな事を言ってるぞ?
「あの? 少し助言をするだけでいいんですよね?」
「そうですよ? 授業時間外に時間を作って勉強会をやるのです。私も学園生時代は友人とよく集まって勉強をしていたものです。前もって勉強会の日取りを決めておいても問題はないでしょう?」
そうなのか?
「あくまでも生徒同士の勉強会なので、ファーマも授業で分からない事があればターニャを頼りなさい。お互いに不足分を補い合って成績が伸び、更には仲も深まります」
「これ以上仲は深まらんでも良い。貴様、勉強会に──」
「邪魔ですわよ。貴方」
「ぐっ……」
僕に何か言おうとした侯爵様はクレスティアさんに襟首掴まれて背もたれに戻された。
侯爵様の扱い……
「あっ、お母様。どうせ休日に習うのならファーマの家で習いたいです」
「許さーん!!」
「貴方は黙っていてください」
「ぐっ……」
「どうしてファーマの家が良いのですか?」
まあ、何となく察しは付く……
「いつもこの家だけで勉強するより、偶には環境を変えて勉強をした方が効率よく勉強できると思うの」
「それは一理ありますが、それだけが理由ではなのでしょう?」
「いえ、あの、その……」
「姉様、恐らくターニャは農場にいる異種族に会いたいのだと思います」
さらっと告げ口された。テレスティナさん酷い。
「ターニャ、言っておきますが貴女の魔法技術向上が目的なのですよ?」
いや、お互いの成績向上の為だよね?
「はい、解っています。ですが、少しくらいは良いでしょう? お母様」
「仕方ないですね。ファーマが良いというのであれば許可しましょう」
この人も結構ターニャに甘いよね。
「本当ですか?」
注意されてシュンとしていたターニャは一転、とても良い笑顔で顔を上げた。まあ、大手を振って定期的にうちに来る事が出来る。つまり、レオナ達と定期的に会えるのだから、こんな表情にもなるよね。
「ええ、しっかり勉強するのですよ?」
「はい」
「ファーマの方はそれで良いですか?」
「勿論、歓迎します」
「貴様、勉強に託けてターニャに手を出してみろ。その首と胴が」
「貴方!」
「……」
勝手に盛り上がっているところ悪いけど、ターニャに対して恋愛感情というのは持ってないよ? ってか、未だにそういう感情がよく分からないし。
「侯爵様、心配しなくてもタータニヤ様と僕がどうこうなる心配はありませんよ? タータニヤ様は僕の事を同性だと思っているようですので」
「あっ、ファーマのバカ。確かに前はそう言ったけど、今は女の子みたいとか思ってないからね? まあ、男の子として見えるかと言われれば、ちょっと……」
まったくフォローになってないよ!
「お、お聞きの通り、僕達が友達以上の関係になる事はないのでご心配なく」
「……それはそれでどうなのだ? ターニャを貴様に嫁がせてやる気はないが、しっかり体を鍛えてもう少し男らしくするのだぞ?」
親バカだけど、この人も根は良い人なんだな。でも、そんな可哀そうな子を見るような目で見ないで……
「ご忠告痛み入ります。努力して侯爵様の半分くらいは男らしくなれるよう頑張ります」
まあ、奥さんの尻に敷かれているのが男らしいと言えるのかは疑問だけどね。