第6話 ファーマ君、商業ギルドに登録する
今日は、服屋デオドランでの仕事初日。家を出た僕は【広域視】を使い、この視界に慣れる訓練をしながら店に向かう。
【広域視】では、家の中までは見えないけど、半径300m以内なら路地裏までしっかり見える。僕と一緒に家を出たリリとミミは、今日もジョブギルドで仕事探し。
2人は今日も農場の手伝いの仕事を選ぶと言っていた。僕の作った服を着て「これなら仕事がしやすいね」と嬉しそうに話していたのだけれど、仕事着のつもりじゃなかったんだけどなぁ……まあ、喜んでくれたなら良いか。
通勤中、すれ違う人達から、ちらちらと見られている。今日の服装は、中学校時代に着ていたブレザーを真似て作った服。僕の【広域視】に映る範囲では男性も女性も、中世ヨーロッパ風の服を着ている人が多いので、たぶん、僕の服装が珍しいのだろう。
「おはようございます」
僕は店の扉を開け、元気よく挨拶した。
「おはよう。今日はまた一段と変わった服装ね」
「おはよう。今日から宜し━━ほお、面白い服だね。ちょっと見せてもらっても良いかい?」
うーん、2人そろって変わっているとか面白いとか言うんだけど、ブレザーって変なのかな? とりあえず、見せてほしいというので僕は上着を脱いでワックスさんに渡した。
「うん、良いね。特に生地が良い。ファーマ君これと同じ服、作れるかい?」
「本気で言ってるの? お父さん」
「勿論、本気だとも。このデザインなら、店の売り子やっている人に着せれば、店の雰囲気が良くなりそうだ」
どうやら、ワックスさんの面白いは誉め言葉だったようだ。
「生地は同じものがないので無理ですけど、同じ形のものは出来ます」
家に帰れば沢山あるけど、売るほどは持ってないし、無くなっちゃうと僕が困るんだよね……
「そうか。せめて裏地だけでもこの肌触りがあれば良いのだけど」
「肌触りの良い生地があれば、重ねて裏地に使えますけど」
「今のところ、うちにこんな肌触りの良い生地はないねぇ。とりあえず、一番肌触りの良い生地持ってくるからそれを裏地にして1枚作ってみてくれ」
「はい」
早速、生地を組み合わせてブレザー上下セット試作第1号の完成。サイズはワックスさんに合わせてある。白生地でカッターシャツも作った。
「うん、やっぱり良いよ。これ」
うーむ、おじさんが制服を着ているのは違和感が……制服っぽくしちゃったのがいけないのだろう。アンナなら似合いそうだけど……よし、作ろう。
女の子の服は作った事ないけど、前世では炊事洗濯は勿論の事、裁縫もやっていた。家族の服を直したり、家族が着なくなった服を自分用に作り直したりしていたので服の知識はある。その記憶を基に【真理】で解析、続いて【神眼】を使ってアンナさんの体形を完全に把握し、作るものに合わせて最適な生地を選び【創造】で作成。僕の持てる全てを結集して最高の一品が完成した。
「女の子用も出来ました」
作ったのは前世で姉が着ていたのと同じブレザー上下セット。スカートは膝上の少し短め、ついでにニーソと、女性用の下着も作った。この世界の下着は、短いスカートに合わない。なんというかカボチャみたいな形の下着なのでミニスカートからはみ出てしまう。と、いう事で前の世界の家族が身に着けていた物を参考に、作ってみた。おしり部分には可愛いクマさんの絵柄を付けてある。
「おお、良いね。アンナ、早速試着してくれ」
そうワックスさんに言われたアンナは女の子がこんな顔しちゃダメでしょ、ってくらいの嫌そうな顔をしながら服を受け取り、嫌々ながらも着てくれた。
「ちょっと! スカート短すぎるんだけど、下着も布が少ないし、これは着け方解らないし」
どうやら、ブ〇ジャーはこの世界にないらしい。と、いう事で、つけ方を教えてあげ、直ぐに試着してもらう。
「すっごい、似合ってますよ。アンナさん美人だから服が、より良いものに見えます」
「うん、良いね。良い所のお嬢さんみたいだよ」
「え? そう?」
戸惑いの表情で試着室から出てきたアンナだったけど、僕達が誉めると、ちょっと照れたように嬉しそうにしている。この人、誉められるのに弱いようだ。
「アンナ、今日はその恰好で店にいてくれ。ファーマ君、男性用と女性用、両方のブレザアを、もう数点ずつ作ってくれ、下着も頼むよ」
「しょ、しょうがないわね。今日だけよ」
「はい」
作ったブレザーセットは1点ずつ、店の入り口の外からよく見えるところに展示され、営業が開始された。
「それにしても、このブラジアって凄いわね。動きやすいし着け心地も良いし、なんで今まで誰も作らなかったんだろ?」
うーむ、僕の発音が悪かったのかブラ〇ャーじゃなくて、ブラジアに聞こえていたらしく商品名ブラジアになってしまった。ちなみに、パン〇ィーはパンテイ。名前は兎も角、最初は嫌々着ていたアンナも、そのフィット感と体の楽さで、今はとても気に入っているようだ。
ブラジアを身に着けている所為か、心持ち胸も大きく見える。
「ファーマ君、ちょっと良いかい?」
「はい」
「アンナ、暫く店番頼むよ」
「はーい」
ワックスさんに言われるがまま店を出て、連れて来られたのは商業ギルドだった。商業ギルドは巨大な煉瓦造りの倉庫のような外観で、中に入ると、多くの人が忙しそうに行き来している。
ワックスさんの後を付いて、受付のようなところへ行き、そこにいたお姉さんにワックスさんが話しかける。
「あの、新規ギルド登録と、新商品の登録申請をしたいのですが」
「新商品登録ですか? では、上の者を呼んでまいりますので、先にこのギルド登録用紙に記入して、ここでお待ちください」
受付のお姉さんは1枚の用紙をワックスさんに渡すと、奥の方へ引っ込んで行った。
僕は、勧められるまま用紙に必要事項を記入し、やっとワックスさんから目的を聞かされる。今日は僕の商業ギルド登録と、さっき作った服や下着の商品登録をしに来たのだという。
この世界にも著作権のようなものがあり、僕が作ったブレザーニーソや女性用下着を見たワックスさんが、これは必ず売れ筋になる品だ、特に下着は画期的な商品だ、他所に真似されて先に登録される前に登録してしまおうと、急いで来たのだ。
受付嬢さんが、頭つるつるの白髭のおじいちゃんを連れて戻ってきた。
「ふおーっ、ふおっ、ふおっ、これはまた可愛らしい新人じゃのう」
「初めまして、ファーマと言います」
「小さいのにちゃんと挨拶が出来るんじゃな、お嬢ちゃん。ワシはこの町の商業ギルドのマスターをやっとるマルガン・エンドールじゃ」
「僕、男なんですけど……」
「ふぉっ?」
ギルドマスターのマルガンさんは、僕が男だと知り、目を見開いて驚いている。失礼な話だよ。
先ずはギルドカードを作成。出来たギルドカードの裏にある紋に僕の血を浸み込ませると生体登録というのが出来、このカードは僕専用の物になるという事だ。
続いて商品登録。別室に通され、ワックスさんが、さっき僕が店で作ったブレザー(男性用と女性用)、ニーソ、女性下着セットを取り出し商品説明に入る。
「ふむ、説明は解ったが、こういうのは使用する者の意見を聞いた方が良い。ちょっと待っていなさい」
そういって、マルガンさんは部屋を出て行き、数分後、女性の職員を数人連れて戻ってくる。
「本当に、これ着るんですか? ここで?」
「マルガン様、いくら何でもこれを身に付けろというのは……」
「は、破廉恥だわ」
下着の説明を受け、商品を見た女性職員さん達が口々に文句を言い始める。
「まあ、まあ、そう言わずに1度着けてみてください。着け方はこのファーマ君が教えてくれますので」
おーい、こんな見た目でも僕の中身は男子中学生ですよ? 年頃の女性に下着の付け方を教えるとか、なんの罰ゲームですか? と、言いたいところだけど、さすがにワックスさんが教える訳にもいかないだろうし、しょうがないか……
「どんなものでも初めて目にする物は、受け入れにくい物じゃよ。商人なら見た目にだけで判断せず試すことも大事じゃぞ? わしらは部屋から出ておるから、試してみなさい」
マルガンさんにそう言われてしぶしぶ試着してくれる事になった女性職員さん。幸いなことに、僕みたいな子供相手だと、恥ずかしくないのか、ギルマスさんとワックスさんが部屋から出ると、普通に服を脱ぎ始め、僕の指導の下、下着を身に着けた。うぅ、目のやり場が無い……
「あら、思ったより良いわね」
「うん、妙な下着って思っていたけど、着けてみると楽だわ」
「そうね。揺れないし擦れないし圧迫しないし、気に入ったわ」
女性職員さんは次々に感想を述べてくれる。パンテイの見た目が卑猥だという事を除けば、着け心地は悪くないと、評価をいただいた。
下着は身に着けてもらったまま、服を着てもらい暫くモニターとして様子をみてもらう。マルガンさんとワックスさんを呼び戻す。
女性職員さん達は、現状の正直な感想をマルガンさんに話し、あとは、サンプル品を幾つかと製造方法を書いた紙を預け、後日査定結果が伝えられる事になり、僕達はギルドを後にする。
新規商品として認められると、商業ギルドから作り方や商品説明を他のお店に広められる代わりに、登録商品と、その類似商品が売れれば、売り上げに応じて開発主にマージンが支払われる。これは、商業ギルドが市場調査をするため、ごまかすと犯罪者になるから皆きっちり払うそうだ。
期間は5年間。後見人がいれば開発者と後見人に1%ずつ、後見人がいない場合は開発者に2%。今回の場合、ワックスさんが後見人を務めてくれているので、ワックスさんにもお金が入る。その中から手数料として5%を商業ギルドに払う事になる。
この方式で、商業ギルドは開発費に、あまり経費を使う事なく新製品を世に出しているのだとか。
今日、僕もギルド員になったので、次から開発した商品は後見人無しで登録申請出来るらしい。
後日談だけど、ブレザーニーソセットは、現存する商品のデザインが変わっただけという事で、新規としては認められなかったけど、ブラジアとパンテイは画期的な新商品だと、特に女性の幹部達から支持を受け、開発者ファーマの名前で登録される事が決定される事になる。
うーむ、開発したのは僕ではなく前の世界の偉い人なんだよね。なんとなく罪悪感があるけど、今回は神様からのご利益だと思ってありがたく頂こう。
━━僕が【デオドラン】で働き始めて2日目。
今日は開店してすぐに、リリとミミが50代くらいの夫婦を連れて来店してきた。2人が先日から働きに行っている農場のご主人らしい。
「この子達が着ているのと同じ服を作ってもらいたいのだが」
「はい、少々お待ちください。ファーマ君、仕事よ」
「はーい。いらっしゃいませ、こちらへどうぞ」
どうやらリリ達が着て行った服を気に入ったようで自分達も欲しくなったらしい。僕は夫婦を生地コーナーに案内し、好きな生地を選んでもらう。
「ちょっとアンナ。どうしたの、その服? スカート短すぎない?」
「アンちゃん可愛い」
「ミミ、ありがと。この服ね、昨日ファーマ君が作ったのよ。意外とお客さんからの評判が良かったからお父さんが店の制服にするって……」
「うーん……でも、下着はどうやって隠してるの?」
「下着もファーマ君が新しいのを作ったのよ。ちょっとこっち来て」
僕がお客さんの相手をしているとリリとアンナが小声で何やら話をして、2人で試着室に入っていった。試着室から「きゃー、エッチー」と聞こえてきたのは知らないふりをしよう。
夫婦の服は直ぐに完成。完成後すぐに試着を済ませ、そのままお金を払い「これで仕事がやりやすくなる」と、喜んでリリ達と帰っていった。
帰り際に、リリが何とも言えない怪しげな表情で僕を見て、口パクで何かを言って出て行ったのが気になるけど、良い事は言われない気がするので確認するのは止めておこう。
そして、今日はブレザーニーソセットが売れた。新作下着も売れた。何故かブレザーニーソを買うのは全員男性だったのが不思議だ。
━━口コミで噂は広まり、日に日に売り上げが伸びている。今では肉体労働者にリリ達に作ってあげたのと同じ型の服が、売れに売れまくっている。丈夫で小物をポケットに入れられるから作業が捗るんだとか。
作業着じゃないのに……
そして、ブレザーセットも順調に売れている。男性用1に対して女性用9の割合で売れているのだけれど、まだ町で女性用ブレザーを着ている人を見たことがないのはどういう事なのだろうか? 不思議だ……まあ、売れているなら、良しとしよう。
ブレザーニーソが売れるなら短パンニーソも売れるのでは? と、予想した僕はラフ目の短パンニーソセットを作りワックスさんに見てもらい。これも即採用。ブレザーの横に飾られ、これも結構売れている。
商品が売れる要因の1つはアンナ。店の看板娘アンナが新作服でちょっとした買い物に出かけているのが大きい。 毎回、数人の男性が、アンナが帰ってきて直ぐに来店してくれる。
そして、なんといっても1番売れているのが女性用下着。パンテイは初めの内は、布が少なくて破廉恥だと、ギルドで言われていたのと同じ事を言われていたのだけど、履いてみると、ごわごわ感がなく、フィット感と肌触りが癖になる、トイレの時一々結び目を解かなくても良いと、人が人を呼んで人気商品になった。そしてブラジア、これはこの世界になかったから、以前は動くのに邪魔な時は布を巻いて押さえつけていたらしい。揺れない擦れない圧迫しない、肌触りが良いと、大人気だ。やはり、下着には、こだわって生地を選んだのが良かったようだ。
そして、あっという間に1か月が経ち、今日は給料日。普通は日払い制らしいのだけど、毎日精算して貰うのも面倒だろうと、月締めでまとめて下さいとワックスさんにお願いしたのだ。
今月の給料は6520デニールにもなった。ワックスさんの店の売り上げはオープン以来最高どころか、庶民の為の服店の月間売上過去最高記録(商業ギルド調べ)を軽く更新したと、いう事だ。
「いやぁ、ファーマ君が来てくれて本当に良かった。これからも宜しく頼むよ」
「はい、こちらこそお願いします」
給料を袋で受け取る。一見小袋だけど、中身が全て硬貨なので結構重量がある。
給料が入ったので、翌日から3連休貰い、書館で調べものをしたり、魔法道具というのを見に行ってみたりしようかと思う。
ワックスさんの店も今月は忙しすぎて休めなかったので、それに合わせて店休にするそうだ。
次回更新は5/10になります。




