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記憶を持ったまま生まれ変わる?


 ふと気が付けばそこは何もない真っ白な空間だった。


 なんだか体がふわふわする……夢をみてるのか? そう思いながら再び辺りを見回してみると、視線の先になにやらテーブルのような物が見えた。


 そのテーブルのような物がある方へ向かおうと僕は歩きだす。


 歩いているというよりは飛んでいる? いや、その表現も正確じゃないな……移動しているのは解る。


 ふわふわと漂っているというのが一番しっくりくるな。


「やあ、いらっしゃい。よく来たね柳太郎(やなぎたろう)君」


 テーブルの置かれている場所までやってくると、僕に話しかけてくる白いロングコートを着た男の人が居た。


 彼は僕の名前を知っているようだけど、まったく見覚えのない顔だ。


 年は僕より少し上だろうか? 端整な顔立ちで、輝くような金色の長い髪と瞳、その瞳は僕の心の奥底を見通すかのような奥深さと、これまで誰からも向けられた事のない優しさに溢れている。


「あの……以前何処かでお会いした事ありましたか?」


「直に会うのは初めてだよ。驚かせてごめんね。僕は世界の創造主、君達の表現で言うところの神様だ。太郎君は今の状況を理解できてないよね?」


「状況といいますと?」


「うん、単刀直入に言うと、君は死んだんだ。それで、今、いる場所(ここ)はあの世ってところかな」


 ふーん、死んだのか……


 神様と名乗る男の人に死んだと聞かされても、これと言って特に何も感じなかった。それどころか何となく解放感のようなものを感じていた。


「やっぱり君もそういう反応をするんだね」


「そういう反応?」


 少し悲しそうな表情を浮かべそう言葉を発した彼に僕は思わず同じ言葉を返した。


「君のように不幸な人生を歩んだ人達は決まって自身の死を喜ぶかのような顔をするんだよ」


 不幸? 僕は不幸だったのか?




ーーーーーーーーーーーーーーー




 太郎は柳家の長男としてこの世に生まれた。


 家族構成は父、母、姉、妹と、自分を合わせて5人。


 姉は1才、妹とは3才離れた3人兄弟だったのだが、両親にとって息子である太郎はいらない子供だった。


 胎児が男児だった事を知った両親は太郎の堕胎も考えたのだが、時期的に堕胎できる時期は過ぎており、世間体的にもよくない事から生むという選択肢を選ぶ。


 入院中は喜ぶ演技をしていた両親だったが家に帰った瞬間、太郎の寝ている籠を無造作に床に置き、冷たい目で太郎を見て父は「あー、なんで野郎なんだろ。邪魔くせぇな、くそが」とつぶやき、母は「大丈夫よ。使い道はあるから」と下卑た笑みを浮かべていた。



 太郎の名前も意味など存在しない。ただ出生届に名前を入れなければならない為、例えの欄に書かれていた太郎という名前をそのまま書き入れただけなのだ。


 姉と妹は愛情を込めて育てられたが太郎は最低限、死なない程度の世話しかされなかった。


 しかも、男は家事をするものだと教え込まれ、物心ついた頃には、家の掃除は太郎の仕事にされていた。


 小学校に上る頃には、洗濯や食器の洗浄を、小学校の高学年になる頃には家事の全てを太郎がやらされていた。


 料理を失敗すると「食材を無駄にするな」と、暴力を受けた。


 食事はみんなが食べ終わった後の残り物しか口にすることが許されなかった。


 服は姉や妹が着なくなった服を自分で繋ぎ合わせて作らされた。


 旅行やお出かけは連れて行ってもらえず、いつも留守番だった。


 娯楽品等は当然、与えられる事はなかった。


 家事が忙しくテレビも見たことがなかった。


 その為、同級生と話が合わず友達は1人も出来なかった。


 太郎の娯楽品は学校の教科書だった。国語の教科書に書かれている物語が面白かった。算数の教科書に太郎君はと出てくるのが嬉しかった。理科の教科書で生き物を見るのが楽しかった。社会の教科書で色んな場所に行った気分を味わった。学校の勉強は楽しかった。給食で残り物じゃない暖かいごはんを食べられるのが楽しみだった。お昼休みに図書室で色々な本を読むのが好きだった。図画工作や家庭科の授業で物を作るのが好きだった。


 学校だけが太郎の憩いの場になっていた。



 両親に名前を呼ばれたことは無い。呼ばれる時はいつも「おい、こら、お前」だった。


 人前以外で両親を父や母と呼称する事は許されなかった。父を旦那様、母を奥様と呼ばされていた。


 太郎にとってこれが普通の生活だった為、これと言って自身を不幸だと思ったことは無かった。


 それでも、社会の授業で習った戦時中の子供は恐怖の中、食べる事も出来ず死んでいる。外国の人達は今も戦争や自然災害に苦しんでいる。楽しみがある分、自分は不幸だとは思わなかった。


 中学3年生になった日、両親に「義務教育が終わったら親の役目は終わりだ。お前は家を出て働き、これまでお前に使ってやった金を返せ。それが義務だ」と言われた。


 学校の成績は良かったが、太郎は教師の勧めを断り、就職を決めた。


 中学校卒業を控えたある日の帰宅途中、太郎は目眩に襲われ車道に向かって倒れ車にはねられ、その短い人生に終止符を打った。



ーーーーーーーーーーーーーーー




「うーん、僕ってどの辺が不幸だったんですか?」


 自身の過去を振り返って神様に疑問をぶつける。


「一般人と比べると、かなり不幸な人生を歩んでいるんだけどね……君はそれが解らないほど酷い洗脳を受けて育ったんだよ。本来なら、君は社会に出た後に両親の洗脳から解かれて、幸せな人生を歩む予定だったんだけど、その前に死んでしまったんだよ」


「へー」


「へーって……まあ、いいか。それで、ここからが本題なんだけど、君のように幸せをつかみ取る前に死んでしまった人、全てに、今度こそ幸せになってもらう為の救済措置があるんだ。太郎君、君に尋ねる。太郎君はこれまでの人生の記憶を持ったまま、新しい生を受けることを望みますか?」


「記憶を持ったまま新しい生……ですか」


「そう。と言っても、君が今まで居た世界とは違う文明の世界に生まれ変わるから、その記憶がどう役に立つかは君次第なのだけれどね」


「ふーん、じゃあ、残したままでお願いします」


「やっぱりそうだよね。不幸な記憶なんていらな━━えっ? 残したままでって言った?」


「はい、記憶を持ったまま生まれ変わりたいです」


「そうか、良かった。いやね君のような人、1万人に同じ質問をすると、9999人は『もう、これ以上苦しみたくない』って、言って生まれ変わりを拒否するんだよ。いや、良かった。本当に良かった」


 神様は僕が記憶を持ったまま生まれ変わることを自分の事のように喜んでくれた。僕にはこの時何故これほどまでに喜んでくれているのか全く理解できなかった。


「じゃあ、次の選択だよ。科学文明が発達した世界と、魔法文明が発達した世界どちらに生まれ変わりたい?」


「えっ? 魔法文明? 魔法が使える世界があるんですか?」


「うん、あるよ」


 僕は、図書室で読んだ魔法使いが主人公の物語や、勇者が出てくる英雄譚などを思い出し心躍る。


「ふふっ、決まりみたいだね」


「はい、魔法文明の世界でお願いします」


「それじゃあ、今度こそ幸せな人生を歩めるように君が好きな事ができる能力をプレゼントしてあげる。どんな能力が欲しい?」


「僕、物を作る仕事がやりたかったんでそういうのに役立つ能力ってありますか?」


「そんなので良いのかい? そういった能力は君の行く世界では、ありふれた能力だよ?」


「はい、それが良いです」


「そうか、君がそれで良いなら、何も言うまい」


 神様はそういうと僕に向かって手を翳す。


 神様の手に光が集まり僕を包み込んだ。


「……あっ!」


「えっ? なんですか? 今の『あっ!』って」


「い、いや……なんでもないよ。君にとっては悪いことじゃないから気にしないで。それじゃあ、良い人生を」


「ええっ!? 『良い人生を』じゃなくて、何をやったのか教えてください」


 神様は僕の質問に答えることなく、僕の意識は真っ白な世界へ落ちていった。


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