第16話 目撃
トラブルが口を開けるとカン・ジフンが
チョコレートケーキを食べさせた。
「遅い!」
ジョンがしびれを切らして立ち上がった。
「確かに遅いですね」
最年少のジョンのゲームに付き合っていたリーダーのゼノも、子守の限界だと疲れた顔を見せる。
セット確認の為の小休憩が、大休憩になろうとしていた。
「寝ていていいかも教えてくれないなんて何かあったのかな?」
ノエルはうんざりとして髪をかき上げる。
「見に行こー!」
ジョンの一言でテオとノエルは立ち上がる。が、上の2人は動かない。
「いってらっしゃい」
子守に辟易したゼノと子守をする気のないセスは3人を見送る。
「あ、すみません。まだ、調整が終わってなくて。間もなくリハーサルを再開出来ると思うのですが……」と、機材スタッフは恐縮してみせた。
「いえ、大丈夫ですよ。遊びに来ただけですから」
ノエルが社交スマイルで答える。そして、ため息まじりに2人に向き直った。
「まだ、時間が掛かりそうだね」
「探検行こー!」
「探検?」
「ほら、あそこ。ハシゴで登れるみたい」
ジョンの指差す方向には、スタジオの2階通路から更に上へ行くハシゴが伸びていた。
「屋上へ出るだけじゃないの?」
「ノエル、行って見ようよ」
3人はジョンを先頭にハシゴを登る。
(こんな所、マネージャーに見つかったら大目玉だ)
ノエルは叱られると分かっていても、好奇心のままにスルスルと登るジョンに付いて行く。
ハシゴの先にはドアがあった。
ジョンはハシゴに掴まりながらドアに手を伸ばす。
「よいしょっと」
久しく開かれていなかったのか、ドアは重い音をさせて開いた。
外の風が吹き込んでくる。
そこは、3人がやっと並んで立てる位のバルコニーになっていた。
ほんのり香る川の匂いに、思わず深呼吸をする。
「いい天気だねー」
「まだ、上があるよ!」
ジョンは外壁に張り付いているハシゴを見上げ、躊躇なく登って行った。
「怖いな」
テオもあとを追う。
ノエルは下を見て、身震いしながらも登って行く。
「うわー! すごーい!」
ジョンが叫ぶ。
スタジオの屋上は思っていたよりも高かった。
倉庫の屋根を見下ろせる。その向こう側に土手があり、キラキラと水面の流れが見えた。
「こんな所、知らなかったね」
「うん、いい景色」
テオとノエルは顔を見合わせて微笑む。
「ヒャッホ〜イ!」
ジョンが奇声を上げながら走り出し、テオもそれに続いた。
ノエルは(気持ち良いなー)と目を細めて眼下を見渡した。ふと、土手にいる人物に目が吸い寄せられる。
(あれ? トラブル? もう1人はカン・ジフンさんだ)
テオを呼ぼうと振り返るが思い直した。
(カン・ジフンさんと2人でいる姿なんて見たくないはず……)
ノエルは目を凝らして土手の2人を観察する。
何かを食べている様だ。スマホをカメラモードにしてズームして覗き見る。
サンドイッチを食べている。トラブルの口元をカン・ジフンが拭く。
クスクスと笑い合う姿は恋人同士そのものだった。
トラブルが口を開けるとカン・ジフンがチョコレートケーキを食べさせた。そして、また笑い合っている。
(ラブラブじゃん! 付き合ってるの⁈ さっきテオの肩で寝てたのは、なんだったんだ?)
「ノエル、なに見てんの?」
「な、なんでもない!」
慌ててテオからスマホを隠す。
「ふーん。なにを見ていたのかな?」
川沿いを望むテオ。
「いや、あー、あ! あっちから駐車場が見えるよ。トラブルのバイクも見えるよ!」
「本当?」
テオは反対側の駐車場を見下ろせる場所に移動した。
ジョンと「今度、代表の車で卵当てゲームをしよう」などと、イタズラ話しで盛り上がり始めた。
ノエルは再び、スマホでトラブルを盗み見る。
トラブルはカン・ジフンの足を枕にして横になっていた。カン・ジフンが草でトラブルの顔をくすぐる。トラブルは猫の様にその草にじゃれ付いていた。
(こ、これは、テオに見られたら大変な事になる)
ノエルは青い顔をしてスマホをしまい、そろそろ戻ろうと声をかける。
「はーい」と、2人は素直に従いハシゴを降りた。
「こら、遅いですよ」
ゼノに叱られ、ジョンは秘密のハシゴと屋上の存在を話して聞かす。
「へー、今度、案内して下さい」
「了解です!」
スタッフがリハーサルの再開を伝えた。
トラブルはカン・ジフンとの休憩を終わらせ、エレベーターホールで医療機器メーカーの営業マンと心電図検査器の型番と購入金額を照らし合わせる。
やはり、高額だった。
代表から予算はたっぷりと頂いたが、節約しなくてはならない。
中古品の取り扱いを聞くが、保証とメンテナンスはオプションになると言う。新品で保証内容とメンテナンス内容、電極の形状と値段を確認していく。
そのエレベーターホールに、リハーサルを終わらせたメンバー達が通り掛かった。
本撮影の為、メイクに行く所だ。
あ、トラブルと、テオは笑顔になるが、トラブルは真剣な顔でスーツ姿の男性と交渉している。
静かに通り過ぎようとすると「トラブルー!」と、ジョンが声をかけた。
ゼノが無邪気なジョンの口を塞ぐがすでに遅く、トラブルと営業の男性が振り向いた。
医療機器の営業で芸能人と出会う事はなく、顧客の前でも反応は一般人と同じだった。
「う、うわー、本物だ」
営業マンは立ち上がり挨拶をする。
メンバー達はマネージャーに促されて、頭を下げるのみで立ち去った。
「本当に芸能事務所なんですね。えー、彼らとご縁が出来るなら、もっとサービスしようかなー」
営業マンは自分の上司らしき人と電話を始める。
トラブルは、全く……と思うが、これで交渉がし易くなった。
「上司がすぐ来ますので、少々お時間を下さい」
トラブルはもちろんだと頷き、立ち上がった。
医務室の作業状況を確認に行く。
廊下にkeep outのテープとブルーの保護シートが張り巡らされている。
隣の部屋も空っぽとなり、埃だけが住人となっていた。
総務の2人は解体業者と図面を確認しながら、取り壊す壁の位置をチョークでマーキングしている。
「今日中に穴を開け終わりますよ」
トラブルは仕事の早い2人に拍手を送る。心の中で代表にも。
小1時間ほどして営業マンからメールが来た。
上司が到着したらしい。
(何が、すぐ来ますだ……)
待たされたと顔に出さない様にして、トラブルは再びエレベーターホールへ向かった。
ノエルが3角関係を白日にさらす役割をします。
次話・次々話をお楽しみに!
なんで、春は眠いのでしょうか?
皆様、花粉症は治りましたか?
ヌンは微妙です・・。




