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〜トラブル〜  作者: ヌン
第1章 黒のムグンファ
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第21話 台湾コンサート1日目(3)


トラブルは立ち上がり、テオのバスローブの

首元から手を入れ、それを塗った。




 ホテルの部屋でパク・ユンホの血圧と血糖値を測る。


 やはり、いつもより低かった。


 時差で食事時間がずれたのと、最近はトラブルが付いていなかったので、血糖測定をサボっていた。


何か食べましょう。


 そう手話で言い、ルームサービスのメニューを見せる。


 甘くて腹にたまるものがいいなぁと、パク・ユンホはパンケーキを選んだ。


 パク・ユンホがルームサービスに電話をし、あとチョコレートケーキもと、追加する。


 パクはベッドに横になりながらトラブルの顔をまじまじと見た。


「痩せたなぁ。最近カメラに触っているかね?」


 トラブルはパクの服をたたみながら答えない。


「部屋の変更は出来たのかね?」


 スマホを見る。が、まだホテルから連絡は来ていなかった。


「ここは、キム・ミンジュと同室だからダメだよ」


 パクがニヤニヤとして言う。


「スーパースターのテオと同じ部屋なんて女子の夢だろ? ま、ファンが知ったら八つ裂きだな」


 パク・ユンホは、どんな事でも面白そうに話す。


《人生を楽しむ天才》と、呼ぶ人もいるが、何がそんなに面白いのか大抵わからない。


 ただ、この人の軽薄さに救われて来たのも事実だった。


 ドアチャイムが鳴り、ルームサービスが届けられた。


 トラブルはパンケーキをベッドのパクに運び、自分は立ったままチョコレートケーキを飲み込む様に食べて部屋を出た。





 ホテルのデスクで支配人が深々と頭を下げる。


「申し訳ありません。やはり満室でして。そちら様の他のスタッフ様のお部屋もエキストラベッドを利用して頂いている状態でして。近隣のホテルもあたりましたが、やはり海外からのお客様で満室と断られまして。お代は頂きませんので…… ご連絡が遅れまして…… 」


 早口に言い終わると、頭を下げたままトラブルの顔色を伺う。


 はぁーと、ため息をく。


(疲れた)


『もう、いいです』


 メモで伝えると、支配人が明らかにホッとした様子が手に取る様に分かる。


 本当に探したのか、あやしいものだが仕方がない。


 部屋へ戻る足取りは重くなるが、テオが戻る前にシャワーを浴びなくてはと、無理に体を急がせた。


 テオが他のメンバーの部屋で寝てくれれば良いのだが、こちらから頼めるはずがない。


 そっとドアを開けて部屋に入ると、椅子に掛けておいたパーカーが見当たらなかった。部屋を見回してクローゼットを開けると、洋服が綺麗に吊られていた。


 派手な洋服の1番右に、黒の小汚いパーカーが申し訳なさそうに吊られている。


 バスルームに入ると洗面台にハンドタオルが敷かれ、そこに洗顔料やシェービングクリームが規則正しく並んでいる。


 テオの意外な1面を見たと感じた。


(キチンとした性格なんだ)


 ふーんと、思いながらシャワーを出して浴槽に湯を張った。






 コンサートが終演した。


 会場をファンに取り囲まれる前に早々に脱出する。


 ホテルに戻る移動車の中で、テオの部屋の話しになった。


「本当に狭いんだよー」

「見に行こうー!」


 わいわいと雑談しながら全員でテオの部屋に入る。


 トラブルはいなかった。


「うわっ、狭っ」

「でしょ?」

「本当に手違いでスタッフ扱いになったのですね」


「テオ、トイレ貸して」と、ノエルがバスルームに入るが、声にならない悲鳴をあげて飛び出して来た。


「ノエル、どうしたの⁈ 」


 ノエルは床に尻もちを付いたまま、口をパクパクとさせてバスルームを指差す。


 皆でバスルームをのぞくと、シャワーカーテンの隙間から見えるバスタブに、黒い頭が寄りかかっていた。


 しかし、動かない。すると、頭がゆっくりこちらを向きながら目が薄っすらと開かれた。


「…… トラブル! 大丈夫か!」


 セスが叫ぶ。


 バスタブにもたれたトラブルの目が大きく見開かれる。


(しまった! 寝てた!)


 ガバっと上半身を起こし、波立つ冷めたバスタブからタオルに腕を伸ばすが届かない。


 テオが顔を背けながら取って渡した。


「皆んな、出ましょう」


 リーダーのゼノに従い、メンバー達はバスルームから出た。


「ビックリしたー」

「心臓に悪いよ」

「部屋、変えられなかったんだな」


 メンバー達は、それぞれ椅子やベッドに座り込む。


 バスルームからトラブルの指パチンが聞こえた。


「はい、はい、皆んな後ろ向いて」と、テオが言う。


 意味は分からないが、メンバー達はテオに従った。


 背中に気配を感じる。


 ジョンが、ねぇと、小さく前を指差した。そこには暗い窓にトラブルが映っていた。


 バスタオルを体に巻き付け、胸元を押さえながら服を取り、跳ねるようにバスルームに逃げて行った。


 年頃の男子達はその姿を目に焼き付ける。全員の頭に、あの完璧なシルエットが思い浮かんだ。


 再びパチンが聞こえ、皆、我にかえる。


 テオが向き直ると、メンバー達も同じ様に振り向いた。


 トラブルが黒の上下スウェット姿で立っていた。


 ペコッと頭を下げてリュックを持ち、部屋を出て行こうとする。


「いや、いや、いや、自分達が出て行きますから」


 ゼノはトラブルを引き止める。


「テオ、じゃあね。部屋に帰るよ」


 テオを置いて出て行くメンバー達。


 ジョンが振り向き「ねぇ、テオ、僕の部屋で寝てもい…… ⁈ 」


 ゼノがジョンの口を塞ぎ「おやすみなさい」と、ドアを閉じた。


 廊下で「空気読みなよー」と、ノエルに頭をペシッと叩かれる。


 ジョンは「?」と、頭をかいた。





「僕もシャワーしてきます」


 テオがバスルームに消えると、トラブルは、はぁと、ベッドに倒れ込んだ。


(寝てしまうなんて、なんたる失態…… )


 よく考えると、年頃の男子と同室なんて危険極まりない事だがテオに怖さは感じない。それどころか力では勝てる気がする。


 トラブルは起きあがり、荷物から本とノートを取り出した。


「勉強ですか?」


 しばらくしてテオがバスローブ姿で出て来た。


 トラブルは返事をしない。


「お風呂上がりに、これ付けるといいですよ。全身に使えて肌がすべすべになるんですよ」


 トラブルは本から目を上げない。


 話しかけるなオーラ全開だが、テオには通じないようだ。


「ほら、いい匂いでしょ?」と、トラブルの頬に遠慮なくクリームを塗り付ける。


 やっとトラブルは顔を上げた。


 テオが手鏡を見せながら「ほら、こうやって擦りこんで下さい」と、笑顔を向ける。


 両手で自分の頬に塗り、顔全体に擦りこんでいく。


 トラブルはその真似をした。


 たしかに高級な香りがするがベタベタする。


 手をティッシュで拭こうとすると「ダメですよ。残りは、こうやって腕や足に付けるんですよ」


 テオはやって見せる。


 トラブルは無表情のまま立ち上がり、リュックから救急箱を取り出した。中からチューブを取り出す。


「ヘパ…… ? 何ですか?これ」


 ノートの隅に『医薬品です。私はこれを使っています』と、書く。


『背中がかゆくなる事はありますか?』


 テオはうなずいた。


 トラブルは立ち上がり、テオのバスローブの首元から手を入れてチューブの軟膏を塗った。


 無臭だ。


「ありがとう」と、テオは微笑む。


 どういたしまして。と、口パクで返すトラブル。


 ふと、『服を掛けてくれてありがとう』と、伝える。


「どういたしまして」と言い、テオはなんだか嬉しくなった。そして、視線を本に戻すトラブルを、もっと知りたくなった。


「何の本ですか? 英語ですか? トラブルは英語の勉強をしてるんですか?」


 んーと、天を仰ぐトラブル。


 歯を磨いてきなさい。と、ジェスチャーで言う。


「あ、はい」と、テオは素直に従う。


 次は、水を飲みなさい。トイレに行きなさい。ベッドに入りなさい。うつ伏せに。


 トラブルが首から肩甲骨にかけて、マッサージを始めた。


「あー…… 」と、言い残し、テオはあっという間に夢の中に。



お疲れ様です


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