第1話 出会い
《ゼノ》25歳。リーダー。ラップ担当。
15歳までアメリカで育ったバイリンガル。
明るくしっかり者。
作詞作曲の才能は定評がある。
《セス》23歳。ラップ担当。
マイペースな天才肌だが年下3人には面倒見の良い
お兄さん。
デビュー以来、ほとんどの楽曲を手掛けている。
《ノエル》20歳。ボーカル・ダンス担当。
努力の人。優しい気づかいのできる性格。
テオと幼馴染み。
《テオ》20歳。ボーカル・ダンス担当。
無邪気で明るい性格。
いつもノエルと一緒にいたがる。美少年。
《ジョン》18歳。ボーカル・ダンス担当。
照れやで人見知りな反面、怖いもの知らず。
メンバー・スタッフに可愛いがられている。
パク・ユンホは有名なカメラマンだった。
人物と背景を1つの絵画の様に撮る写真が彼の特徴で、光と影の独特な画は国内のみならず、海外の俳優やミュージシャンからも多くのオファーが来る。
恩年60歳の意欲は衰えを知らず、今日はK-POPアイドルグループの写真集撮影の為に、とある体育館にいた。
グループメンバーの5人がバスケットをする自然な躍動感と肉体美のシルエットを狙い、夕方の西日が差し込む時間を撮影時間に指定した。
朝からスタッフと、カメラセッティングとカメラリハーサルに忙しい。
写真撮影にカメラリハーサルを行うのは珍しいが、パク・ユンホは5人の動きを止める事なく、その写真を見た者が、まるで動画で試合を見ている錯覚を覚えるモノにしたかった。
体育館の2階と1階にカメラを設置し、それぞれのカメラ担当のアシスタント達に絞りや採光の指示を出す。
リハーサルの為にメンバー代わりのスタッフが集められた。
それぞれメンバーの体型や身長が似ている者が選ばれ、その役割は主に若手の大道具スタッフが担っていた。
アシスタントからメンバーの名前の書かれたゼッケンを渡され準備を行う。
パク・ユンホは、メンバー本人達は恐らくこのスタッフ達よりも、高くジャンプする可能性があるとアシスタントに伝え、シャッターチャンスを逃さない様に注意を与えた。
その時、撮影スタッフの1人が電話を切りながら、パク・ユンホに走り寄って来る。
「パク先生、ジョン役のスタッフが来られないそうです」
「またか!」
事務スタッフは憤る。
ジョン役のスタッフはドタキャンの常習者だった。
パク・ユンホは少し考える。そして「トラブルを呼べ」と言った。
一方、メンバー達は今日の撮影を楽しみにしていた。
最近は室内での作業が多く、ノエル・テオ・ジョンの年下組3人はレコーディングに追われ、体を動かしていなかった。
ゼノ・セスにいたっては、最後に太陽を見たのはいつだったか考え込む有りさまだった。
仕事とはいえ、皆でバスケが出来ると思えばワクワクしないはずがない。
メンバー達は早々に作業を切り上げ、ランチをした後、体育館に向かった。
ノーメイクの5人が予定より2時間も早く体育館の控え室に現れた事で、事務所スタッフは慌てたが、まだ、スタッフが揃わずリハーサルが出来ていない事を伝えた。
「僕達でカメリハすればイイじゃん?」
誰ともなく言いながら、5人は2階席から体育館を見下ろす。
スタッフ達がバスケをして遊んでいた。
ノエルは、入口に置かれたままになっているジョンのゼッケンを見つけた。
「ジョンが来てないんじゃん」
ノエルは、その柔らかい髪をかき上げながら笑う。
遠くからオートバイのエンジン音が近づいて来た。メンバー達は顔を見合わせ、その音に耳をすませた。
体育館の外でエンジン音は止まり、しばらくして1人の少年が姿を現した。
「遅いぞ!トラブル!」
パク・ユンホが叫ぶ。
トラブルと呼ばれたその少年はペコッと頭を下げ、ヘルメットを置いて黒のスカジャンを脱いだ。
メンバー達は、その少年が女性であると知った。
その女性は黒髪を刈り上げ、前髪は長く、目が隠れている。黒の長袖シャツにブラックデニム、黒のワークブーツを履いている。
一見、少年に見えるが、すぐにそうでないと分かるのはスタイルの良さだ。
身長170㎝弱か。細くて長い手足に、バランスの取れた腰。少し錨型の肩からスッと首が伸び、小さな頭が乗っている。
長い前髪で顔を隠しているが、美しいのが分かる。
「トラブル!ゼッケンを着けろ!」
パク・ユンホの指示で、トラブルはゆっくりとゼッケンを拾い上げた。
「あれ、僕?女の人⁈」
ジョン本人は指を差して驚き、他のメンバー達は声を殺して笑った。
「トラブルはジョンより10㎝程度身長が低い事を計算に入れて!リハーサルを始めるぞ!」
パク・ユンホの矢継ぎ早な指示で、慌ただしく試合が開始された。
3on2で、チームを分ける。
ゼノ、セス、テオ VS ノエル、ジョン
ジョン役のトラブルとゼノ役のスタッフが、ジャンプボールをする。
2人がジャンプしてゼノ役がボールをキープした瞬間、パク・ユンホが大声を出して試合を止めた。
「トラブル!本気でやれ!」
トラブルはペコッと頭を下げ、試合はもう一度仕切り直す事になった。
セス役がボールを上げる。
ゼノ役がジャンプして叩こうとした瞬間、トラブルの手がスッと伸びて来て、手の平1つ分上回った。
トラブルが叩いたボールをノエル役がキャッチし、ドリブルシュート!
先制した。
ゼノ役のスタッフは「チッ」とトラブルを睨む。
「今のなんだ⁈」
「メチャクチャ高く飛んだよー!」
メンバー達は、トラブルの驚異的なジャンプに、2階席から身を乗り出して試合に見入った。
試合が再開される。
再び、トラブルとゼノ役のジャンプボール。
また、トラブルのジャンプがゼノ役を上回った。
ボールはノエル役に向かい転がる。
トラブルが着地をした瞬間、ゼノ役がトラブルの肩を突き飛ばした。
トラブルは後ろに尻もちを付く。
ボールはテオ役が拾い、セス役にパスをした。
トラブルは素早く立ち上がり、そのボールをカットしたが、ゼノ役に足を引っ掛けられ派手に転倒した。
床に転がるトラブルを見てスタッフ達は笑い合う。
トラブルは黙って立ち上がり下を向いたまま表情を変えなかった。
パク・ユンホは薄笑いを浮かべるだけで、何も言わず見ていた。
「今の、笑えないんだけど……」
見ていたメンバー達は困惑した。
試合が再開される。
トラブルは突き飛ばされ、足を引っ掛けられ、ボールを背中に当てられる。しかし、彼女は無言で立ち上る。
味方であるはずのノエル役のスタッフも、面白がってシャツを引っ張り、立ち上がろうとする腕を足払いしてせせら笑う。
トラブルは何も言わずに立ち上がり続けた。
パク・ユンホは腕を組み、片手を頬に当てて、ただ見ている。
「いい加減にしろよ!」
2階席からセスが堪え切れずに叫んだ。
「ファールだ!」
「そうだよ!」
「イジメです!」
他のメンバー達も続いた。その声に、パク・ユンホは薄笑いを浮かべて肩をすくめた。
「リハーサルは充分だな」
パク・ユンホの一言で、リハーサルスタッフ達はゼッケンを脱ぎ、帰り支度を始める。
ゼッケンを外し、立ち去ろうとするトラブルに向かい、パク・ユンホは大声で叫んだ。
「トラブル!ロングシュート!」
トラブルは無言のままボールを拾い、その場でドリブルした後、大きく振りかぶって投げた。
ブンッ
ボールは空気を鳴らして真っ直ぐに、メンバー達の下のゴールに吸い込まれた。
「わぁ!すごい!」
5人は階段を駆け下り体育館に立つが、すでにトラブルの姿はなく、見えたのはバイクのエンジン音と共に走り去って行く後ろ姿だけだった。
少々直しましたが、内容は変えていません。
ご安心を。
はじめまして、ヌンと申します。
これから、気長にお付き合い、よろしくお願いします。