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夢幻の星刻騎士〈スター・ナイト〉  作者: 夢愛
第一章 死して戦う者達
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偉そうにするな

 絶対絶命って、そう簡単には巡り合わない事態だと思うんだ。例えば踏切で立ち往生するとか、遭難するだとか。現実では基本的に自業自得だ。

 そんな自業自得、僕には一切縁がないと思ってた。

 でも今、僕は絶対絶命の縁際に佇んでいる。その自業自得は、何だ? 何が間違ってた?

 指を折って考える。脳内で。


 一つ、先輩を退避させて一人で炎神に立ち向かったこと。弱いくせにそれはただの無謀でしかない。

 二つ、階段を崩すよう促して自身の退路を減らしてしまったこと。前後に伸びる路地で、前方には巨大な炎神、後方は砂利道。一方通行じゃ不利だ。

 そして三つ。炎神の咆哮を無視して攻め続けたこと。少し前も振動で苦しんだくせに、距離も取ろうとしなかった。

 致命的な失敗は、思いつくだけでこんなにも存在した。


 悔しさを噛み締めて、覆い被さろうと飛び上がっている炎神を睨みつける。

 ──幾ら絶望的な戦闘力だとしても、黙ってやららる訳にはいかない。そんなつもりはそもそも毛ほども無い。


「ふっ……!」


 地を両手で弾き、仰向けの状態から屈む体勢に移行。炎神のボディプレスを寸前で回避した。

 転がって避けた為腕や頭が痛い。下森の中みたいな土の道だからね。小石とか多い。


「そう簡単にやられて堪るか! 炎神アホ!」


 何かしら格好つけたくて叫んだけど、台詞は誰もが呆れる程ダサかった。

 しかも、さっきから簡単にやられてるじゃん。本当にダサいよ。


 二度、三度程観察して気がついた。

 炎神は攻撃を仕掛ける直前に一本を除いた全ての脚を振動させる。振動しなかった脚で攻撃してくるから、対策は練りやすい。

 そして、バタバタと脚を暴れさせると、『流れろ』と発する。

 『流れろ』は恐らく炎神の特殊な能力だと思う。僕達幽霊騎士でいうところのセンスだ。

 その言葉を響かせると、大地が揺れる。正確に言えば、どこか一部が崩壊する。

 ──まるで、波に流されているように。


 敵方にも能力があるなら、勝機が薄いのも頷ける。更に手強い能力が出てきたら厄介だ。

 ……ルカと、桜姫達は今この場に居ない。つまり僕の番なんだ。

 傍観は許されない。不可能だ。

 今この炎神を倒すこと、それが僕に告げられた使命なんだ。


「勝つ。勝って認めてもらうんだ、僕も幽霊騎士なんだって。勝ってアイジにも──は?」


 炎神に向かっていた脚を止め、僕は疑問に首を傾げた。

 何で認めてもらえなくてはならないんだ? 確かに先輩やルカ、桜姫達には仲間として見てほしい。

 でもそれだけだ。

 足手纏いになりたくないだけなんだ。今みたいにルカを見失わず、隣で戦えるようになりたいんだよ。

 アイジなんてどうだっていい。アイツは嫌いだし。

 嫌いだけどとにかく、アイツが死んだら笹野辺さんを初め、皆が悲しむ。それは嫌だ。


 ここで死んだら僕はただの役立たずのままで終わる。

 この炎神を倒すことが出来たなら、多分認めてもらえることだろう。


「すぅ……はぁぁ」


 幼少期、母さんに薦められて始めた空手教室で教わった呼吸法を開始。瞳を閉じて暗闇へ踏み込む。

 まあ、三ヶ月って短い期間だったんだけどね。空手教室通ったの。直ぐ辞めたから。

 瞑想の状態で、炎神の気配は強く感じない。いつ飛びかかられるか見えない状況で、精神統一を続ける。


 正直、剣を所持している以上空手は必要無いんだけど、気を安らげるにはもってこいなんだ。

 すっと眼を開けると、ほらもう怖くない。

 震えてた手足も静かに脈を打つ。冷静沈着に。それが勝てる方法だ。


 剣をしなやかに緩やかに顔の横で構える。

 決して過信はしない。僕の持てる力量も理解、把握して最大限に剣を振るうんだ。

 僕は勇敢な騎士になるんだ。


「行くぞ炎神、戦闘開始だ」


 待った無しで跳び上がる。今は先程までと違って身体が軽い。もっと高く跳べそうだ。

 後方に着地し、炎神が振り向く寸前で再度宙に浮かぶ。炎神の上空を飛行する。

 ──「飛行する」?


「あれ? 何で? どうなってんの!?」


 身体は浮いたまま、炎神の真上に停止。停止というか、滞空というか。

 身体は動くんだけど、落ちる前兆も感じられない。ふわふわと浮いてる。

 体験させたがりの母さんに連れて行かれた──宇宙空間の体験みたいだ。


 実際に宇宙に行った訳じゃなくて、目隠しはされてたけど多分風邪で浮かされてたんだと思う。無重力、動作が不自由な体験を。

 宇宙という単語で、ある仮説に辿り着いた。

 僕の鎧のセンスは、『流星』。宇宙も関係しているものだ。

 もしかしたら星の力なのかも知れない。この浮遊は。


 なら僕の意思に従って発動する筈。僕の思い通りに行動出来る筈だ!


「どおりゃああああああああああ!!」


「グカアァァァアアア!!」


 急降下し、四股を叩き斬る。しっかりと切り込めず、即座に再生されてしまった。

 急降下出来たってことは、やっぱり僕の思考に沿って自由自在に操れるんだ。頼りになるぞ。


 それにしてもこの炎神、前回戦った蟷螂型の炎神と偉い違うな。

 前回、つまり僕が初めて戦った炎神は、言葉を話した。先輩の声、口調で全く別人の様に会話をしてた。

 だけど、今回の蜘蛛型炎神は『流れろ』以外の台詞を吐いてない。あとは唸り声とかくらいだ。

 そしてもう一つ。

 前回の炎神は再生なんて出来なかった。僕が一太刀浴びせれば苦痛の叫びを上げていたし、斬り落とされた部分が再生したりは無かったんだ。

 なのにこの炎神は脚を斬っても再生し、胴体を裂いても全然効いていなかった。


 前回と別なのは、能力も同じ。蟷螂型の炎神は特殊な能力を持っていなかった。

 もしかしたらあったのかも知んないけど、僕はその現場に遭遇していないし、喰らってもない。


「再生されるんじゃ難しいな。やっぱり連続で斬るしかない? でも脚に警戒しなくちゃいけないし、難度高いよなぁ」


 三つの落ちた脚が再生するのを確認した為、センスを操って飛び距離を取る。

 炎神はガーネットの様な三つ目をギラリと輝かせ、口であろう部分を大きく開いた。

 直感でまずいと感じた僕はセンスの操作を放棄し、地面に落下した。


 それと同時に、空中に炎の蜘蛛の巣が広がり消えた。予想通りだった。

 蜘蛛が口を開く時って、捕食する時か蜘蛛の巣を吐くときでしょ? 他のことはよく知らないけど、その二つだけで回避する理由になる。


「蜘蛛と同じなら、まず口を封じなきゃ捕まるかも知れない。でも口を閉ざさせる方法なんて分からないし、切り落としても再生するだろうし……」


 相手が無傷でいるのなら、八方塞がりだ。

 これまで斬った分のダメージが蓄積されていて、再生にも限度があるなら可能性はあるんだけど。

 そもそも、この炎神達には水が通じない。前回の炎神で確認済みだ。

 前回の炎神は大雨に打たれても怯むことなくルカを攻め続けた。それは恐らく今回の炎神も共通していることだと思う。


 太陽のエネルギーを無効化出来るなら、炎神を弱らせる事が出来ると予測してる。

 だけどそれが不可能だから、幽霊騎士の皆は存在してるんだ。僕もその一人。承知の上だよ。

 仮定、仮説は戦闘に不可欠。

 相手が『もし、◯◯を出来るなら』とか『◯◯を隠し持っていたら』などの考えは出来るだけ予測しておけばする程有利だ。


 対処の仕方も考慮しなきゃならないけど、損は絶対に無いのでお薦め。

 因みに僕は戦闘とかのシミュレーションをするのが趣味な為、謎な敵は不慣れなんだ。対処法がイマイチ掴めないから。


「どうするかな。思考フル回転させて、仮定を作ろう」



 仮定、作るって言ったって炎神の体躯からして物理攻撃は突進か蹴り払いの二択だと思う。あ、あと押し潰しとかのしかかりとかあるか。

 まあ回避し難いのは前者二つだとして。

 特殊な能力を使用するとして、炎神らしく炎の球や火炎放射的な攻撃。蜘蛛の巣型の炎を吐いたところを見ると、変幻自在の可能性が高い。


 変幻自在だとすると分が悪い。でも皆今まで戦ってこれたんだから、きっと倒せる。

 もし負けたらなんてことは考えない。思考から省く。切り落とすんだ。

 自分なら勝てるって、暗示をかけるんだ。


「炎神、難度でも、斬り裂いて……てまた脚震えてるし。僕どんだけビビりなんだよ。初めて戦った時の威勢はどこに行ったんだよ……!」


 正直なところ、僕は威勢だけの人間だ。

 威勢というより、虚勢かも知れない。

 初戦で恐れずに炎神に立ち向かえた理由は簡単なものだ。多分、怒りからきたパワーかと。

 炎神に身体を乗っ取られ、命を奪われた尊敬し憧れていた先輩に悔しさを覚えて、仕返ししたんだ。

 残念ながら、今はそんな感情もない。


 ルカが倒されたとなると悲しみの方が強いし、負けたとは思ってもいない。普段の偉そうな態度を考えたら負ける姿が想像つかないんだ。

 もしかしたらそれこそが自己暗示なのかも。


「ダメだなぁ、もしルカがやられちゃったなら」


「ああぁぁ……?」


 してはならない想像をして口が独りでに動く。

 炎神はそれを見て、また首を傾けている。まあ分からないよね。

 僕は摺り足でフラつきながら進む。


「もし負けたんだったら、ふざけるなよな、ルカ。自分が強そうな風格しないでよ」


 ブツブツと次いで出るのはルカに対する愚痴の様だ。何が言いたいのか自分でもよく分からない。

 だけどここまで声に出して漸く、自分が何に苛立ちを覚えたのか理解出来た。

 ブツブツと念仏を唱えるみたいに喋るんじゃなくて、空気を腹一杯に吸って大声を出す──。


「偉そうにするなよ!!」


 ルカを貶したつもりは無い。むしろ尊敬してるからこそ出た言葉だ。

 歳下なのに上から目線で偉そうな口調。リーダーだからまあ別に何とも思ってなかったんだけど、今は違う。

 リーダーなら、呆気なく負けてんなよ。

 見えないところで勝手に倒れてんなよ。


 僕の知ってるルカなら、敵に罵倒でもして完封して倒してみろよ。

 本当に強いんだってとこ、見せてみろよ!


「うるさいうるさいってぶつけど、アレ結構痛いんだからな! 僕だって頑張ってるっての! なるべく考えて行動してるつもりだよ! 何回バカにされたって他人に無視されたって嫌われたって、ルカには見放されたくないって足掻いてるのに……!!」


 だから、今すぐ出て僕の勇姿を見てよ。

 勇敢に戦ってみせるから。炎神に勝ってみせるから……絶対に死んだなんて許さない。

 僕の視界で偉そうに腕組んでてよ、ルカ。


 軋む鎧を感じ、無重力は完全に封印。

 右脚に全体重を乗せる。地面を蹴り上げる力を溜める。炎神に斬りかかる為の脚力を上昇させる。

 脚がみしみしと音鳴るまで限界まで力を溜めて、突っ込む。多分速度は充分に出てる筈だ。


「はあっ……っ!?」


 炎神の口から飛び出した炎の蜘蛛の巣に剣を構える腕を絡められ、急ブレーキをかけた。

 炎神との距離は最早ゼロ。

 蜘蛛型の炎神は身を屈めると、空高く跳び上がった。水面の様な空が青く揺らめく。

 炎神は徐々に降下し、僕を目掛けて来る。勿論、その場から逃げ出そうと振り返ったけど、いつの間にか脚にも蜘蛛の巣が絡まってた。


 声も出せず脳内で「マズい」と危険を感じ、身体を左に転がそうと身を捩る。

 何でだろう、上手く身体が動かない。炎神の能力か!?

 ──蜘蛛の巣、炎なのに熱くないな。


「くっ……!!」


「あがぁぁぁっ!」


「……え? 何? 炎神が吹っ飛んだ?」


 物凄い揺れを背中に感じて、僕は仰向けになった炎神に目線を向ける。

 炎神の右半身は失われていて、誰かが攻撃したのを察した。

 誰が一体こんなことを、なんて考えて眼を細めていると、僕の後方から足音が近づいて来た。


 足音が真後ろにまで接近すると途絶え、僕の腕と脚の蜘蛛の巣は弾け飛んだ。地味に痛かったけど、助かった。

 直接肌に触れて分かったけど、風に因る破裂で解けたみたいだ。


「偉そうなことを言うな? 大口叩いておいて死に直面しているお前こそ偉そうにするな。まさか私より上だとでも宣うつもりか?」


 不機嫌そうな声に振り向くと、銀髪ツインテール少女が呆れた様に立っていた。

 まあ、散々罵倒しちゃったかも知れないけど、信じてたよ。


「思ってないよ、年齢しか。他では全部下だよ。それより、早く炎神倒して桜姫達のとこに帰ろう。ルカ」


「ふん、そんなこと分かっている。この町の詳細が突如気になってな、少し調べていただけだ。誰も居ないなら数分放って置いても構わないだろう」


 鼻を鳴らしたルカは腕組みをしていつもの偉そうな態度を取った。

 それだ。ルカはその仁王立ちが似合うよ。小っこいけど。


「数分って長さじゃなかったよね?」


「細かいことは気にするな。ぶん殴るぞ」


「やめて下さい」


 まだ炎神と対峙が不可能だと思われる網走先輩が見守る中、むくりと炎神は起き上がる。身体の半分を再生しつつ。

 対する僕達は苦笑し合い、同時に炎神を睨みつけた。

 ルカが来たなら、もう大丈夫だ。僕達なら充分に戦える。そう心を改めた。


「行くぞ夢奏。足手纏いになるのだけはやめてくれよ?」


「勿論。僕は弱いけど、そのつもりはないよ」


「上等だ、行くぞ!」


「うん!」


 蜘蛛型の炎神に向かって、風のセンスで飛び上がるルカと駆ける僕。

 乗っ取られた人の無念を晴らす為、剣を振り上げた。



「流れろおおおおお」

次で二回目の戦いが終わります!

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