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夢幻の星刻騎士〈スター・ナイト〉  作者: 夢愛
第一章 死して戦う者達
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流れろ

 炎神が近くに来ているのは僕ら三人全員が理解していること。警戒を緩めたりは一切していない。

 だけど、敵は中々姿を現さない。まるで近くから見張られている様な、様子を窺っている様な──そんな恐怖を胸に覚えた。


「ルカ、さっき炎神に対してか、『異常』って言ってたよね。何が異常なの?」


 先程、変身するよう指示された直前のルカの台詞だ。不明な点は少しでも解明しときたくて、彼女に問う。

 一人変身をしていないルカは、僕を横目に見る事もせずに集中している。


「……炎神は、段々と強化されていっている。私が初めて戦った時は、殆ど死人などいなかった。今は半数以下になっているがな」


「半数、以下……」


 それが現実世界の人間達の数なのか、幽霊騎士達の数なのかは考えなくても理解できた。恐らく、幽霊騎士達の数だ。


 かつて、倍の人数も存在していたというのなら、

炎神の強化がどれ程のものなのか想像も簡単だ。桜姫やルカレベル以下の人達は、戦死したものと思われる。

 そう考えると、僕は恵まれているのかも知れない。この【流星】のセンスを持つ鎧は、以前網走先輩を乗っ取った炎神を簡単に撃破出来ているのだから。


 その炎神は網走先輩をただ殺害した訳じゃなくて、幽霊騎士として復活させたんだけど。

 未だ炎神の目的が何だったのか不明だ。


「おかしいな、もう、直ぐそこに居る筈なんだが姿が見えないぞ」


「え、それって……どゆこと?」


「先輩……」


 天然なんだかちょっと頭が悪いのか、どっちなのかは知らないけど緊張感なさ過ぎでしょ。

 黙ってるルカは先輩の疑問に答えるつもりが無いのかと残念に思ったけど、右腕を僕らに伸ばして来た。

 依然と正面を向いたままだけど、ビックリしたよ。


 伸ばされた手には敵と僕らがアイコンで表示された携帯機器が握られている。つまり、見ろってことだよね。


「炎神は最早我々と同位置に立っている筈なんだ。分かるな?」


「うん、そうみたいだね」


 炎神のマーク、黒い星は僕ら三人を表す赤丸の中心部に被さる様に表示されている。

 だけど、僕らの中心には何も無いし、炎神の姿は見当たらない。消える事が可能だとしても、それで攻撃を仕掛けて来ない理由が無いし。


 前回戦った僕にとって最初の炎神は、対峙して即行擬態を解いた。そしてその燃え盛る炎の身体でルカを追い詰めていたんだ。

 そこまで凶暴な炎神が何もしないなんて事はないと考えられる。



「でも、これってアレじゃない? 被ってるってことは、地中に隠れてるか飛んでるかの二択じゃないかな」


「え?」


「あ」


 推理している探偵みたいに顎先を撫でる先輩に反応する僕と、その言葉に釣られて見上げるルカはそれぞれ短く声を出した。

 そして僕は今度はルカの声に反応し、真似る様に上を見た。


 路地の壁と壁に手足をかけた蜘蛛型の炎神が僕らを見下ろす。サイズは以前の蟷螂とは比べ物にならない程大きい。

 僕の知っているもので比較すると、一軒家と同じくらいだろうか。影で視界が暗いよ。



 ルカは手を伸ばして僕らを自身の後方へ突き飛ばす。痛いですよルカさん、なんてふざけてられないくらい、真剣な眼差しで立っている。

 でもさ、ルカは変身してないのに僕らを遠去けて良かったのかな。


「お前達を死なせる訳にはいかないからな。まずは一度離れるぞ、退避だ!」


「う、うん!」


 ルカの「走れ!」という合図で蜘蛛の炎神から距離を取って行く。追いかけて来る気配も無いので、結構一目散に逃げた。

 駆けている途中でブレーキをかけたルカに倣い、彼女が向かった工場へと進入して行く。勝手に入っていいのここ。


「ここで一旦策戦を練る。私の変身も兼ねてな」


 そう言うとルカは携帯機器を翳して、華麗に回転して変身した。もしかして、変身したら携帯機器が行方不明になるからまだ変身してなかったのかな。

 ルカは槍を壁に立てかけると、置き去りにされたスポーツドリンクを勝手に飲んだ。


「どうせ、誰にも見えやしないんだ。このくらいしても気付かれん」


「だからって他人の飲む!?」


「私は他人のものでも何でも自分のものと考える」


「窃盗犯になりそうだねいつか!」


「なる事は、もうないから安心しろ」


「安心は出来ないかな」


 しんみりとした雰囲気を出すジャ○○ン論を持つルカにジト目を向け、気を取り直して策戦を考えていく。

 最初に案を出したのは、一番新入りであり初戦の網走先輩だった。


「囲んで倒すのって、出来そう?」


 あり得ない程シンプルな戦闘陣形を発案。

 当たり前だと嘆いたルカは、手を横向きに振っていた。それ、逆の意味だよね。


 それと、先輩。僕もそれが出来てりゃ苦労してないと思いました。


「炎神は囲むなどしても中々倒れてくれるものではない。その上、体躯が圧倒的だ。我々の一斉攻撃などで死にはしないだろう」


「センスを使った攻撃でも、無理そうかな」


 つい先程解析を終えたばかりのセンスが役に立つんじゃないかと意見を述べたけど、ルカは曇った表情を崩さなかった。


「センスの一斉攻撃。直撃させられればかなりダメージを与えられるだろう。だが、外せば大きな隙が出来、下手をしたら味方に危険が及ぶ。迂闊には出せないんだ」


「そっか」


 結構いい線行ってるかもって自信あったんだけど、ダメか。

 隙が大きいっていうのは振り下ろした後の僕のが代表的とも言えるし、反対側に味方が居たら二人纏めてやられちゃうかも知れないもんね。納得。


 だけど、センスを使って笹野辺さんみたいに武器に纏わせられるなら、大した被害出ないんじゃないかな。僕のは無理そうだけど。


 僕の思考を読めたのか、ルカは人差し指を立てて説明を始めた。



「フーカや私、桜姫などはその戦闘法に長けたセンスを持つ。夜耶も可能だが、まだ未熟過ぎる。言わずとも想像ついているだろうが、夢奏のはまず無理だ」


「ですよね〜」


「未熟かぁ」


 残念そうに溜め息を溢す先輩に、一つツッコミを入れたいと思います。当たり前でしょうが。以上です。


 ──僕が振動を感じ取るのと、ルカが反応するのが同時だった。遅れて先輩も接近して来る大きな足音に気がついたみたいだ。

 多分、あの蜘蛛の炎神が僕らを捜しているのか、またはもう見つけて狙って来ているのか。僕は判断出来なかったけど、ルカは可能だったみたい。


「外に出ろ!! 飛び出せ早く!」


 瞬間、ルカ側の壁が盛り上がり亀裂を拡げた。

 そこから崩れ、工場には炎神が倒れ込む形となった。蜘蛛に取ってはただ着地しただけなんだろうけど。

 工場は当然、崩壊。僕らは脱出に成功したけど、中に人が居なくて本当によかった。


 策戦会議も済んでいないのに、奇襲をかけられ僕と先輩はパニック。ルカは相変わらず怯まずに炎神を睨みつけている。


「ルカ! 僕らはどうしたらいい!? ちょっと、前のより大き過ぎて戦い難いんだけど!」


 立ち止まり敵を見据えるルカの元へ駆け寄ると、彼女は左手を横に伸ばし掌を向けて来た。恐らく、「止まれ」の合図だ。

 僕も先輩も反射的に立ち止まり、そこからルカに声をかける。


「ルカ! 僕らはどうしたらいいの!?」


「ルカちゃん、私達何をしたらいい!?」


 語彙力が無いわ、と突っ込まれそうだけどとにかくパニックだった。ルカの眼の前には巨大な炎の蜘蛛が今にも跳びかかって来そうに低く構えてるし、何より、不安だらけだし。


 もし今ここで彼女を見捨てて逃げようものなら、僕らはきっと後悔してしまう。ルカが勝てるなんて限らないんだからさ。


「私に任せろ。お前達は、何処かに逃げて私の奮闘でも見届けるがいい。いざとなったら、桜姫に頼んで帰還しろ」


「いざとなったらって……」


「早く行け。私がフルパワーを出すにはお前達は邪魔だ。早く失せろ」


「口悪っ!」


 状況を僕より先に飲み込んだ先輩に手を引かれ、僕はルカから離れて行く。

 その間もルカは左手を広げたままで、蜘蛛の脚が一本、振り上げられた。


 叫びそうになったけど、ルカの伸ばされた左手の親指が立っているのが瞳に映り、口元を結んだ。


「ルカ、頑張って……!」


 まだまだ弱虫な僕は役に立てないかも知れないけど、ルカを応援することくらい権利はある。

 彼女の勇敢な背中を目に焼き付け、僕は振り返った。


「夢奏君、私と一緒に遠距離から出来るだけ援護しよう! きっと、それくらいしか出来ることないから」


 歯を食い縛る先輩に向けて頷くと、僕は手元の大剣を見つめた。

 僕が、センスをコントロール出来るようになれば──。



 網走先輩に連れて来られたのは、実は工場に入る前から視界に入っていたマンションだった。

 治安が悪い町の状況が、またもや下品な落書きから容易に想像出来る。よくよく考えると人も見かけない。


 誰も住んでいないのかと疑わしいけど、そんな町でルカは蜘蛛の炎神と交戦中だ。


「どう? 何か出来そう?」


「うーん、僕のコントロールが上手くいくのかなってところですね。センスで放出出来る玉は届くだろうけど……」


「ここ、マンションの四階だから視界も悪いもんね。高いし。剣を降り下ろさなきゃならないのは厳しいね」


「先輩兜有りますし余計ですよね」


 古びた手入れのされていない建物も、生い茂った木々も中々の障害になる。少しでもズレたらルカが危ないしなぁ。

 かと言って、先に知らせてたら炎神にもバレて失敗するだろうし。何とか避けてもらうしかないね、ズレた場合。


 剣先に炎を廻らせていく先輩は、もしかしたらもうセンスに慣れたのかも知れない。流石、って褒めるべきなのかな。


「ん? 何か、炎神の様子がおかしくないですか? 唸ってる、というか……」


「え? 本当? ちょっと待って。あ、本当だ。うーっ!ってやってるね」


 先輩は表現してるつもりか、獣の様に爪を立てて威嚇のポーズを取る。蜘蛛ですけどね、アレ。


 炎神が唸っている様に聞こえる声を発している。眼を凝らすと分かるけど、身体を小刻みに震わせているみたいだ。

 でもそれは怯えているのでも、寒いって訳でもないと思う。雨も降ってないし。


 ──そしてその唸りは、はっきりとした言葉に変わった。



「流れろ」



「──え?」


 炎神が放った台詞に、僕も、先輩やルカも全員が動作を封印された様に止まった。

 身体は動くんだけど、戸惑いを隠せない。何で? 何にその言葉を向けてるの?


 僕らが再度センスを集中させていこうと剣を握り締めると、炎神はまたも唸りだす。


「流れろ、流れろ、流れろ」


 そう放つ炎神の声は、以前網走先輩の声を借りていた蟷螂の炎神とは全く別のもので、人間の声とは思えない重低音。それでいて町中を震わせる様に響き渡っている。


 大太鼓を常に間近くで叩き続けられてるみたいだ。身体に振動が伝わり、脳が痺れる。

 その後も炎神は止まる事無く、唸り声を上げて──


「流れろぉ! 流れろおおおおお!!」



「何か、段々と激しくなってませんか!? 叫んでる!」


「頭、痛くなってきたよ……」


 炎神の目的が予測出来ない。何の為に、何に「流れろ」と言ってるのか全然理解出来ない。

 八本の脚はジタバタと暴れ出して地を揺らし、ルカの足元をふらつかせていき、ルカは堪らずか距離を取り炎神を見据えている。


 僕も先輩も頭痛に耐えるのに夢中で、すっかりセンスを高めるのを放棄していた。


 突然の雄叫びに対処出来ない僕ら三人は、ただただ自分の身を守る事に集中した。


「流れろぉ、流れろぉ……流れろおおおおおおお!!」


「何がだよ! うるさいな!」


「夢奏君っ」


 あまりの頭痛に耐え兼ねた僕は、九つの水玉を炎神に向かって放出した。

 そして、直ぐにそれが失敗だと知らされる羽目になった。


「え、地震!?」


 突如震え出した地面に因って僕のコントロールは完璧に狂い、炎神を飛び越して建物を破壊してしまった。やっちゃった感が否めない。


 そこで気づいたのは、ルカが地震を物ともせず僕らが隠れているこの建物に目を向けている事だった。

 僕も先輩も、真実に辿り着くのは遅くなかった。


「もしかして、この建物だけが揺れてるとかいう!?」


「かもね! 危ないから、早く脱出しなきゃ!」


「言ってもここ、四階ですよ先輩! 降りるのに時間かかる!」


「ヤバいヤバいヤバいヤバいっ!」


 二人揃ってパニック状態。そのまま階段を駆け下りて行くけど、正直に鎧が凄い邪魔。剣も邪魔。突っかかるし引っかかるしぶつかるし。

 まさかとは思ってみるけど、あの炎神僕らがここに上る事、想定してた? 待ち望んでた? 狙ってたとか言う?


 二階を過ぎたところで、僕は漸くこのマンションが揺れてる本当の理由が分かった。



「──崩れるっ」


 亀裂が一杯に拡がったマンションが崩れ、僕と先輩の姿は瓦礫に覆われた。

 ──「流れろ」と唱えた炎神に応じた様に流れ落ちて来たマンションの波に。

前書きと後書きって、毎回書く必要ってなかったりします……?


2020/07/11──ようやく必要皆無だと思った前後書きを削除することにしました。

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