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夢幻の星刻騎士〈スター・ナイト〉  作者: 夢愛
第一章 死して戦う者達
4/56

センス

 虚無感って、僕にとっては一生ついて回るものだと考えている。

 基本的に感動出来るものは無いし、流行とかも興味が湧かない。友達が出来た事は遥か昔にだけだし、その生活が当たり前みたいに思ってるから大した事じゃない。


 ここの人達もきっと、僕にとっては只の仲間でしかない存在しているだけの人間になるだろうね。


「漸く、一日目が終了かぁ」


 そこそこ忙しなかった一日目を終え、僕はギラギラと輝く太陽を拝んだ。礼を告げるのではなくて、敵対心剥き出しな形で。


 僕はルカの家に住む事になったけど、それを話したら『私も!』って聞かなかったから、網走先輩も隣で心地良さそうに寝ている。

 ルカの家では隅っこの部屋だけど、それでも人二人が生活するのには苦労しないスペースだ。ベッドも二つ設置出来たし、荷物も正反対の壁付近にそれぞれ置いておける。


 ルカの家は他の皆の家出より二回りくらい大きくて、部屋は幾つも余っている筈だけど二人部屋にされた。もうちょっと気を利かせてくれないかな。

 先輩と言えど女の子と二人っ切りはよくないと思う。


「先輩、網走先輩起きてください。朝ですよ」


「んんぅ……」


 網走先輩は瞳を猫の手で擦るけど、目を覚ましそうにはなかった。意外と寝起き悪いな。


 揺らして揺らして揺らし続けて数分、漸く瞼を上げた。揺らしてる間、艶っぽい声も出されて、やんわりとした双峰も揺れてた。


「先輩起きてください。皆の所行きますよ」


「あ、夢奏君おはよぉ〜。ここは何処? 天国? 地獄?」


「はいはいおはようございます。そこ何処だと思ってるんですか? 股間に顔グリグリ押し付けないで下さい」


 早くも不安しか無くなってきた網走先輩との同居。予想外にも寝起き悪いし、二つベッドが分けられて有るのに僕のベッドに居るし。

 網走先輩、寝ぼけたんですよね? 寝ぼけた訳じゃなかったら、ちょっとヤバいですから。


 僕は先輩を引き離し、両頬をむにぃっと伸ばした。


「んぁ」


「先輩、目を覚まして下さい。行きますよ!」


 少しだけ怒鳴った様に声をあげると、先輩は肩を竦めて漸く正気を取り戻した。遅いわ。

 先輩の着替えを見届け、僕は廊下に出た。


 廊下は裸足だととても冷たくて、夏なのに冬とも思える北風が吹いている──北風? そんな訳ない。ここは隙間も殆ど無い通路だし、昨日外に出て分かったけど、風が吹いている感じも無かった。


 ふと、冷気漂う左側の扉に目が行った。ここの扉は昨夜目撃し、疑問が幾つか浮かんで来たもの。

 この扉は、家の構造を考えると外に出る筈だ。だけど中からは何かが存在しているかの様な気味の悪い雰囲気が漏れ出している。何が有るのか、多少は気になる。


 もしかして冷気って隙間風かな? この先に部屋が有るかもってのは僕の思い過ごしで、外かも知れないもんね。そう考えておこう。


「夢奏君どうしたの? 早く行こうよ」


「あ、はい。ですが『早く』とは先輩に言われたくないですね」


「ごめんごめん」


「いえ、大丈夫です」


 自然と手を繋いできた先輩とルカの寝室に向かって行く。部屋でルカと会うと、ルカの表情はモアイ像の様に暗くなった。

 汚物を見る様な蔑んだ瞳は一切揺るがず、僕らの間に鉄骨が遮る様に設置された気がした。


「ルカ、どうしたの?」


 問いかけると、ルカは跳ね上がってから咳払いをして見せた。しゃっくり? 大丈夫かな。

 何が有ったとしても、リーダーが狼狽えちゃダメだと思うんだよ。僕の偏見かも知れないけど、模範となる人間が弱ければ隊も弱くなると思うから。


 別にルカのことは弱いとも感じてないし、狼狽えている様にも見えてない。でも何か、そうやって思考が進んで行っただけなんだ。


 ルカは何故か僕の脛を爪先で蹴り入れ、無線の様な機械を手にして部屋を出て行った。それに僕達も続いて行くけど、脚痛いよ。



「遅くなったな」


「いや、全員遅いから大丈夫だ」


「大丈夫じゃなくない? それ」


 僕らが一番最後に集合したけど、予定時刻より一時間くらい遅れて集会が開始された。

 集会と言っても、何を話し合うんだろう。今後どうしていくか、とか新入りの僕らの事とかかな。


 僕が名前を覚えたメンバーだけで考えると、集会なんて向いてなさそうだなぁ。アイジが特に。バカそうだし。


 教会でそれぞれ席についたけど、僕ら三人以外は二人ずつで着席している限り、二人一組なのかも知れない。

 だけど、ルカにはパートナーが居なそうだからもしかしたら僕と先輩の何方かが彼女と組むか、もしくは僕と先輩で組んでまだルカが一人の可能性もあるね。

 でもルカ、先輩を乗っ取ってた炎神に苦戦してたよね? 一人で勝てるのかな。


「はい、静粛にな。会合を始めるぞ」


 ルカが壇上に上がり集会が開始。桜姫も壇上に上がったけど、パートナーはナナミさんっぽい。座ってた場所に一緒に居たから。


「まず、先日の結果から聞いていこうと思う。何かある者は挙手して言え」


「ほーい。一体倒したけど、段々強くなってきてねぇか? 化け物共よ」


 ルカの質問に真っ先に返し、即行質問を返したのは大嫌いなアイジだった。

 今のアイジの疑問が事実だとなると、ルカが一人でも生き残れてる理由と先日苦戦していたのも頷ける。


 ルカは多分、この中だと一番強いんだと思う。十年間戦い続けてるってのもあるだろうけど、一人で任されるくらいだもんね。


「なるほどな、それに関しては私も同意見だ。先日、桜姫達からもその情報を受けている。これは仕切り直しも必要になってきそうだな」


「ああ。俺達がまだ倒せるレベルの敵であっても、倒す毎に強力になっていくと考えると、余裕は失くなってくる」


 一応倒せるのが分かったからちょっと安心した。けどもし、二人一組じゃ倒せない程強力な炎神が人の身体を乗っ取ったとしたらどうなるんだろう。どうやって倒すのかな。


 会議によっていつかは三人一組も予定すると決まったけど、それだと人手が足りなくなるらしい。さっき聞いてた感じだと、昨日だけで三体の炎神が出現してるんだもんね。


 僕は少し疑問に浮かんだことを、大胆にも口に出していた。


「炎神が人を乗っ取る前に倒せないのかな……」


 直後、集会に参加している名のあるメンバー全員から睨む様に注目を浴びた。え、何?


「お前は最初に何を聞いていたんだ。私は人間の身体を乗っ取ろうとしているのを阻止すると言ったんだぞ?」


「え? でも阻止出来てるところ見てないし聞いてもないよ」


「難しいのだ。レーダーで炎神が生まれるのを確認するのだが、それを掻い潜る様な者も存在する」


「どっちにしろレーダー無意味になるんじゃないかな」


「黙れ。そんなことは分かっている」


「鉛筆投げないでよ!」


 都合が悪いとすぐ暴力に訴えるんだから。僕が言った様にレーダーを掻い潜る炎神がいるなら、いつかは全ての炎神がその技を身につける筈。

 だから炎神が人間を乗っ取る方が圧倒的に早くなる上、何方にしろ滅びる事に変わりはないと思う。


 炎神を倒すことって、本当に意味有る行動なのかな。炎神を倒しきっちゃったら太陽エネルギーが失くなって太陽が死ぬんでしょ? どっちにしろ助からないじゃん。戦うだけ無駄な気が……。


 まるで正論でも唱えているかの様に思考回路を巡らせていた僕の襟首を突如アイジが掴み上げて来た。

 ルカを始めとしてメンバー達が騒つく。それはアイジに対して? それとも、僕に対してなの?


「お前今くだらねぇこと考えてやがっただろ。俺達がどれだけ苦労してきたかも知らねぇ癖に偉そうにしてんじゃねぇぞ。お前が昨日まで生きてられたのは俺達が居たからってこと忘れんなよな!」


 アイジは威圧する様に怒鳴り声を上げるけど、僕はそんなのに萎縮したりなんかしない。それに僕は確かに生き延びてたけど、()()は殺されてるんだからね。


 今にも殴りかかって来そうなアイジの手をルカが強めに引き離すと、アイジは椅子に蹴りを入れて出口に向かって行った。


「んな奴居ねえ方がマシだ。お前もそう思ってんだろ? ルカ」


「いや、そんなことは無い。私は仲間が増えるならどんな奴でも歓迎するぞ。お前のことだってそうだアイジ」


「チィッ!」


「ちょ、待てってアイジ! ごめんルカ、あのバカ追って来るよ!」


 笹野辺さんはアイジを追うために荷物を持って飛び出して行ったけど、あんな奴追うだけ無駄だと思うよ。


 僕が溜め息を零すと、突然頬に軽痛が走った。ルカにビンタをされたのだ。

 勿論僕はビンタされた理由なんて分からないから、戸惑いながらルカの眼を見た。凍りつく様な恐ろしい瞳だった。


「お前が何を考えていたかは、私にだって容易に想像出来た。だがな、アイジの言う通り、私達は知らない人間すら助けているんだぞ。そもそも、そう簡単に死にたい人間など殆ど居ないだろう。生かす為に命を賭ける私達の身にもなってくれ」


「あ、ごめん」


 初日は優しかったアヤさんはメガネを整えながら見向きもせず、ナナミさんもほんの少し不機嫌な表情に変わっていた。

 だとしても、僕は自分が死んで目的を果たせなくなったことの方がよっぽど辛いんだよ。ただ死んだなら父さんや銀杏だって知ることが出来るけど、幽霊騎士になったから僕が死んだことにさえ気がついてないんだ。感謝なんて出来ないよ。


 でもルカ達が間違ったことを言ったなんて一ミリも思ってはない。実際彼女達が存在しなければもっと早く死んでたかも知れないし、父さん達だって生きてない可能性があるんだ。

 僕以外の人間を守ってくれていたことは感謝するべきことだとと思う。


 でも、でもだよ──


「皆には悪いんだけど、未然に防げてないんじゃ炎神を倒しても殆ど意味が無いと思うんだ。だから僕はそう考えちゃったけど、実際そうでしょ? 昨日助けられた三人は死んじゃってるんだよ」



 隣で網走先輩が哀しそうな表情をしてるのは、振り向かなくても感じれた。ごめんね先輩。


「確かに、そうだな。人が死ぬなら助けられてないも同然だ。俺達は考えを改める必要がある」


 僕の意見を肯定してくれたのは、意外にも桜姫だった。誰よりも否定しそうだけど、少し打ち解けた感じかな。

 桜姫の意見に直ぐ食いついたのはルカだ。


「だが人数が限られているんだ、やれることはやっているつもりだぞ」


「それもそうなんだが……」


 板挟み状態の桜姫は少しだけ戸惑いを見せている。少し、新鮮味を感じられるね。

 言うのは自由。だけど現実がそうさせてはくれないっていう厳しい世の中だよね。


「なら、何か役立つ『センス』無いかな?」


 センス? 扇子? ナナミさんが挙手して意見を述べたけど、僕と先輩はただ困惑しているだけだった。

 自分で言うのも何だけど、僕はセンスというセンスは無いと思うんだ。面白くもないし何かが特別出来る訳じゃないし。


 先輩のセンスって何だろう? コミュニケーション能力が優れているところとか? ちょっと分からないですね。センスって何。


 ナナミさんの割り込みには驚いてたけど、ルカも顎先に指を当てて閃いた様に真剣な表情を見せた。


「そうか、センスで未然に防げるものがあれば! だが私が知る限りそのセンスを持つ者は一人も居ないぞ」


「なら、二人はどうかな?」


「え、僕らですか?」


 「センス無いですよ?」と返したら、そんなことは無いと手を振られた。どゆこと? センスって何。


 ルカがリモコンを操作すると、天井からモニターがゆっくりと轟々音を立てて降りて来た。

 モニターには幽霊騎士状態のルカが映し出されている。何やら手に持つ槍が砂煙を立たせている迫力ある画像だ。


「いいか二人共。幽霊騎士となった上で覚えておいて欲しいのが『センス』と呼ばれる特殊な能力だ」


「それは、どんなの?」


 僕が返すと、ルカは頷いて話を続けた。


「センスは変身する上でこれ以上無い程に必要不可欠なものだ。鎧の種類はこれで決まる」


 鎧に種類なんて有ったんだ。いや、色が違うし僕とルカじゃ装甲の分厚さが違うから分かるっちゃ分かるけど。まさかセンスってのが関係してるとは思わなかった。


「まず、私のセンスは【疾風】だ。その為鎧は軽い方であり、風の加護で素早く動く事も出来る。武器に風を纏わせたりな」


「あ、だから砂煙凄いのね」


 風でも強く吹いてるんじゃないかって想像してたけど、吹いてるんじゃなくて纏ってたんだね。なるほど。

 鎧なのに素早く行動出来るのはかなり有利なんじゃないかな。凄いねルカ。流石だよ。


 ルカは説明を終えると、口を閉じた。続きは無いの? とも疑問に思ったけど、ルカの意図を感じ取ることが出来た。

 僕はルカの傍に立っている桜姫を見つめた。


「……俺か。俺のセンスのベースは【黒煙】だ。鎧はは曇った黒色で、表面はザラついている。暗闇に身を顰めることも可能で、剣は太い、叩く種類だな」


「煙かぁ、相性悪そうだね」


「別に俺自身が煙になる訳じゃない」


 センスってもしかして自分の能力で、変身する時のエネルギーみたいなものかな。それで鎧の能力が決まるってことは、幽霊騎士だけが持ってるんだろうし。


 僕は二人のセンスを聞いてお腹一杯だったけど、ナナミさんが元気よく手を挙げた。この人動作がいちいちうるさいね。

 巨乳は手を挙げると主張されるよね。ぶるんぶるん揺れてるしいてててて先輩内腿抓らないで下さい超痛い。


「私のセンスのベースは【紫電】だよ! 紫色で胸部以外が薄い鎧で、剣じゃなくて腕に装着されたキャノンを使って戦うの!」


 騎士って、馬に跨って剣で戦う人達の事を呼ぶんじゃなかったっけ。もう、馬全く関係無くない?

 しかもナナミさん紫電については全然教えてくれないんだね? 抜けてるのかそれとも特に無いのか分からないけどさ。


 ここまで三人のを聞いた感じ、戦闘面では役に立つけど未然に防ぐのには全く使えなそうなセンスばかりだね。うーん。


 ルカが何故か叩いてきたけど、その後僕の両頬を小さな手で包み顔を近づけて来た。僕はロリっ娘には興味無いけど、もうすぐチューしそうなくらい近いね。



「次はお前達のセンスが何だか確かめるぞ。ついて来い」


「……へ?」


 僕と先輩は不安を抱えつつも、ルカ達の後をついて行く。

 コロシアムの様な大きな建物が聳える賑やかな町に登って行くと、ルカは振り返った。まさかコロシアムで殺し合えなんて言わないよね。


「あそこなら誰にも邪魔されんな。よし、二人共脱げ」



「「はい!?」」



 まさか脱衣を要求されるとは微塵も予想してなかったよ。何されるの僕達。

次話に続きます。いや続いてるけども。連載だし。


裸には、なりません。

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