ナイツギルド
あまりサブタイトル関係無いかも……?
もし叶うことなら、もう一度網走先輩と会話を交わしてみたいです──なんて願いを空に掛ける。
幽霊として二日目が始まった僕の人生だけど、二度目の人生てか人『生』ではないよね。死んでるもん。
誰も知らないであろう僕が死んだこと。もう現世に僕の姿形は残されていないし報道されたりもしていない。
両親を始め親友と呼べる間柄の銀杏などは現れない僕に何か疑問を抱いたりするのだろうか。
「起きろのろま。まだ寝るには早いだろう」
「あれ?」
僕の眼前に現れたのは垂れ下がった銀髪ツインテールの少女だった。
ルカは力尽くで僕を引き起こすと両手を上下にパンパンと叩く。汚れている訳ではないんだけどね。
指を差された方向へ顔を向けると、闇に包まれた庭が視界に大きく入った。つまりまだ夜。死んだ当日その数時間後だ。
疲れ果てて寝てしまったらしく、心底呆れている様な銀髪ツインテール娘。
だって初めて戦ったんだもん。
「まだ同業者達に挨拶をしていないだろうが。お前が今一番後輩なのだからな」
「同業者? お仕事ではないでしょ。そっか一番こうは──痛いっ!」
「さっさと行くぞのろま」
さっきからのろまって酷いな。別に僕はトロい訳でもないんだけど。
夜中ってことは寒いだろうと考えブランケットを被ってルカに続く。戦いに行く為飛び出した時はまだ明るくて気にもしなかったけど、ここはイルミネーションが多いらしい。
道端にぞろぞろと数メートル置きにカラフルなライトが取り付けられた棒状の飾り毛ないイルミネーションが。待って、イルミネーションって時点で飾ってる。
家らしき建物は一戸建てで散らばる様に存在し、どれもこれも洋風、和風などと更にバラつきを見せている。住んでいる人の趣味なのかは不明。まだ不明?
「ウロチョロするな夢奏」
「いや、ウロチョロはしてないよ」
「キョロキョロするな夢奏」
「はーい」
珍しい町並みに興味が湧いてあっちもそっちも見てたものだから注意を受けた。でも殴る事はないと思うんだ。
不貞腐れた少女にてくてくついて行くと、教会の様な洋風で圧巻のサイズの建物へと辿り着いた。
十字に板が固定された二階の窓を見て何の意味があるんだろうとか不思議に思ったけど、ルカが扉を両手で豪快に開いたのでそちらに気を向けた。
何列にも取り付けられた赤い椅子に大きな騎士のイラスト。窓の設置位置に息が呑まれそうな雰囲気は教会そのものだった。
そして低めな段差のステージ上には十数人人が立っている。
「やあお前達、遅くなってすまなかったな。待たせてしまった」
「構やぁしねーよ。さっさと閉めろ」
「ああ。早く入れ夢奏」
「う、うん」
ルカに返事をしたのは目つきの悪い金髪の男で、赤のピアスにファスナーを全開にしている為か如何にもヤンキーぽい。その他の連中を見ていってもクリスチャンではないだろうなぁというのが窺える。
でも、この人達全員がルカや僕と同じ【幽霊騎士】なら思った以上に少ないな。
何百人も居るものかと。
「あらら? 君が新入り君? だとしたらどんな死に方したの? 殺人鬼にでも内臓抉られた?」
「何てこと言うのこの人!」
大人しめな外見で清楚で柔らかめな服を着ているカチューシャの黒髪美人の女はかなり恐ろしいことを初対面で発言してきた。
この人はグロいものでも好物なのだろうか、うっとりした表情で更に恐ろしい事を声に出している。けど記載しません。
マシンガングロトークが止まる事無く続くのを阻止したのはその傍にいた茶髪のギャルっぽい女子。同い年くらいだろうか。
「それは本当に勘弁止めて。あんたの胸糞悪い趣味に付き合う物好きなんてここには居ないんだから」
人の趣味に胸糞悪いって堂々と言う? あの人はルカ同様口が悪そうだからあまり近づきたくないな。
「おいお前、黙ってないで自己紹介の一つでもしてみたらどうなんだ?」
「え、あ、はい。すみません」
中心に腕を組んで立つ黒髪の鋭く凛々しい目つきをした長身の男性が呆れた様に溜め息を零した。
あのさ、こんな知らない人しかいない所で今まで人と大して言葉も交わしてこなかった人間が「はい! 僕は〜です!」なんて言えると思う? 無理だから。
あの黒髪の男性の第一印象は「嫌な人」に断定した。自分からは絶対話しかけないぞ。
「僕は月島夢奏。今日死んで今日戦ったんだけど、よろしくお願いします。一応高校一年生で……」
「高一? タカギ同級生じゃね?」
「ふん」
「えー……」
金髪の男は黒髪の男に人差し指を向けて割って入った。よりによって一番嫌いな感じの人と同級生か。嫌だなぁ。
逆に皆幾つなんだろう。
これ以上何を教えるべきなんだろうと腕を組んでいると、サングラスをしたショートの女性が手を小さく上げた。
「よろしく夢奏君。私はアヤ。二十歳よ」
「あ、どうも」
また文句でも浴びせられるのかと警戒してたけど、常識人も居て助かったよ。でも中心の四人は良い印象もてなかったなぁ。
中心の四人以外は僕の挨拶を適当に流して各家に戻って行ったけど、よりによってこの人達が残るのか。いちいち論争はしたくないけどなぁ。
「俺はアイジ。木戸愛治だ。足引っ張んなよな」
「あー、うん」
金髪の男はフルネームを教えてくれたけど、こんな態度の人相手に僕が真面目に返す必要は無いなと適当に相槌を打った。
「あたしフーカ。本名は笹野辺楓華。よろー」
「あー、うん」
茶髪ポニテの女子の自己紹介も聞いた振りで適当に流す。態度が良くない人の名前なんてどうだっていい。
二人が帰って行くと、先程のグロ大好き女が照らす様な笑顔を弾けさせた。
「私鯨岡那奈美! 気軽にナナミって呼んでね。腸抉られるのとか共喰いとか大好きだから気になる事あったら相談してね! 歳は十八歳だよ!」
「あ、相談はしないと思います」
さっきの二人よりは断然礼儀正しいんだけど、共喰いが好きって何。他の二人より警戒したくなるんだけど。スルー出来ないんだけど。
この人グロい部分が無ければ凄く好みなんだけどなぁ。優しそうな顔してるし、明るい性格だし。柔らかそうだし。
雰囲気がだよ?
「さてと、最後だぞ。意地張ってないで挨拶しろ」
「別に意地を張ってなんていない。勿論挨拶はする」
ナナミさんは黒髪の男の横で待機しているけど、もしかして二人は恋人なのかな。だとしたらお互い奇妙な趣味ですね。これはちょっと意地悪いか。
でもこの黒髪の男には絶対にバカにされたくないからなぁ。まさかのライバル決定。
咳払いを二度行った黒髪の男は腕組みをしたまま偉そうに自己紹介を始めた。
「俺は高城桜姫。名前をバカにしたら許さないからな」
「いや、しないけど。興味も無いし」
「何だと?」
「やめろお前ら。はぁ、初対面で何故こんなに険悪なんだ本当呆れる」
どちらの態度が悪いかなんて一目瞭然だと思うけど。新入り相手にそんな態度でいたら嫌われるのなんて分かり切ってるじゃん。
桜姫の左肩にちょこんと両手を乗せたナナミさんはウインクを飛ばしてきた。
「ごめんね。桜姫君人見知りだから上から行く癖があるの。許してあげて?」
「おい、何言ってるナナミ」
「そうなんだよ。悪いな夢奏」
「いや、二人が謝ることはないと思う」
「なら俺が謝れというのか? ごめんだ」
桜姫と僕が互いに睨み合い火花を散らせているとルカが間に割って入る。仲裁をしようとしてるんだろうけど、小さくて視界に入らない。
とにかく、何がどう転ぼうと僕は桜姫とは仲良くするつもりは無い。したくもない。
仲間としてのチームワークなんて知った事じゃないし、そもそも桜姫とチームなんて嫌気がする。
「あー、もういい。桜姫、ナナミは一旦戻れ。後は私が説明をする」
「ごめんルカ。行くよ桜姫君」
「……ふん」
二人が去るのも興味なんて無いし、僕の目的は馴れ合う事とかでもない。父に星を見せる為に炎神を倒し続ける。それだけだ。
扉が閉まるとルカはステージにふわりと跳び上がり眼鏡をかけた。何だろう。
「雰囲気作りだ。スルーで頼む」
「あ、了解」
このコはノリが良いと言うか何というか、クールな性格とは合わないよね。もっと弾ければいいのに。
ルカが何やらリモコンを取り出すと、何も無いステージ上に映像が映し出された。ホログラムの様に。
何でも有りだなぁなんて言ったらまた怒られるかな。
「先程ここに集合していたのが我々幽霊騎士の仲間達だ。総勢19人しか居ない。そしてそのリーダーに当たるのが私と桜姫なんだ」
「アイツが……。ていうか二人いるんだ?」
「うむ。基本指揮を執るのは私なんだが、炎神について最も詳しいのは桜姫なんだ」
「へー」
さっきのメンバー内だと桜姫とルカが最も古株。そう考えるとその二人はいつからここに住んでいるんだろう。いつ死んでしまったんだろう。
僕を除いたメンバーは皆先に死んでいる人達。皆若いのにそんな早く死んじゃったんだね。そこだけは同情するよ。
だけど、仲良くするかどうかは完全に別。僕はコミュニケーションを取るのが非常に下手なんだけど、だからこそ偉そうな人間が嫌いなんだ。
自分が常に上だと思っている様な人間は僕は一切好かない。だけどルカは他とは違うから嫌いにはならない。
それより、いつからルカが戦い続けているのかは見当つかないけど、炎神を全て倒せるのはいつなんだろう。
「残念ながら、全て倒すのは不可能だろうな。私や桜姫は十年前に死亡しているが、炎神の出現確率は1ミリも変動が無い。太陽が生きているからな」
「そんな、それじゃいつ僕は父に星を見せてあげられるの!?」
「何を勘違いしているんだ。炎神を全て倒せたからと言っても雲が晴れる訳でもなし。そんなに見せたいなら雲の上にでも行くか別の国にでも住めば良いだろう」
「簡単に言わないでよ!」
別の国や町に引っ越せば、なんて何度も相談したことなんだよ。でもその度に断られてきたんだ。
僕の父にとっての夢は水ノ輪町で叶えてこそ価値があるものなんだ。他所で星を見つけてもそれはテレビで見た映像だけと同等なんだ。
父の覚悟はそんな小っぽけなものじゃない。
不機嫌な溜め息を吐くルカは教会から早足で去って行った。
映像を残したままで出て行ったのを考えると、暫く見ておけとかそんな感じなのが分かる。
だけど炎神の説明やら何やら既にルカから聞いた事ばかりだ。今更見ることは無い。
「そうだよ、忘れてた。僕が死んでるなら父にどうやって星を見せれば良いんだ。教える事なんて出来やしないのに……」
「その父親は霊感無いのか」
頭痛のする嫌いな奴の声に反応し振り返る。勿論扉に寄りかかっているのは桜姫だ。
この苛立っている時に追い打ちをかける様に姿を見せるのは何かの嫌がらせだろうか? 僕に嫌われてるのを理解出来ていない訳ではないだろうし。
今日の午後に戻りたい気分だ。浸水したバス停の小屋でバスを待ち続けていたらきっと死ぬ事なんて無かっただろうし。
「僕の家族に霊感なんて微塵も無いよ、幽霊なんて信じていなかったし。それより何の用」
「ルカより俺の方が詳しい、とは聞かなかったのか? お前には目的があるんだろ。知りたいことは出来るだけ教えてやる」
「急に、何。同情でもしてるつもりなの? 君の助けなんて要らないから」
「そうか。なら一つ、独り言でも言っているか」
明らかに僕に聞かせようとしているんだろうけどその手には乗らない。僕は自力で何かを掴もうと映像を熱心に見続ける。
だが操作なんて分かりやしないから、永遠にこのページからは抜け出せそうにない。
「まず、霊感のある人間には俺達の姿がはっきり見える上、生きている人間の様に会話も出来る」
霊感があればそれだけで会話も出来るのか──じゃなくて、今のは自然と耳に入っただけだ。聞いてる訳じゃない。無視無視。
だけど、無視しようとすればする程桜姫の独り言がはっきりと聞こえて来る。
「炎神を倒し尽くす時、それは太陽エネルギーが消滅した時だろうからどちらにせよ地球は滅ぶだろうな。だから自ら攻めこめば攻めこむ程自滅行為と変わる」
そうか、太陽エネルギーが無くなれば太陽は死ぬ。そうすると陽の光が失われて今まで作り上げた文明が一瞬にして滅ぶんだ。
電気なんて使えなくなるかも知れないし、太陽光発電なんてのも全部消える。振り出しよりももっと前へリターンしてしまうんだ。
全ての炎神を倒す事ばかり考えていたけど、星は見える様になるかも知れないけど、そうなれば生きることは殆ど不可能になる。
人間が生きる糧の大きな一つを失う。つまり人類が滅ぶ決め手となってしまうって事なんだ。
なら、どうしたら良いんだよ……。
「ねえ桜姫、僕らが戦う意味って何?」
一人で考えていると頭がおかしくなりそうだから、と言うのを口実にして、僕は大嫌いな桜姫に質問を投げかけた。
「さあな」と横目に流す桜姫はそっと哀しそうな瞳を見せ、言葉を繋げた。
「とにかく炎神から人を守ること、だろうな」
「誰も報われないかも知れないのに?」
「それはこれから探していく。攻略法をな」
「そっか。なら、これからよろしく」
僕の「よろしく」は心から出た言葉で、嘘やまやかしなんかではない。
この幽霊騎士達の中で人より遅れている僕が出来る事は限られている為、最も敵をよく知る桜姫に頼る事は必須項目なんだ。
さっきまでいがみ合っていた相手が急に正反対の台詞は吐いた為か、桜姫はきょとんとした表情で固まっている。プライドはそんな必要じゃないでしょ。
綺麗に整った顔で口角を上げた桜姫は上からでも下からでも無く、同等の位置から言葉を返して来た。
「よろしくな、夢奏」
「うん。これから頑張ろう」
何気ない事をきっかけに人って心を許していくんだろうけど、僕らの場合それは違うみたいだ。
心を許す訳ではなくて、同じ目的の為に手を組むんだ。
炎神も居ない。太陽は有る。そんな世界を求めて。
メインキャラが数名登場し、そこそこ順序よく進んでいるのですが、説明下手糞過ぎる。
それ以上に想像力が乏しくて……