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夢幻の星刻騎士〈スター・ナイト〉  作者: 夢愛
第一章 死して戦う者達
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幽霊騎士

小説家になろう作品第2作目です。

1作目とは違って異世界ではないつもりですが、現実かどうかって言われたら難しいところです。

どうかよろしくお願いします!

 物語は初めから決まっているのが通常で、突然始まりを告げるものではない。僕はそう思ってる。

 ただ、例外としてあげるのならば『死』がそうではないかと言える。

 オープニングがあり、エンディングも勿論存在する人生で、突拍子も無く降りかかる現実が『死』で、まだやり残した事が有るにも拘らずそれを迎えてしまう人間が殆どなんだ。


 最初から死のうと決めている人間なんて、存在し得ないんだ。

 だから僕も、突然この世を去る羽目になった────。



 川が多く、ダムが三つも設置されている程この町は水に恵まれている。震災の時だってそこには一切苦労しなかったらしい。

 雨も年に半分以上も降るし、毎日びしょ濡れで家へ帰るんだ。


 僕の住むこの町は『水ノ輪町』という。由来は大して知らないけど、昔は今よりも水が多かったって話を聞いた事がある。

 それ故か、洪水対策として家は一階の下に数十センチの空洞があり、とても強い流れのとき以外は問題がない。らしい。

 勿論僕の家にも空洞が存在する。


「今日も雨凄いな。傘じゃなくて車で帰るか」


 降水確率は常に50%のこの町だから、傘を使わず交通機関や親の車で帰る学生が殆どで、僕、『月島夢奏(つきしまむそう)』もその一人だ。

 わざわざ雨に打たれて風邪を引くくらいなら、車に乗った方が良いに決まっている。

 大雨で道路が埋まる事はまず無い。洪水にならない様、道路の脇には延々と排水溝が作られているからだ。

 それでも確実とは言えないけど。


「夢奏、おっす。お前今日は母親の車で帰るのか?」


「銀杏。うん、お前は?」


「俺は自力で帰るかなー、またな! これ以上降られたら堪ったもんじゃないし」


「うん」


 今話しかけて来たのは小学生の頃からの腐れ縁である古都川銀杏。明るい性格とムードメーカー的な存在でクラスの人気者ってとこだ。

 銀杏が人気者なら、僕は埃の様なもの。誰にも話しかけられないし、話しかけもしない。

 まあ、好かれようとも思ってないから別に構わないんだけど。


 雨が強くなって来た六時過ぎ、漸く母親の車が姿を現した。今日は会社だったらしいから遅めだったんだね。

 無言の母親に対し、僕はただ『ありがとう』と呟いて乗車する。


 僕も母親も仲が悪いって訳じゃない。ただただお互いが会話し難い性格というのを心の奥底で感じていてしまって、うまく喋れないだけなんだ。

 なんなら僕が切り出せばいい、そう考えても中々上手くいかない。話すことがないんだよね。


 高校生になって三ヶ月が経つんだけど、親とは日に日に話す回数が減っていって、今やもうほぼ無言で過ごしている。

 偶に考えることで、もし急に死んだとしたら後悔するんだろうなぁ。もっとしっかり話しとけば良かったってさ。

 車の中で揺られて、僕は母の背中を脳内に焼き付けた。


「ただいま」


「おう二人共お帰り。夢奏、今日の学校はどうだった。楽しかったか?」


「いや、いつも通り詰まらない一日だったよ」


「はっは! そうかそうか。まあいつかは楽しくなってくるだろ。気楽でやってきゃいい」


「うん。着替えてくるね」


 僕は父とは毎日普通に会話を交わす。必ず学校が楽しかったかどうか聞かれるんだ。その度に詰まらないって返すけどさ。

 父は良い人なんだ。自分のことは後回しにして大抵他人を優先する。

 偶には自分がやりたい事をしてもいいんじゃないかな。バチが当たる訳でもないんだし。


 部屋に入った僕は、着替えるよりも先に望遠鏡を覗き込む。幼い頃父から貰った物だ。

 雨雲で星も見える筈のない空を、毎日観察するのが僕の日課。いつか星をこの目で見たいと言っていた父の夢を叶えてあげたいんだ。


 星を見つけたら真っ先に知らせるつもりだよ。


「あ、今日バイトの日か。そっちに車で送ってもらった方が良かったな」


 うっかりしていた僕が悪いんだけど、母の車は借りずに外に出た。何回も何回もってのは悪からね。

 バイトには少々遅刻してしまったけど、怒られる事は無かった。元々雨が多い町だからか、その辺に関しては許してもらえるんだ。本当に助かる。


 バイトの先輩達は皆人柄が良くて友人も沢山いるらしい。僕もしょっ中助けてもらっている。

 特に、網走先輩には。


「やっほ夢奏君、元気? 今日お母さんとはちゃんと話せた?」


 キャップで長い髪を纏めているこの女性が網走夜耶先輩。僕と母の今の状態を知っている人の一人。


「いえ、また上手く話せなくて」


「そっかー。うん、そうだね。ゆっくり時間かけ過ぎるのもアレだけど、焦らずに少しずつ伝えてくといいよ。応援してるよ〜」


「ありがとうございます」


「へへ、良いって! あ、店長来ちゃった。じゃあ頑張ってね!」


「はい」


 いい先輩だと思うよ本当に。僕みたいなのと違って皆良い人ばかりで、そういう人達が生き残らなきゃいけないんだろうなぁって、心の底から思うよ。

 逆に、僕みたいなのが死んだところで誰も興味無いんじゃないかな。


 でも僕はまだ死ぬ気は無い。父の為に星を見つけてからなら、いくら死んだって構いやしない。

 だけどそれまでは絶対に死ねないんだ。



「お疲れ様です」


「お疲れ様〜」


「お疲れ!」


「またね〜」


 バイトの時間が終わるのは夜九時半。僕を含めた高校生四人が一斉に帰宅する時間だ。

 網走先輩もその一人で、ただの一つ歳上なだけ。歳が近くてあんな立派な人がいるとはなぁ。


「げ、浸水してるよこのバス停」


 帰宅する為に必ず利用するバス停なんだけど、排水溝に入り切らなくてか浸水していた。

 小屋みたいなのが有って、そこでバスを待ち、来たら乗るんだ。それが今日はこんなだから、靴がまたびしょ濡れだ。


 ──暫くして、バスが来る時間になった。

 でもその姿は見えない。雨だから遅れているのか、またはその他に何かがあったのか。

 どちらにせよこのままでは十時を迎えてしまうから、慣れてないけど仕方なく帰り道を歩くことにした。


 辺りはもう暗くて足元が見えるかどうかくらい。目線の先は永遠と続く闇地獄。

 こんな夜には事故死してしまう人間が出そうだ。例えばライトなども無く、この道をあまり憶えていないような人間とか。


 それって、僕じゃないか? 大丈夫だと思うけどさ。


「何の音だ? 金属音?」


 雨音の中に響き渡るガランガランという金属音は、段々と近づいて来ている様にも感じる。

 工事現場とかで聞いた事がある気がするなぁ。なんて考えて、思い出した事がある。


 帰り道の何処かに、まだ工事中の新築の家が建っている筈なんだ。骨組みがまだ残されたままの、工事中の家が。

 あのバス停からは二つ程で、そう考えると距離は百メートル程だった筈。

 僕は何歩歩いた? 僕は何メートル歩いたんだ? 眼の前に物が降った事に気付いた頃には、全身を硬い物で打たれていった。


 意識が遠のいて、視界が更に暗くなっていって、もうこれ目開いてるのか閉じてるのかよく分からなくなってきたよ。

 でもとにかく僕は、倒れている。


「おーい、おい。目開けろうすのろ野郎」


「ん? アレ、君誰?」


 呼ばれて目を覚ますと、和風な部屋に僕は倒れ込んでいた。そしてツインテールの少女が僕を見下ろしていた。

 和風ではなく、漆黒で半袖ミニスカのコスチュームを着た女の子が。


「私はルカだ。お前は何だっけ? 月島夢奏っていうんだよな?」


「え、ああうん」


 確実に歳下だと思うんだけど、この子思い切りタメ口だなぁ。

 それに、何で僕はここに? さっきまで雨に打たれながら道に倒れていた筈なのに。


「ほら、手を出せ」


「え?」


「起きろと言っているんだ。いつまでそこで寝ている。私のパンツが見たい訳ではあるまいな?」


「いや、違うけど……」


 このままじゃ誤解されそうだし、痛みも無いしとにかく座った。

 この子、何か今時いなそうな口調だなぁ。何処かの偉い人みたい。あんまりいなそうだけど。


 見た感じ中学生とかそこら辺っぽいんだけど、妙に貫禄があるというか。それにコスプレしてるみたいだし。

 私服だったら悪いけどさ。


「あのさ、ここ何処? 助けてくれたの? 僕は何で怪我一つしていないの?」


「おお、質問の多い奴だな。順番に言うからちょっと待て」


「あ、ありがとう」


 腕組みしながら溜め息を零したルカは、何処からかホワイトボードとマッキーペンを持ち出した。一応水性ペンだという。


「まず、ここは現実世界ではなく私達《幽霊騎士(ゴーストナイツ)》の住む世界だ」


「ご、ごーすとないつ?」


「ああ。そして私はお前を助けた訳ではないぞ。お前が自ら此処にやって来たのだ」


「え、僕が? どうやって? 何で?」


「うるさい! 順番に話すと言っただろうが!」


「痛いっ!」


 痛いって事は、夢ではない筈。そしてこの子が言ってることも僕に傷が少しもないことももしかしたら全て現実のこと。

 でもこの子は現実世界ではないって言った。まるで理解が出来ないよ。とにかく教えてほしいかな。


 僕がルカに目線をやると、ルカはタイミングを図った様に次の質問に対する返答をした。


「お前は全身傷だらけだぞ? と、言うかもう死んでる」


「死んでる!?」


「ここにあるのはお前の魂だ。お前自身はもうくたばっている。残念ながらな」


「そんな……」


 よく理解出来ない話なんだけど、これで漸く一つは理解出来た。

 僕は工事現場の雨で落下して来た骨組みに因って死亡し、この《幽霊騎士(ゴーストナイツ)》の世界って所に来たんだ。


 つまるところここって、天国、とか?


「違う。此処は天国ではない。私達が住む世界だと言っただろう」


「でもゴーストって」


「死んでいる者しか居ないのは確かな事だが、それ以前に天国ではないと言っているんだこの馬鹿者が!」


「痛いって!」


 天国じゃないならここは本当に何なんだ? それより、僕は死んだんだよね。父に、星を見せる事が出来ないまま。

 心残りがあり過ぎて、今は現実を受け入れられる気がしなかった。

 でも、僕は何でこんな所に来てしまったんだろう。


 ルカは再度溜め息を零すと、部屋の戸を開け外の光景を僕に見せた。

 晴れた空に、太陽が眩しく光っている。こんなの見た事ない程の快晴だった。


「お前が父親に見せたいのは、この先の空だろう。だが残念なことにそれは叶いそうにないぞ」


「う、うん。もう死んじゃったんだもんね」


「そうではない」


「え?」


 再びホワイトボードの元へと歩いて行ったルカは、ペンで何かを描き始めた。

 それは歪な形をした太陽だった。


「その太陽、何でそんな変なの?」


「私の画力の問題だ。スルーしてくれ」


「はい」


 そして青いマッキーペンで白い部分を塗り潰して行くルカは、所々に黄色い点を残した。

 テレビなどで何度も見た事がある。これは──


「お前の見たがっている宇宙(そら)だ。お前はこれを見せる為に、ある者達と戦うんだ」


「ある者達……? 何で?」


「だから一度に複数訊くな。それを今から説明する」


 ホワイトボードの絵を消していくと、ルカは今度はカラープリントされた大きな紙を貼り付けた。

 そこに描かれていたのは、銀色に輝く鎧を纏った人間と燃え上がる人間の様なものだった。戦っている様に見える。


 もしかしたらこの鎧を纏っている方が《幽霊騎士(ゴーストナイツ)》って人なのかな。


「そうだ。我々幽霊騎士は太陽エネルギーから作られた生物、炎神達と戦いを続けている。炎神達は人間の身体を乗っ取り、内側から殺していく。それを私達が阻止するのだ」


「炎神……。内側から、殺す……?」


「ああ。まあ、難しい話だ。そんな理解出来なくても構わないが、お前ももう我々の仲間だという事は理解してくれ」


「僕も、なの?」


「そうだと言ってるだろう」


「いちいち殴らなくてもよくないかな!?」


 この子面倒臭いと殴る癖があるのかも知れない。なるべく気をつけておこう。

 それと、僕が騎士になったところで何が出来るんだろう。太陽のエネルギーって、どんなだよ。

 全然脳が追いつけないな。


 突然ルカは太陽を直視し、一旦瞼を擦ってから僕の手を引いて家の外へ飛び出した。


「え! ちょ、どうしたの!?」


「炎神が人間の身体を乗っ取ってしまった様だ! 気づかなかった。倒しに向かうぞ!」


「ええ!? 僕何も分からないよ!?」


「分かっている! 私の戦う様をよく見ておけ!」


「ええ、わ、分かったよ!」


 ルカと僕は突然光に包まれ、気が付けば元の大雨の中に居た。

 確実に憶えがある道だった。バイトしているコンビニのすぐ側の路地裏。よくここで溜まっている学生を目撃していた。


 もしかしてこの近くに炎神がいるのか? だとしたら先輩達のことが心配だ。見に行きたいけど、ずっと手を握られているからなぁ。

 キョロキョロと見渡すルカは左手にガラケーの様な機械を所持している。画面には、黒い星のマークと赤い丸が記されている。


「うむ、こちらに気づいて近づいて来た様だ。一対一の勝負だな」


「この黒い星のマークが、炎神?」


「む? ああ、そうだ。もう直ぐ来るぞ」


 近づいて来る炎神に対し、緊張感に包まれる僕らの呼吸。どんな戦いになるのかは全然想像つかない。

 炎神は人間の身体を乗っ取っているんだよね? だとしたら人間が近づいて来ても分からない筈だ。

 それと、何で人間を殺し、何で太陽から生まれてくるんだろう。


「来たぞ」


 ルカの声に先程の思考は一度捨て、姿が見えて来るその炎神をじっと見据える。

 女性で、胸にかかった長い黒髪と、前髪を隠す様に被られたキャップが特徴────網走、先輩?


 見間違う筈がない。僕はずっと彼女に憧れて生きてきたから。

 その姿は紛れもない網走夜耶先輩だった。


「先……輩?」


「あれ? 何でこんな所に居るの? 夢奏君。何で、居るのかなぁ」


「む? もしかすると、知り合いだったか」


「網走先輩が、炎神……?」


 僕が虚ろな瞳をルカに向けると、彼女は深く頷いた。

 網走先輩は炎神に乗っ取られていた。一体いつから? いつから網走先輩は網走先輩ではなくなってしまっていたんだ? ただただ恐怖で全身が凍りついてしまった。


「私が炎神かぁ。そうだったそうだった、忘れてたよ。コイツの身体、乗っ取ったんだった」


「退がれ夢奏!」


 僕はルカに押し飛ばされ、先程まで目の前に立っていた筈の網走先輩は炎の怪物と化していた。

 蟷螂の様な肢体で雨に臆する事なく燃え盛る炎。これが網走先輩を乗っ取り、殺した者の正体。

 これが炎神の正体……。


 ルカはさっきの機械を翳し、周囲の雨粒を弾き飛ばした。

 何がどうなったのか、とにかくルカの身体は鎧で覆われ、大きな槍が右手に装備されている。


「この路地では乗馬は必要無いな。奴はこのまま葬る!」


「ね、ねぇルカ! 網走先輩は、もう、居ない、の?」


「……見れば分かるだろう。なるべく近づくなよ」


 網走先輩はもう死んだ。死んでしまったんだ。僕が憧れていた女性はもう、この世から去ってしまったんだ。

 死んだ? 死んだなら、僕みたいに幽霊騎士になって復活していないだろうか。

 狭い路地から飛び出て行ったルカ達を追う為、僕も路地から飛び出したら車と遭遇した。


 轢かれ──なかった。

 車には触れる事なく身体をすり抜けられ、僕は路上に立ち尽くしている。


「何だよ。何でこんなに……。何でこんなことになっちゃったんだよ」


 次々と身体をすり抜けられて行く中、僕は父への無念を静かに嘆いていた。

 もう、父へ星を見せる事も出来ないし、銀杏と話す事も出来ない。姿が見えないならバイトも出来ないし、母と会話を交わす事ももう出来ない。


 そして何より、網走先輩の言葉が嘘だったんだって考えると、悲しくて悲しくて。

 気づくと僕の左手にはルカのと似た機械が握られていた。


「何だ。戦えって事なのかよ。そっか」


「くっ! あ、夢奏!? 何故そんなに近くに居るんだ! もう少し離れていろ!」


「心配しなくてもどっちも死なせてやるから、何処にいても同じだよ!」


「ちっ……!!」


 あのままの姿の、網走先輩を見るのはもう嫌だ。

 それなら────


「ルカ、僕にもやらせて」


「夢奏、だがお前はまだ!」


「網走先輩の、仇を討ちたいんだ」


「……! 死んでも知らんぞ!」


「死なないよ、もう(・・)


 僕が機械を翳すと、ルカとは違い天から光が身体に降って来た。そして、僕は青色の鎧を身に纏った。

 鎧の所々に光る水色の円は、まるで星座でも模している様にも見える。

 炎神は、絶対に倒す。網走先輩以外のバイトの先輩達や、銀杏や両親。他の誰が乗っ取られるかも分かったものじゃない。


 その為には全力で炎神を倒して行くんだ!


「夢奏! 剣を使え!」


「え、剣? 何処?」


 探す事もなく右腕に装備された大きな剣は西洋風の物で、騎士に合う外見だ。

 それと、鎧の割には全く重みを感じなくてむしろ身体が軽くなった様に思える。

 これが、幽霊騎士、なのか。


「行くぞ、炎神」


「あーあ、夢奏君もそれだったんだぁ。嫌になっちゃうなぁ、信用してたのに」


「うるさい!」


「わっ!」


 今なら、死ぬ気がしない。と言うより、もう死んでるから死なんて怖くない。

 怖いのはこれ以上知り合いが死んでいく事の方だ。

 誰も死なせたくない。だから怖くても戦うんだ。ルカの事だって死なせないよ。今の僕のたった一つの道標なんだから。


「はあああああああ!!」


「うぐっ! 酷いよ! 夢奏君!」


 炎神の言葉なんか聞こえない。僕は相手が倒れるまで剣を振り続ける。

 そこにルカも加わって、とうとう炎神の腹部を豪快に切り裂いた。


「ああああああああああああああ!!!」


 悲痛な叫びと共に、炎神の身体は蒸発していく。僕とルカの鎧は自動的に解除され、僕はそのまま座り込んだ。

 普段あまり運動しないからか、結構疲れてしまった。これからはもっと運動しよう。


「あ……」


 炎神が消えた跡に、網走先輩が倒れている。

 呼吸は少しもしていなくて、完全に死んでしまっているみたいだ。そりゃ、そうだよね。


 僕はルカの許可を得て網走先輩を路地裏に運び、壁に寄りかからせておいた。


「先輩、今までご苦労様でした。僕はこれから、貴女の様な人を極力出さない様に努力しますから、頑張りますから……許してください」


「許すも何も、お前は少しも悪い事はしていないだろう。むしろ救った方だ」


「うん。あのさ、先輩はどんな風に死んだことになるの?」


「さあな、その事は炎神が勝手に処理しているだろうから。私には分からん。それより帰るぞ、これより濡れたくないからな」


「あ、ちょっと待って」



 ──家へ帰った僕は、母と父が部屋に揃っている事を確認し、頭を下げた。


「二人共、行って来ます」


 僕はルカと共に再び幽霊騎士達の世界へ戻り、今日から炎神達と戦うことになった。

 もう、誰も死なせたくないから。その為に出来ることを精一杯やるんだ。後悔はしたくない。


 そして出来る事なら、父に星を見せてあげたいと思ってます。

これからもよろしくお願いします!

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