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第五話

「鑑定」


 名称:イモータルデュラハン

 種族:不死者クレイジーブレードマスター


 は? やばすぎない? ブレードマスターって事は剣聖って事? でもイカれてんの? つまり最狂の剣聖かよ。

 しかもデュラハンってだけで既に死んでるってわかるのに何不死者に不死者重ねてるの? それだけでクレイジーだわ。


 そんなふざけた剣聖だが全身から立ち上る闘気は圧倒的。座っているだけなのにこちらを押しつぶさんとする威圧感を放っている。


 冷や汗が流れ、ゴクリと喉が鳴る。


「ルス、あれ、強すぎじゃない?」


 ルスはカランと骨を鳴らして返事を寄越す。


 俺達は完全に空気に飲まれ、先ほどの威勢はどこへやら。

 ビビった俺がチラッとルスを見ればルスもプルプルと震えている。

 逃げたくなるが、相手が不死者なら俺にも手段がある。


 知ってるか? ヒーラーってのはな、対アンデッド最強なんだよぉ!


「ルス、見ていろ。ここからはヒーラー()の戦いだ」


 精一杯格好をつけたが体は正直さんだ。がくがくと足は震えるし、手は汗でびしょびしょだ。


 既にボロボロになってしまったTシャツが元のままだったら汗で変色しているのは間違いない。


 ぷるぷる震える体に鞭打って歩を進めれば、護るのは自分だと言うようにルスが俺の前に躍り出た。


「ルスっ!」


 ひしっと俺達は抱き合い、苦楽を共にした思い出を振り返る。

 辛いときも嬉しい時も楽しい時も共にしてきた仲だ…そうだったな。忘れていたよ。


 俺たちゃ二個一。

 アンデットが二人いれば無敵だってな! 相手が名前に不死者を重ねてるなら俺達は戦力を重ねてやるぜ。


「行くぜ、ルスっ」


 ぶぅん! と風を巻いて尻尾を振り、カランと骨を慣らす。


 部屋に入ると扉は逃がしてたまるかと言わんばかりにその口を閉じた。


 不退転の覚悟で目の前のサイコ野郎を粉砕する!


「ルスはできるだけ攻撃を受けないように避ける事に専念てくれ。あの硬そうな鎧に攻撃が通じるとは限らない。余裕がある場合のみ攻撃して様子を見るんだ。昇天しない事が絶対条件だ。やるぞ!」


 そんな俺達の決意を踏み潰すように地面に突き刺さった剣を抜き、デュラハンが立ち上がる。


「っ!」


 びっくりするじゃねぇか。やめろよ。


 そんな気持ちも知らないと言わんばかりに剣を構えるデュラハンはギシリと鎧を鳴らすと大きく踏み込んだ次の瞬間―消えた。


「なにぃ?!」


 重そうな鎧とは裏腹にその速度は弾丸。

 目で追う事も困難な早さでルスへと肉薄していた。

 

「避けろルスウウウウウウ!」


 コーンといい音が鳴る。

 それはルスがダメージを負ったと言う事。


 鋭く空を切り裂く音が鳴ったと思うと今度は骨の砕ける音がし、ルスの肋骨が断ち切られていた。


「ペインヒール!」


 一瞬で二撃。機動力を殺ぐ為に前足と返す刃で肋骨を断ち切ったのだ。


 ルスは吹き飛ばされた勢いで距離を取ったがそんなものは気休めにでもならないだろう。

 やはりここは俺のヒーラーパワーであのサイコ野郎を浄化するしかない。


「ルス、引け!」


 ルスに回避させようにもあの剣聖の前では意味をなさない。ならば俺が捨て身の攻撃を仕掛けるのみ。


「今から言う事は絶対守れ。いいか、俺の魔法が展開しているうちは絶対に近寄るな。俺に何があってもだ」


 ルスは機敏な動きで俺の遥か後方まで下がる。

 もし一人になっても、元気で過ごせよ。


 剣聖は逃げるルスを追いかけもしなかった。あの速度があれば追い討ちなんて容易だったのに。


 遊んでやがる。俺の可愛いルスを可愛がってくれた分は俺がてめぇを可愛がってやるぜ。


「来いよ……」


 ガシャリと鎧を鳴らして俺へと向き会う。こいつには知能があるのか? いや、そんな事はどうでもいいか。


 デュラハンはぐぐっと地面を踏み込む。


 来る……!


「ブレス、ピュリフィケイション!」


 皮膚を焼き、全身の皮が浮き立つ。


 ボロボロと体が崩れていくのはまさに浄化されていると言うに相応しい光景だ。


 俺は体にブレスを纏う事で対アンデッド凶器と化し、広域展開したピュリフィケイションのダメージを軽減している。

 突っ込んできた剣聖はピュリフィケイションでダメージを受けたのかフィールドの中で苦しんでいる。

 そう、ここはアンデッドによる対アンデッド空間。

 そして俺だけがこのフィールドの中で己を回復しながら戦えるまさに不死者! この泥臭さよ!


「アンチヒール、アンチヒール、アンチヒール!」


 剥げた皮膚が再生と消滅を繰り返す。


「ふははははは。デュラハンよ、浄化してやろう!」


 俺は足枷でもついているような重みを感じながら必死に前へと進む。


 反転魔法による後光に恐れをなしたデュラハンはなんとか俺から遠ざかろうともがいているが、無駄だ。

 この領域は俺を指定して展開しているから俺が動けばフィールドも移動するのだ。

 お前は俺から逃れられない。骨までしゃぶらせてもらうぞ!デュラハン!


「アンチヒール、アンチヒール、アンチヒール、お前にもくれてやる。ヒールだ!」


 ジュワアアア! と音を鳴らして俺の腕が白骨化し、デュラハンの鎧に罅が入っていく。


 まだまだぁ! ヒーラーってのは癒して癒して癒し尽くすんだよおおおお!


「ペインヒール、ペインヒール、アンチヒール、アンチヒール、そしててめぇにはヒールだああああ!」


 ブレスの効果かゴーンゴーンと鐘がなり、ピュリフィケイションの効果で地面が光り、神でも降臨しそうな雰囲気のなかアンデッド二体が泥臭い戦いをしている。

 それは戦いと称してもいいのだろうか。ヒーラーの一方的な蹂躙劇と言った方がいいのかも知れない。


 だがまだ剣聖は立っている。なんてしぶとい奴なのだろうか。


「これならどうだ! 右手からヒール、左手からエイド!」


 ダメ押しの回復魔法重ね掛け。


 ヒールの方は他の魔法でブーストされて凄まじい速度で腕を蝕むがエイドは元の効果がかなり低いので重傷には至らない。残ってさえいれば修復は可能だ。


 どれほど浄化空間で戦ったのか。

 延々とアンチヒールを掛け、ヒールを掛ける作業を繰り返しついにデュラハンは全身の鎧を砕き、動かなくなった。


「いっっってええええええええ!」


 はぁはぁと荒い呼吸を繰り返し汗が全身から噴出す。浄化空間は何て不快な空間なのだろうか。


 白骨化した右腕と筋肉が剥き出しの左腕をすぐさま治療し、全身を治療する。


 ついでにもう一度デュラハンの残骸を浄化した。


「アンチヒール。ふぅ、こいつが耐性持ってなくて助かったぜ」


 もしかしたら耐性を持っていたかも知れない。不死者に不死者を重ねるような変態だ。やけにしぶとかったのもそれなら頷ける。ならば無効化を持っていなくてと言った所だろうか。


 だが今は昇天しなかったことを喜ぼう。


 俺は可愛い相棒を呼び戻そう剣聖に背を向けたのだが……背後からガラガラと音がする。


 冗談であってくれと振り返ると、そこには何事もなかったかのように居座る変態の姿があった。


「嘘、だろ……?」


 クソ、もう手がない……それこそ消滅覚悟で全力のヒールをぶち込み続けるしか……

 不退転の覚悟で挑んだはずだった。でも、やぱりどこかでルスともっと旅をしたいと、もっとヒーラーライフを楽しみたいと、祈っていた。


 コロンッと骨がなる音がする。

 動くなルス。ダメだ。


「来るなぁああああ!」


 お前は折角強くなったんだ……生きろ。そして俺の分まで外の世界を楽しんでくれ。


 目を瞑り、覚悟を決めたのだがデュラハンは動かない。


「あの~悪いんじゃが、もう戦いは終わりじゃ」


「……へっ?」


 さっきまでの威圧感は鳴りを潜め、渋みのある爺口調でデュラハンが話し掛けてきた。


 俺の覚悟を返せ。


「だから、もう終わりじゃ。やっと正気を取り戻したわい」


「はぁ?」


「お主のおかげかの?よくワシを倒せたもんじゃわい」


「いや、待て。意味がわからないんだが」


「ワシは強い敵を求めて、求めすぎて不死になったんじゃがな?敵が弱すぎるせいでつまらなくて気が狂っておったと言うわけじゃ! わははははは!」


「ヒール」


「「ぎゃああああああ!!」」


「な、何するんじゃ!」


「いってえええ! アンチヒール。いや、なんかムカついて」


「なんてやつじゃ!」


「だって、あんた敵じゃん。なら問題ないよ。ピュリ」


「待って待って! ワシは錯乱しておっただけじゃ! ワシはもう不死じゃないんじゃ。そんな事されたら今度こそ消滅してしまう!」


「あぁん? どれどれ?」


名称:デュラハン

種族:不死者(ブレードマスター)


 あ、本当だ。名前と種族が変わってる。


「うわ、本当じゃん……」


「じゃろ? もうワシはか弱い剣聖と言うわけじゃ。優しくしておくれ?」


「ヒール」


「「ぎゃああああ!」」


「なんでじゃ!」


「いてて……アンチヒール。いや、気持ち悪いから昇天してもらうかと思って」


 なんともムカつく奴だ。何がか弱い剣聖だよ。剣聖ってだけでめちゃ強じゃねーか嘘つくなよ。


「まぁいいや。ルスー! もう大丈夫だ!」


カツカツと地面を鳴らしてルスがやってくる。


「この子がルスだ。戦友であり可愛い相棒だ。変な事をしたらまた浄化空間に叩きこむからな」


「ひょひょひょ。お爺ちゃんって呼んでおくれ」


 なんだこのエロ爺は。可愛いルスに変な事をするなと言ったばかりなのに。


「ブレ―」


「悪かった、悪かった! いいじゃろ少しくらい!」


 カランと骨を鳴らして頭を傾げる。

 その愛くるしさは穢れた大人の心を浄化する威力を備えている。


「ふおおおおおおおお!」


「ダメだ、やめろルス! お前は汚染されている!」


 俺の静止を素直に聞いて体を摺り寄せてきたルスのツルスベボデーが戦いで火照った体を癒していく。


「ふううううううう!」


 クソ……このスケベ爺も俺と似たようなタイプだと言うことか!


 こいつは強さを、俺は癒しを求め続けここにいる。


「はぁ、しかたねぇなもう会う事もないが達者で暮らせよ。それと俺達は出口を探してるんだが、教えてくれ」


「何を言うておる。袖振り合うも他生の縁と言うじゃろ。薄情なやつじゃわい」


「お前みたいなイカツイ鎧が闊歩してたら街も歩けねぇよ。しかも頭どうした」


「ワシは生前からこの鎧で街中どころか城を闊歩しておったわ。頭はどこかに失くしてきたわい!」


「堂々というな、恥じろ! 大事な兜を失くした自分を恥じろ!」


「ぐぅぅ!」


「そう言うわけだ。だからさっさと道を教えてくれ。後お前の心の穢れがルスに移ると困るから喋るな」


「……」


「おい、道」


「……」


「子供かよ!」

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