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第四話

 あのゴブリン戦で俺達の覚悟は決まった。

 

 強くなるために戦いを避けるのはやめると言うこと。そしてルスを進化させると言う事。

 スキル育成よろしく、俺は何かを育てるのが好きだ。だからルスの進化は素直に嬉しいし、何より楽しい。


「強くなるぞ、ルス!」


 俺は魔法の応用、ルスは進化。そのためにはどんどん戦う必要がある。

 そしてルスは骨なのに嗅覚が鋭いので次々に魔物を見つけてくる。


 ルスは声を出せないので魔物を見つけると骨の尻尾を後ろ足にぶつけてコツンと音を立てる。

 罠の場合は伏せだ。


 今回は音を立てたので魔物が居る。

 通路の陰から覗きこんで鑑定をする。


「初めての魔物だな」


種族:スパイダー


種族:オーク


 頭を撫でて爪にポイズンを掛ける。

 俺は基本ヒーラーなのでよっぽどじゃない限りは戦うつもりがない。ヒーラーにはヒーラーの戦いがあるからな。


 風のように飛び出したルスはボーンの頃よりも少しばかり機敏に動いている気がする。


 スパイダーは黒く人大の大蜘蛛でオークは棍棒を握った二足歩行の豚だ。


 俺は後方で待機し、いつでも魔法を飛ばせるようにしている。


 爪を緑に染めたルスが蜘蛛を引っかくが六本の足による防御は堅牢でダメージが通っていない。

 腹を見せて立ち上がった蜘蛛が糸イボから糸を吐き出しルスの足を絡め取るとオークがルスの肋骨にジャストボーンを決めた。肉がないからね。


「アンチヒール!」


 ビキビキと音を立てて罅の入った骨は次の瞬間には綺麗に修復されて元通りだ。


 チラっとルスが俺を見る。


「あぁわかった。アシッド」


 蜘蛛に毒が効くかはわからない。だから邪魔な足の防御を崩す。

 手から放たれた靄が蜘蛛を包み込むとシュウシュウと音が鳴り、蜘蛛がギチギチと牙を鳴らしている。


 靄が晴れると硬そうな蜘蛛の足は爛れ、ドロドロと溶けた鉄のようになっているように見える。

 だが放って置けばまた硬くなる可能性がある。


「ルス!」


 俺の掛け声に反応してルスは駆け出し、蜘蛛の足に爪を振るうと今度はしっかりと傷跡が付いている。

 よし、いいぞ!


 ルスは右へ左へとステップを交わしながらオークの攻撃を避け、牽制を入れつつ蜘蛛にもしっかりとダメージを与えている。


「いいぞー! ルスーやれやれー! やってしまえー! あ、アンチピュリフィケイション」


 俺は完全に観客だ。声援を送りながら支援を飛ばすのが俺の仕事。

 場はルスが支配している。ならばその演出効果を出すのがヒーラーだ。


 俺はルスが更に動きやすいように場を汚染した。


 気持ち程度ではあるがキレが出たように思える。勘違いかも知れないが。


 機敏に避けながらも八本ある足とオークの攻撃を完全に避け切るのは困難だ。


 蜘蛛の足がルスの骨に掠り傷を付ければアンチエイドを飛ばし、深い傷を入れられればアンチヒールで修復し、オークが鈍重ながらも中々のパワーで骨を砕けばペインヒールで欠損を治す。


 何度も何度も傷つき、そして癒す。

 既にオークはスタミナ切れをおこしており、もう殺してくれと言わんばかりに倒れこんでいる。


 だがルスは蜘蛛から目を離さない。この場にて危険なのはオークよりもこのトリッキーな蜘蛛だからだ。


 強力堅固な足、素早い動き、そして糸。これほどまでにやりにくい相手は居ない。


 じっとりと絡みつく空気が流れる。


 ルスがふりふりと尻尾を振っている。何かの合図か?そんな打ち合わせしてないぞ?


 困った、と瞬きをした瞬間ルスは決着を付けに出たのだろう。

 蜘蛛の腹にかぶりつき頭を振ってもがいている。


 だがそんな事をすれば……


 傷ついているとは言えまだ足はくっ付いたままだ。くの字に曲げられた八本の槍がルスの体を貫く。

 バキバキと音を鳴らし、肋骨を折り、背骨を切断する。


「ペインヒイイイイイイイイイル!」


 しかし蜘蛛も相当焦ったのだろう。ルスの体は骨で出来ており、骨密度(防御力)は低い。

 力いっぱい貫けば……


「ギギィ!」


 当然、自分の体を貫くことになる。


 ルスは一度体をバラバラに分解し、蜘蛛の抱擁から逃れると俺の所までバツが悪そうに歩いてくる。

よくわかってるじゃないか。


「ルス !なんて真似をするんだ!」


 ルスがどうしたら昇天するかは知らないが死ぬかもしれない。ゾンビだから痛みを感じるのかも知れないが骨に傷が付けばルスだって痛いのかも知れない。だから俺は傷が付いた瞬間に修復し、痛みをすぐさま消し去っているんだ。


「もうこんな事はするなよ」


 そういって頭を撫でれば手に擦りより、尻尾を元気に振っている。

 くぅぅ……! なんて可愛いんだ!


 だが甘い時間はまだ早い。

 オークが残っているからな。


「ルスさん、やっておしまいなさい!」


 ちょっとだけ興が乗った俺はどこぞの縮緬問屋のようにルスを嗾けるとルスはオークの首元を食いちぎった。


「お疲れ様」


 ツルスベヘッドを一撫でし、頭を抱えこむ。

 ひんやりとした骨の冷たさがちゃんと死んでいる事を実感させてくれる。


「じゃああれやっちゃいますか!」


 俺にはわからないのだがルスは魔石が埋まっている場所を探知できるようで的確に死体を掘り返して魔石を咥えてくる。


「わざわざ持ってこなくてもその場で食べちゃっていいんだぞ?」


 犬の習性なのかそれでもルスは俺の前に持ってきてお座りをするといいぞ、と声を掛けるまで待っている。


 ルスがぺろりと魔石を食べ終わりまたしても体を震わせている。

 魔物ってそんなに早く進化するものなのか? と言う疑問はあるがあれらが格上ならばそう言う事もあるのかも知れない。


 またしてもガラガラと崩れ去ったルスはすぐさま組みあがり、ツヤツヤが増しているように思える。


 名前:ルス

 種族:不死者(スケルトンウルフ)


 えっ?! スケルトン? ボーン、スカルと来てスケルトンなの?! 人間なの? 狼なの?

 俺は混乱した。魔法を使われたようだ……


 進化を終えたルスは一回り大きくなっていた。

 中型犬サイズだった体は今は秋田犬サイズの大型を越えた超大型サイズ。

 骨も最初の頃の二倍はあるだろうか?俺の腕くらいはありそうだ。


 しかし大きく強くなってもルスは俺の体にぴっとりと身を寄せてツルツルゴリゴリとマッサージ染みた愛情を示してくれる。


 なんちゅう可愛い生物なのだろうか。もうメロメロだよ!

 ごめんよぉ! こんなに可愛いのに戦わせちゃってごめんよぉ!

 でもそのおかげで怪我をする危険が減るなら問題ないよね?いいよね?ね?


 いい子いい子ぉ。とめちゃめちゃに可愛がりルスの進化を一頻り喜んだ。

 体が大きくなると今までと同じようには行かなくなるようで、慣らすのに付き合い俺はそれをしながら回復魔法を鍛えた。


 思ったよりも時間がかかってしまったが、回復魔法の腕も上昇し第二まで解放された。だがそれ以上に俺のダメージが大きすぎて辛い。


 解放されたのは第二回復魔法ヒール 第二解毒魔法キュア 第二浄化魔法ブレスの三つだ。

 基本一段階毎に三つが解放されるようだ。


「詳細鑑定:回復魔法」


 第二回復魔法ヒール(生者の重傷を癒す。死者に中程度のダメージを与える) 

 第二解毒魔法キュア(中毒を解毒する)

 第二浄化魔法ブレス(生者に祝福を与え、一定の間汚染を防ぐ)


 このくらい使えれば大抵は治癒する事ができるだろう。ブレスの使い道は良くわからないがそのうち使うこともあるだろうし何かと組み合わせたり応用できる可能性もあるので悲観的になる必要もない。


「もう大丈夫そうだな、そろそろ行こうか」


 ルスに臭いを探してもらい先へと進む。


 どちらへ向かっているかは任せているので進んでいるのか戻っているかはわからない。


 兎に角歩き続け、多くの魔物と戦った。


 名称:オーガ


 名称:ハイゴブリン


 名称:ハイオーク

 

 名称:ハイスパイダー


 わかるだろ? どんどん魔物が強くなってるんだよ。


 俺達は何度も死に掛けた。と言うか既に死んでいるので昇天しかけた。

 だがそこはアンデッド。逃げ回り、回復し続ける持久戦で俺達に勝てる存在などいない。


 何とも泥臭い戦いを乗り越え、日々寄り添って休みルスは三段階進化を越えた。


 これが俺自慢の今のルスだ!


 名称:ルス

 種族:デッドウルフ


 へへ、元から死んでるのにデッドだぜ? もうわけわかんねぇよ。


 体は超大型犬を越え人間の四倍はある巨体。あのツルスベホワイトボーンは真っ黒な骨に変わり禍々しくなってしまったがツルスベは変わらない。格好良さが増した、と言うべきだろう。


 そしてなんと、俺の陰に潜る事が可能になっていた!


 それはあくる日。

 進化を終えていつものように骨が組み上がる工程と同時に黒く染められて行く骨を見て驚いたのだがルスは立ち上がるとその巨体で俺に飛び込んできた。

 咄嗟に来る衝撃に身構えたのだがスルリと陰と一体化すると俺の陰に吸い込まれて行ったのだ。


「あの小さかったルスがこんなに大きくなっちまって…」


 そういって俺の体より太い爪をベシベシと叩く。


 ルスは強くなったよ? 置いていかないよね? と言う目で俺を見ている。


「置いていくわけないだろ! ルスウウウウ」


 ちゅっちゅとその巨体にキスをかまし、骨太な腕に絡みつく俺はタコだ。


 絶対一緒に行こうな。ずっと一緒だ。と約束を交わして歩き続け、今に至る。


 そしてそんな俺達は一際豪華な装飾が施された巨大な扉の前で足を止めている。


 どう見てもヤバイ。完全に外に向かうところか奥へ進んでいた。魔物達が強くなっていく時点でわかってはいたのだがルスが可愛かったので見てみない振りをしていた。ごめんなさい、言い訳しました。自由なヒーラーライフが楽しすぎて調子に乗ってました。


「なぁ、ルス」


 チラッと見ればルスもこちらを見ていた。

 絶対やばいよな。俺、ぶるっちまったぜ。

 プルプルと足と手が震えていたのだがそれを見たルスは尻尾を俺に絡ませるとその巨大になった頭蓋骨を摺り寄せてくる。


 へへっ。涙がでらぁ……

 そうだよな、お前だって怖いよな。野生なルスの方が敏感なはずだ…なのに俺は自分の事ばっかりで…

 それなのに俺を護るだって?おいおい、俺だってお前を護るよ。


 心は決まった俺がお前を生かしてやるぜ! ヒーラーは護られる事が多いが、護る事だって出来るって事を見せてやるよ。


「励ましてくれてありがとな。無茶はするなよ。即昇天しなければ俺が再生してやるからな。そんじゃ、行くか!」


 俺達は何者をも通さないと威圧すらしているその扉を開く。


 ゴゴゴ、と地を揺らし空気を振るわせて開かれた扉の先。そこに鎮座するは漆黒の大鎧。


 紋章が入り、先は既に擦り切れてボロボロになった赤マントを羽織り、肉厚な巨剣を支えにして座っている。


 だがその鎧に頭は……ない。

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