表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
サイノウナクシテナニヲエル?  作者: かたぽけ
2/2

「ぶぇっ、ぶぇっ」

「なんで君はそこまで愚かなんだ!」


詩音の言った言葉が明の胸に刺さる。


そんなこと明にもわかっていた。


怠惰でどうしようもない自分に、腹が立つ詩音の気持ちも理解していた。



それでも彼はこれ以上バレエを続ける気力がなかった。



-----------------回想---------------


3年前


「よし、準備完了っと!」


リュックを背負い、手提げバックを肩にかけ


「じゃあ母さん、俺行ってくる!」

そう明が呟くと明の母、相沢未夢が寝室からひょこりと顔を出す。


「明くん今日は気合い入ってるねえ~、失敗しないでね?」


「わーってるよ!そんじゃあね!」


「行ってらっしゃ~い」

引き戸をパシャンと閉めて明は走り出した。


今日は市内の小さなコンクールがあり、それに明はエントリーしている。

そのコンクールは高校生部門で33人がエントリーしていて、コンクール初心者が多かった。

しかし明は7回目のコンクール出場だった。

出場したコンクールはすべて予選敗退で、コンクールのレベルをどんどんさげた結果、このコンクールにたどり着いたのだ。

つまり明のレベルはどん底だった。


舞台劇場は走って10分。

まだ時間もあるし、かなりの近場にあるので走らなくてもいい距離なのだが・・

まるで幼稚園児のようだ。



「ついたぁぁあ!」

はぁはぁと息が荒くなる。

本番前なのに。バカである。


「よぉ、明!」

そんな彼に声をかけたのは明らかにバレエダンサーとは思えない金髪男子だった。

「おぉ、賢護!久し振りじゃねーか!」

夏川賢護。彼は明が月に1回通ってる教室の先輩である。

「おい、一応俺先輩だからな!?確かに敬語は要らねぇって言ったけどさあ・・・」

「まぁ、いいじゃねーか!んで?賢護もでんのか?」

「俺はでねえよ。妹の手伝いだってさ」

「そっか。あいつも出るんだった。お前も大変だな・・・」

「ホントだよ。あのバカ、化粧も着替えも一人で出来ねーから、兄貴の俺が面倒見てくれーってかあちゃんに言われてよ・・・」

賢護はため息をつきながら右手で頭をかく。

「お前の妹超頑固バカだし、挙げ句の果てに先生達に「おい!」とか平気で言いそうだしな。付き添い人がいないとそりゃ心配だよなー」と明がのんきに呟くと、



「誰が頑固バカだ、誰が!!!」

と明の後ろからデカイ声が聞こえる。


明が後ろを振り向くと、顔が赤くなっている夏川詩音の姿がそこにはあった。


「お、どこいってたんだ詩音。お兄ちゃん探してたんだぞ?」

「うるさいバカ兄貴!兄貴がどっかにいったから探してたんだぞ!」

全く違う。

夏川詩音が劇場に着いた後、すぐに「相澤明を探してくる!」といって劇場に走り抜けて迷子になったのである。

つまり、

「明を探して迷子になったんだろ。」

「ッツ!!!!」

詩音の顔がもっと赤くなる。

「なななななんで!私がコイツを探すわけないだろ!?なんでこんなド下手くそ野郎を私が探さなきゃいけないんだ!」

明の顔がムスッとした顔に変化する。

「おい、好き勝手言いやがってこの野郎!俺の方がお前より先輩なんだぞ!」

「はっ、先輩?君の何処が先輩だって?それに君も兄貴に敬語なしで喋っているじゃないか!」

「敬語とかの話じゃねーだろ!」と明がデカイ声を出す。


と、ここで明がおかしなことに気づく。

今日の舞台は中学生の部と高校生の部がある。

当時明は高校1年生で、詩音は中学2年生。

中学生は12時半から場当たり(舞台で行う場所確認のこと)で今の時間は12時。


ということは・ ・・


「それより夏川詩音。お前そろそろ準備しねーとまずいんじゃねぇのか?」

「?何を言ってる。私は君と一緒の部で後3時間くらいあるじゃないか。」

やっぱり。

「ちょっと待て。俺は確かに3時間後に本番だ。高校生の部。でもお前は中学生だよなあ?」

「え、中学生と高校生一緒の部じゃないの?」 

賢護がそう呟く。

「一緒じゃない!」

「うっっそおおおおん!」

賢護の顔が真っ青になる。

「おい、詩音!お前確かにこの時間だっつったよなあ!?」

「ああ、言った。実際そうじゃないのか?」

詩音はいまだに現状を理解していない。

「ちげーよ!ばか!中学生の部あるんじゃねーか!」

怒鳴りながら賢護は時計を見る。

「あと30分で場当たりじゃねーか!ほらバカ!急ぐぞ!」

「バカバカうるさいぞ兄貴!そんなにバカバカ言ってたら兄貴の方がバカになるんだからな!」

「いいから早くしろ!あーもう!」

賢護はそう言って、なかなか急ごうとしない詩音を担ぎ上げる。

「バ、バカ兄貴!おろせ!おーろーせー!」

「じゃあ、明頑張れよ!応援してるから!」

バタバタ動く詩音を無視しながら、賢護は明に軽く手を振る。

「おうよ、お前も詩音も頑張れよー」

そう言い放った瞬間、賢護は詩音を抱き上げながら猛スピードで走り抜けた。




エントリーシートの確認と着替えを済ました明は練習室へとはいる。

練習室は3、4人ほどしかいなく、十分に練習出来る広さだった。


ストレッチを終わらせた後、本格的に体を動かす。

今日の明はいつもより調子がよく、体が軽かった。

そして自信もあった。

今まで受けて来たコンクールすべてが上手くいかず、悔しくなり研究を重ね、実力も徐々についてきていた。

努力だって人一倍してきた。それは事実だ。


そんな彼が練習を終わらせ、楽屋に戻ろうと練習室をでる。

すると、

「あき君・・・?」

明の後ろからまた女性の声が聞こえる。

ただ詩音とは対照的な、優しい声だった。

明が後ろを振り向くと、金髪ショートカットの美少女の姿がそこにはあった。

「やっぱり・・・あき君だ・・・」

彼女は今にも泣きそうな声で呟く。

明が後ろを振り向くと、金髪ショートカットの美少女の姿がそこにはあった。

「やっぱり・・・あき君だ・・・」

彼女は今にも泣きそうな声で呟く。


何かに怯えながら。


「えっ」

今にも崩れそうな少女を見て、動揺しか生まれてこなかった。

何を言えば良いのか、どうして彼女が泣きそうなのか明は分からないまま、声を震わせながら呟く。

「えと、大丈夫?」

「えっ!?あ、はい!だ、大丈夫・・・」

一瞬明の声に大きく反応した後、悲しい顔で俯きながら彼女も呟く。

「そ、そうかな?全く大丈夫そうには見えないんだけど・・・。体調が悪いんだったら、舞台の係の人に言うけど。」

「あ、それは大丈夫!ゴメンね、変に心配かけて。」

「そっか、大丈夫ならよかった。あ、それよりさ」


「俺といつ、会ったのかな?」

「!?」

彼女に衝撃が走る。

「あのね、俺小さい頃の記憶がごっそり抜けてるんだよ」

それでねと明は続け、

「君は俺の名前を知ってたけど、俺は君の名前どころか君自身をそもそもしらないって事はそうなんじゃないかなって」

「何年前から・・・」

彼女は怯えながら明に問う。

「えと、俺が記憶を失ったのは・・・」


「8年前の事だから、俺が八歳のころかな」

「ッ!!」

彼女の体が大きく震える。

細くて綺麗な色をしている体から汗がドバドバ出ている。

顔色も生きている人間の色ではない。


「本当に大丈夫なの?凄い汗だよ?顔色も良くないし・・・」

明かに体調が悪い彼女に明は声をかける。


「ごめん、ゴメンね・・・」

大きく震えながら、小さな声で呟く。

その時だった。

「ちょ!?」


彼女の顔から大粒の涙がこぼれる。


「君舞台前だよね!?今泣いたら化粧落ちるよ!」

彼女は舞台に出る為のメイクを終わらせていた為、メイクが崩れてしまうとまた一からやらなくてはいけない。

しかも舞台メイクは普通のメイクより、約2倍時間がかかると言ってもいい。

いや、ホント面倒くさいからね!

「でも、だって・・・ぅう、ぶぇっ」

とても美少女から発せられる言葉ではない。

「ああ、泣くな!泣かないで!ストップ!ストーップ!」

「ぶぇっ、ぶぇっ、ぶぇっ、べっ」

最後に唾を飛ばす。

「きたねぇ!!」


ーーーーーーーーーーーーーうぇぇえぇぇえぇぇ


ジャー


「スッキリしました・・・」

「そっか。舞台前に吐くのはどうかと思うけどまあよかったな。」

明は椅子に座り込んだ、いかにも舞台で失敗してしまった人にしか見えない彼女の顔をみながら、

「それよりそろそろ顔をあげて会話してくれませんか」

「嫌です」

「なんで」

「顔を見たらまた吐くかも知れないので」

「うん、やめてくれ」

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ