出会い
この世の全てと無関係です。
―第6話、出会い
成田空港で出会った土井夫婦の隣に座り、いつの間にか夢の世界に旅立っていた私は流暢な日本語を話す少女に出会った。
目の前で笑っている少女は、ブカブカの大きなパイロット服を着ている。
「こ、こんにちは」
『ふふふ、可愛いな』
いや、君のほうが可愛いから。
少女は笑いながら私の手を握った。
まるで空みたいに澄んだ瞳が見つめてくる。
『君に会えて嬉しい』
可愛い女の子に言われて照れていると、彼女に手をひかれる。
誘われるままに足は動いて、部屋をすり抜け昔の外国の街みたいな場所に降り立った。
辺りは散乱し、昔の服を着た人々が溢れていて…まるで英雄が出ていたトルコの銀行CM舞台の救国戦争後みたいだ。
皆一様に薄汚れてはいたが、顔には希望が浮かんでいる。
その姿を見ながら、さっきまで空の上だったとかは夢の中では関係ないらしいことを考えた。
私の手を引きながら歩く少女のほうは周囲の変化なんて気にせず歩いて行く。
どこまで行くつもりなんだろう。
「○○!」
女の子の大声が聞こえてそちらを見た。
我が目を疑う。
スーツや軍服を着た男たちの集団がいた。
顔は皆よく見えない。
その中でもシルクハットを被り集団の先頭に立つ紳士に何かを頼み込んでいる少女は、今まさに私の手をひいている少女とそっくりである。
違いといえば服ぐらい。
紳士は頭を右にやや傾けて「アンラドゥム」と言った。
あちらの少女は飛び上がらんばかりに喜びで顔を輝かせて右の手のひらを胸におき、何度も「テシェキュルレル」と言っている。
まるで映画のワンシーンみたいだ。
まるでかの英雄と彼の八番目の養女が出会った瞬間だ。
『なんで貴女が泣いているのさ?』
「わ、わかんない、です、けどっ!」
『ほら、これで拭いて。』ハンカチで涙をごしごしとぬぐわれる。
「ありがとうございます、申し遅れました。私は高瀬栄子といいますっ。」
『いいってこと、私はサビハ・ギョクチェンさ!』
快活に笑う彼女はもう少女ではなく、大人の女性の姿をしていた。
ん?
サビハ…ギョクチェン……?
夢の中なのに目を見開いた。
興奮のあまり、思ったように言葉が出ない。
「えっ、ぁ」
『おっと、名残惜しいけどもう時間だ。また会おうね、エーコ!』
「ぁ、ギョクチェンさん!?」
唐突に手を離されバランスが崩れた。
足元がぐらつき必死に彼女へ手を伸ばす。
何かを掴んだと思ったらそれはさっきのハンカチだった。
意識が浮上すると隣の土井夫婦が心配そうに私を見ていた。
どうやらうなされていたようだ。
ずっと英雄とギョクチェンさんの名前を呼んでいたと、チャイを渡しながら土井夫人から言われて手にしていたハンカチを額にあてた。
…ハンカチ?
見ると、見事なオヤがついたハンカチを手にしていた。
夫人のものかと思ったが違うという。
夢の中でギョクチェンさんがくれたものに似ているが…?
首を傾げつつハンカチをしまった。
(ある娘の意図的な失敗
「あ、」
「どうした?」
「ハンカチを『あちら』の人に渡したまま返しちゃったのさ。どうしたらいいかな?」
「…はぁ」
「ま、アタシのアルカダシだから心配しないでよババ!」
「…珍しい、失敗だな」
「たまにはするさ」
意味深に笑う彼女の苗字は空という意味を持つ)