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ラーレと菊を飾りて貴方を想う  作者: ソメイヨシノ
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夢の中の少女

この世の全てと無関係です。


第5話、夢の中の少女

―成田

私は広い空港でパンフレットを片手に緊張と興奮で頭を抱えていた。

いかんせん飛行機なんて人生で2度しか乗ったことがないのだ。

一度目は高校時代の沖縄旅行で、風邪気味なのに無理をしたからかほとんど空港の記憶がない。

二度目は専門学校時代、強制的に海外研修として北欧にいったのだが団体行動だったからかヒヨコよろしく皆の後を着いていった記憶のみだ。

今回は完全なる個人旅行。頼れるのは自分のみ。

なにこの無理ゲー…、ゴクリとつばを飲み込み受け付けに行こうとしたら手帳を落とした人がいたので拾って渡す。

ここでイケメンだったら少女漫画の出会いシーンだろうが、落としたのは女性だ。

3年間の勤務で身につけた笑顔、顔面筋肉を駆使して言う。

「はい、どうぞ。」

「あらあら、ありがとうございます。」

優しそうな御婦人の笑顔に、強ばっていた顔面筋肉が本当に緩むのがわかる。

御婦人はやや初老に見えるが姿勢がよく、高校時代の恩師を思い出した。

茶道部の顧問だった恩師は長年の習慣で洋服を着ていても帯をしめているかのように姿勢がよかったのだ。「あれ、ひょっとしてトルコ共和国に行かれるのですか?」

御婦人が付けている王手旅行会社のワッペンにはトルコツアーと書かれている。土井さんと名乗られた御婦人は、旦那様が定年退職をされた記念に行けていなかった新婚旅行に行こうということになり様々な国を旅しているとのことだった。

元々外資系の会社勤務だったから御夫婦とも英語には不自由しないとの話しをしていた時に旦那様が来られる。

背が高く、スーツを着ていたらまだ企業戦士として通じるのではないだろうかと私が言うと照れ笑いをされる姿に和む。

まだ搭乗時間もあるため受け付けをしたら話しをしないかというお二人の提案に頷いた。

ツアーの皆様にも挨拶をすると和気あいあいとした雰囲気に対して受け付けに行く前に緊張がほぐれたからか比較的冷静に(しかしアタチュルク空港という単語に心踊らせ顔面崩壊直前になり受け付け嬢さんをドン引かせつつ)日本での最後の受け付けを済ませる。

後は搭乗時にチケットを見せるだけだ。

土井夫婦のところに戻ると同じ便で席も隣だとわかり安堵のため息をこっそりつく。

「イスタンブールのバザールに行ってみたくてね、ツアーを申し込んだのよ。だけど私たちは団体行動が苦手で、比較的自由行動があるツアーにしたの。栄子さんはどうして?」

「トルコの初代大統領ムスタファ・ケマル・アタチュルクが好きで、彼の痕跡をたどる旅をしたかったんです。ツアーだとマイナーすぎて動きづらいかなって。」

「確かにあまり有名では無いけれど、関連施設とかは今でも綺麗に整備されているよ」

旦那様からの耳寄り情報に心弾む。

「以前出張した時に出来た向こうでの友人がいてね、観光名所もだいたいつれ回されたんだ。」

メモ帳を取り出してお話を聞かせて頂いた。

歩きながらのメモは慣れているが、興奮のあまり字が震える。

搭乗口に歩いているとトルコ航空の機体が見えて鳥肌が立つのを感じた。

日本からトルコへは直行便で12時間15分の空旅となる。

「ヨウコソ、ターキッシュエアラインズヘ」

「ありがとうございます、よろしくお願いいたします!」

笑顔で出迎えてくれたキャビンアテンダントさんたちに笑顔で握手をする。

英語で何かを言われたがわからず、後から後ろで笑っていた旦那様に聞くとどうやら年齢を未成年に間違えられて心配されてしまったらしい。

訂正しておいたよとのことにお礼を言いつつ微妙な顔になってしまったのはしょうがないと思う。



今回は窓側の席を取れたので外の風景が見れるからワクワクしながら座る。

隣は土井夫婦だった。

長時間のフライトになるのでトイレ等は我慢しないようにというアドバイスをいただく。

「若いお嬢さんは言いづらいかもしれないが、我慢すると身体に悪いからね。あと、水分補給も忘れてはいけないよ?」

「わかりました。」

旦那様からの言葉に頷いた。

しばらくして機内放送が流れてシートベルトをしっかり固定する。

一瞬の浮遊感の後に私たちを乗せ、日本を飛び立った。

「ついにですね!!」

「ふふふ、楽しみだわ。あ、まず機内食がくるけど何がいいかしら」

「え、もうですか?」

確かに前のほうで配膳が始まっていた。

何がいいかなんてわからなくて、結局御婦人と同じものにしていただいた。

笑顔でコミュニケーションをとられている姿が眩しくてかっこいい。

「あらあら、またお肉ですか貴方は。」

「今回の健康診断は異常なしだったからいいじゃないか。それより栄子さん本当に家内と同じ魚で良かったのかい?」

「もちろんです。」

父が生きていたら母とこんな感じだったのかなぁ。

美味しい機内食を食べながらふと考えた。



「美味しかったわね」

「はいっ、お腹いっぱいで眠くなってしまいそうです。昨夜はほとんど寝てなくて…」

興奮のあまり徹夜した。

座席についているタッチパネルをいじると、現在地の地図が表示される。

見るとだいたい大陸に入ったあたりだった。

他の番組とかゲームはわからないしやめておいて地図で固定しておく。

「少し寝ておくといいわ。何かあったら起こしてあげるから。」

「長旅だからね。私たちも時間を見て寝るから気にしなくて大丈夫だ」

「ありがとうございます。」

言葉に甘えて目を閉じると、考えていたよりつかれていたのかすぐに意識が沈んでいった。





私は、誰もいない飛行機に乗っていた。

キョロキョロしても誰もいない。

怖くなって、座席を離れる。

あれだけいた土井夫婦を含めたツアー客や、他の乗客だけでなくキャビンアテンダントさんたちすら消えていた。

操縦席のほうへ向かうと機長席に少女が座っているほか副機長席にも誰もいない。

オートパイロットになっているのか機械は独りでに動いていた。

ふと、少女が振り向く。

『こんにちは』

にっこりと笑った彼女は意志の強そうな、ややつり目がちの異国の少女だったのにその口から出たのは日本だった。


(機内にて、ある夫妻

「あらあら、もう寝てしまったわ」

「早いな」

「よっぽど楽しみだったのね…」

「だが警戒心が無さすぎる気がするな」

「そうね。会ったばかりなのに私たちをこんなに信用してる」

「子どもはついぞ出来なかったが、娘とはこのようなものなのかな」

「ええ、きっと。」

)


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