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ラーレと菊を飾りて貴方を想う  作者: ソメイヨシノ
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旅の扉(高瀬さん初代トルコ共和国大統領を語る)

この世の全てに無関係です


第4話、旅の扉

電車に揺られながらトルコ語の勉強をする。

私、高瀬栄子はかの英雄その人が統一してくれてローマ字表記になっているトルコ語に頭を抱えていた。

実は旅の準備段階で兄がホテルを検索しながら、トルコ語の勉強はいいのかという的確なアドバイスをくれるまで言語問題に気づいていなかったのだ。

いや、浮かれすぎでしょう私。

学生時代の英語ですら赤点ギリギリで通過していた自分の言語能力に慌ててトルコ語の本を買っても付け焼き刃すぎるがやらないよりはいい。

スケッチブックに基本的な日常文章を書き込んできたので、向こうでのコミュニケーションは身振り手振り及びスケッチブックを指差しての筆談になりそうだ。

とはいっても、せっかくのトルコ。

挨拶ぐらいは現地の言葉、英雄の母国語でしたい。

…かの人の産まれた地は実は今のギリシャ、テッサロニキなんだけどそこは気にしないでおこう。

トルコ語の他にフランス語と英語と日本語とドイツ語等が出来たとも聞いたことあるし。

ペラリ、ページをめくり頭の中でトルコ語を繰り返す。

ちなみに、トルコ語の他にも英語の本と手製のスケッチブック(カンニングペーパー)も持ってきた。

空港でのやり取りは英語の筈だから。

…空港。

アタチュルク空港!

空を見上げて口角が上がるのを感じた。

ああ、私は今から、空を飛び、あの人の国に行けるのだ。

あの人…そう、ムスタファ・ケマル・アタチュルク初代トルコ共和国大統領の国に。

開いていた本の一文にたまたま記されていたその人の名前をなぞる。

私の頭に幼き日の出会いが浮かんだ。


…トルコの英雄を知ったのは、物心ついたころだったかつくまえだったかは覚えてはいない。

ただ、薄暗い兄の部屋にあった古い学習漫画だったことは確かだ。

自分が昔から家族に大切にされていたことは覚えているが、当時から母は自営業で忙しかったし、歳の離れた兄は学生であまり遊んでられなかった。

祖父母の家は遠かったし、ほかに親戚づきあいも少ない。

だからかあの頃はもっぱら一人で古い学習漫画を読むかテレビを見るかが日常であった。

それに近所には歳の近い子供はおらず、あのイギリスの番犬さんやアメリカの発明王、ボサボサ頭の大天才等が私の頭のなかでは友達として側にいたとは今考えると贅沢すぎて怒られそうな話しである。

そしてそんな友達の中でも煌めいて見えたのが…かの人だった。

現在のギリシャ・テッサロニキに産まれた「アリの息子のムスタファ」(当時のトルコには苗字が存在せず、このように呼ばれた。ムスタファとはムスリムではわりと一般的な名前であり「選ばれた者」という意味を持つ。)は、コーランばかり暗唱するという学校が嫌でユダヤ人の学長が作った西欧式の学校で学び特に数学と歴史が得意でスクスク育つも父が病気で亡くなり学校を辞めて母と共に親戚の家に身を寄せることとなる。

しかし、彼の母はムスリムとして宗教家になって欲しいと親戚に相談し親戚からの援助によりまた学校にいけることとなった。

だがしかし。

彼はこっそりと軍の幼年学校に応募して試験に合格してしまったのである。

母は怒ったものの、結局は許したのだ。

学校に入った彼は優秀な成績を修め、数学教師から「ケマル」(完璧な者という意味を持つ)という名前を貰う。(当時は恩師に名前を頂くのは名誉であり、行われていた。)

大学に入り、後にエンヴェルの「青年トルコ党」に合流する政治グループを作りつつ軍人として働くこととなる。

青年将校として部下を率いる立場となった彼は一人安全な場所にいるのではなく、前線に出て共に戦う軍人だったという。

彼は戦った。

しかし…母国は、かの栄華を極めたかつての大帝国は病んでいたのだ。

腐りきった上層部により国は西欧列強に食い物にされ、バラバラとなる運命にあった。

彼は立ち上がる。

容赦なく腐りきった上層部や旧体制の者を追い出し、政府を作った。

女性にも選挙権を与え働く場を与え、難しいムスリムの文字をローマ字表記に作り替えて学校で教えて識字率を上げた。

その頃には協議会から「アタチュルク」という名を、トルコの父という意味を持つ名前を送られることになる。

しかし…多くのことを成し遂げ惜しまれつつも57才で亡くなったのだ。


まあ、大人になった私は彼が杖のコレクターだったとか愛人が一杯いたとか酒好きで亡くなった原因も実はそうなのに医者に対して「私の死因はラク(トルコの酒)ではないと書くように」と言ったとか離婚歴があるとかいう闇の一面も知ってしまったのだが。

最低な人だけれど、でも好きで仕方がないのだ。




ふと、意識を戻すともうすぐ乗り換えの駅だった。

本をリュックにつめて、靴紐を直し歩き出す。

これであとは成田まで一本だ。

もうすぐ。

もうすぐ…

(電車内にて、高瀬さん不審者となる。

「お母さーん、あのお姉ちゃん一人で笑ってるよ?」「しっ、見ちゃいけません。」)


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