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ラーレと菊を飾りて貴方を想う  作者: ソメイヨシノ
14/15

言語習得

この世の全てと関係ありません。

なお、エンヴェルパシャのパシャとは日本で言うと名前の後ろにつく「○○さん」や「○○様」といった敬称になります

憧れの人からの手のひらぷにぷに攻撃(?)より逃れた私は呼吸を整えた。

「さっそく初恋の人に会えて良かったね。ふふふ…ババは猫好きだから気に入るとおもったのさ、エーコの肉球。」

「おもいっきり爆笑した後に爽やかに言われてもな」

「あはは、さっきから辛辣だねタケオ」

「少しは反省しないか。すまない、エーコ(の肉球)があまりにも(ぷにぷにしていて)素晴らしかったから(肉球ぷにぷにを)加減することが出来なかった。」

「大丈夫、栄子さん?」

「…(ただコクコク頷く)」

…私は元介護福祉士の高瀬栄子、とあるきっかけで三年働いた施設を辞めて幼い頃からの夢であったトルコ旅行に出かけその地で異世界トリップをした。

その異世界トリップした世界の名前は『ホーム』。様々な偉人たちの魂が、息づく世界だと渡り人のサビハさんは言った。

渡り人というのは異世界トリップを意識的にこなし様々な異世界を旅する人をいうらしい。

私にもその力があったとはサビハさんの推測だけど、と、自分の手のひらを見る。初恋の、とか本人の前で言わないで欲しいけどサビハさんに言っても多分無理かな…。

赤ちゃんの手やら大仏の手に例えられる手のひらでもお役にたてたなら嬉しいし。

…あれ?

「そういえば何故サビハさんは日本語を話せるのですか?」

ケマル先生はわかる。

彼は山田寅次郎さんが日本語教育をした世代だ。

土井夫婦は日本人だから言わずもがな。

でもサビハさんはどうなんだろうか?

聞いてみるとあっさり衝撃的なことを言われた。

「日本語なんて話せないよ。」

「…はい?」

いや、話してるよ?

よくわからないと思っていると彼女は首元についたネックレスを見せてくれた。

「とある渡り人の発明家が自動翻訳機を作ったのさ」

ファンタジーだった!

いや、SFかな?

自動翻訳機というネックレスは、小さな飛行機に青い宝石が装飾されているデザインでサビハさんにぴったりだ。

「素敵なデザインですねっ、宝石はラピスラズリですか?」

「そうなんだよ、らしいだろう?」

ウィンクされ頷く。

「あ、ケマル先生とご夫妻はどのような?」

わくわくしながら聞く。

異世界トリップの定番、よくわからないけど面白い道具にテンションが上がる。

そんな私に微笑みながら杖を見せてくれるケマル先生と指輪を見せてくれるご夫妻。

その笑顔、プライスレスぅうう!!

でも杖に指輪?

キョトンとしていると説明してくれた。

「自動翻訳機は身につけているだけで大丈夫だから形状に制約はないんだ。電話機能など付属させることが出来る為普及していて私のように杖にしたり、眼鏡のように携帯するものもいる。タケオたちのように渡り人の夫婦だと揃いの指輪も一般的だね。」

「凄いですっ!」

…あれ、一般的?

頭に浮かんだのは、この世界でのファーストコンタクト。

高圧的な軍人からの全く意味がわからなかった言語による尋問もどき。

もしもあれがゲームのチュートリアルだったならば批難必須なファーストコンタクトだ。

そう、エンヴェル・パシャ。

彼の言葉は全くわからなかったし、私の言葉もわかっていないようだった。

「ケマル先生、さっき私がここにきた時なのですが…」

「ん?」

「理解不能な言葉を使用する方、と出会ったのです。」

あの時、確かに言葉は翻訳されていなかった。

クスッと笑って名前がバラされてしまう。

「エンヴェルのことさ。」

「ああ、彼か。」

「「…」」

「あの頑固者は自動翻訳機を拒否してるのさ。ババが推奨しているからかな?」

静かに笑ったケマル先生に、思わずサビハさんを除いた私たち全員が無言になった。

空気重っ!

「そういえば栄子君、君にも自動翻訳機が必要だね。一般的なものであっても例外はいる。」

パッと話を切り替えてくださった旦那様、流石ですっ!!

旦那様に続くように奥様も、

「専門店に見に行きましょうか?」

と言って下さった。

そこまでご迷惑をかけるわけにはいかないと言ったら寂しそうな顔で視線が痛かったから頷くしかない。

「…そういえば自動翻訳機ならうちにあったが」

思い出したようにケマル先生が言われた。

「本当ですか!」

「ああ、サビハ。」

「え…」

え、サビハさんどんな反応?

驚いた後に何故か嬉しそうな顔になった彼女に不安が浮かぶ。

「あの、そこまでご迷惑をかけるわけには」

「いいからいいから!私とエーコの仲じゃないかっ。ふふん♪これが自動翻訳機さ、つけて」

シャリン…と控えめながらも美しい音色をしたそれに目を見開いた。

ブレスレットだ。

いや、ただのブレスレットではない。

何かの革とトルコ石や何かの装飾が施された華奢なブレスレットには、シャリンシャリンと動くたびになる鈴がついていた。一言で言えば、可愛らしいブレスレットだ。

サビハさんからケマル先生が受け取っている。

「つけてくれるかな?」

「はい喜んで!」

断るなんて浮かばない。

某居酒屋さんの返事をしていた。

…ああ、ケマル先生が目の前にいらっしゃる。

手を差し出されたならば手を重ねさせていただくしかない。

一生でただ一度の体験かと、その手のひらの感触を感じる。

さっき私の手のひらを揉まれていた時に温まったみたいで冷たさをあまり感じない。

真っ直ぐに見つめられ火照る頬をもてあます。

気付いたらブレスレットは左手首についていた。

あれ、パブロフ化してるような気がするよ?

「うんうん、やっぱり似合うじゃないか!」

満足そうなサビハさんに背中を叩かれてむせたら奥様が背中をさすってくださった。

「大丈夫?」

「はい、ありがとうございますっ。ケホッ」

「乱暴するな、軍人の君と彼女は違うんだぞ」

筋肉と贅肉の違いですねわかります。

遠い目になった。

「それにしてもエーコ、言語習得おめでとう。」

「あまり実感がわかないのですが…」

着けても体に痺れとか何も無かったし。

「直ぐに実感がわくさ。…住まいはエーコもタケオたちもここで大丈夫だろう、タケオたちもどうせあの家と関わりたくないだろうし。」

「すみません、お手数おかけして…」

「二人暮らしはこの屋敷に少なすぎたし丁度いいさ。あと、もう一人居候がいるんだけどよろしくね」

居候?と、私たちが首を傾げた時だった。

聞いたことのある声で怒鳴るその人が扉を開けてケマル先生につかみかかったのは。

「また渡り人とやらが現れたぞどうなっている貴様は本当に奴等と交流するのか胡散臭いにも程があるぞこちらの言葉もわからずうろつく奴等は民へどんな感情をもたらすか全く予想できないんだぞそもそも貴様の不甲斐ない(まつりごと)では………何故さっきの渡り人がここにいる!」

「え、エンヴェル・パシャ…」

あまりの勢いにたじろいだ私にサビハさんが一言。

「沸いたかな、実感。居候は彼ね」

前途多難すぎる

(その頃のどこかの商店)

「「お帰りなさいませ店長っ」」

「うん、ありがとう。」

「エンヴェルパシャに出会われ疲れたのでは…」

「それよりも商機の匂いがするんだ。直ぐに渡り人初心者コースを用意してっ」

「なんと!」

「異世界らしさ演出もするよ」

「「はい!」」

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