異世界へ
この世の全てと関係ありません。
実際のアタチュルク廟をイメージしてはいますが別物です、あしからず。
アタチュルク廟。
そこはトルコ共和国アンカラにある、トルコ共和国初代大統領ムスタファ・ケマル・アタチュルクのお墓兼博物館である。
ギリシャ建築の遺跡を思わせるそこの中心部には彼がいる棺(遺体は地下深くにあり、地上の棺はただの目印的なものである)と、回廊が博物館になっていて彼が生前愛用した物を展示している。
警備は軍が行っており、ここの担当になるには容姿端麗等の条件があるという。
訪れる観光客と記念撮影等もしてくれるとのこと。
お土産屋さんも入っていて、ラインナップは充実しているとヘレーネさんは教えてくれた。
しかし私の目的は建築様式等の学術的調査でも無ければ観光でもない。
入った時から感じる高揚感にも似た、どこか不安で落ち着かない気持ちのまま足を進めた。
そして、棺を視線の先に認めると自然と手を合わせた自分がいた。
「何故離れて手を合わせているの?」
「ぁ、なんとなくですが…」
「近くに行きなさい」
ばっさりと言われてまた足を進める。
…かの人は、霜が降ったような髪と灰色の瞳をもっていたという。
しかし棺はただの長方形の箱であり、何処かの国みたいに中が見えるようになんてなっていなかった。何かを感じるなんてことは無かったけれど、ただ見ていることが恐れおおく感じたのは確かだ。
建物内は綺麗に掃除され、少なくない人がいたけれど場所が場所ゆえにどこか静かだ。
「いらっしゃい、エイコ。こっちの回廊が博物館になっているわ」
後ろから聞こえた囁くような言葉に足を止める。
ヘレーネさんは前を歩いているから別人だ。
振り返っても誰も私を見ていない。
…空耳?
首を傾げながら回廊へゆくと、確かにそこは博物館になっていた。
写真や直筆の手紙、演説内容のコピー。写真は幼いころのものから亡くなるまでのものが揃っているものの、時代が時代だったせいか数は少なく感じた。
直筆手紙のなかには、かの有名な北の大国の独裁者へのものもあった。
実はムスタファ・ケマル・アタチュルクは、大統領となり政策実行の為の資金に頭を悩ませていた時にかの国からトルコへ多額のお金が援助されたという事実がある。
どういう経緯かはちょっと思い出せないが、理由の中に同郷だったとかなんとか…(曖昧)
演説内容は回廊のところにずらりと紙で展示されている。
うん、読めない。
ヘレーネさんも遠い目になりつつ私に通訳するかと聞いてくれたが首を横にふった。
「これ、何時間かかるかしら?」
「日の出から日没までかかっても難しいかと。」
「そうよね。さ、先に行きましょう。」
次に展示されていたのはコレクションしていたという杖。
なかでも目立つのは仕込み杖で、銃になっているものまである。
生前着用していたという軍服とスーツは流石に目立つように展示。
深緑の軍服は綺麗とはいいづらい状態だったが、それは彼が後方での指揮ではなく前線で戦い続けたからだろう。
周囲は気が気じゃなかっただろうな。
次に見たのはスーツで、シルクハット等の帽子や小道具まで展示されている。
…なんとなく、あの夢を思いだし苦笑した。
夢と似ているスーツ。
「エーコ、一人で何笑っているのよ」
「いえいえ。」
そして足を進めると、彼の家族に関する展示があった。
愛人関係についても書かれているなんて、日本じゃ考えられないな。
ちょっと遠い目になりながら見てゆくと、家族写真とともに名前が紹介されている。
奥様もいるのは当然なのに、ちょっとだけ苦しいのは勘違いだ。
その勘違いから目を反らすように子供たちを見た。
子供たちは皆養子で、サビハ・ギョクチェン氏によると養女しかいなかったとのこと。
戦死した友の子供を預かったりもしていたそうだ。
子供には、学校の成績をいつも聞くような厳しい父親だったとか。
…子供との会話がわからなくて、仕方なく学校の成績ばかり聞くことになったとかだと可愛い。
あと、厳しかったのは威厳ある父親を演じていたのではないかと思うし、『女の扱いは得意だけど娘の扱い方は初心者なんだ』とか言ってたら萌える。
家族からの贈り物まで飾ってあった。
食器やペン、成績表まであるのはちょっと展示した人考えてあげようよ。
国の施設に半永久的に飾られて不特定多数の人に自分の成績表が見られるなんて嫌に決まってる。
私だったらこの黒歴史を消し去りたい。
「あら、このハンカチ」
ヘレーネさんが声を上げた。
呼ばれて、そこを見るとガラスケースに一枚のハンカチが飾ってある。
オヤが施されたそのハンカチは、あのギョクチェンさんのハンカチに良く似ていて。
慌ててポケットからそのハンカチを出した。
回廊にふいていた風がやむ。恐る恐るハンカチをガラスケースに近づけてみた。
「これって!?」
同じハンカチ!?
「エーコ!」
「っ!?」
そのハンカチに引き寄せられるかのように、私の体は浮かび…目をきつく閉じた。
次の瞬間にはガタゴトと振動を感じて目を開けた。
時間なんてそんなに過ぎていないはずなのに、私は外にいて目の前には戦車。
「ぇ」
動いてる。
動いてる戦車!?
「!」
「え?」
「!」
何かを叫ばれて、そちらを見て……絶叫しそうになった。
だってそこにいたのは、
「!?」
「ぇ、エンヴェル・パシャ?」
かの英雄、ムスタファ・ケマル・アタチュルクのライバルがいたのだった。
(始動)
『…もういいわね』(キョロキョロ)
プルルル
『私だ』
『私よ。エーコが消えたわ』
『!』
『状況はこれから送るわ。…ねぇ、これって貴方達の事情に絡むことかしら』
『…』
『……いいけど。まあ、私の責任でもあるから手伝わせてちょうだい』
『君が?』
『おかしいかしら?』
『…君が関わるなんて珍しいと思ってね』
『そうかしら。ふふふ…それじゃあ、また後で』




