100万ボルトKiss
人々が暮らす平和な町に、甲高い声が響く。
「ほーっほっほっ、今からこの町はこの私……クチビル魔人が支配してあげるわ」
全身に怪しげなコードや配線をまとい、ちりちりパーマで唇が異様に厚ぼったい女が、朝の忙しい通勤途中の人々に向かって宣言した。
高笑いするクチビル魔人。その周囲に全身黒タイツの戦闘員が現れ奇声をあげる。
黒タイツの戦闘員が、近くにいたサラリーマンに襲い掛かろうとしたその時、突然、色違いの特殊な服を着た五人が、クチビル魔人たちの前に現れた。
「そこまでだ、怪人め!」
「ほっほほ、来たわねサンフラワーファイブ。今日こそはあなた達を倒してやるわ」
クチビル魔人は近くにいた戦闘員を引き寄せると、いきなり濃厚なキスをした。
「あばばばば!!」
稲妻のような光が周囲を照らし、痙攣していた戦闘員は体のあちこちから煙をあげて動かなくなった。
「ほほほほ、私の100万ボルトKissでおまえ達全員始末してやる」
クチビル魔人は肉厚の舌で己のぽってりとした唇を舐める。
赤い服を着たリーダーっぽい男が、怒りをこめた様子でクチビル魔人を指差した。
「おのれ怪人! キスとは本来神聖な物。それを命を奪うために使うとは……御仏は許してもこの私が許さん!」
「ほっほほ、青いわね。キスの経験あるのかしら?」
「キスならそこのピンクと散々やっている!」
「えっ、ちょっ、こんな所で」
ピンクがいきなりの暴露にうろたえる。
「お前らそういう関係だったの?」
「マジ?」
「……」
黄色と青が鳩が豆鉄砲を食らったような声を出し、緑は泣きながらどこかに走り去った。
「改めて言わせてもらう……怪人、お前は間違っている!」
赤の自信にあふれた断言。クチビル魔人は高笑いを止め、うつむいてしまった。
「……分かってるわよ」
クチビル魔人の口から搾り出すような声が聞こえる。
「そんな事は分かってるわよ! でも私のキスを受け止めてくれる人なんて居ないのよ!」
クチビル魔人の瞳からは、涙がとめどなくあふれていた。
「……ならば、俺が受け止めてやろう!」
「え?」
「は?」
「マジ?」
赤の男らしい宣言に、関係者は鳩が豆バズーカを食らったような顔をした。
一瞬戸惑ったような表情を見せたクチビル魔人がなにかを振り切るように叫ぶ。
「嘘よ! 男はいつもそう……威勢のいいのは言葉だけ」
「俺を信じろ! 俺は受け止めてみせる! この胸の愛に賭けて!」
「……キモイ! でもなぜか惹かれる!」
赤とくちびるはお互いに向かって走り、きつく抱き合って100万ボルトKiss。
白い光が何度もフラッシュ。赤の体が激しく痙攣した。
その様子を見ていたピンクがブルブル震えながら叫ぶ。
「浮気者おおおお! そっちがその気なら、私だって……!」
ピンクは呆然と閃光を眺めていた青の腰に低い態勢からタックル、棒きれのように地面に倒れた青の上でマウントポジションを取った。
「ちょっ、なにを……」
「私も浮気してやるー!」
ピンクは荒々しく自分の仮面を剥ぎ取る。中から現れたのは割れあごの周りで剃り残しが青く光るごっつい顔。
「ちょっ、待て、助け」
ピンクは青の仮面も剥ぎ取った。
「いや、待て、落ちつぶぶべばば」
ピンクの濃厚なくちづけに激しく痙攣する青。
そしてフラッシュの中痙攣を続ける赤。
混迷を深める現場を後にした黄色は、再就職先を求めてハローワークへと旅立つのであった。




