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俺、冒険者!~無双スキルは平面魔法~(WEB版)  作者: みそたくあん
第4章:戦国動乱編

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第90話~海は全てを受け入れる。ただし、優しくはない~

「皆!急速浮上するから荷物をその棚の中へ!ポールを出すからそれに掴まって!」


 壁面に棚を作り出し、船体の中心付近に直径5cm程のポールを数本作り出す。皆が棚に荷物を押し込んだのを確認して、その口を平面で塞ぐ。荷物が飛び出すと危ないからな。


「な、何も見えませんわ!なんですの、この魚の群れは!?」


「さ、流石に多過ぎるみゃ!食べきれないみゃ!」


「っ!?右から何か来る!でかい!ポールに掴まって!」


 衝撃!

 俺の平面を破れる程ではないが、身体が浮くくらいの勢いで何かが潜水艦もどきに追突した!

 船体がシェイカーのようにかき回される!


「きゃあぁーっ!?」


「くぅっ!?なんだってんだよ!?」


「喋らない方がいい、舌を噛むよ!もうすぐ海上に出るから、それまで辛抱して!!」


 船体前方の重力フィールドを思いっきりマイナスに振って、潜水艦もどきを上に落下(・・・・)させる。同時に平面を上に移動させるように力を加え、加速に加速を重ねる。


 盛大に水飛沫を上げつつ垂直に近い角度で海面へ飛び出した潜水艦もどきを、そのまま海上20m程まで上昇させてから水平へ戻す。その動きを見ている者がいたら、まるで潜水艦からの弾道ミサイル発射シーンのように見えた事だろう。飛び出してきたのはミサイルじゃなくて潜水艦そのものだったりするわけだが。


 いやぁ、ひどい目に遭った。ほんと、海は何が起こるか分からないな。

 ようやく人心地ついて、上から海を見下ろす。


 海上は海鳥やそれに近い鳥型の魔物が飛び交い、海面はイルカのような魔物やサメの魔物がバシャバシャと跳ねまわっている。時折見える大きな尾鰭と泡のリングはクジラだろう。さっきぶつかってきたのも多分クジラだ。正確には『クジラの様な魔物』だろうか。いやはや、ものすごい賑わいだ。まるでお祭りだな。


 そのお祭り騒ぎの海を上から見ると、全体が真っ黒で青くない。大体東西1km、南北2kmくらいの範囲で、海の色が黒くなっている。これ全部イワシ?

 海が黒く見えるくらいのイワシの群れが北から南へ移動中で、イルカやクジラ達はそれを食べるために集まっているのだ。


 そして、そのイワシの群れのさらに北、ここから約3km程先に白い島が見える。それ程標高の高くない白い山を持つ、おそらくは南北に細長い島。上空を海鳥たちが飛び交うその島こそ、伝説の超巨獣『ロングアイランド』で間違いない。



 時間はキッカの両親のお墓参り直後まで戻る。


 降り出した雨は次第に勢いを増し、やがて本降りを通り越して土砂降りへと変わった。視界は100mも無い。まるでスコールのようだ。風がほとんど無いのが救いか。

もっとも、海中を航行中の俺達にはあまり関係ないが。


 今回の移動のアシは、紡錘形の潜水艦もどきだ。非常にシンプルな形状で、縫い針の両端を尖らせたようなフォルムをしている。

 本当はUボートを作りたかったのだが、いかんせん、朧げにしか覚えてなかったので再現出来なかった。実際のUボートはバリエーションも多かったしな。


 サイズは全長約30m、直径約4mと、かなり大きめに作ってある。これは酸欠対策の為だ。船体が大きければそれだけ船内の空気が多くなり、長時間海中に潜る事が可能になる。もちろん、海上に吸排気筒を出して換気しながら航行する事も可能だが、今は交易の盛んな冬季。海上を行き交う船に見られると面倒な事になるかもしれない。余計なトラブルは避けるに越したことはないから、出来る限り潜航して移動する事にした。といっても、1時間おきぐらいに換気の為に浮上する事にはなるんだけど。


 このサイズともなると、生じる浮力はかなり大きい。沈めるために使う魔力も馬鹿にならない。以前作った飛行機のときは浮力を得るために腐心したが、今回は浮力に逆らうために苦労する事になったわけだ。なかなか世の中ままならない。

 結局、船体の前後に重力フィールドを発生させる事で解決した。させた。多少強引な気もするが、意外にこれが最適解かもしれない。前方の重力フィールドを調整する事でスムーズな潜航・上昇が出来るし、重力の向きを変えるだけで細かい操船も可能だ。やっぱシンプル・イズ・ザ・ベストだな。


「はい、ビート様。ぬるくて申し訳ないですけど。」


「ありがとう、ルカ。」


 船体の前方で操船している俺に、ルカが水を持ってきてくれた。小さな樽に入っていたままの常温だが、一口飲むと僅かに爽やかなハーブの香りがする。ミントっぽい。少しでも美味しく飲めるように工夫してくれたのだろう。流石は元宿屋の娘、気遣いが上手い。

 お礼を言うと、いつもの微笑みではない、にっこりとした笑顔を返してくれた。うぬぅ、美人の笑顔は反則だな。破壊力が半端ない。某芸人なら『惚れてまうやろ!』と叫んでしまうところだ。

 美人で巨乳で気遣い出来るとか、ある意味彼女も完璧超人だな。クロスボンバーで俺の仮面(マスク)も狩り取られてしまいそうだ。オッサンの素顔が曝け出されてしまう。


 現在、潜水艦もどきは時速80km程で海岸沿いを北上中だ。


 センナ村以北の海岸線は『岩礁、時々砂浜』という感じらしいのだが、逆に海中は『砂地、偶に岩礁』という感じだった。所々海藻が茂っており、小魚の住処になっている。

 水深は浅い所で3m程。沖に向かって少しずつ深くなっており、砂地から岩場へ変わっていく。岸から200m程離れたあたりになると岩場だけになっており、そこからは急激に深く落ち込んでいる。カケアガリという奴だな。

 カケアガリには根魚がついており、結構魚影が濃い。少し強めの気配は海棲の魔物か?それなりの数が居るようだ。まぁ、俺達の脅威になる程じゃない。

 潜水艦もどきは、だいたい深さ10m程をこのカケアガリに沿って進んでいる。あまり深く潜ると暗くて視界が確保できないからな。いざとなればライトを点けてどうにかするけど。


 簡易の操縦席に座って操船中の俺の後ろでは、皆がめいめいに海中散歩を楽しんでいる。


「はぁ~、海の中っちゅうんはこないになっとったんやなぁ。長いこと海辺に棲んどったけど、こんなん初めて見たわ。」


「絶景ですわ!このような風景、普通に生きていては到底見られるものではありませんわ!やはりこれは運命!わたくしとビート様との出会いは必然であると確信、いえ、追認しましたわ!」


「おお~っ!上のあれ、船の底だよな!あんな風になってんのか!へぇ~。」


「うみゃあぁ~、お魚いっぱいだみゃあぁ~。」


「…きれい。」


 この潜水艦は、底面以外は全て透明の材質で作ってある。俺の気配察知では地形が分からないので、航行は目視で行うしかない。その視界確保の為なのだが、おかげで皆も海中の様子がよく見えるというわけだ。海遊館や八景島の水中トンネルみたいなもんだな。


 アーニャなどは、壁面に顔を押し付けんばかりにへばりついている。その視線の先に居るのは、カケアガリに着く根魚達。垂れた涎が滝のようだ。今夜は魚料理じゃないと納得しなさそうだな。

 サマンサが指差した先には大型の帆船が浮いている。船の向きからするとドルトン行きのようだが、航跡が出ていないところを見ると停泊中なのだろう。豪雨が過ぎるまで無理をしないって事かな。堅実そうで何より。

 デイジーは、その雨が降り注ぐ水面を見上げている。大の字に寝転がって。ちゃっかり毛布も敷いている。

 デイジーは時々行動が大胆というか、意表を突かれる事が有る。ちょっと不思議ちゃんが入ってる感じだ。見てて不快になったり、周りに迷惑を掛けるような事はないから、直させるつもりはないんだけど。個性って事で問題ないだろう。



 その日の夕方に雨はあがり、無事この日の目的地、ボーダーセッツ河の河口近くの村、セッテ村に到着した。旅は順調だ。



「爺様が言うには、もう海の水もかなり冷たくなってきたから、そろそろロングアイランドが来るんじゃねぇかって話だ。」


 セッテ村に一軒しかない宿屋兼呑み屋。そこでの泊まりの受付を終えた俺達は、食事がてら情報収集をする事にした。とはいえ、何かを求めての事ではない。地元の人達と仲良くなって、その土地の美味しい食べ物やマイナーな観光地の情報を教えてもらえればという程度のものだ。折角の旅なのだから、楽しめるところは楽しまないと。

 そうして呑み屋になっている食事スペースで漁師っぽいオッチャンに話しかけたところ、そんな情報が出てきたというわけだ。


 ロングアイランドというと、以前タマラさんが言ってた馬鹿でかい海の魔物だな?なんでも餌を追い求めて年に一度回遊してくるという、推定全長1.5kmの超巨獣。

 これは見たい!ファンタジーでもここまでの巨大生物はそうそう出てこない。毎年見られるなら有難味はそれ程でもないだろうが、俺は見るのは初めてだ。非常に興味がある。


「うちは遠目に見た事あるけど、なんや鳥が飛んでるなぁくらいしか分からんかったわ。近くで見れるんやったら見てみたいかな?」


「ちょっと怖ェけど、見てみたい気はするかな。」


「でっかい魚かみゃ!?絶対見るみゃ!!」


「…行く。」


「あらあら、そんなに凄いなら一度は見てみたいですね。」


「ビート様となら、たとえ地獄の果てだろうとご一緒致しますわ!!」


 そんな感じで、もう近くまで来ていると思われるロングアイランドを見に行く事にした。そしてクリステラは相変わらず重い。誰と一緒だろうと地獄には行きたくない。


 余談になるが、この日の夕食は近海で取れた魚の塩焼きだった。サバみたいな青魚。脂がのってて美味しいんだけど、やっぱご飯と一緒に喰いたいなぁ。芋やパンじゃ微妙に合わない。あと、醤油も是非。旅の途中で見つからないかな。



 翌朝、朝食を済ませた俺達は、少し南下してから海に潜った。ボーダーセッツ河の近辺は船の往来が多く、人目につき易かったからだ。

 その後昨日と同じように北上していくと、何やら妙な事になっているのに気が付いた。いや、現在進行形で妙な事になり続けている。

 海の中は意外にも結構魚影が濃いのだが、徐々にその密度が上がってきているのだ。気配察知はちゃんと使っていたのだが、その気配があまりにも小さかったために目視できるまで気付けなかった。どうやらイワシの群れらしい。イナゴより気配が小さいとは、流石は弱い魚と書いて(イワシ)だ。


「これは…イワシかな?なんか増えてきたね。」


「うみゃ!こいつらはこいつらで、丸ごと塩焼きにすると美味しいみゃ!丸かぶりみゃ!」


「あらあら、こんなに沢山。オイル煮にしてもいいわね。獲れたてなら切り身を軽く(あぶ)るだけでもいいかも。」


 等と、暢気に会話していられたのは僅かな時間だった。次第に密度を増したイワシの群れは視界を埋め尽くす程になり、やがて周囲の全てがイワシで埋まってしまった。右も左も上も下も、何処を向いてもイワシ、イワシ、イワシ。


「こ、これは流石に穏やかではありませんわね!一体なんなんですの!?」


「ぼ、坊ちゃん、これは大丈夫なのか?なんかヤバくないか!?」


「なんや、うち、嫌な予感がするんやけど!?」


「…きれい。」


 皆の顔に不安が浮かぶ。約一名は平常運転だが。また寝転がってるし。


 いや、そんな事言ってる場合じゃない!正直、不味い!超危険だ!

 イワシの群れはベシベシと潜水艦もどきにぶつかっている。次から次へと、いつになったら終わるのか見当もつかない。


 俺の平面魔法は強力だが、唯一と言ってもいい弱点がこういう断続的な攻撃だ。イワシ達にその気はないのだろうが、ぶつかる度に平面の耐久性が落ちている。今は魔力を注ぎ足して維持しているが、注いだ端から消費されている状況だ。この調子では、そう長くは持たない。俺の魔力が切れたら平面は解除され、皆は水深10m程の海に投げ出されてしまう。そうなったらきっと無事では済まない。早くこの状況から脱出しなければ!


「皆!急速浮上するから荷物をその棚の中へ!ポールを出すからそれに掴まって!」


 弱い魚のくせに、なかなかやってくれる。



 そして現在。


 ひとまず危機を脱した俺達は、そのままロングアイランドに接近してみることにした。もう潜水艦の耐久力は元に戻っている。また不測の事態があっても、一撃くらいなら何とかなるはずだ。多分。



 徐々に視界に入るロングアイランドが大きくなって来る。気配察知の範囲に入ってわかったが、これは凄い。これほどまでに強い気配の持ち主は初めてだ。はっきり言って桁が違う。普通の人間の魔力量が御猪口だとしたら、鍛えた魔法使いが大ジョッキ、俺がドラム缶くらいだが、ロングアイランドは輸送コンテナくらいある。まさに桁違い。まぁ、戦っても負ける気はしないが。デカすぎて死角多そうだしな。


 ロングアイランドまで200mほどの距離にまで近づく。やはり思っていた通り、クジラの魔物のようだ。上空から見下ろせば、海中に沈んでいるその巨体がシルエットで浮かび上がっている。この頭の形はシロナガスクジラかな?マッコウクジラじゃないだろう。


「はぁ~、これはでっかいなぁ。それ以外に感想が出てけぇへんわ。」


「マジかよ…デカすぎだろ?」


「…大きい。」


 俺の中のオッサンがニヤニヤするような感想を皆が言ってくれる。いやらしい。いや、そういう意味じゃないのは分かっているが、オッサンだからしょうがない。


 更に近づいて確認しようと、高度を落としたその時だった。

 海中からバスケットボール大の水の塊が突如生まれ、それが潜水艦もどきにぶつかって水飛沫を周囲に撒き散らした。


 あれ、今のって攻撃魔法じゃね?


「敵襲ですわ!みなさん、警戒を!」


「どこから!?魔法が使える魔物は強敵だぜ!?」


「あらあら。あそこ、ロングアイランドの背中の上に何か居ますね。あれじゃないかしら?」


 ルカの指差した先、そこにいる魔物…いや、魔族は腕を組んでこちらを睨んでいた。そしてこちらへ向かってこう言い放った。


≪寄るな、人間ども!先程のは警告だ!それ以上ヌシ様に近づくようなら、我が一族が全力でもって排除する!≫


 すると周囲の海面からいくつもの頭が現れ、こちらを警戒するように見上げてくる。そのうち数体はロングアイランドの背中へと登っていく。

 体長は180cm弱、人間によく似た上半身と、イルカに似た下半身を持つ魔物…それは海棲魔族の一種、所謂人魚だった。


 うおぉっ!ファンタジーのメジャーリーガー来たぁっ!?

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