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俺、冒険者!~無双スキルは平面魔法~(WEB版)  作者: みそたくあん
第3章:中級冒険者編

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第78話~あっちもこっちも色々あったという事か~

 その日のうちに公爵が暫定的に王権を代行する事が決定し、停戦命令の撤回を伝える急使が各戦線に送られた。多少の混乱はあるかもしれないが、村長なら上手くまとめるだろう。向こうからもジャーキンの計画の報告書は送られてるだろうし。

 正式な即位は前国王と王太子の葬儀が行われてからというから、少なくとも俺達が王都に居る間には行われないだろう。戴冠式ともなれば王都中がお祭り騒ぎになるだろうに、それに参加できないのはちょっと残念だ。


 ブランドンの葬儀は行われない事になった。表向きは『国王と王太子の急死による心労から、政務を熟す事が出来ない程体調を崩し、地方で病気療養のため隠棲する』という事になった。死んだ事すら明かされない。まだ国民にはクーデターの事は知られてないから、これでいいのだろう。王家の醜聞をわざわざ広める必要は無い。


 アンジェリータにはブランドンを殺害した容疑が掛けられ、その親であるミノス子爵にも捕縛命令が出た。動機や手段に疑問はあるものの、クーデターを起こした主犯のひとりという事は間違いないため、そのまま極刑が決まりそうだ。ただし公開処刑ではなく、人知れず闇に葬られる事になるが。村長からの報告書が届けば、それは確定事項になるはずだ。小悪党にふさわしい最期かもしれない。


 不本意なクーデターに加担させられた第2騎士団だが、正当な継承権を持つ公爵を担ぎ出した事で処分を免れそうだ。あの騎士、結構なやり手かもしれん。注意しよう。


 以上が今日までの王都の状況、王城にカメラを張り付けて情報収集した結果だ。もちろん潜入なんてしてない。折角身バレせずに済んだのに、わざわざ怪しまれに行く必要なんか無い。


 それに、もう王都ともお別れだ。今日はドルトン行きの船が出る日だからな。俺達は既に荷物を船室に積み込んで、出航間近の甲板から王都の街並みを見ているところだ。


 帰りの船は予定より1日遅く出る事になった。国王と王太子が亡くなった事で国中が1日喪に服していたため、出航の準備が遅れたのだ。まぁ、俺としてものんびり休めて助かった。折角の王都なのに、最初の4日は全然ゆっくり出来なかったからな。予定外の遠出になったチトの街もほとんど見てないし、塩の谷なんて上から見下ろしただけだった。今度ゆっくり探検しに行こう。


 はぁ、本当に色々あったな、この王都行では。もしかしたら俺にとっては鬼門なのかもしれん。いや、別に何も失ってないから、鬼門は言い過ぎか。ただ疲れただけだ。やはり人の多い所はもめ事も多くなるという事か。田舎は穏やかで…あれ?そんなに穏やかではなかったかも?俺にとってはいつも通りなのか?


 お風呂は予定通り?全員と一回ずつ入った。日数と人数が合わないが、それは朝と夜、1日に2回入るという荒業で押し切られてしまった。

 お湯を運んできた宿の使用人のひとりが、ボソッと『もげろ…。』と漏らしていたのが耳に痛かった。

 ちゃうねん、いや、違わんけど、ちゃうねん!


 錨が巻き上げられ、船の帆が風を受けて大きく膨らむ。岸壁に少し側面を擦りながら、船が港から沖へと動き出す。

 さらば王都、次はのんびりと!割と切実に!



 はい、ドルトンに帰着しました。何事も無く。

 行きに比べると遥かに順調な航海だった。風も常時追い風で、海賊も海の魔獣も凪も時化(しけ)も無し。これぞ順風満帆、世はなべて事も無しってヤツだな。やっぱり平和が一番。


 トネリコさんにお願いしていた荷物を館まで運んでもらうように手配し、俺達は依頼達成証明を貰って船を下りる。岸壁に続く梯子を下り、石畳の地面に足を着けると、ようやく帰ってきた事を実感した。やっぱり家が一番ね。まだ帰り着いてないけど。


 その足でギルドに向かい、依頼の達成報告をする。この護衛依頼で、俺とクリステラの護衛のランクが星ふたつに、ルカとキッカも星ひとつになった。護衛依頼は日数もしくは距離でポイントが加算されるらしく、今回の様な遠出で往復の依頼だと溜まるポイントが多いのだそうだ。これはいい、王都行きの依頼はポイント稼ぎに最適だな。でも海賊を退治してしまったから、もう船の護衛依頼は出ないかもしれない。残念。



 ドアを開けると同時に飛び掛かってきたウーちゃんを身体強化で受け止める。きっと来るだろうと思って待ち構えてたから、クリステラの時の様に押し倒されたりはしない。俺も学習するのだ。

 キュンキュンと鳴きながら、俺の顔をペロペロ舐めまくるウーちゃん。よしよし、寂しかったんだよな。頭や背中を撫でて落ち着かせていると、遅れてサマンサとデイジーが迎えに出てきた。酷く疲れた顔で。ふたりの背後にオドロ縄が見えそうだ。


「ただいま。何か疲れてるみたいだけど、どうしたの?」


「おかえり、坊ちゃん。…いや、坊ちゃんの凄さを思い知らされただけさ。」


「…おかえり。若が帰ってきてくれてすごくうれしい。」


 どうも要領を得ないな。俺が居ない事で何か問題があったのか?

 リビングに場所を移してふたりに話を聞くと、どうやらウーちゃん絡みの事らしい。まさか誰か襲っちゃったか!?と思ったが、そうではないようだ。


 問題は俺達が依頼に出てすぐ、その日の夕方に起きたそうだ。

 サマンサがウーちゃんに革のリードを着けて日課の散歩に連れ出したところ、東門を抜けたところでいきなりウーちゃんが全力疾走を始めたらしい。体躯の大きなウーちゃんだから、サマンサは半ば引きずられる形になり、ついには耐えきれずにリードを手離してしまったそうだ。そして、制止するサマンサの声を無視して、ウーちゃんは暗闇の森へと消えたのだという。

 まだ身体強化を覚えてない自分だけでは森に近づけず、仕方なく館に戻ってデイジーと相談し、森へ捜索に行ったそうだ。このまま見つからなかったら俺に合わせる顔が無いという事で、暗くて見えなくなるギリギリまで探したが、その日は結局見つける事は出来なかったそうだ。

 翌朝、明るくなると同時に森へ向かうと、丁度森から出てくるウーちゃんと出会ったそうだ。ウーちゃんは猪の魔物を口に咥え、全身泥だらけで顔は血だらけという状態だったらしい。とにかく見つかって安堵したが、このままでは館の中に入れられないという事で、裏の井戸で洗う事にしたそうだ。しかし、ここでも問題が起きたらしい。

 身体を洗うまでは大人しかったウーちゃんだが、水を拭いとる前に逃げ出し、そのまま館の中へ入ってそこら中を水浸しにしてしまったそうだ。流石に怒ったサマンサがウーちゃんを叱りつけると、ウーちゃんは牙を剥いて威嚇してきたそうだ。普段は大人しいと言えど、ウーちゃんは草原狼、歴とした魔獣だ。生身で身体強化も使えないサマンサとの力の差は歴然で、一瞬命の危険を感じた程だったという。

 それならという事で身体強化を使えるデイジーが叱りつけたのだが、ウーちゃんはまるっきり無視で全く反省の様子がなかったらしい。

 そういった事が俺が居ない間に3回起こって、その度に部屋の片づけや森への捜索を行わなければならず、ふたりともほとほと疲れ果ててしまったそうだ。


 あー、これはあれだな、群れの中での序列問題だ。

 犬科の動物は群れを作る事が多いが、その群れの中には厳格な序列が存在している。集団で狩りを行う事が多いため、命令系統を明確にするためらしい。

 ウーちゃんにとって、俺と仲間達が群れのメンバーである事は間違いない。そしてデイジーとサマンサは、ウーちゃんにとって下位者だという事だ。

 序列が下位の者は、守る対象ではあっても命令を聞かなければならない相手ではない。威嚇したのは『目上に対してその態度はなんなの!?』という教育、無視したのは『子供がじゃれついてきてるけど、あたしは大人だから気にしないわ』という余裕だったのだろう。猪の魔物を狩ってきたのは『ボス(俺)が居ない間はあたしがみんなを食べさせないとね』という事だと思われる。


「うーん、理由は分かったけど、これは直ぐに解決できることじゃないなぁ。」


「そうなのか?アタイ、このまま舐められっぱなしなのか?」


 サマンサの情けない顔は珍しいが、レアものを喜んでいい場面じゃないので自重しておく。一応SSをテクスチャとして保存しておくけど。

 序列を再認識させるには、とにかく自分が強い事、上位者である事を理解させるしかない。しかし力ずくでは単に敵対者と認識されるかもしれないため、あくまで普段の生活の中で力量差を見せつけるしかないのだ。


「でも困ったな。ウーちゃんにとっての上位者が居なかったら、留守番の時にまた同じ事が起こるかもしれない。」


「マジかよ!勘弁してくれ…。」


「…若のいけず。」


 サマンサがテーブルに突っ伏し、デイジーはジト目で俺を見つめる。なんで俺?

 ウーちゃんはというと、そんなふたりの抗議はどこ吹く風で、いつものように俺の足元で丸くなっている。


 とりあえず、現状でウーちゃんにとっての上位者は誰なのかを確認しておかないと。方法は簡単。皆で離れた所からウーちゃんを呼び、ウーちゃんが反応するかどうかを見るだけだ。

 結果、ウーちゃんにとっての上位者は俺とクリステラ、ルカだけだった。他の4人が呼んでも、顔を上げる以上の反応はなかった。

 やっぱ魔力の強さを感じてるっぽいな。俺とクリステラはウーちゃんより魔力量が多いし、ルカは餌を与えてくれるから上位者なんだろう。やはり胃袋を掴むと強い。他の4人はまだまだ魔力量が少ないから、ウーちゃんは自分より下位だと思ってるんだろうな。


「うちも舐められてるんか…ショックやわ。」


「アタシもだみゃ。仲間だと思ってたのにみゃぁ。」


「こればかりは本能だからどうしようもないよ。でも、魔力が上がれば自然という事を聞いてくれるようになると思うよ。地道に鍛えるしかないね。」


 落ち込むキッカとアーニャにフォローを入れる。これがモチベーションになって、魔法の鍛錬に身が入ってくれたらいいんだけど。


 相変わらず足元で丸くなっているウーちゃんの耳を右手だけでモフる。気持ち良さそうに目を閉じて、俺の足に頭を擦りつけてくるウーちゃん。

 お前の事を話してるんだぞ、分かってるか?…分かってないんだろうなぁ。でも可愛いから許す!

 あ、お腹も撫でろって?はいはい。

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