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俺、冒険者!~無双スキルは平面魔法~(WEB版)  作者: みそたくあん
第3章:中級冒険者編

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第63話~パニック映画の様だと、冷静に見ている自分が居る~

≪皆、悪いんだけど、どこかででっかい荷車借りてきてくれない?3シー(約9m)ぐらいのものが載る奴。それと大き目の空樽も何個か。≫


≪ビート様?わかりましたわ。ギルドで借りてまいります。どちらにお持ちすればよろしいんですの?≫


≪大森林の入り口近くの海岸でお願い。念の為、皆ちゃんと装備は身に着けてきてね。≫


≪承知致しましたわ。≫


 こっそり海岸の崖下をスカイウォークで進み、館に居たクリステラ達に平面マイクで応援を要請した。このマイクももっと遠距離まで届けばいいんだけどな。


 サメの魔物は何処が素材になるのか分からなかったが、とりあえず肝臓以外の内臓は抜いて捨てた。腐りやすい部位だからな。海に投げ入れると、数秒も経たない内にバシャバシャと小魚が群らがってきた。この近海は、結構魚影が濃そうだ。今度釣りに来よう。

 心臓付近にあった魔石はやや細長い球形で約直径6cm、今まで見た中で最大の大きさだった。色は澄んだ濃い青。間抜けなやられ方をした割に良い物持ってんじゃん。これはかなりの高値で売れそうだ。もうけもうけ。

 肝臓は超巨大だった。内臓の半分以上を肝臓が占めており、元々の巨体も合わさって尋常じゃないサイズになっていた。ぶっちゃけ、俺の身体より遥かにデカい。確かこれをじっくり炒めて濾したら肝油になるんだよな? いったい何人分になるんだ、これ?


 塩も分離槽いっぱいになったので帰る事にしたのだが、やはり問題はサメの魔物だった。

 塩はこっそりと庭に運び込めばいいが、サメの魔物はそうはいかない。退治された事を周囲にアピールしなければならないからだ。ちゃんと門をくぐってギルドまで持っていかなければ、脅威が排除された事を証明できない。面倒な事だ。



「みゃっ!?これは『ビッグ・ジョー』!?」


「知っているのか、ライ○ン!?」


「ライ○ン?それ何かみゃ?」


 アーニャが怪訝そうな顔で尋ねてくるが、まあ、このボケが通じるわけないのは分かってた。言ってみたかっただけだ。


「気にしないで。それより『ビッグ・ジョー』って?」


「この大ザメの名前だみゃ。ずっと昔からこの辺の海に住んでて、何隻もの船が沈められたんだみゃ。確かギルドでも懸賞金が懸けられてたはずだみゃ。アタシが最後に見た時は確か大金貨40枚くらいだったみゃ。」


 大金貨40枚!それは凄い。それくらい被害に遭う船が多かったんだろう。泳ぐのも速かったし、この巨体だ。普通の船なんて、下手したら大型船ですら沈められてしまうだろう。


「でも誰も退治出来なくて、ずっと掲示板に貼りっぱなしの塩漬け依頼になってたみゃ。」


「そっか。大した苦労もなく倒しちゃったけど、それなりに凄い奴だったんだな。」


 皆が持ってきてくれた荷車にジョーさんを乗せ、ドラム缶サイズの樽数個に肝臓を切り分けて入れる。話しながら平面を使って片手間にやっていたのだが、アーニャとデイジーはキラキラとした視線を、キッカは半ば呆れたような視線を送ってくる。


「ビッグ・ジョーを雑魚扱いかいな。この国の冒険者が聞いたら泣くでホンマ。規格外やとは思うてたけど、ホンマモンのバケモンやな。」


「っ!キッカさん、ビート様に失礼ですわよ!」


「あ、堪忍や。それだけ凄いて思ただけやん。むしろ惚れ直したくらいや。」


「…あたしの居た商家の船も沈められた。…しばらくご飯が1日1回だった。…こいつはあたしの敵。」


 キッカの物言いにクリステラが注意する。別に強い事は悪い事じゃないし、全然気にしないけどね。デイジーも珍しくよく喋る。食べ物の恨みはやはり恐ろしいみたいだ。



 大騒ぎになった。


 まず門番が腰を抜かした。南門に詰めていた2人の冒険者のうちひとりが腰を抜かし、もうひとりもパニックになりかけた。このふたりはドルトン出身らしく、子供の頃からジョーさんの事を知っていたらしい。

 なんでもこの街では『悪い子はビッグ・ジョーに食べられちゃうよ!』とか『最近アイツ見ないな。ビッグ・ジョーにでも喰われたか?』等と、半ば伝説化した存在だったそうだ。それがもう動かないとは言え目の前に現れたのだから、恐慌状態になるのも仕方がない。

 パニックになりかけていた方を全力で宥めて、なんとか門を通してもらった。しかし、そこからがまた大変だった。


 南門からギルドまでの大通りは夕食時という事もあり、多くの冒険者向けの屋台が立ち並んでいた。人通りもそこそこある。それがパニックになった。

 子供は泣き叫び、母親は『どうか、どうかこの子だけは!』と泣きながら訴えてくるし、冒険者らしき若い男は錯乱して『くそ、殺られる前に殺ってやる!』と襲い掛かってきた。殺気交じりの魔力をぶつけて失神させてやったから、何も被害はなかったけど。

 屋台や商店は慌てて店を閉め、ある屋台の店主は『ビッグ・ジョーだ!ビッグ・ジョーが街まで入ってきた!』と叫びながら屋台を引いて逃げていった。いや、間違いじゃないけどさ。

 路肩では老婆が跪いて『神様、どうかご慈悲を…この老いぼれの命で、どうか孫だけはお助けを…』とか祈ってるし。まあ、孫想いの良い婆ちゃんだな。


 混乱の極みに達した通りは進めるような状態ではなく、ちょっとイライラしてきた俺が魔力フラッシュバンをかましてやろうかと思った頃、ギルドの職員数名がやってきて事態の収拾を図り始めた。ようやく先へ進めそうになってホッとしたのも束の間、中年男性のそのギルド職員のひとりが、


「おい、貴様!街を混乱に陥れるとはどういう心算(つもり)だ!さてはノランの工作員だな!武器を捨ててそこへ跪け!」


などと言うものだから、思わずイラッと来て少し本気の殺気と魔力をぶつけてしまった。そのギルド職員は立ったまま失禁して気絶してしまった。ベンケイの立ち往ジョーッだ。今度見かけたらベンさんと呼んであげよう。

 しかし、それが収まりかけた混乱に油を注ぐ事になってしまった。ひとりの爺さんが『ひいぃっ、ビッグ・ジョーの祟りじゃあっ!』とか言いながら街の中心に向かって走り出してしまったからだ。ヨボヨボの見た目に反して、かなりの健脚だった。それが引き金になって、混乱は中央広場にまで広がってしまったそうだ。


 結局、俺達がギルドに辿り着いたのは、とっぷりと日が暮れてからだった。



「今回の件は罪に問わないが…せめてギルドに一報入れてから運び込んでもらいたかったな。」


「いや、ここまでの騒動になるとは思ってませんでしたし。僕、今日初めてビッグ・ジョーの事聞いたんで。」


 イメルダさんの愚痴に反論する。俺は悪くない…はずだ。

 ギルドに到着した俺達は、そのままイメルダさんの待つ応接室へと通された。ジョーさんの亡骸は先日同様にギルドの裏手に回され、素材毎に解体してもらう事になった。魚の捌き方知らないからな、俺。


「そういえばまだこの街に来て10日も経ってなかったな。ふふっ、初めてあいつ(ビッグ・ジョー)が現れて40年以上…それがたった7歳で冒険者成り立ての新人に狩られる、か。旋風殿もとんだバケモノを育てたものだ。」


 あ、今日二回目のバケモノ呼ばわり来た。そんなにか?そんなに俺、常軌を逸した存在なのか?俺の後ろに並んでいるクリステラ達に振り返り視線で尋ねると、皆気まずそうに眼を逸らせた。…そんなにか…ちょっと凹むわぁ。

 そして、ジョーさんは俺より年上だという事がわかった。前世の分を入れても俺より年上だ。その割に間抜けな最後だったが。やはり本能のまま生きていてはいけないという事だな。日々思考しながら人生を送る事が大切だ。いや、ジョーさんは人じゃないが。


「まあ、それはそれとして、知っているかもしれないが、あいつには懸賞金が懸けられていた。ついひと月ほど前にも1隻沈められてな。その際に船主が懸賞金を追加したから、今の懸賞金は大金貨53枚と金貨2枚になっている。これがその賞金だ。」


 イメルダさんが重そうな革袋をテーブルに乗せると、かなりの重量を感じさせるガチャッという音を立てた。大金貨53枚とは予想以上だ。袋の中を確かめると、確かにその金額が入っていた。儲けたな!


「勿論討伐ポイントも追加される。あれの討伐証明部位は頭だったから、それはギルドで引き取る。それで、物は相談なのだが、その他の部位もギルドで買い取らせてもらえないだろうか?特に尾鰭と胸鰭を。」


「えっと、肉の一部以外ならいいですよ。フカヒレにでもするんですか?」


「ほう、良く知っているな。貴族や王族しか口に出来ない高級食材なんだが。あれほどの大物であれば史上最高のフカヒレが出来るだろう。是非譲って欲しい。ちゃんと調達のポイントも付けよう。どうだ?」


 サメのひれと言えばフカヒレだが、この世界にもあったとは驚きだ。その史上最高とやらを食ってみたい気もするが、俺は作り方を知らないし、多分ルカ達も知らないだろう。無駄にするくらいなら売ってお金に換えた方がいい。素材を活かしてくれるならジョーさんも本望だろう。たぶん。


 そして提示された買い取り額は、何と驚異の大金貨18枚だ。最初は大金貨10枚だったのだが、キッカが途中で乱入してきてこの金額まで釣り上げてしまった。浪速の商人恐るべし。



 サメの肉は足が早い。正確には、臭いが出やすい。切り分けてもらった尾の身と背肉(中トロ)腹肉(大トロ)は、その日のうちにムニエル、フライ、塩焼きにして皆で食べてしまった。意外にしっかりと肉の味が付いており、脂ものっていて非常に美味だった。

 特にフォークを入れるとホロリと崩れるムニエルは、シンプルながらも素材の魅力を最大限引き出した逸品といえるだろう。アーニャなどはウニャウニャ鳴きながら食べていた。醤油があれば! とも思ったけど、これはこれでいい味なので問題ない。


 いやぁ、今日は良い仕事したな。明日も頑張ろう。


 あ、塩はこっそり塩蔵に移しておきましたよ。抜かりなし。

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