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俺、冒険者!~無双スキルは平面魔法~(WEB版)  作者: みそたくあん
第3章:中級冒険者編

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第61話~あのアイドルは異世界でも生きていけると思う~

 あっさり目標のひとつがクリア出来てしまった。


 俺がギルドで契約している間、皆には必要な物を買い揃えに行ってもらった。何しろ着替えと冒険用具以外は何もないからな。

 ギルドで大金貨10枚を金貨100枚に両替してもらい、それをルカに預けて買いに行ってもらった。本来なら奴隷頭のクリステラに預けるべきなんだろうけど、お嬢様育ちに買い物させるのは少々心許無い。妙なイベントを起こされても困る。なのでルカに財布を握ってもらう事にしたのだ。



 契約を終え鍵を受け取った俺が館に戻ると、アーニャ、デイジー、サマンサが掃除道具を手に待ち構えていた。そういえば掃除しなきゃならないんだったな。前の住人が出て行ったばかりとは言え、館の中はうっすらと埃が積もっていたし。井戸の中も一度掃除しておかないと、虫の死骸やら木の葉やらが浮いていて飲めたもんじゃないだろう。そういえば某アイドル5人組も無人島で掃除してたな。主にリーダーと肉好きが。


「じゃあ、皆は手分けして館の中を掃除しておいて。僕は井戸の掃除をしてくるよ。」


「分かったみゃ!」


「任せな。終わったら手伝いに行くよ。」


「…得意。」


 なんとなく不安な気もするが、ああ見えてアーニャは家政婦経験豊富だし、サマンサは元宿屋の娘、デイジーはもっと小さな頃から商家で下働きの経験がある。皆家事のエキスパートだ。任せておけば大丈夫だろう。


 館の裏手、庭の南東隅辺りにある井戸は、極普通の桶を投げ込んで引き上げるタイプの井戸だった。釣瓶か跳ね釣瓶を付けないと大変そうだ。

 蓋のような物は無い。なので色々と入り放題だ。細かくは描写しないが、ライトで底を照らすと明らかに鳥類と思われる生き物の死骸が浮いていた。これは掃除した後、全部水抜きしないと駄目だな。あと、蓋も作らないと。


 先ずは中のゴミを掬う。平面製の(ざる)を作って中のモノを掻き集め、海に捨てる。カニやエビが自然に還してくれるだろう。


 次は井戸の内側の掃除だ。一方の先端が細く絞られた鶴首状のパイプを平面で作成し、逆側の末端の内側にスクリューを付ける。スクリューを付けた側の末端を水中に差し込み、スクリューを回転させれば簡易高圧水流洗浄機の完成だ。

 先ずは上の方からだ。井戸内部の壁面に、吸い上げた水を勢いよく吹き付ける。吹き付けながらゆっくりと回転させていく。張っていた蜘蛛の巣や張り付いていた木の葉なんかが面白いように剥がれていく。ぐるりと一周させたら鶴首の角度を変えてまた一周させる。ソフトバインドが出来ればジョイントを動かすだけでいいのに。早く使えるようにならないだろうか。


 全体を掃除し終えると、井戸の水は薄いカ○ピスのように白く濁ってしまった。これではとても飲み水には出来ないので、鶴首を井戸の外へ出し、全部庭木に撒いてしまう。水が抜けて底の石積みが見えたが、すぐに水が滲み出してきた。水量はそれなりに豊富なようだ。何回か水の入れ替えをしたら飲めるようになるだろう。


 これでとりあえず井戸の掃除は終わり。意外と早く終わったな。やっぱ俺の平面魔法は優秀だ。

 今は蓋になるものが無いから、明日にでも材木屋に行かないとな。


 おっと、紙の木の葉も浸けておかなければ。井戸から少し離れた所にある、直径1mくらいの石臼みたいなものが紙の木の葉を浸ける石桶だ。辺境であれば、何処の家にでもある設備だ。

 底の穴に石の栓をし、水漏れ防止として隙間に紙の木の葉を詰め込む。次に紙の木の実を一個取ってきて、石桶の中で丁寧に磨り潰す。井戸から染み出してきた水を注いで溶解液を作ったら、今度は紙の木の葉を何十枚か毟ってきて放り込む。適当にかき混ぜたら後は放置だ。明日の昼頃には表面の固い部分が溶けて、白い繊維だけが残るはず。それを水洗いして干せば天然トイレットペーパーの完成だ。


 ちなみに、この作業はほとんど平面で摘まんで行なった。紙の木の実の汁を直接触るとヌルヌルヒリヒリするんだよな。多分結構なPHのアルカリなんじゃないかと思う。



「おっ、戻っ(もん)てきたな、お疲れさん。もうベッドやら布団やらは二階に運んでもうたで。」


 俺が館に戻ると、既に買い出し組は帰ってきていた。掃除も終わっている様で、皆はリビングや台所の調度を整えているところだった。


 当然と言えば当然なのだが、この世界にはテレビが無い。なので、リビングの中心はテーブルだ。これも買ってきた物らしいが、大きなローテーブルにキッカとデイジーがクロスを掛けている、まさにその瞬間に俺は戻ってきたらしい。生成りの飾り気のない、シーツのようなクロスがふわりとテーブルの上に落ち着くところだった。


 よくよく見れば、随分と住み心地の良さそうなリビングになっている。


 先程クロスの掛けられたローテーブルを挟んで、3人掛けのソファが向かい合って置かれている。それほど柔らかそうではないが、無染色の革張りで丈夫そうだ。早速アーニャがそのソファに寝転んで寝息を立てている。流石ネコ。

 同じ素材のひとり掛けソファもお誕生日席に置かれている。もしかしてあれは俺の席か?まあ、この国じゃ皆正月に歳をとるから、お誕生日席なんていう言い回しは無いんだけど。


 ここの窓は外側への観音開きになっているが、その窓の内側には厚手のカーテンが掛けられている。もっとも、現代日本のようなカーテンレールがあるはずも無く、単に布を数ヵ所フックでひっかけているだけだが。カーテンを開けるときは、窓枠の左右の紐でカーテンをくくるだけのようだ。


 ローテーブル以外にも、食事をするためのテーブルと椅子もある。こちらはローテーブルよりも天板が広くて脚も長い。シンプルな長方形の白木のテーブルだが、なんとなく温かみがある。こちらも左右に3脚ずつ椅子が並び、お誕生日席に一脚置かれている。


「いい家具だね。ルカの見立て?」


「はい、家具職人のところに見本として置いてあったものを、お願いして譲って頂きました。」


 …おそらくその職人は男だな。ルカの1000%ブレストファイヤーで堕ちない男はそう居ないだろう。


「ベッドも有りますし、運ぶのは後日でもいいと言ったのですが、みなさん手が空いてるとかで直ぐに運んで頂けました。」


 面白いように惑わされてんな、家具職人。気持ちはわからんでもないが。ルカは、そのふたつの胸のふくらみさえあれば、楽に世の中を渡っていけそうだ。この撃墜女王め。


「値段の交渉はうちがしたんやで!おかげで金貨も70枚くらい余ったわ。はい、これお釣り。」


「え、ベッドも買ったんでしょ?そんなに余ったの?」


 財布代わりの袋を受け取ると、確かに7割くらい余っている。

 この世界の家具は全て手作りだから、ひとつひとつがかなり高価だ。その分良質で長く使う事が出来るから、長い目で見るとお得だったりするんだけど。

 今回は各人のベッドに衣装箪笥、テーブルや椅子、ソファなんかを買ったから、最低でも大金貨5枚くらいの出費があるものと思っていた。それが大金貨3枚程度で抑えられるとは。


「ふふん、海エルフを舐めたらあかん。商売を生業にしとるのは伊達やないで。うちもその一族や、商売やったらまかしとき!」


 キッカは薄い胸を張って鼻高々だ。海エルフってのは、あっちの世界で言うところの浪速の商人(あきんど)ってところだろうか。まぁ、関西弁だし、違和感はないな。ダークエルフな見た目以外は。


「…家具職人さん達、お会計のときは涙目でした…。」


「あっはっはっ、ちょっとやり過ぎてもたかもしれん!まあ、気にせんとき!」


 …まあ、ルカの色気に負けたせいだから、自業自得という事にしておこう。授業料としては安いものだ、たぶん。


「あれ?そういえばクリステラは?まだ買い物?」


 さっきから妙に静かだと思ったら、クリステラが見当たらない。居たら居たで騒がしいんだけど、居ないと何故か落ち着かなかったりするから不思議だ。それ程長い付き合いじゃないけど、いつの間にか生活の一部になってたって事なのかも。


「そこや、そこ。」


 キッカが食事用のテーブルの下を指す。覗き込んでみると、膝を抱えて椅子の間に座り込んでるクリステラが居た。


「…何してんの?」


 訊ねてみても返事が無い。なにやらブツブツと呟いているようだが、よく聞き取れない。仕方ないのでキッカに訊ねる。


「何でこんな事に?」


「存在意義の崩壊って奴かな?」


「は?」


「張り切って買い物しに行ったのに、目利きはルカはん、交渉はうちが全部やってしもたやろ?例の天秤魔法まで使こたのに、それより遥かに安い値段でうちが買うてしもたから、奴隷頭(チーフ)やのに何も出来んかったゆうて落ち込んでんねん。」


 …しょうもな。

 まあ、クリステラにとっては大事な事なのかもしれないが。奴隷頭として張り切ってたからな。自分が役立たずだと思ってしまったら、アイデンティティが保てなくなってしまったんだろう。かといって、下手な慰めは余計に傷つける事になるかもしれない。


「しばらくそっとしておこうか。」


「それがええと思うわ。お腹すいたら出てくるやろ。」


 何気にキッカはクリステラの扱いがぞんざいだな。気持ちは分かるが。


「坊ちゃん、もう井戸は使えんのかい?」


 そうこうしてると、リビングと繋がる台所の方からサマンサが顔を出して訊いてきた。


「まだ駄目だね。あと一回は水抜きしないと。汚れてるからお腹壊すかもしれない。」


「そっか。じゃあ、今日の夕飯どうすっかな…。」


「しょうがないね、皆で食べに行こう。今日の分の宿代も払ってるし、ここで寝るのは明日からかな。」


 細々としたものも買い足さなきゃならないし、まだ紙も出来てないし。全く、引っ越しはどこの世界でも大変だ。



「わたくしは日常ではなく、非日常の中でこそ輝くのですわ!そう、それは冒険の中であったり、貴族の舞踏会であったり!ですから、日常生活ではそれなりであれば問題ないのですわ!」


 ウーちゃんによってテーブルの下から引きずり出されたクリステラだったが、宿屋で夕飯を食べるとあっさりと復活した。簡単な娘だ。

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