第50話~こ、こいつぁすげぇぜ…~
結局、そのまま4人を買い取る事にした。4人で丁度大金貨30枚。ギリギリ予定の予算内で収まった。クリステラはひとりで大金貨25枚だったから、如何に魔法使いが希少か分かろうというものだ。
ルカの妹は『サマンサ』で14歳。奴隷になった経緯はルカと同じ。口調はちょっと蓮っ葉だ。アンナさんを思い出すな。身体つきは細身で締まっている。こげ茶のポニーテールと相まって活発そうな印象を受けるが、意外にも趣味は裁縫で、よく自分や家族の服を縫っていたそうだ。今度俺用のカーゴパンツでも縫ってもらおうかな。このダボダボベストを仕立て直してもらう方が先か。
金髪ゆる三つ編みの方は『デイジー』で10歳。生まれつきの奴隷だそうで、5歳から商家で下働きをしていたそうだ。今年から税金が掛かるからという理由で売られてしまったらしい。奴隷の税金なんて大した額じゃないのにな。10歳にしては小柄で、背は7歳の俺よりわずかに高いくらい。身体はガリガリに痩せてて、碌な扱いをされてなかった事がアリアリと見て取れる。そのせいかもしれないが、あまり口数も多くない。フツフツと怒りが沸いてくるが、世間での奴隷の扱いとしてはこれが普通なのかもしれない。俺は恵まれてたからな。村長には感謝感謝だ。
ちなみに、ルカの呼び方から『さん』が消えているのは、本人から『奴隷に『さん』付けはおかしいです。呼び捨てにしてください』と言われたからだ。そうは言っても10歳近く年上だからな。しばらくはうっかり『さん』付けしてしまうかもしれない。クリステラと1歳しか違わないはずなんだが、なにやら貫禄が違う。普通は出来ないであろう『自らを奴隷として売る』選択が出来るあたり、実は肝が据わってるのかもしれない。
「お陰様で妹と生き別れにならずに済みました。ありがとうございます。この御恩は働きを以って返させて頂きます。」
全員の契約紋を書き換えたところで、ルカが深々と頭を下げながらそう言ってきた。後ろには他の3人が並んでいる。早くも序列が出来てきたか。この4人の中ではルカが一番年上だし、順当なところかもしれない。
「うん、これからよろしくね。」
「はい、よろしくお願い致します、ご主人様。」
「「「よろしくお願いします、ご主人様!」」」
「ぐはぁっ!」
や、やられた!そうだった、クリステラの時も最初はそうだった!しかも今回は4人、そのうち3人は同時だ。破壊力は3倍どころか2の3乗の8倍くらいありそうだ。気恥ずかしさが半端じゃない。
「うっかりしておりましたわ!皆さん、ビート様はご主人様と呼ばれるのがお嫌いなのですわ!決してご主人様とは呼ばないように!」
俺が身悶えているの見て、クリステラがフォローに入ってくれた。嫌いっていうより、慣れてないから気持ち悪いって感じなんだけど。
「あらあら、では何とお呼びすればいいのかしら?」
「アタシは『ボス』って呼ぶみゃ。見た目はちっちゃいけど強そうな感じがするみゃ。」
「あたいは『ぼっちゃん』にするよ、お姉。」
「…『若』。」
「そう、じゃあわたしはクリステラ様と同じく『ビート様』にするわね。」
みんなてんでバラバラだ。でもまあ、ご主人様よりは耐えられるからいいだろう。
「わたくしも奴隷ですから『様』は付けなくてもよろしいですわ。わたくし達が『様』を付けるのは主人であるビート様だけですわよ。」
「まあ、そうですか?ではクリステラさんとお呼びしますね。これからよろしくお願いします。」
「ええ、何かあったらわたくしを頼るといいですわ!何と言ってもビート様の奴隷頭ですから!」
「…『お頭』?」
「…せめて『チーフ』と呼んで下さいます?」
クリステラがデイジーに、珍しく疲れた感じで答えた。確かに奴隷頭だったらそういう呼び方もアリなのかもしれないが、普通は山賊か盗賊の首領のイメージだ。ナチュラルにそれが出てくるあたり、デイジーは天然なのかもしれない。どうやらクリステラにも天敵が現れたようだ。これで残念な言動に歯止めが利いてくれたら言う事無しなんだが。
◇
奴隷商館を後にした俺達は、その足で必要な品を買い揃えに行った。普段着や下着、手ぬぐい等の日用品だ。基本的に全員動きやすいパンツスタイルにしたが、各自一着ずつワンピースも購入した。もちろんクリステラの分もだ。折角可愛い娘ばかりなのに、いつもパンツスタイルじゃもったいないからな。デイジーは初めてのワンピース(実はパンツも)だったので、非常に感激していた。今まで貫頭衣しか着たことが無かったそうだ。喜んでもらえて何より。
今回、俺はバッグにこだわってみた。アーニャ、サマンサ、デイジーは、定番である冒険者御用達の大きなリュックサックだ。だが、ルカはストラップの長い大きなショルダーバッグにしてもらった。魔物の革製で、外側にも内側にもポケットが沢山ついてる奴。このバックにした理由、それは便利そうだったからというのもあるが、本当の理由は別にある。それは『パーセンテージ』の確認だ。
ショルダーバッグを装備した上で両手を自由に動かすには、ストラップをたすき掛けにする必要がある。それは女性の場合であれば、必然的に左右のふくらみの間を斜めにストラップが走る形になる。つまり『%(パーセント)』の形になるのだ。『パイスラッシュ』等とひねりの無い呼び方をする人も居るが、俺は昔から『%』と呼んでいる。いい感じの『%』を見た時は『パーセンテージ高いな!』とか『80%、いや90%だな』という使い方をするのだ。
基本的に俺はチッパイ派だが、大きいのも嫌いではない。全てが有効だ。なので、今回は立派なモノをお持ちのルカがどのくらいのパーセンテージなのか、確かめてみたかったのだ。邪なのは否定しない。何せ中身は30過ぎのオッサンだしな。そして、肝心のその結果はというと…
100%、いや、1000%でした!
これは想像以上に凄い破壊力だ!危険ですらある。強調される球体の大きさ、食い込みと球体の変形によって生じる悩ましさ。さらには、この世界には胸用の下着が存在しないため、押し付けられた事によって厚手の布地越しにうっすらと形状が認識できる突起。世の男共は、この余波だけでエネルギー充填120%になるだろう。何処に充填されるのかは言うまでもない。前かがみで頑張って頂きます。
「グヌヌヌゥ…わたくしだってあと1年経てばあのくらい…。」
クリステラは悔しそうな声を出しているが、ルカは分かっているのかいないのか、ニコニコと微笑んでるだけだ。表情から感情が読めないのは、ちょっと怖いかもしれない。
…怒ってないよね?
◇
日用品の次は武器防具だ。命を預ける物だけに、妥協はしたくない。いい店が無いか街行く冒険者風の人数人に聞き取りをしたところ、ギルドの裏にある店が初心者でも扱いやすい武器を置いてあるとの事だったので、そこへ向かう事にした。ルカに話しかけられた男性冒険者は、皆前かがみで立ち去っていった。なんという破壊力、これぞ玉砕。
店に着いた俺達は、早速防具を物色する。直接命を守ってくれるものだから、先ずはこれを決めないと話にならない。
とは言え、あまり選択肢は多くない。革の軽鎧か、革のジャケットやベストくらいだ。一応リングメイルやチェーンメイルもあるのだが、つい先ほどまで戦闘と縁遠い生活をしていた女性にはやはり重すぎる。
結局、皆革のジャケットやベストに落ち着いた。革鎧でもちょっと重かったようだ。
ルカは長袖のショートジャケットで、色は赤っぽい茶色。ヘソの上までしかないが、動きやすさを重視したとの事だ。そして『締めると苦しいんです』と言って、前ボタンは留めていない。なんというワガママボディ。けしからん!
アーニャはポケットのいっぱい付いた黒いベストだ。いつの間にか同色のウエストポーチまで身に着けている。見た目斥候役っぽい。まさに黒猫という感じだ。今度膝の上に乗せて頭を撫でてやろう。
サマンサは、言うなれば黒いスタンドカラーのライダースジャケットだ。首まで覆うスリムなシルエットで、細身のサマンサに良く似合っている。もちろんこの世界にジッパーなどないので、全部ボタン止めなのが面倒そうではあるが。
デイジーはフード付きベストだ。色はモスグリーン。好んでこれを選んだわけではなく、選択肢がなかったのだ。デイジーは俺と背丈が左程変わらない。いくら冒険者の街と言えど、流石にここまで小さな子供向けの装備はあまり置いていなかった。数少ない候補の中から『…色が似てる』と言って、俺が今着ている緑のベストに近いそれを選んだのだ。普段はこのベストは着てないと言うと『…でも今日は大切な日だから。』と言って、結局そのベストにしてしまった。意外にしっかり自分を持っているようだ。
その次は武器だ。全員に護身用兼素材剥ぎ取り用のナイフは必須として、メインの武器をどうするかが問題だ。アーニャは昔使っていたという事で片手剣と丸盾にしたが、他の3人は全くの素人だ。何が良いか分からない。サンプルに置いてある剣や槍、短剣などを触らせてみたが、皆どうもしっくり来ないようだった。
「包丁なら使い慣れてるんですけど…。」
「針と糸…は武器にならないよなぁ。」
「…ほうき?」
包丁はともかく、それ以外は論外だな。針でチクチクって、それは攻撃じゃなくて拷問かいやがらせだ。…いや、案外チクチクはいいかも?
「じゃ、ルカは片刃の片手曲刀かな。でっかい包丁と思えばそのうち慣れるでしょ。サマンサは短槍にしよう。でっかい針でチクチクつつく感じで。デイジーは両手棍かな。ほうきと同じように両手で持って振り回せばいいよ。敵を寄せ付けなければいいだけだからね。」
「なるほど。肉を切るものですし、大物を調理するなら大きな包丁という事ですね。」
「皮を縫い合わせるわけか。切るより傷も小さいだろうから、使える部分が増えそうでいいね!」
「…言い寄る虫を追い払う。」
我ながら安直だとは思う。だが彼女たちの安全の為、最低限の護身は出来てもらわなければならない。本格的な戦闘をさせる気はないが、ひと通りの訓練は受けてもらうつもりだ。それには少しでも扱いやすい武器が必要で、実際に戦う時のイメージがしやすければなお良い。暗示の意味もあるが、普段から使い慣れている道具の延長であれば、武器に慣れるのも早そうな気がしたのだ。
そしてデイジー、それはちょっと意味が違う。








