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第4話~まさかのハードモードとは~

 気付いたら朝だった。


 母親と父親は既に畑に出ているようだ。というか、俺も畑に居た。寝てる間に籠に入れられ、畑の脇に連れてこられたようだ。丁度いい。せっかくなので周囲の様子を観察してみる。


 俺が入ってる籠は、少し大きめの木の根元に置かれてるようだ。周囲は何種類かの野菜が植えられた畑らしい。気温は朝だというのに、少し暑いくらいだ。そういえば、昨日も昼間は暑かった。畑の野菜が青々と茂っているのを見るに、季節的には初夏というところだろうか。日本的な気候だとすれば、だが。


 太陽の位置はまだそんなに高くないので、太陽のある方角を仮に東としておこう。

 魔法があることも分かったし、ここは異世界で間違いないだろう。異世界なら、太陽が東以外から昇ってもおかしくはない。だから仮に東としておく。


 その東の遠くにあるのは山脈だ。100kmは軽く離れてそうで、そこまでの間は特に障害物は見えない。北のほうへ向かって延びているが、果ては見えない。その山脈は南へ延びる途中で西に折れ曲がっており、そのままずっと西に向かって延びている。つまり、南側も山脈だ。こちらはそこそこ近い…といっても、50kmくらいはあるか。標高はかなり高そうだ。この暑さだというのに、山頂から2/3くらいまで雪を被って白くなっている。5000mくらいあるんじゃなかろうか?富士山よりデカい気がする。


 山裾からは森になっているようで、俺のいる畑の、ほんの1~2km先くらいまで続いている。今居る畑の東側と西側は木が見えないから、山脈に沿うように森が出来ているんだろう。結構な規模だな。樹海と言ってもいい広さだ。


 北側は、丁度木の根元が邪魔になって見えない。かろうじて見える北東方向には家が数軒建っている。あそこが村の居住区って事だろう。規模は小さい。


 村から今居る畑まで、ぐるりと木の柵で囲われている。昨日も言ってた魔物対策なんだろう。


 畑の作物は、正直よく分からない。前世は農家じゃなかったし、飯は外食かコンビニ弁当だったので、野菜の種類はほとんど分からない。東のほうに植わってるのは麦っぽい何か、南側は一面蔓が伸びてる。芋か?それともカボチャ?西側は色々雑多なものが植わってるみたいだが、分かるのはトウモロコシっぽいものくらいだ。


 うちの両親は、南側の蔓畑の中に居る。腰に桶を括り付けて、柄杓でその中のものを撒いてる。水やりみたいだ。畑にはうちの両親だけじゃなくて、何人か同じように作業してる人がいる。


 畑は結構広い。全部うちの畑というわけじゃないだろう。そういえば昨日『旦那様』と言ってたから、うちは小作人なのかもしれない。小作の農家から独り立ちするのは、結構大変かもしれん。資金を貯める方法を考えないとな。魔法でなんとかなるだろうか?


 朝の一仕事が終わったようで、両親がこちらへやってくる。


「だば、おらぁ片してから帰ぇるだで、おめは坊と先帰ぇってろ。」


 …イケメンなのにとても残念な感じだ。声も渋いのに。


「したら、朝飯作ってっで。あんれ、坊、起きとっただか。」


 おはよう母ちゃん、ついでに父ちゃん。


「帰ぇったらすぐ乳やっからな。ちっと待っとれぇな。」


 そういえば結構な空腹感だ。ちょっとくらいなら耐えられるが。


「おお、今、坊、頷いたじゃなかか?おらたちの言ってること解るみてぇだな。」


 ぎくっ!やばっ、気付かれた?!


「ははは、何言ってんだぁ、あんた。そりゃ親の欲目だよぉ。」


 あ、笑ってるけど、母親もまんざらでもなさそうな顔をしている。


「だども、もし賢い子だったら、大きくなったら魔法使い様になれっかもしれんべさ。」


 おお、やっぱ魔法使いがいるのか。しかも、この口ぶりだと結構上流階級か?


「ははは、それこそ欲目だぁ。貴族様でも魔法使いになれんのは5人に1人っていう話だべ。」


 ほほう、貴族がいるのか。ということは封建社会で王国制かもしれん。しかも、その貴族ですら、なかなかなれない魔法使い。しかし俺は既に魔法使いだ!30歳どころか、3週間を待たずして!


「んだな、おら達『農奴』の子が魔法使いになれる訳ねぇべ。」


 …は?農奴?


 …農奴おぉぉっ?!まさかの奴隷スタートおぉっ?!



 …はっ、いかん、茫然自失してたみたいだ。いつの間にかベッドまで戻されている。

 授乳も終わってるみたいで、腹は満腹だ。意識無くてもちゃんと飲むもの飲んでるあたり、赤ちゃんの本能の逞しさを感じる。


 母親は既に畑仕事に戻ったようで、家の中に人の気配はない。


 しかし、まさかの奴隷スタートか…実はハードモードだったか?魔法がサクッと使えたあたりで、若干イージーモードなんじゃないかと思ってたんだが、そこまで甘くはなかったか。ちょっと責任者出てきて説明しなさいと言いたい。


 そういえば、転生ものラノベに付きものの神or女神様ってのは出てきてないな?依頼だとか使命だとか、そういったお約束に関して全く記憶が無い。もしかしたら覚えてないだけかもしれないが、それでは依頼や使命の意味がないしな。もちろんチートについても記憶に無い。時が来れば思い出したりする…のか?


 おっと、そうだ、あれを試してみよう。


「(ステータスオープン!)」


 …何も出ないか。


「(ウィンドウオープン!ステータスウィンドウオープン!ステータスカード!…!…!…)」


 はい、何も出てきませんでした。何かチート的なものがあるなら、この辺の定番は押さえてると思ったんだが。アイテムボックスやストレージ的なものも試したが、何も起こらなかった。鑑定もできなかった。声に出さないとダメってことも考えられるから、喋れるようになったらまた試してみよう。しかしこの状況からすると、チートらしいチートは無い可能性が高い。

 いや、前世の記憶と魔法っていうのはチートかもしれん。出来るなら、これを使って奴隷からの脱却を図りたいところだ。


 貴族と奴隷ってことは、身分制度があるってことだ。こういうものは、一見強固に見えるが実は結構抜け道があったりするものだ。例えば貴族が没落して借金こさえて奴隷落ちとか、貴族に養子入りして爵位継いだりとか。


 奴隷から成り上がるってのは中々ハードかもしれないが、魔法と前世の記憶を駆使すればなんとかなるかもしれない。前向きに考えていこう!先ずは、目指せ平民!

 そうと決まれば、今後のプランを考えねば。乳児からの将来設計!小さな事からコツコツと!


 魔法のことは両親にも伏せておこう。奴隷で魔法が使えるとなると、こき使われて使い潰されるかもしれない。前世の二の舞は御免だ。まぁ、あの両親ならその心配はなさそうだけど。

 かといって、ずっと封印するのも馬鹿馬鹿しい。こういうものは、使えば使うほど練度が上がっていくと相場が決まってる。というわけで隠れて鍛えることにしよう。


 前世の記憶のことも隠し通す。

 村はそれ程大きくないようだし、総じて小さなコミュニティというものは排他的だ。周囲と大きく異なる存在は、多くの場合迫害される。それが『得体が知れない』という、曖昧なものであるほど不安を煽り、迫害に拍車が掛かることになる。

 せいぜい子供らしさをアピールするとしよう。保身のために。


 その上で、とにかく情報を集める。如何せん、今はあまりにも情報が不足している。まさに『右も左も分からない』という状態だ。5年くらい掛ければ、それ以降の方針を決められるだけの情報も集まるだろう。5年以降のことはその時に決める。必要に迫られたらその限りではないけど。とりあえずの5か年計画というわけだ。


 大まかにはこんな感じか。ザルもいいところな気もするけど、その場その場で修正していけばいいだろう。臨機応変。良い言葉だ。


 前世では社畜として生涯を閉じてしまったが、今世ではその轍は踏まない。誰にも強要されない力をつけて、自由に、気ままに生きてやる!ここから始まる俺の伝説!


 あれ、そういえばワイの名前、なんていうん?

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