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第45話~流石は冒険者の街、ちゃんと押さえてるね~

 ドルトンの街は、ダンテス村とは少し違った木造の街だった。ダンテス村の家は木と土壁で作られており、どことなく昔の日本の田舎を感じさせる造りだったが、ドルトンの家は丸太や角材を組み合わせたログハウスのような造りになっていた。何となく洋風だ。そして多くの家は2階建てで、所々に3階建ての家がある。建築技術のあまり発達していないこの世界で、多階層の建築物がこれほど密集している場所は珍しいだろう。これはドルトンの街の立地に原因がある。

 魔境に近いこの街は、海に面した西側以外を高い城壁で囲まれている。魔境から時折現れる魔物に対する備えだ。この城壁より外側は人の領域ではなく、魔物の領域なのだ。そのため、街の人口が増えても外側へ生活圏を広げる事は難しい。必然的に、建物を上に伸ばさざるを得なかったというわけだ。ただ、ログハウス自体はあまり高層建築に向いた構造ではない。だから高くても3階建てまでしかないというわけだ。

 この辺の知識は村長から聞いていた。なにしろ、村を作るまでは村長もこの街を拠点に冒険者として活動していたのだ。多少鮮度は落ちていても情報はあるに越した事はないので、事前に聞いておいたのだ。準備は大事。


 ログハウスの建ち並ぶ通りを真っ直ぐ進む。通りには商店と思われる建物が並んでいるが、どの店も固く扉が閉じられている。誰も歩いている人が居ない(さま)は、まるでゴーストタウンのようだ。人の気配はあるので、皆息をひそめて閉じこもっているのだろう。魔物来てるしな。

 程なくして広場に突き当たる。ボーダーセッツの広場は円形だったが、この街の広場は四角形だった。そして、その四角形の一辺を3階建ての大きな建物が占めている。あれが冒険者ギルドだろう。俺達は足早にその建物へ向かった。



 ギルドの中は閑散としており、カウンターの奥で2~3人の職員が慌ただしく行き来している以外に人の姿はなかった。

 ギルドの造り自体はボーダーセッツと左程変わらない。広いロビーの奥に受付カウンターがある。入って左奥の壁には掲示板があり、依頼の書かれた紙が所狭しと貼られている。右奥は待合スペースになっており、丸い木のテーブルが数卓ある。

 そして、これがボーダーセッツのギルドと違うところだが、そのテーブルの奥にはカウンターがあり、奥の棚には酒と思われる瓶が所せましと並べられている。つまり、酒場になっているのだ。


 よっしゃーっ!テンプレギルド酒場キターッ!!これやこれ!こういうんを待っとったんやぁー!!カウンターでバーボン頼んで、マスターに『坊やに出す酒はない、これでも飲んでな』とか言われてミルク出されるんやぁーっ!


 おっと、今はそれどころじゃなかった。残念ながら今は誰も居ないし、後でまた来よう。そしてミルクを飲むのだ!


「すみませーん、緊急依頼が出てるって聞いたんですけどーっ!」


「はぁーい、少々おまちくださぁーい。」


 カウンターから奥に向かって声を掛けると、20代前半と思われる女性職員が小走りに駆けてきた。155cmくらいで髪は鳶色のボブ、ちょっとタレ目気味の眠そうな顔をしている。身体は細身だが、出るところは出ている。Dかな。だが、今それはどうでもいい。重要なのは、彼女の頭の上に付いている猫耳だ。


 猫耳キターッ!ついに初獣人ゲットや!いや、ゲットしてへんけど!やっぱりドルトン(ここ)に来て良かった!これやこれ、俺の中のファンタジーはコレやねん!


「お待たせしましたぁ。冒険者の方ですかぁ?今は緊急依頼が出てますのでぇ、それしか受けられませんよぉ。」


「あ、はい、知ってます。どういう内容か教えて頂けますか?」


 ピコピコ動く彼女の耳からなんとか視線を外し、依頼内容を確認させてもらう。


「はぁいぃ、今回の緊急依頼は討伐に分類されてますぅ。参加者の活躍に応じて功績が加算されるんですがぁ、報酬は討伐した魔物の素材をギルドが買い取りますのでぇ、それを功績に比例して分配することになってますぅ。査定についてはギルドの職員が監査役として出てますからぁ、頑張って倒してくださいねぇ。ズルしたら後で罰がありますよぉ。怪我したらギルドから治療費の補助が出ますけどぉ、ポーションや矢弾は各自の持ち出しになりますぅ。上手く節約して戦って下さいねぇ。」


 内容はよく分かったが、なんだか眠くなる喋り方だな。緊急時だというのに、緊張感がほとんどない。ウーちゃんも後ろで欠伸(あくび)している。


「では受付しますねぇ。ギルドタグを出してくださいぃ。」


 ほぼ名刺サイズのギルドタグを渡すと、猫耳お姉さんはそれを受付機の中に差し込んで何やら操作する。

 受付機は法と商売の神の神殿で作っているもので、契約書の機能をギルドタグに与えるものだ。ただし、依頼を失敗したり実行しなくても激痛は走らない。ギルドにその履歴が残り、失敗したり実行しなかった依頼の違約金が発生するだけだ。


 程なく受付が終わった。持っていた荷物をギルドで預かってもらい、早速現場に向かう事にする。結局、魔物肉は食い切れなかったので、ウーちゃんの餌用以外は刻んで森に埋めてしまった。勿体ないがしょうがない。


「はぁい、では頑張ってきてくださいねぇ。今は北門付近で戦闘中のはずですからぁ、外に出るなら南門からがいいと思いますよぉ。」


「分かりました、ありがとうございます!では行ってきます!」


 休息も無しの強行軍だが、道中ほとんど馬車に乗ってたから俺もクリステラも疲れてはいない。ウーちゃんも特に疲れた様子は無いし、体調に問題は無さそうだ。


 しかし、準備はしっかり行っておく。後で後悔するより無駄になった方がマシだからな。軍備や警備のお金と同じだ。ギルドを出たところでクリステラを呼び止める。


「じゃ、この後の行動を説明するよ。と言ってもいつも通り、向かってくる魔物を倒すだけだけどね。先ず、南門から出て東門へ進んで、出会った魔物は全部倒す。僕が先行してあらかた倒すから、クリステラはゆっくり来ていいよ。ゴブリンはクリステラに向かっていくと思うけど、そんなに強くないから落ち着いて相手すれば大丈夫。危ないと思ったらすぐに南門へ逃げてね。もしくは僕の所に来てくれてもいい「ビート様のもとへ参りますわ!」よ…あ、うん。じゃあ、それで。」


 ブレないな、この娘。ある意味感心してしまう。


「東門までたどり着いたら、そのまま北門に向かって進むよ。多分戦いっぱなしになるから、魔力量に注意して。少なくなったら下がって休憩ね。ウーちゃんはクリステラを守ってあげて…って、分かんないか。じゃ、好きにしてていいよ。」


 ウーちゃんは頭を撫でる俺の手に頭を寄せてくる。まだ出会って3日だとは思えない甘え様だ。なんという小悪魔っぷり。


「それじゃ、ちょっと細剣(レイピア)抜いて。強化しておくから。」


「はい、お願いしますわ。」


 クリステラの細剣はそこそこ上等な品だが、素材は極普通の鋼鉄製だ。何匹も魔物を倒していれば、切れ味は落ちるし刃こぼれもする。今回は何十匹、いや、事によれば何百匹も倒さなきゃならないから、普通の剣ではとても耐えられないだろう。

 そこで俺の平面魔法だ。表面を極薄透明の平面でコーティングし、強度と切れ味を付加するのだ。これで俺が気絶でもしない限り、決して折れる事は無い。俺の剣鉈にも同様に強化を施す。ある意味これも魔法付与(エンチャント)という事になるだろうか。補助魔法としても使えるとは、俺の平面魔法は便利過ぎる。


 ついでに防御用として、クリステラとウーちゃんの身体にも極薄透明平面を貼り付けていく。もちろん自分の身体にも忘れない。これで多分、村長の全力の一撃でも一回は耐えられる。それでいて重さは皆無という高性能さだ。これもテンプレファンタジーじゃ防御魔法って事になるのだろうか。俺の平面魔法、マジ万能。


 準備も終わって南門へ向かうと、数人の冒険者風の男女が門の上で見張りをしていた。その中には、来た時に会った中年女性もいる。


「もしかして外へ出るつもりか?やめておけ、一度出たら殲滅するまで戻れないかもしれん。死にに行くようなものだぞ。」


 その中年女性は、俺達に話しかけながら壁面に(しつら)えられた細い階段を下りてくる。幅50cmも無い細い階段なのだが、足取りは危なげない。そこそこ出来る人のようだ。


 来た時にも思ったけど、この人はやけに男性的な話し方をする。もしかしたらどこぞの組織の役職持ちかね?それともオナベさん?見た目はちょっと肩幅が広めで筋肉質だけど、胸は推定Eというビッグバンだし髪型もウェーブのかかったショートカットで女らしい。


「んー、でも見ての通り、僕らは近接戦専門ですから、壁の上からじゃ何もできないんですよ。大丈夫、逃げ足は速いですから。」


 本当は近接戦専門どころか、近接、中距離、遠距離から超遠距離まで、俺の平面魔法は距離を選ばず戦える。多分本気で魔法を使えば、1000匹程度の魔物は誇張なしで秒殺だ。あれ?本気で俺、国にばれたら拘束されるんじゃね?


「しかし、相手はゴブリンだ。君はともかく、そのお嬢さんは間違いなく狙われるぞ!」


「望むところですわ!あのような醜悪な魔物は、わたくしが全て切り刻んで差し上げますわ!」


 折角の彼女の気遣いも、気合いの入ったクリステラには通じない。多分『主人を危険の中に放り出しておいて、奴隷が安全なところから見てるだけなどという事は許されない』とか思ってるんだろう。


「大丈夫です。こう見えて僕らは強いですよ。伊達に開拓村で育ってませんから。」


「開拓村…お前達、まさかダンテス殿のところの?」


 ここでも村長の名前が出てくるか。いや、昔はここで活動してたんだから、名前が出るのは当たり前か。


「ええ、旋風ダンテスの愛弟子ってところです。だから心配無用ですよ。」


 その場に居た俺達以外の全員が『あの…』とか『本当に?』等と、(にわ)かにざわつく。本当の所は、身体強化を教えた俺の方が師匠と言えなくもないんだけど。


「そうか、あの…。わかった、それなら許可しよう。ただし、魔物を殲滅するまで街には戻れないと覚悟しておけ。」


「はい、ありがとうございます。では行ってきますね。」


「気をつけろ。一応、壁の上から私が援護する。危なくなったら迷わず逃げろ。いいな?」


「わかりました。よろしくお願いします。僕はビート、その娘はクリステラで、草原狼の仔はウーちゃんです。」


「私はイメルダだ。ここの冒険者ギルドで副支配人を務めている。」


 おっと、役職持ちの方だったか。そして監査役として付いてくると。あんまり派手にやると目を付けられるかな?まあ、その時はその時だ。


「本当に気を付けるのだぞ。特にそちらの美しいお嬢さん!美しい女性は世界の宝だ。怪我などしないように気を付けるんだぞ!」


 クリステラの両手を自分の両手で掴んで、鼻息荒く赤い顔で語り掛けるイメルダさん。


 って、オナベの方もかーいっ!

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