第380話〜聖域なき仕事の仕分け〜
王都の学園で教師をして生徒をして。領地で領主をして商会長をして。冒険者ギルドの支部支配人をして。冒険者学校で校長をして講師をして。我ながら仕事を抱えすぎているなぁ。また誰かに丸投げしようかな?
王都の学園は自分でやるしかないから、割り振るなら領地の仕事だよな。
「というわけで、代官やってねイメルダさん」
「何が『というわけ』なのか分からないが、まぁいいだろう。決裁待ちの書類が積み上がるよりはマシだからな。重要書類だけは目を通してくれ」
「了解ー」
これでひとつ積み荷が降ろせた。代官を置いておけば、大抵の問題は処理してもらえる。
会話している場所は冒険者ギルドの支配人室――実質ドルトン辺境伯領主の執務室――のデスクだ。書類にサインをしながら会話をしている。
イメルダさんはデスクの前で、背筋を伸ばして立っている。姿勢がいいなぁ。
イメルダさんは、まだドルトンがドルトン伯爵領だった頃からの叩き上げだ。ずっと冒険者ギルドドルトン支部の副支配人をしてくれていた。
元ドルトン伯爵のバニィちゃんが領地を離れているときも代理で領政を取り仕切ってくれていたし、代役には不足ない。頼れるお姉さんだ。オナベだけど。
「それで、流石に街の規模が大きくなったから、副支配人と兼務では手が回らんだろう。冒険者ギルドの支配人代理はタマラにやらせてもいいか?」
「うん、もちろん。タマラさんもデキる女だもんね。すぐ副支配人代理にする辞令を書くから、回議しておいて。今日のうちに決裁しちゃいたいから。発効は明日からでいい?」
「うむ、それで問題ない。ふふふ、これでその書類の山が小さくなりそうだな」
「だったらいいなぁ……」
視線をイメルダさんに一瞬だけ送って、すぐに目の前の書類に戻す。
いや、漫画かアニメかよってくらい、書類の山が積まれてるんだよ。どれだけ仕事を溜めてたんだよって感じ。
いやいや、仕事を溜めてたんじゃなくて、すぐに溜まるくらい仕事が多いってだけなんだけど。
だって、つい先日クリステラとキッカに手伝ってもらって捌き切ったばかりだもん。今もふたりは、それぞれのサブデスクで仕分けしてくれている。助かる。
なにせ、領主と商会長と支配人と校長の決裁書類が全部来てるからな。尋常じゃない。
まぁ、仕事が増える原因を作ったのは俺自身なんだけど。色々一度に手を出しすぎた。
でも、街の発展と安全保障に必要だったんだからしょうがない。やらずに後悔するよりやって後悔するほうがマシだ。
この仕事量をひとりで捌くのはもう限界だ。人間の処理能力を超えている。だから丸投げ、いや下請け、いや委任したい。
今のところ、一番仕事量が多いのは領主の仕事だ。この仕事を丸っと投げてしまえば、俺の仕事量は半減する。
というわけで、それをイメルダさんに任せるわけだけど、既にイメルダさんには支配人代理の仕事も任せている。更なる仕事の上乗せは、さすがに厳しいだろう。
それを緩和するために、タマラさんも巻き込もうっていうイメルダさんの提案だ。くくく、お主もワルよのう?
おっとりしているようで仕事がデキるタマラさんなら問題ない。副支配人代理なんていう、権限が有るんだか無いんだか分からない役職だけど、肩書は無いより有ったほうがいい。
「これで仕事量がかなり減らせますわね」
とか言いながら、追加の書類を持ってきてデスクに積むクリステラ。全然山が小さくならない。ひどい。
「これ、商会長の仕事もトネリコはんに任せてええんちゃう? 共同代表なんやし」
「そうだねー。いっそ、商会長を任せて、僕は顧問か相談役ってことにしてもいいね」
俺の商会は、この世界で初めての株式会社だ。そして、株式の四十パーセントを俺が持っている。筆頭株主だ。
けど、株式会社では、必ずしも経営責任者と筆頭株主を兼任する必要はない。経営は他人に任せてもいいのだ。
トネリコさんも株式の二十五パーセントを持つ大株主。しかも自分の商会を持っている。蓄積された経営のノウハウは俺より上だ。商会長を任せても大丈夫だろう。
そして俺は一線から下がって相談役になる。
まぁ、大株主で相談役なんて、実質社長や会長以上の権力者なんだけどな。俺の一言で事業方針を左右できるわけだから。
つまり、俺の仕事内容は大きく変わらない。面倒な事務作業から解放されるだけ。素晴らしい!
「あとは冒険者学校の校長かなー。それほど忙しくはないけど、地味に目を通さないといけない書類が多いんだよねぇ」
「現場の知識が無い人には任せられないですし、誰か冒険者ギルドから派遣します?」
「出向かぁ。もしくは転籍?」
なんか、天下りみたいで印象はよくないな。それが長く続いて習慣になると、絶対利権に変わるだろうし。
中堅以上の冒険者から引き抜くって手もあるよな。引退を考えてる人とか、俺が個人的に信頼してる人とか。
実際、教師陣はそういう人たちを集めたわけで、そのトップも同じ手法で決めてもいいんじゃなかろうか? ふむ、悪くないな。
一番信頼できる冒険者は村長だけど、村長は自領の運営で手一杯だろうから……うん、あの人に打診してみよう!








