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俺、冒険者!~無双スキルは平面魔法~(WEB版)  作者: みそたくあん
第2章:駆け出し冒険者編

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第37話~女泣かせの意味が違う~

 翌朝、訓練に出かける前に冒険者ギルドへ寄った。下準備の為だ。


 朝のギルドは結構混雑していた。まだ夜明けからいくらも過ぎていないのに、依頼の掲示板前とカウンターには人だかりが出来ている。その中へ突っ込むのは嫌だったので、クリステラとふたり待合スペースで待つ事にした。別に急ぐわけじゃないし。


 ただ待つのも時間がもったいないので、ここでも訓練をするとしよう。まず、人込みの中から無作為にひとり、冒険者を選ぶ。


「クリステラ、あそこに男の人が居るでしょ?掲示板の前の、腰に片手剣を吊るした20歳くらいの黒髪の人。」


「ええ、居られますわね。それが何か?」


「あの人の体重はいくら?装備無しでね。」


「ええっと、19.2キロモンですわ。」


 この世界の重さの単位はモンで、1モンは4g弱だ。1キロモンは1000モン。19.2キロモンという事は、凡そ77kgだな。身長は170cmくらいだから、意外に重いな。筋肉質なんだろうか。


「それじゃ、あの片手剣の刃渡りは?」


「23.5スーですわね。それがどうかしまして?」


 凡そ70cmか、なるほど。どうやら結構細かいところまで分かるみたいだな。だったら、これも分かるんじゃないかな?


「じゃあさ、あの人の筋肉の量(・・・・)は?」


「ええっと、7.6キロモンですわ。さっきから一体なんなんですの?これも訓練ですの?」


 おおっと、やっぱり分かるのか!予想してたとは言え、なかなかに破格の能力じゃないか!


「うん、その通り。凄いね、やっぱりその天秤魔法は優秀だよ!」


「そ、そうですか?ただ重さや長さが分かるだけなのですけれど…。」


 クリステラがちょっと謙遜…いや、自信なさげに答える。今までこの魔法の事を褒められた事が無いのかもしれない。


「それが大事なんだよ。さっき、筋肉の量を量ってもらったよね?」


「ええ、それがどうかしまして?」


 やっぱ分かってなかったか。こんなにも重要で有用な、この魔法のふたつ(・・・)の特性に。


「筋肉っていうのは、体を動かすために必要なモノだよね。つまり、筋肉の量が多ければより強い力が出せるって事だと思わない?」


「それはそうですわね。…ああっ!?そうなんですわね!?つまり、相手の強さが、戦わなくてもある程度分かるということですわね!?」


「そういう事。経験や技術なんかがあるから絶対の指標ではないけど、魔物相手だったらそこそこ信用出来るんじゃないかな。」


 相手の強さが分かれば、戦うか退くかの判断を下しやすくなる。初見でもその判断が出来るというのは、未知の魔物と遭遇する可能性の高い冒険者としては非常に大きなアドバンテージだ。


「わたくし、天秤魔法にこんな使い方があるなんて、全く気付きませんでしたわ!流石ですわ、ビート様!!」


「天秤魔法の凄さはそれだけじゃないよ。さっき、剣の長さと筋肉の重さを量ってもらったよね?」


「ええ、まだ何かありますの?」


「うん、大事なのは『剣は鞘に入ったまま』って事と、『筋肉は皮膚の下にある』って事なんだ。」


「ええ、だって抜き身で剣を下げていたら危なくて仕方ないですし、筋肉が見えていたら大怪我してるという事ですわ。」


 これにも気付いてなかったのか。出来は悪くなさそうなのに、どうにも頭が固いな。


「そうじゃなくて、『直接見えてないモノにも魔法が使えた』って事を言いたいんだよ。」


「!?」


 どうやら気付いたようだ。冒険者にとって、その有効性は計り知れない。そもそも、重さなんて目に見えないしな。それが分かる時点で気付いても良さそうなものなんだが。…いや、もしかしたら『気付かないように誘導されてた』のか?


「そ、それは暗闇の中でも…いえ、隠されているものや厳重に封をされている物でも分かるという事…なんて事かしら、こんな重大な事に気付いてなかったなんて…。」


「もっとも、常時使ってないと意味が無い特性だけどね。魔力量は半端じゃなく必要になるし。」


「それで魔力を使い切るように指示されてたんですのね!枯渇からの回復で魔力量を増やすために!」


「そういう事。」


 俺はクリステラにニヤリと笑ってみせる。もうちょっと年取ってたらクールなんだが、まだ子供だからイマイチ決まらない。

 もっとも、魔力量は多くて困る物でもない。増やせるならどんどん増やしておけばいいという考えもあった。


 俺の気配察知は生き物や魔力を持ったものしか分からない。罠や物には全く通用しないのだ。その点、クリステラの天秤魔法は対象に制限が無い。周囲の物の重さや長さを意識するだけでいいのだ。もっとも、何かある事が分かっても『それが何か』というのは経験を積まなければ分からないだろうけど。その辺はいずれ時間が解決してくれる事を信じよう。


 まだカウンターには人が溢れている。もうちょっと訓練しとくか。その前に、ちょっと聞いておく事がある。


「話は変わるんだけど、ちょっと質問していい?僕は魔法の事ってよくわからないんだけど、魔力の量の単位ってあるの?」


「いえ、同じ魔法でもひとによって使う魔力の量が違いますので、魔力の単位を決める意味が無いと言われてますから。」


 ふむ、意味が無い、か。でも、効率的な運用を考えるとやっぱり数値で知っておきたいな。


「そうなんだ。じゃあさ、クリステラは何回魔法使ったら魔力切れになる?」


「そうですわね、昨日は30回程で気を失いましたわ。」


「なるほど。じゃあさ、クリステラの魔力総量を300、単位をマナと仮定して、あの人の魔力量はいくら?」


「…12マナ!?…こんな事も出来たなんて!!」


 どうやら勝手に決めた単位も有効っぽいな。

 そもそも長さや重さの単位も、社会生活の中で共通の物差しが必要だから誰かが決めたに過ぎない。自分だけしか使う者が居ないなら、単位は好きに決めていいはずだ。別にマナじゃなくてもいい。カナでもルルでもロロでもなんでもいい。自分が分かればいいのだ。

 もうひとつ重大な情報があるんだけど、これは今は言わないでおこう。多分、自分で気付くだろうから。


「筋力に依らない、魔法タイプの魔物もそれで見分けられるね。」


「こ、こんな…こんな事って…わたくしの天秤にこんな力があったなんて…わたくし、今まで全く…。」


 茫然と自分の両手を見つめるクリステラ。


「分かった?その天秤魔法があればクリステラは一流冒険者になれるよ。やっぱり凄い魔法だね。」


「…。」


 あれ?返事が無い。また妄想の世界へ旅立ってしまったか?


「クリステラ、どうかした?」


「…ビードざま…わ、わだぐじ、わだぐじぃ~、ふえぇえぇ~~ん!」


 ちょ、なんでいきなり泣き出してん!?

 周囲の人の視線が痛い!子供が美少女を泣かせてる絵面に、他の冒険者達が訝し気な視線を向けてくる。カウンターの受付嬢達も、こっちを見てヒソヒソと話し合っている。

 ちゃうねん、俺やないねん!ないよな!?


 それから10分くらいクリステラは泣き続け、俺は何もできずにオロオロしてた。前世から30年以上生きてても、こういう時の対処は全く上達してなくて情けなくなる。早く大人になりてぇなぁ。


「ぐずっ、御見苦しいところをお見せして申し訳ありませんでした。感極まってしまったもので。もう大丈夫ですわ。」


 そう言って俺を見つめてくるクリステラの目は一切の曇りが無かった。…ああ、そうか。今まで気丈に振舞ってはいたけど、本当は不安だったんだな。


 考えてみれば、今まで箱入りだったであろう侯爵家令嬢が、悪女のレッテルを貼られて突然の婚約破棄と奴隷落ちだ。その環境の変化たるや、正に天国から地獄だっただろう。半端じゃないストレスが溜まっていたに違いない。

 数少ない魔法使いとはいえ、使えない魔法という無能のレッテルを貼られてしまい、自身の価値はもはや血筋しかないと思い込んでいただろうに、その血筋すらも絶縁され奴隷に落とされてしまったとなれば、もはや頼る物は何もない。そのような仕打ちに、この世界では成人とはいえ、わずか15歳の少女が耐えられるはずもない。彼女の精神状態はもはや崩壊寸前だった事だろう。それがあの泣き崩れる姿や大袈裟にはしゃぐ姿という、不安定な躁鬱状態になって表れていたわけだ。

 気付いてやれなかった自分が情けない。これで中身30過ぎのおっさんとかありえへんわ。マジ凹む。


 今のクリステラは、自分の本当の力を自覚し、心の拠り所を手に入れた。生まれ変わったと言ってもいいだろう。先程の泣き声は産声だ。それならしょうがない、女の子を泣かせたという汚名も喜んで受け入れよう。


「ビート様には買い受けて頂いただけでなく、わたくしの知らなかったわたくしの本当の力まで開花させて頂きました。一生お仕えするというだけでは、この御恩は到底返しきれませんわ。」


「いいよそんなの。一緒に冒険してくれるだけで。」


「いいえ!それではわたくしの矜持が許しませんわ!どのようなご命令でも喜んで尽させて頂きますので、なんなりとお命じくださいませ!」


 むう、こっちのめんどくさい方が本性だったか。メソメソしてるのも陰湿でやだけど、騒がしいのもちょっと勘弁願いたいなぁ。


「そ、それでですわね…その…」


 なんか俯き気味で顔を赤くし、両手の人差し指の先をツンツン合わせながらクリステラが言いにくそうにしている。


「いずれその…よ、夜伽をお命じのときは、わたくし初めてですが頑張りますので、よろしくお願いしますわ!」


 真っ赤な顔で一気に言い切ったクリステラ。ガタガタッと音を立てて周囲のテーブルの男連中が腰を浮かせる。俺を睨む顔からは、嫉妬と憤怒以外を読み取れない。今のこいつらなら憎しみで人を殺せるに違いない、そう思わせる顔だ。…ええっ!俺!?なんで俺なん!?


 ちょ、ちょっと待って!ちゃうねん、ちゃうねーん!!

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