第375話〜第二回大会重量級決勝決着! そして大会終了!〜
村長が動いた! 左右に上体を振りながら教官に突っ込む!
ああやってフェイントを混ぜることで教官の逃げ場を奪い追い込む算段か。まるで追い込み漁だ。さすが、戦い慣れている。
けど、教官も戦いに関してはプロだ。追い込まれても慌てていない。
オーソドックスなアップライトスタイルから、こちらもフェイントを混ぜながら突っ込んだ!
激突!!
掴んで投げようと伸びてくる村長の手を、教官がパンチの連打で叩き落とす! パリィなんて生易しいものじゃない、まるで迎撃ミサイルだ! バンバンという破裂音が客席にまで聞こえてくる!
上手い! 伸びてくる村長の左手を、教官が右のフックで内側に弾いた! その隙に反時計回りでコーナーを脱出! さらに置き土産で右ローキックを膝裏に当てていった!
素早く距離をとって、舞台中央に戻る教官。これでまた仕切り直しだ。
ワアァーーーッ!
ここで客席からの歓声が爆発した。いや、確かにあの攻防は凄かった! 格闘技素人でも沸き上がるくらい熱いやりとりだった!
「ああっ、惜しい! もうちょっとだったのに!」
「凄ぇっ! なんだ今の!?」
「さすがは教官ですわ! 技のキレが違いますわね!」
「うみゃっ! アレはアタシでも苦労するみゃ!」
「……熱い」
うんうん、うちの女性陣も興奮している。
「うん、教官もさすがだし、村長も凄いね。今の攻防、あれだけの打ち合いだったのに、お互いに有効打はほとんどなかったもんね」
スピードは教官のほうが上だったんだけど、万が一にも掴まれるわけにはいかないから、威力よりも回転を重視せざるを得なかった。だから教官は、防御中心の攻めに徹した。
一方の村長も、教官の出してきた攻撃が意外に速くて掴みきれなかった。バンバンという大きな音が鳴っていたのは、村長が教官の攻撃を掴もうとして、手のひらで受けていたからだ。反撃狙いの防御ってことだな。
最初の数発でお互いの狙いが分かって、あとはどっちが先に崩れるかっていう我慢比べになってたんだけど、敢えてタイミングを外した村長の手を教官が弾いてコーナーから脱出したっていうのが、さっきの攻防の中身だと思う。
実に高度な駆け引きだった。有効打は、最後に教官が出したローキックだけじゃないかな?
「はぁ〜、うちには凄いっちゅうことしか分からんかったわ」
「あらあら、アタシもよ。凄かったわね。うふふ」
キッカとルカは、どっちかっていうと後衛組だからな。戦闘スタイルも魔法中心だから、接近戦の攻防については苦手でもしょうがない。誰にでも得手不得手はあるものだ。
さて、また舞台中央からの再スタートなわけだけど……さて、次はどう動くかな?
手数とスピードは教官、パワーは村長が勝っている。まだまだ勝負の行方はわからない……こともないか。
多分、決着はもうすぐだ。
◇
「重量級決勝戦、優勝は……ダンテス=ワイズマン伯爵!」
審判が村長の右手を天に掲げる。観客席からの歓声が一際大きくなる。もう隣のジャスミン姉ちゃんの声すら聞こえない。
「やったわ! お父さんの優勝よ! お父さん、かっこいいーっ!」
前言撤回。ジャスミン姉ちゃんの声はこの歓声の中でもよく聞こえる。耳がキーンってなるくらい。
「最後は呆気なかったですわね。途中までは同じような展開でしたのに」
「せやな。準決勝までと同しように、掴んでポイッやったな」
うむ、途中まではいい感じで、舞台上を所狭しと戦いが繰り広げられていた。
けど、再び村長が教官をコーナーに追い詰めたところで勝負が着いた。今度は逃げ切れず、捕まって投げられてしまったのだ。
「うみゃ。最後は肩で息してたみゃ。アレは体力切れだみゃ」
「っていうか、魔力切れじゃね? 身体強化が切れたような感じだったぜ?」
「そうね、アタシたちもよくああなってたわね。うふふ」
そうだね、それが正解。
教官には俺が身体強化を教えたんだけど、それはほんの半年ちょっと前だ。教官は真面目に毎日鍛えてはいたけれど、元々の魔力が低いから持続時間はそれほど延びていない。
一方で、村長に身体強化を教えたのはもう何年も前になる。村長は覚えも早かったし、実戦で使用する機会の多い辺境在住だ。練度が違う。
しかも、村長は途中からジリジリと消耗の少ない動きで戦っていたのに対し、教官は常に相手の周囲を動き回るアウトレンジでの戦い方を選択していた。どっちの消耗が大きいかは自明だ。
結局、純粋な武術の腕ではなく、スタミナの優劣で勝負が着いたってことだな。
更に言うと、単純な耐久力の差もあったと思う。身体強化を発動すると緩やかなダメージの回復効果があるんだけど、教官が村長に与えるダメージよりも村長が回復するペースのほうが高かった。
つまり、チョコチョコと教官が与えていたダメージは、村長にとっては何の効果もなかったということだ。ズルいね。
うーん、次に戦ったら、俺でも村長には勝てないかもしれないな。
スピードで撹乱するにも限度があるし、パワーでは圧倒的に負けている。技術ではまだ若干勝ってると思うけど、それも大きなアドバンテージにはなりそうにない。スタミナは、まだ俺のほうが数段上かな?
とはいえ、小技を当てながら逃げ回っても大きなダメージにはなり得ないから、時間切れに持ち込むのが関の山だ。この大会には引き分けや判定決着はなくて、時間切れの場合はくじ引きになるんだけど……英雄の運に勝てる気はしないしなぁ。
つまり、勝てない可能性が高いってことだ。
まぁ、体重別になったから、俺が激太りするか村長が激ヤセしない限り、対戦する機会はないだろうけど。良かった良かった。
おっと、表彰式が始まるみたいだ。係員から声をかけられた。舞台に向かわなきゃ。
表彰式は軽量級と重量級が続けて行われる。軽量級の表彰が行われて、その後重量級という流れだ。
まず軽量級準優勝で元教え子の……えっと、そうだ、シングォ君が表彰され、続いて優勝者の俺が表彰される。準優勝者は賞状のみ、優勝者は賞状とトロフィーだ。格闘の大会だけどベルトじゃないんだよな。
ちなみに、トロフィーはマッチョな金色のオスカー像って感じなんだけど、サイズは台座含めて一メートルくらいある。中身は空洞だけど銀製で金箔貼りだそうで、結構重い。そしてデカい。
前回も同じトロフィーだったらしいんだけど、俺、気絶してたから見るのは初めてだ。
その後重量級準優勝の教官、優勝の村長と続く。
軽量級も重量級もトロフィーの大きさは一緒なんだけど、俺はほぼトロフィーの陰に隠れているのに対し、村長は片手で軽々掲げている。観客からの拍手と指笛が大きく響く。うぬぅ。
最後に王様からねぎらいの言葉をいただいて閉会なんだけど、VIP席が遠くてよく聞こえない。まぁ、しょうがない。
拍手で送られながら舞台から花道へ下がる途中、村長に話しかけられた。
「ビート、今回はお前と戦えず残念だ。ようやく真っ当に勝負できると思っていたのにな」
「あはは、僕はホッとしてるけどね。もう僕じゃ勝てないって、今日の決勝戦を見てそう思ったよ」
「そう言ってもらえるのは嬉しいんだが、二度と大会で戦うことはないと思うとな」
「しょうがないよ、体重別になっちゃったからね」
そもそも、スーパーヘビー級とピン級が戦うこと自体が異常なんだよ。無差別級にも程がある。差別無さすぎ。
「うん? そうか、知らんのか。俺はもう二大会連続で優勝したから、殿堂入りとかでもう出場できんのだ」
「え?」
「お前は軽量級で初優勝だからな。次回大会の出場は決定だ」
「えぇーっ!?」
なにそれ、聞いてないよ! 俺、次回大会も強制参加なの!? 今回で終わりじゃないの!?
「まったく、実に残念だ」
マジで残念過ぎるよ! 横暴王様め、許すまじ!








