第373話〜波乱はそうそう起きるものではない〜
「どすこーい!」
「うわぁーっ!?」
二回戦突破。
「ワンツーッ!」
「ぐはっ!?」
準々決勝突破。
「一撃必さーつ!」
「うぐぅ!?」
準決勝突破。
そして……
「ピカァーン!」
「やっぱ無理でしたぁぁぁっ!」
優勝してしまった。観客席から歓声が沸き立つ。
二回戦と決勝は、予想通り元教え子だった。
けど、全力で戦うっていう魔法の誓約書に署名しちゃったから手は抜けなかった。アレ、違反するとメッチャ痛いんだよね。
今回の大会では、軽量級は俺が圧倒的な優勝候補だった。王家主催の賭けでもド本命で、番狂わせ無く終えることができた。やれやれだ。
「お疲れ様でした、ビート様!」
「おつかれさん。今回は余裕やったな」
「そうだね。前回のアリサさんみたいな難しい相手も、村長みたいに規格外な相手も居なかったからね」
前回はサラサの姉で古武術使いのアリサさんというダークホースが居たからな。あれは厄介だった。背中を散々殴られてメチャ痛かった。
それに体重別じゃなかったから、超重量級の村長と決勝で戦う羽目になったし。体格差が文字通り大人と子どもだったからな。無茶言うなよって感じだった。アレはもうやりたくない。
そうそう、ケントくんという超ラッキーボーイも居たな。キッカのいとこの。
幸運という物理法則を超えた力で戦う恐ろしい相手だった。前回大会で、一番難しい戦い方を強いられた相手だった。
今回の大会には、そのケントくんとアリサさんは出場していない。
アリサさんは前回大会後にドルトンの騎士団に入団して、今は隊長のひとりになっている。
ドルトンは好景気で人の流入が多く、その分治安が不安定になってるから、騎士団の仕事も多い。大会に出場している暇はない。
ケントくんは冒険者として活動中で、今は商隊護衛の仕事でリュート海の方にいるらしい。
一時期はキッカが俺の妻になったことで落ち込んでいたけれど、なんとか立ち直ってバリバリ依頼をこなしている。自棄になっているだけかもしれないけど、そのおかげで今では立派な中堅冒険者だ。
それに、中堅商会の会長の奥様に気に入られたそうで、なにかと理由を付けて指名依頼を出されているのだとか。パトロンってわけだ。イケメンはいいですなぁ!
そんな感じで、今回の対戦相手には特に注目すべき出場者はいなかった。
元教え子にしても、格闘技や身体強化を教えたのは俺だしな。手の内は全て知っているから、危なげなく勝てた。
「……ちょっとだけど、儲かった」
「ド本命だったからな。まぁ、損しなかっただけいいんじゃねぇ?」
「そうだみゃ! 勝ちは勝ちだみゃ!」
「あらあら、そう言いながら、みんな結構な大金を賭けてたわよね? それなりの儲けになったんじゃないの? うふふ」
「そこそこね! この後お父さんが勝てば、さらに儲かるわね!」
そう、軽量級の決勝が終わったら、次は重量級の決勝だ。そこに村長が出る。
けど、今回は優勝できるかどうかわからない。なぜなら、決勝の相手は……。
◇
「こんなところが貴方との初めての手合わせの場になるとは、想像もしていませんでしたよ、アームストロング卿」
「私もですよ、ワイズマン卿。ですが、剣聖である陛下と引き分けたという貴方と、一度手合わせをしたいとずっと思っていました。ようやく長年の夢が叶いました」
舞台の上にふたりの偉丈夫が立って話をしている。村長と、学園、そして騎士団の武術教官であるアームストロング教官だ。
観客からの歓声が凄くて、何を話しているのかは聞こえない。魔法を使えば声を拾えるんだけど、それはしない。なんか野暮な気がするから。
このふたり、年齢的にはほとんど同年代、若干アームストロング教官のほうが年長かも? って感じだ。もう五十歳近いだろうに、並居る若手を打ち倒して決勝に残ってるなんて、ちょっと元気過ぎる。
三月の初めでまだまだ気温は低いというのに、ふたりとも上半身裸だ。服を掴まれて投げられるのを警戒してのことだと思う。俺も前回大会でやってたしな。
村長は相変わらずのゴリマッチョ……いや、前回大会よりもボリュームが増えてる? 街道が整備されて食糧事情が改善されたからか?
今回は体重別になってて良かった。アレと武器なし魔法なしで戦うのは勘弁してもらいたい。勝てる気がしない。もう寝技も通じないだろうしな。
その村長には若干劣るけど、アームストロング教官もなかなかのゴリマッチョだ。調整もばっちりみたいで、筋肉のカットが深い。相当絞ってきているな。
例えるなら、村長はプロレスラー、アームストロング教官はボクサーってところか。どっちもスーパーヘヴィー級。
「坊っちゃんはどっちが勝つと思ってるんだい?」
「うーん、ちょっと分からないかな?」
「何よ! お父さんが勝つに決まってるじゃない!」
俺の煮え切らない答えにジャスミン姉ちゃんが怒る。でもしょうがないじゃん。マジで分からないんだから。
身体能力的には村長が有利だと思う。単純なパワーだけじゃなくて、身体強化の練度も高い。多少攻められても、一発で逆転できるポテンシャルがある。
技術的には、圧倒的に教官だ。
冒険者が戦う相手は魔物であることが多いけど、騎士団では人間相手に戦うことも少なくない。他国の兵士とか犯罪者とか。
そういった対人戦でのノウハウというのは、徒手空拳でも活かせられるはず。
というか、教官に身体強化を教えるとき、格闘技術についても教えたからな。元々戦闘の専門家だけあって、覚えはかなり良かった。
そんなわけで、現状では力の村長、技のアームストロング教官という図式が成り立っている。展開次第で、どっちが有利とは言えない。
ちなみに、賭けのオッズでは村長が優勢だ。前回の優勝者で国の英雄だからな。単勝で一・一倍のド本命だ。軽量級の本命だった俺は単勝で一・三倍だったから、俺よりも人気が高いってことになる。く、くやしくなんてないんだからね!
アームストロング教官は単勝で二倍の二番人気。重量級は本命と対抗が順当に勝ち上がってきているわけだ。
今回、俺は連勝複式でふたりに賭けたから、決勝が始まった時点でもう賭けには勝っている。倍率は一・六倍。ちょっとだけ儲かった。
ふたりがお互いに背を向けて歩き、距離を置いて再び向かい合う。振り向くタイミングがほとんど同時だったな。相撲でいうところの『呼吸が合う』って状態なんだろう。そろそろ時間いっぱいって感じ?
ゴワアァァンッ!
とか考えてたら、試合開始の銅鑼が鳴った。観客席からの歓声が一際大きくなる。
それじゃ重量級の決勝戦、魅せてもらおうか。








