第371話〜広告は許可したけど広告塔になるとは聞いてない〜
「いや、出ないって言ったじゃん。こう見えて、世間の子どもの数倍忙しいんだよ?」
「それは知ってっけどよ。前回準優勝のお前ぇが出ねぇでどうすんでぇ?」
つい先日顔を合わせたばかりなのに、また王様に呼び出された。しかも、今回はプリンを持ってこいっていうリクエスト付きで。
いや、王様が毒見もなしで外部から持ち込まれたものを食べるっていうのはどうなの? 俺がその気なら毒殺し放題だよ?
という苦言を呈したら、
「お前ぇがその気なら、そんなまどろっこしい事しなくても、今すぐにでも城ごと更地だろうがよ」
と返された。まぁ、できるできないで言えばできる。やらないけど。
理由がないし、後始末が面倒そうだから。俺は忙しいんだよ。仕事を増やしたくない。
それはそれとして、今回呼び出された理由だ。
二年に一回の格闘武術大会『ディクソン杯』を今年もやるということで、それに出ろという依頼だった。
っていうか、今ノランと戦争中だよね? それなのにお祭りするの? って聞いたら、
「戦争中だからやるんじゃねぇか。血の気の多い奴らを集めて兵士にすんだよ」
と返された。まぁ、理由としては真っ当かな。
それに戦争中って言っても、今の主戦場は隣国のエンデ国内だ。王国とノランの国境付近は雪と俺の作った障害物で戦争ができる状況じゃない。
次に王国とノランの間で動きがあるとしたら、雪解け後の三月末頃じゃないかな?
それまでに徴兵に頼らずに兵力を集めるなら、確かにこの時期の格闘大会というのは理に適っている。前回も参加者は多かったしな。
ただし、兵を鍛える期間を考えると、今募集した兵が使いものになるのは早くて半年くらい先になるだろう。つまり、そのくらい先まで戦争が続くと、国は見込んでいるわけだ。やだねぇ。
でもさ、俺、次回大会があっても出ないって言ったよね?
前回は王都に家を買うための資金集め目的で出たけど、もう家を買ってしまった今となっては出る理由がない。そもそも商会運営が順調だから、資金集めをする必要がない。王都に邸宅を構えられるくらいの余裕はある。
「ダンは出るって返事が来たぜ? 前回優勝者だからな、予選免除で本戦からの参加だ。準優勝のお前ぇも予選免除だからよ、出ろや」
「えーっ? 村長は村長、僕は僕だよ。第一、もう僕の戦い方は研究されてるでしょ? 出ても初戦敗退だよ、きっと」
プリンを大きなスプーンで掬ってバクバク食べながら横柄に命令する王様に、豆茶を啜りながら俺が反抗する。
……立場が逆じゃない? 子供の俺がおやつを食べて、大人の王様がお茶を啜るのが普通じゃない? 出るってだだを捏ねる子供を大人が嗜める場面じゃない?
まぁ良いんだけどさ。俺の中身は大人だから。プリンも食べ慣れてるし。
「それは心配いらねぇ、今回は体重別だからな。ダンは重量級、お前ぇは軽量級だ。研究されてても、それなりの戦いにはなるだろうぜ」
ああ、前回大会の終了時の俺の提言の体重別制を取り入れたのか。男女別にはしなかったんだな。
まぁ、普通は格闘大会に女性は出てこないしな。この世界じゃまだ男女の役割がはっきり分かれてるから。
男は戦い、女は家を守る。それがこの世界の常識だ。うちの女性陣が例外なだけ。
「っていうかさ、もう二月中旬じゃん。今からじゃ遅くない?」
ワンデイトーナメントは出場者に厳しすぎるってことで、何日かに分けようって話をしたはずだ。それは採用されなかったのか?
「ああ、予選はもう終わってんだよ。お前ぇとダンは本戦からだから二月下旬からだな。二十五日に初戦と二回戦、二十八日に準々決勝と準決勝、三月一日に決勝戦だ。ほれ、対戦表」
王様が懐から折り畳んだ紙を出してテーブルに放り投げる。どれどれ……って、もうトーナメント表ができてるじゃん! 俺の名前、書かれてるじゃん!
つまり、俺の参加はもう確定してるってことかよ! これ、依頼じゃなくて命令じゃん!
「もう賭けも始まってっからな。軽量級じゃ、お前ぇがダントツ一番人気だ。初戦不戦敗なんてことになったら、さぞかし恨まれるだろうよ、賭けた連中にな」
王様が悪い大人の黒い笑みを浮かべて言う。でも口の端にプリンが付いてるから締まらない。
くぅ、なんて卑劣な!
俺が嫌われたら商会の運営にも影響がでるかもしれない。それは避けたい。
うぐぐ、既に外堀は埋められてたってことか。この腹黒甘党野郎め。
◇
「ということで、また大会に出ることになっちゃったんだよ。まったく、しょうがない王様だよね?」
その日の夕食時に、皆に大会出場のことを報告する。
「は? いや、うちらみんな知っとったで? なんで本人が知らんの?」
「え?」
え? いや、は? 皆は知ってた? どういうこと?
「いえ、今回はドルトン商会が協賛ということで、協賛金と広告を出させていただいておりますの」
「うん、それは知ってる。書類は見たし、許可の署名もした記憶がある」
割と大きい金額だったからな。商会の広告費としては過去最大額だったと思う。
「せやろ? それの開催概要に、ちゃんと旋風はんとビートはんの参加も書かれとったで?」
「うそん」
「あらあら、ビート様でも見落とすことがあるんですね。うふふ」
マジか。概要まで見てなかったよ。だって、決済書類が多すぎて添付書類まで見る時間なんてなかったし。商会長は忙しいんです。
アレにサインしたのって、確か去年の秋くらい? その頃から俺が出ることは決まってたの? マジで?
「いいじゃない! 去年はお父さんとビート、どっちを応援するか迷ったけど、今年はふたりとも優勝すればいいのよ! 迷わなくていいわ!」
「そうだみゃ! 賭けも迷わないみゃ!」
「けどよ、今年はド本命だからたいして儲からないと思うぜ?」
「……でも確実」
にわかに食卓が賑やかになる。
まぁ、『知らぬは本人ばかりなり』というのはよくあることだ。まさか自分の身に起こるとは思わなかったけど。
しょうがない、出るからには最善を尽くすか。また高重力トレーニングだな。
あとデイジー、賭けと投資に『確実』はないからな?








