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俺、冒険者!~無双スキルは平面魔法~(WEB版)  作者: みそたくあん
第14章∶非日常的日常編

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第368話〜商業の問題は、大体札束で解決できる〜

 ミカエラさんに関するアレコレが一段落し、俺の元へ平穏な日常が帰ってきた。おかえりなさイ。

 とは言え、毎日忙しいことに変わりはない。なんかおかしいぞ俺の日常?


「えっと、この件は承認で。でも景気次第で変動するかもしれないから、予備費も入れて予算は三割増しにしておいて」

「うーん、工場の拡張じゃなくて、新規に工場を建てよう。今の工場を拡張しても、近場に倉庫が確保できないからね。街道近くに新しい工場と倉庫を建てちゃったほうが、色々と都合がいいと思う。候補地の選定は任せるから、その方向で検討しておいて」

「より具体的に想像してみましょう。炎を出すのであれば、その大きさ、熱さを。風を起こすのであれば範囲と強さを。土であれば形と硬さを。魔法は想像力でいくらでも効果を変えられますよ」

「ふむふむ。卒業生の行方不明者がまだ確認されていないのはいい傾向だね。学校の基本方針は問題なしっと。でも、工事の警備に応募が集中しているのは安定志向が強すぎるかな? 食肉確保のためにも討伐と調達の依頼を受けてほしいんだけど……買い取り価格に補助金を上乗せしようか」


 領主、商会長、教師、そして冒険者学校の校長業務と冒険者ギルドの支配人。我がことながら、肩書きが多すぎる。

 できる限り仕事を周囲に割り振ってるけど、流石に人手が足りなくなってきた。いくらクリステラやキッカが優秀でも、人の処理能力には限界がある。

 特に商会と領地経営の事務方が足りな過ぎる。ちょっとイレギュラーが発生しただけで徹夜もザラだ。これはいけない。ブラック労働反対。

 いくら身体強化で体力を補ったとしても、頭脳の回転までは補いきれないしな。判断力も思考力も、眠らなければ低下する一方だ。そもそも一般職員は身体強化が使えないし。


 けどなぁ。優秀な事務方はなかなか雇えないんだよなぁ。

 そもそもこの国、読み書き計算ができる人材の絶対数が少ない。商家か貴族に生まれないと、そのあたりの勉強をする機会すらない。

 農民に生まれた場合、まず勉強する機会がない。日の出から日の入りまで農作業に追われて、夜は寝るだけという生活になる。

 職人に生まれたのであれば、簡単な計算と読み書きくらいは仕事の中で覚えることができるけど、大きな桁の計算や事務書類の書き方なんかは覚えられない。

 なので、国全体の識字率は三割くらいだ。


 ドルトンでは冒険者学校で読み書き計算を教えているけど、それでも割合としては全国平均と大差ない。というのも、多少識字率を上げても、流入してくる流民が押し下げてしまうからだ。

 そもそも流民になるような人というのは、元々識字率の低い寒村の小作農だったり、街で食い詰めた貧困層だったりという無学な人たちが大半だからな。

 まぁ、読み書き計算ができる人の数自体は増えてるはずだから、いずれ優秀な文官が育ってくるとは思う。いずれ。

 でも、忙しいのは『今』なんだよなぁ。今すぐに即戦力が欲しい。


「むー、やっぱ引き抜きしかないかなぁ?」

「そうですわね……他領や商会との軋轢を生みそうで気が進みませんけど……」


 そうなんだよなぁ。ただでさえ新興貴族の新興商会で色々目立ってるのに、人材を引き抜いて恨まれるのは得策じゃない。

 まぁ、どうやら俺は国内有数の大貴族らしいから、多少の無理は押し通せる。けど、後々の領地運営に遺恨を残すようなことは、なるべくやりたくない。

 王都屋敷の執務室で決裁書類にサインしながら呟くと、隣のデスクで書類の仕分けをしていたクリステラが応える。主語のない呟きの内容を察して正確な返答をするあたり、やっぱりクリステラは優秀だ。


「ほんならもう、手っ取り早い手はひとつしかないやん」

「というと?」


 同じく、クリステラとは向かい側のデスクで書類の数字をチェックと修正をしているキッカが口を開く。喋りながらも視線と手の動きは止まっていない。キッカも優秀だなぁ。

 というか、この件はキッカが一番の当事者だ。領の財政も商会の運営も、全部キッカのところに集約されてるからな。抱えてる仕事量が半端ない。

 本人は見たこともない桁のお金を動かせることを『商売人冥利に尽きるで!』と喜んでいるけど、仕事量をコントロールしないといずれ無理が祟って倒れてしまう。楽しいだけでは仕事は続かないのだ。前世で過労死した俺が言うんだから間違いない。確約付き。

 で、その解決策があると言うなら、聞くのはやぶさかではない。というか、是非聞かせてほしい。


「奴隷や。ちっと値は張るけど、学のある奴隷を()うてきたらええやん」


 ふむ、なるほど。それ、アリだな。



「こんにちはチャーリーさん、お久しぶり」

「これはこれは辺境伯様、ご無沙汰しております。ようこそお越しくださいました」


 揉み手で俺たちを出迎えてくれた、ボーダーセッツの奴隷商のチャーリーさん。相変わらずのチョビ髭が胡散臭い。

 でもこの人はこう見えて、実に誠実で善人だ。

 ここで扱われている奴隷たちは冷遇されることもなく、望めば読み書きも教えてもらえるし、病気になれば治療もしてもらえる。実に優良な奴隷商だ。


「チャーリー様、ご無沙汰しております」

「おお、クリステラ様! その節はどうも。その後、如何お過ごしでしょうか?」

「ええ、ビート様にはとても良くしていただいておりますわ。もう解放していただいて、今は家宰として雇っていただいておりますの」

「ほほう! それはそれは、おめでとうございます! 良いご縁だったようで、わたくしも嬉しく思います」

「ええ、本当に。おほほほ」


 クリステラもチャーリーさんのところで買ったんだよな。値は張ったけど、そんなこと問題ないくらい役に立ってくれている。実に良い買い物だった。

 ……今はちょっと夜が激しいのと、依存が強過ぎるのが玉にキズ? 若干壊れ気味? いや、買ったときからそうだったかも?


「今日は文官系の素養がある人を買いにきたんだけど、いい人いる? 男女は問わないよ」

「はいはい、ええ、もちろんでございます。何人ほど御入用でしょうか?」

「んー、面接して問題なければ何人でも、居るだけ連れていきたいかな?」

「はいありがとうございます、承知いたしました。では準備いたしますので、応接室のほうでお待ちください。君、辺境伯様をご案内して」

「は、はい!」


 この、余計な挨拶とか世間話とか無しで話が進むところも評価が高い。貴族同士だと、格式やら形式やらで不要な時間を使わされてしまうからな。

 ホント、チャーリーさんはあのチョビ髭で損してるよなぁ。でも、キャラとしては面白いので指摘はしない。そのままでいてほしい。

 受付にいた女性店員が、緊張した様子で応接室へ俺たちを案内してくれる。なんで緊張してるの? とか思ったけど、そういえば俺、お貴族様だった。しかも上位貴族。そりゃ緊張するよな。


 なぜ自領のドルトンの奴隷商ではなく、わざわざ他領であるボーダーセッツの奴隷商まで来たのかというと、それは街ごとの保有している奴隷の傾向の違いによるものだ。

 ドルトンは発展中で勢いのある街だけど、言葉を飾らずに言うなら辺境だ。国の端で魔境のすぐ隣にある街だからな。

 そういう街に必要とされる人材というのは、ずばりガテン系だ。肉体労働が主になるから、知性よりも筋肉が求められる。ペンよりも剣。

 なので、奴隷商が仕入れる奴隷もそっち系統に偏ってしまう。需要があるから。

 実際、ドルトンの奴隷商でも文官系奴隷を探してみたんだけど、残念ながらヨボヨボのお爺ちゃんひとりしか居なかった。潰れた商家の奴隷頭だったらしいけど、あのデスマーチにお爺ちゃんを放り込むのは、さすがにちょっと、ねぇ?


 一方で、ここボーダーセッツは商業の街だ。近くに魔境もあるけど、そこまで脅威じゃない。

 なので、集まってくるというか、仕入れる奴隷も商業に適した奴隷が多くなる傾向が強い。

 ……まぁ、花街や金持ちに売るための若い女性の奴隷も多いんだけど。こればかりはしょうがない、性獣(ニンゲン)だもの。

 そんなわけで、ボーダーセッツにまで足を延ばしてきたわけだ。

 ドルトンの奴隷商でも、頼めばお取り寄せができるんだけど、その分割高になる。なにより、俺自身が動いたほうが圧倒的に早い。喫緊の課題は可及的速やかに解決すべし。


 出されたお茶を皆で飲みながら待つことしばし。

 チャーリーさんが老若男女合わせて二十人という大人数を連れて応接室へやってきた。いや、多いな!


「思ったより多いね。いや、こっちとしてはありがたいけれども」

「はい、実は少し前から、いくつかの貴族家や商会が立て続けに改易やらお取り潰しになっておりまして、その関係で奴隷落ちした者や放出された奴隷やらが結構な数、出回っているのでございます」


 あ……ソレ、僕がやりました。

 アレだよな、反乱未遂のユミナ元侯爵家とか学園襲撃未遂の貴族派貴族とか御禁制品密輸の商会とかだよな? 全部心当たりがある。

 そうかぁ、あの件の関係かぁ。世間的には俺がやったとは知られてないはずだけど、チャーリーさんは……知ってそうだな。ほのかに苦笑いしてる。胡散臭さが五割増しだ。

 そのチャーリーさんが顔を寄せてきて、小声で俺に告げる。あ、何か柑橘系のコロン付けてるな。無駄に爽やかないい匂いがする。


「(ご安心ください、その件に辺境伯様が関与していることを知らない者だけ、集めてまいりました)」


 ホント、優秀だよアンタ!


 結局、体力的に厳しそうなお婆ちゃんひとりを除いた十九人を購入した。大量の人材を確保できてシメシメだ。

 諸々の契約や支払いなどの手続きを終えたところで、またしてもチャーリーさんが俺に顔を寄せて囁く。今回は苦笑いではなく、含み笑いだ。胡散臭さは同じくらいだけどな。


「(やっと、お探しの例の奴隷について情報が入りました)」


 ほう! ついに見つかったか!

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よろしくお願いします!
― 新着の感想 ―
知らない内にマッチポンプしてるビート君
最大のマーケットである王都の奴隷商にも行くべきでは?
読み書き計算ができる奴隷の購入は鉄板ですね!
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