第366話〜牡蠣フライは山盛りでも融けるように消えていく〜
アジマ子爵一家は、子爵、夫人、長女、長男、次女という構成だそうだ。長女がミカエラさん。側室はいない。
子爵は、身長は百六十センチにギリギリ届かないくらいで、この国では少し小柄な部類に入る。けど恰幅がよく筋肉質で、丸太に手足と顔が付いたような体型をしている。
顔は四角い顎に髭面で、鼻は高く目は小さく、口が大きい。
全体的な印象はまんまドワーフだ。会ったことないけど。
この大陸の東の方には本物のドワーフが住んでいるらしいから、一度会いにいってみたい。
今日の服装は平民が着るような麻のシンプルな上下と革の靴、そして熊っぽい毛皮のマントと腰には手斧。
似合ってるけど、似合いすぎるほど似合ってるけど、貴族の格好じゃないよな。まるっきり狩人か山賊だ。
「フェイス殿が来ていると聞いてな! これは挨拶をせねばならんと大急ぎで出てきたのよ! この格好か? なに、ワシらは同じ戦場の矢の下をくぐった仲じゃないか! 気にすることはなかろう! ガハハハッ!」
フォークに刺した牡蠣フライをガツガツ口に放り込みながら、俺達が持参した芋焼酎をカパカパ空けている。酒飲みなところもドワーフっぽい。そして声がデカい。
いや、俺は支援で移動のお手伝いをしたくらいだから。矢の下をくぐってないから。
「ちょっとアンタ、少しは礼儀ってもんをだねぇ! ごめんなさいねぇ辺境伯様。うちの人は酒が入るとちょっと粗暴っていうか、野蛮になっちまうんですよ。すみませんねぇ、オホホホ!」
いえ、昔会ったときと全く印象は変わりませんが? 記憶のままですが?
夫人は旦那同様に恰幅がよく、化粧っ気はあまりない。髪は頭頂近くでひっつめ、ドレスもシンプルなロングのワンピースタイプ。ぶっちゃけ、街にいるそこらの市井のお母さんたちと大差ない。ワンピースの裾に入ってる精緻な刺繍がなければ、誰も貴族だとは思わないだろう。
いや、むしろ市井のお母さん方よりも豪快な感じがする。肝っ玉母さんって感じ? 声もデカいし。
似た者夫婦って、こういう夫婦のことを言うんだろう。いや、夫婦になったから似たのか? 謎だ。
「もう! お父ちゃんもお母ちゃんも恥ずかしいなぁ! 教官、不躾な両親で申し訳ありません!」
ふむ。こうしてみると、ミカエラさんはお母さん似なのだな。顔や雰囲気がよく似ている。将来は肝っ玉母さんになるに違いない。声のデカさはどっちに似たのやら。
一方で、弟さんと妹さんは……どっちにも似てないような気がする。
いや、顔つきだけなら弟さんは子爵に、妹さんは夫人に似ているような気がするんだけど、性格がね?
「どう? 牡蠣は美味しいかい?」
「……うん」
「……おいしい」
めっちゃ大人しい。黙々と牡蠣フライを食べている。
話しかけたら返事をしてくれるんだけど、ちょっとうつむき加減で声も小さい。人見知りしてるみたいだ。
子爵ファミリーらしくない気がするけど、このふたりの性格は似てると思う。
……いや!? やっぱ子爵ファミリーだな! めっちゃ食ってる!
ふたりともまだ十歳になってないように見えるけど、普通にそれぞれが大人二人分くらい食ってる!
牡蠣はいっぱいいたから大量に採ってきたけど、これ、足りるか? 追加で採ってくる?
「ふむぅ、牡蠣にこんな美味い食い方があったとはな! 地の物の食い方を他所の者に教えられるとは、なんたる不覚!」
「うふふ、ありがとうございます。これはビート様が考えたものなんですよ」
「ほう! さすがは婿殿だ! 身内が考えたなら問題ないな! 誇らしい!」
「いや、婿じゃないんで」
ルカが追加の牡蠣フライを大皿に山盛り持ってくる。うん、これは追加で採ってこないと足りないな。隙を見て抜け出そう。
それにしても、妙に子爵は俺とミカエラさんをくっつけたがるな?
いや、有力貴族との繋がりって意味ではアリっていうか、当然のことなんだけど。
けど、俺は王女様と婚約してる関係上、許可なく他の貴族家と婚姻関係を結ばないように王家からお達しが出ているし、貴族にも同様の通達が回っている。それはアジマ子爵家にも届いているはずだ。
ほろ酔いでご機嫌な子爵にそう伝える。これだけ飲んでるのに、まだ酔った感じじゃないんだよな。かなり酒に強いっぽい。やっぱドワーフか?
「うむぅ。そうは言うがな、フェイス殿。ワシら辺境貴族は王家派としてまとまらねば、いざというときに手が回らなくなってしまう。そのために王家派内の結束を強めるのは当然じゃないか」
うーん、それを言われちゃうとなぁ。
俺は南の辺境で魔物を、子爵たちは西の辺境で他国を相手にしている。有事の際には辺境貴族同士で協力しなければ領地を守れない。
領主同士で手を組んで外敵を食い止め、その間に王国から騎士団を派遣してもらって敵を撃退する。そういう関係だからこそ、辺境貴族には王家派が多い。
今の王国貴族は六割以上が王家派で、三割くらいが中立派、一割弱が貴族の権限をもっと強化するべきという貴族派だ。主流で勢いがあるのが王家派。
その王家派の筆頭と思われているのが俺だ。なにしろ王女様の婚約者だからな。
この国の有力貴族である侯爵家三家のうち、現王家に最も近かったひとつはクーデター騒ぎで壊滅寸前、貴族派であったひとつは反逆罪で取り潰しになっている。健在なのは中立派のヒューゴー侯爵家のみだ。
そこへ勃興したのが、新設爵位である辺境伯に任じられた我がフェイス家だ。位階こそ侯爵家に次ぐ上級貴族家とされているけど、権限的には侯爵家よりも強いものを与えられている。王家派の中心になるのは必然と言える。
俺にそんな気は全然ないんだけどな。俺は俺派。
更に、我がフェイス家の家令は元ヒューゴー家の令嬢であるクリステラだ。ヒューゴー家嫡子のアリストさんとも友好的な関係を築いている。中立派の中心であるヒューゴー家とも浅からぬ繋がりがあるわけだ。
あれ? 実は俺って、王国の大物?
いままで客観視したことなかったけど、改めて考えてみると、かなり王国の中心に近いような? 最大勢力? 上手く動けば王国を乗っ取れるくらい?
いや、乗っ取らないけど。そんな面倒なことはしたくない。
そうか。それなら子爵が俺との繋がりを得ようとするのも分かるな。多少の無理をしても繋がりができてしまえば、その影響力で他者からの批判や不満を押し流してしまえる。
脳筋なのに、いや脳筋だからこそ、本質的な正解が分かるんだろう。脳筋恐るべし。
「でも、王国の西の端と南の端だからなぁ。もっと近場の貴族との縁を結んだほうがいいんじゃないの?」
「そうは言っても、それなりに力がある家とでなければ縁を結ぶ意味がないからな! 今の王国でフェイス殿以上の優良株はなかろう!」
「それは、まぁ」
俺以上か。それはなかなか難しいかもしれないな。
今は力を落としている侯爵家から有力な当主が出てくるのを待つか、あるいは他の王家派貴族から優秀な当主や嫡男が……。
あっ、いるじゃん!
最近、超有用な固有魔法に目覚めた、容姿も性格もいいピチピチの隣領子爵家嫡男が!
「はいよ、お待たせ! 坊っちゃんご要望の鍋料理だぜ!」
おっと、あとはサマンサの持ってきてくれた土手鍋を食ってからにしよう。鍋はアツアツを食べないと。
うん、美味い! やっぱ牡蠣と言えばこれだよな!








