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第31話~プライスレスじゃない彼女~

 村長は大金貨を200枚程残して手持ちのお金を預け、俺達は冒険者ギルドを後にした。現金の入った革袋を渡した時のギルド職員の驚きっぷりは中々の物だった。


「さて、では今日の内にもうひとつの用事も済ませてしまうか。」


 そう言って村長が中央広場へ向かって歩き出す。


「もうひとつの用事って?」


「奴隷だ。」


 そういえばそうだった。手っ取り早く村民を増やすために、奴隷を購入するのが今回の旅の主目的だった。


 転生してからこっち、つい数時間前まで俺も奴隷だったわけだが、実のところ、奴隷に対する忌避感というのはほとんどない。それはひとえに村長の人柄によるものだろう。村長は奴隷を冷遇も虐待もしなかったし、過酷な労働もほとんど無かった。魔物の対応や自然の災害等、開拓村では避けられない事だけだ。俺などは『こんなに好き勝手してていいの?』と思う程自由にさせてもらっていた。まあ、子供だったからなんだけど。


「お前も買っておくといいかもしれん。ひとりで冒険は厳しいぞ。」


 村長に購入を勧められた。確かに、魔物や盗賊が居るこの世界でひとりで野営とか、寝る事も出来ない。それに、俺が魔法使いである事はなるべく秘密にしたい。信用できる仲間なんてそうそう出来ないだろうし、ある程度の強要が出来る奴隷という存在はうってつけかもしれない。


「それに、子供と侮って利用しようとする者が居ないとも限らん。今はオレが居るからいいが、今後の事を考えると大人が傍に居た方がいい。」


 なるほど、それはそうだ。中身はオッサンでも、見た目は完全に子供だ。簡単に騙されるつもりは無いが、避けられるイザコザなら避けた方が良い。抑止力としても居た方が良いって事だな。


「うん、分かった。でも、いい人が居たらね。」


 買わない理由が無くなったな。



「申し訳ございません、成人男性の奴隷は全く残っておりませんでして…。」


 奴隷商に入って要望を伝えたら、即答でこの返事だった。いきなり躓いてしまった格好だ。


「先日大口の取引がありまして、成人男性はもちろん、戦闘の出来る成人女性も全てそちらへ回してしまったもので。こういう商売ですので、次回入荷の予定も立っておりません。まことに申し訳ありません。」


 奴隷商のちょび髭やせぎす中年男性は、深く腰を折って謝罪を述べた。よく見ると普通の顔なのに、着ている黒いジャケットとちょび髭のせいでものすごく怪しく見える。


 その大口の取引というのは、おそらく商業ギルドで聞いた戦争関連だろう。購入したのが国か商業ギルドかは知らないけど。

 命の危険がある戦場へ行きたがる一般人はそう居ないだろうから、代わりに奴隷を送り込むというところか。まるで物のような扱いに少々むかつくが、本来奴隷というのはそういう扱いなのだろう。俺はかなり運が良かった。村長に感謝だな。


「そうか、それなら仕方ない。護衛はギルドに頼むか。では子供を男女合わせて10人程頼む。見せてもらえるか?」


「畏まりました。準備させますので少々こちらでお待ちください。」


 そう言って俺達は応接室らしき部屋へ案内され、奴隷商はいずこかへ消えていった。

 部屋は商業ギルドの応接室と大差ない造りだ。ただし、窓に掛かっているカーテンが臙脂色で床は黒い石張りと、やや重い雰囲気だ。重厚さを演出しようという意図だろうが、気分まで重くなってくる。関西人気質が抜けない俺としては、こういうのはどうにも落ち着かない。重いんはアカンねん。耐えきれなくなって、村長に話しかける。


「子供買うの?」


「ん?ああ、そうだ。お前が居なくなるしな。それにうちの村は子供が少なすぎる。将来を考えると10人でも足りないくらいだ。しかし一度に増やしても受け入れ態勢が整ってないからな。今回は10人程度で様子見だ。」


 なるほど。中長期的に考えての事か。即戦力にはならないだろうけど、それは年月が解決する問題だ。


「ノランって何処?」


「…お前も気付いたか。やはり戦争が始まるんだろうな。ノランは王都より更に北、大陸の中央北部の国だ。リュート海という内海を挟んでるんだが、度々海を越えてこちらへ略奪に来るんだ。」


 中世北欧のバイキングみたいなものか?度重なる略奪に業を煮やしたイングランドが逆襲を仕掛けるってところか。


「お待たせ致しました。用意が出来ましたのでこちらへお願い致します。」


 そこまで話したところで奴隷商が戻ってきて言った。


「わかった。ビート、お前も一緒に選べ。」


「え、僕も?」


「ああ、お前が視て(・・)意見してくれ。」


 気配察知で状態を調べてほしいってことか。弱ってると気配も弱く視えるからな。そのくらいはお安い御用だ。


 この街に来る道中の旅で確信を得たのだが、やはりこの気配察知は魔力を感知しているようだ。村長が身体強化を得る前と得た後では、纏っているオーラの強さが桁違いに見えた。質は変わっていない。例えるなら、扇風機の強弱の違いだろうか。

 また、大森林の魔物に比べて北大森林の魔物の気配が小さい事も裏付けになった。弱い魔物は纏っているオーラも弱いのだ。大森林の魔物のオーラにも強弱はあったが、ほとんど一撃で倒していたので関連性に気付けなかった。色々体験しないと気付けない事もあるってことだな。


 俺と村長は廊下を少し歩き、重厚な鍵付きの鉄扉をくぐった先へ通された。そこは20畳ほどもありそうなかなり広い部屋だったが、調度品が全く無かった。壁は石造りで、天井近くに鉄格子付きの小さな窓が数か所あるだけだ。入ってきた扉の反対側に、やはり鍵付きの鉄扉がある。ここは品定めをするための部屋で、あの扉の先が奴隷の居住区なんだろう。

 そして、この部屋の中には男女合わせて20名程の子供が並んで待機していた。年齢は5歳くらいから10歳くらいまでで、女の子が少し多い。多くは怯えているようだが、何人かはこちらを睨んでいる。不安の表れなんだろうが、あまり好意的ではない様だ。彼ら彼女らにしてみれば、見ず知らずの人に見ず知らずの土地へ連れていかれるわけだから、当然と言えば当然か。

 皆、想像してたよりも小奇麗にしている。商品だから粗末には扱ってないんだろう。服は皆揃いの白い貫頭衣だ。ただし皆同じサイズのものを着ているらしく、小さな子は足首まであるが、大きな子は膝上のミニになっている。女の子が多いのでちょっと目のやり場に困る。いやロリじゃない。ちゃうねん。


「如何でございましょう?当店では衛生管理に注力しておりまして…」


「どうだビート?」


「えーっとねぇ…あの子とあの子、それとその子はちょっと弱ってるみたい。」


 俺と同じくらいの年の男の子2人と、ちょっと年上の女の子ひとりだ。衰弱という程じゃないが、かなりオーラが弱い。みれば、立っているだけなのにフラフラと体が揺れている。顔も赤いし、熱でもあるんじゃなかろうか?


「そうか、村は遠いからな。弱ってる者を連れていくのは酷だ。その子達は外してもらおう。」


「な!?そんなはずは…た、確かに少々熱があるようです。おい!」


 確認を取った奴隷商が声を掛けると、それまで扉の前に控えていた従業員らしき男2人が弱っている子供達を奥の扉の向こうへ連れて行こうとする。


「大丈夫だとは思うけど、他の子達とは別の部屋に分けた方が良いと思うよ。感染す(うつ)るといけないから。」


 奴隷商と男達が一瞬ギョッとした顔になる。ひとりや2人ならともかく、3人が熱出してるなら感染性の病気ってことは十分考えられる。その辺の医療知識ってのはないのかね?過去からの経験とかで普通に分かりそうなものだけど。


「ヤバそうか?」


「いや、多分只の風邪だと思うよ?季節の変わり目だし。粥と酸っぱい果物を食べて寝てれば治るよ。弱ってなければ大人なら感染す(うつ)る事もないんじゃないかな?」


 心配そうな村長の問いかけに答える。そろそろ夜は肌寒くなってきたしな。どうやらあまり換気が良くないようだし日の光も浴びてない様だから、体調を崩すのも無理はない。

 奴隷商達も疑念を抱きつつも、多少は安心したようだ。


 それより…。


「ねぇ?」


「は、はい、ナんでしょうか!?」


 奴隷商に話しかけると、裏返り気味の声で返答してきた。ちょっとキモイ。そんなつもりは全然なかったんだけど、粗を探すような事になってしまったから、ちょっとばかり気まずいんだろう。


「その扉の奥に居るのは皆奴隷?」


「は、はい、左様でございます。」


「じゃあさ、一番奥の右側に居る人も連れてきてくれない?」


 俺の要望を聞いた奴隷商の顔に、今度ははっきり驚愕と警戒の表情が浮かぶ。


「な、何故それを…。」


「うーん、説明は出来ないけど、気になるんだよね。」


「どういう事だ?ビート。」


 訊ねてきた村長に顔を寄せるように手招きし、耳元に小声で答える。


「(あの奥にひとりだけすごく大きい気配の人が居るんだ。)」


「(本当か?しかし奴隷商は戦闘ができる奴隷は居ないと言ったぞ?)」


「(うん、だから気になって。)」


 そう、奥から強い気配を感じるのだ。村長ほどではないが、他の一般人に比べれば明らかに大きな気配。


「確かに、奥にひとり、少々訳アリの奴隷がおります。しかし、成人したての女性でして、戦闘向きでもございません。ですので今回はお見せしなかったのですが…ご覧になりますか?」


 奴隷商は先程までの失態を取り繕うためか、かなり下手(したて)に出た感じで答えてきた。意外に小心者で善良なようだ。見た目は胡散臭いのに。


「うん、お願い。」


 そして連れてこられたのは、金髪ロングの美少女だった。やや小柄で150cmに少し足りないくらいだろうか。着ているものは他の奴隷と同じく貫頭衣だったが、その佇まいからは隠しきれない気品が溢れている。少し低いが鼻筋は通っており、伏し目がちの蒼い瞳に力がない点が惜しいが、美少女と言って異論のある人は居ないだろう。

 あと、胸は普通だ。BかC。女性に会うと、つい目が行ってしまうのは仕方ない。仕方ないのだ。大事だから2回言った。


「見てお気づきとは思いますが、彼女は元貴族、侯爵令嬢にございます。かつては第2王子殿下の婚約者でしたが、故有って婚約は破棄、侯爵家より絶縁され、奴隷に身を落とした次第でございます。」


「うわあぁぁんっ!」


 奴隷商がそう説明すると、美少女は両手で顔を覆って泣き崩れてしまった。


 ってか、婚約破棄令嬢!?まさかここ、乙ゲー世界だったの!?

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