第24話~獲物としては美味しいかも~
熨した盗賊達を平面に乗せて馬車に戻ると、こっちも片が付いたところだった。
村長が片手で盗賊を振り回して、最後に残った頭目と思しき奴に叩きつけていた。何アレ、コワい。どっちも死んではいないようだけど。
「村長、あっちは終わったよ。」
「おう。こっちも今終わったところだ。それにしてもこの身体強化ってやつはいいな。現役の時に欲しかったぞ。」
『いい汗かいた』レベルの気楽さで村長が返事する。いや、十分現役で通用するでしょ?片手で大の大人を振り回せる人間がそうそう居るとは思えないし。
「あたしらの出番なんて全く無かったよ。流石は『旋風』ダンテスだね。」
そう言いながら馬車からアンナさん達が出てきた。手にはロープが握られてる。アレで盗賊共を縛り上げるんだろう。
「せめて後始末くらいはさせて下さい。一応護衛の仕事中ですので。」
ウルスラさんがチラリとビンセントさんを見ながら言う。護衛として役に立っているという事を見せておきたいんだろう。そんなに気にすることないと思うけどな。
「心配しなくても大丈夫ですよ。私も荷物も、何の被害も受けてないんですから。立派に護衛の役目を果たしてくれていますよ。」
ビンセントさんがそう言うと、護衛の4人は揃って安堵のため息を吐いた。
ごめんね、護衛よりも強くて。
「ほら、起きな!」
「うげっ!?」
盗賊達を縛り上げた後、頭目の脇腹をアンナさんが蹴って起こす。普段はこんなに攻撃的な人じゃないんだけど、やっぱ戦闘の後ってことで興奮してるんだろうか?いや、ビンセントさんに働いてるところをアピールするために、ちょっと大げさに振舞ってるのかもしれない。
目を覚ました頭目は、周りに転がされた仲間と縛り上げられた自分の身体を見て、状況を把握したようだ。
「てめぇら、何してくれてんだ!俺にこんな真似して只で済むと思うなよ!今すぐこの縄を解きやがれ!さもねぇとぶっ殺すぞ!」
いや、把握出来てなかった。芋虫みたいにクネクネしながら凄まれても、恐怖どころか失笑しか湧いてこない。
「折角あたしが警告してやったのに、無視するからこういう事になるんだよ。自分の間抜けさを恨みな。」
「なんだと!てめぇ、絶対後悔させてやるからな!ぐちゃぐちゃに犯した後で手足を切り落としてゴブリン共の前に放り出してやる!」
頭目は顔を真っ赤にして喚いている。しかも聞くに堪えない悪口雑言だ。気分が悪い。
「はっ、あんたにそんな事は絶対出来ないよ。領主に引き渡せば首を落とされるか、良くて犯罪奴隷だ。せいぜい長生き出来るように神様に祈っときな!」
「へっ、俺にゃあまだ何十人も仲間が居るんだ!あいつらがお前らをぶっ殺して助けてくれるさ!土下座して謝るなら今のうちだぜ!」
ふむ、確かに、まだ仲間がいる可能性はあるな。どれどれ…なるほど。俺は村長にコショコショと耳打ちする。
「ふむ、なるほど。」
俺から話を聞いた村長が前に出て、頭目を見下ろしながら言う。
「仲間が居ると言ったな?それはここから北東に1リー程の所に居る3人の事を言ってるのか?」
「な!?なんでそれを!?」
あ、自分で認めちゃってるよ。おバカさんだな。まあ、賢かったら盗賊なんかになってないか。
近隣で人間らしき気配はそこにしかないし、移動もしていない。しかも交易路から外れた森の中だ。一般の旅人が入るわけないし、狩人にしてもこんなに人里から離れたところへは来ないだろう。ということで、これが盗賊の仲間という事で確定だ。
「ふふん、そのくらいのこと、この『旋風』ダンテス様なら全てお見通しですよ!」
何故かウルスラさんが、偉そうに胸を張って横から口出ししてきた。なんか、俺の中でのポジションが『ちょっと可哀そうな娘』になりそうな感じだ。
「な、せ、旋風だと?」
盗賊にも村長の威光は届いていたようだ。さっきまで真っ赤だった顔が見る間に青くなっていく。血の気が引く音が聞こえてきそうな程だ。口をパクパクさせているが、何も喋れなくなってしまったらしい。
なんかもう、全部『旋風』だけで解決しそうな雰囲気だな。村長、どんだけ暴れてたの?
「ふむ、間違いないようだな。ビート、ちょっと行って片付けてきてもらえるか?」
「うん、分かった。村長は先に進んでて。後で追いつくから。」
「ああ、そうさせてもらおう。戦利品があったら高価そうなものだけでいいから持って帰ってこい。それと、気を抜くなよ。」
「はーい、いってきまーす!」
そういうことになった。
俺達がこんなやり取りをしている間、ビンセントさんは何をしていたかというと、馬にブラシを掛けてあげていた。この人も結構肝が太いな。
◇
残りの盗賊共が居たのは、森の中にある岩山の裂け目に出来た洞窟の中だった。過去形だ。時間を掛ける理由もないし、一気に突っ込んで秒殺(殺してないけど)してしまった。
お約束だと囚われの美少女とか居るんだけど、残念ながら居たのはむさい男の盗賊共だけだった。チッ、使えねぇ。
アジトにあった縄で盗賊共を縛った後お宝を物色するが、どうにも価値のあるものが分からない。貨幣や宝飾品はいいとして、武器防具や壺、本なんかはさっぱりだ。困った。
…面倒だな、全部持っていくか。
平面で適当に箱を組んで、その中に手当たり次第放り込む。パンや干し肉なんかの食料品もあったので、それも詰めていく。まだ食料は十分にあるが、盗賊共にも食わせないといけないからな。適当に詰め込んでると、その中から陶器で出来た瓶が何本か出てきた。これはもしや!と思って匂いを嗅いでみると、思った通り酒のようだ。やっぱあったんやな!
どうやら葡萄酒のような果実酒のようだ。甘い匂いがする。まだ子供だから飲んだりはしないが、大人になった時の楽しみができた。ラッキー!
饐えた臭いのする服なんかの、あからさまに価値が無さそうなモノ以外と盗賊共を箱に押し込んで、アジトを後にする。
これがどれほどの価値かはよくわからないが、個人的にはお酒があることが分かっただけで大収穫だ。早く大人になりてぇな!
◇
捕らえた盗賊共は全部で12人。全員が後ろ手に縛りあげられ、数珠繋ぎにロープで結ばれている。あと、喚き声がうるさいので全員猿轡を噛まされている。
そんな状態で馬車の後方に引き立てられているのだが、最後の抵抗のつもりなのか、歩くのが非常に遅い。おかげで、本当なら残り1日で到着するはずだった交易都市まで3日も掛かってしまった。
そう、余計な時間はかかったが、ようやく交易都市ボーダーセッツに到着したのだ!








