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俺、冒険者!~無双スキルは平面魔法~(WEB版)  作者: みそたくあん
第6章:秘境探検編

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第156話~若い女の子にパパと呼ばれて嬉しいのは、男の本能かもしれない~

 エサをお腹いっぱい食べて体を拭いてもらい、清潔な白い布の服を着せてもらったセイレーンの雛は、そこが自分の巣だと思っているのか俺のベッドへと這っていき、そのまま大の字で寝てしまった。既に野生の欠片も感じられない。

 まぁ、ヒト社会で生きていくなら、そのほうがいいのかも。野生が暴走するといろいろ問題になりそうだし。

 無防備な寝顔を見ながらそんなことを考えてたら、クリステラが俺の隣にやってきた。


「それで、このセイレーンは従魔になさるのでしょう? 名前はどうなさいますの?」

「うん? うーん、そうだな……じゃあ、ピーピー鳴いてたから『ピーちゃん』で」

「まぁ、可愛らしい名前ですわね! 良いと思いますわ!」


 即断即決は俺の信条だ。デザイナーは直感が大事。

 ウーちゃんにピーちゃん。うむ、語呂もいいし、なかなか良いネーミングじゃなかろうか。

 しかし、クリステラは笑顔で追従してくれたけど、他の皆は微妙な顔をしてる。なんだよ、何か言いたい事でも?


「安直やなぁ。いや、文句はないけど」

「アタイはノーコメント」

「あらあら、うふふ」

ない(・・)みゃ」

「……『ピーちゃん』ちゃん?」


 むう、それは意見があるのと同じだぞ、キッカにサマンサ。後でアーニャと一緒に耳モフりの刑だ。君が(いい声で)鳴くまで、僕はモフるのをやめない! エルフ耳をモフるのはまだやったことないしな!

 それと、デイジー、『ちゃん』と『はい』は一回だ。


「よく、寝ています」

「(ふんふん)」

「可愛いです! ほっぺたプクプクですよ!」

「寝冷え」


 寝ているから危険は少ないと判断して、子供たちもベッドのそばに近寄っていいという許可を出している。おっ、サラサが丸出しのピーちゃんのお腹に手拭いを掛けてあげた。この娘もなかなか気が利くな。

 まぁ、ピーちゃんのさっきまでの挙動を見るに、危険は無さそうではある。見た目と食べるものを除けば、そこらの子供とそれほど変わらない。もしかしたら、食べる物も俺たちと同じ物で大丈夫かもしれない。ちょっとずつ試してみよう。


 皆がスヤスヤ眠るピーちゃんを見てホッコリしていたそのとき。


「ピー……パパ……ママ……」

「「「「「!!」」」」」


 ピーちゃんの発した寝言で、その場の空気が固まった。いや、子供たちとアーニャを除く女性陣の動きが止まった。

 そして、何やら刺々しい気配が周囲に漂い始める。むう、これはマズいかもしれない。


「おほほほ、ピーちゃん、ママはここにおりますわよ」

「なに言うてん、ピーちゃん、うちがママやで~」

「し、しょうがねぇな。そんなに言うならアタイがママになってやるか」

「あらあら、うふふ。目が覚めたらママが抱っこしてあげますからね」

「……この歳で母親になってしまうとは」


 それぞれがスヤスヤ眠るピーちゃんに声をかけ、そしてお互いに睨み合う。その険しい視線は、まるで火花が散っているよう……って、マジで魔力をぶつけ合ってるよ! 普段は大人しいデイジーまでが本気の魔力をぶつけている。

 皆の中間地点でぶつかり合った魔力が、まるで青白い火花を散らしているようにはじけ飛んでいる。へぇ、魔法に変換されてない魔力がぶつかるとこうなるのか。って、そんな観察してる場合じゃないかも?


「おほほほ! みなさん、『ママ』は奴隷頭であるわたくしが引き受けますから、無理をなさらなくてよろしいんですのよ?」

「いやいや、お忙しい奴隷頭様に余計な仕事はさせらんし。うちがちゃんと『ママ』になるから安心してぇな?」

「あらあら、『ママ』らしい家事はわたしが一番得意です。任せてください」

「あ、アタイだって家事は得意だぜ! 可愛い服だって作れるし! 『ママ』の座は譲れねぇな!」

「……母親に必要なのは技術ではなく愛情」


 五人の間で飛び散る魔力の火花は収まる様子を見せない。むしろ、より激しくなっていく。クリステラとキッカはともかく、ルカ、サマンサ、デイジーがここまで我を張るのは珍しい。

 理由は分かる。俺が『パパ』だからだ。『パパ』と『ママ』は、基本的にワンセットだ。『パパ』、つまり俺のパートナーである『ママ』の座を巡って争っているのだろう。ラブコメのニブ系主人公じゃあるまいし、そのくらいは分かる。

 気持ちは嬉しいんだけど、子供たちの前で争うのはやめてほしいなぁ。教育に良くなさそうだ。ほら、皆キョトンとしちゃってるじゃないのよ?

 声を掛けてやめさせるべきか? いや、俺は知っている。女の闘いに男が口を出すと、鎮火するどころか余計に強く燃え盛るという事を。そしてそれは周囲に飛び火し、大炎上を引き起こす。後には焼け野原しか残らない。

 ここは逃げの一手だな。ピーちゃんに後ろ髪を引かれている子供たちの背中を押し、俺とウーちゃんは寝室を後にした。


「アタシはママよりトト(魚)のほうがいいみゃ」


 アーニャもちゃっかり避難している。相変わらず危機回避能力が高い。



 子供たちをリビングまで連れ出した俺は、そのまま屋敷を出て冒険者ギルドへと向かうことにした。ウーちゃんとアーニャも一緒だ。帰って来る頃には、あの(いさか)いも決着してるだろう。してるといいな。

 目的はピーちゃんの従魔登録だ。ちゃんと登録しておかないと、街を襲撃に来たと勘違いされてピーちゃんが危険だ。

 それ以外にも、最近の世情や各地の情報を収集するという目的もある。冒険者ギルドは、国営機関だけあって情報が早く多く入ってくるから、情報収集には便利なのだ。


 お昼を回ったばかりで太陽はまだ高く、石畳に落ちる影は短い。もう初夏を過ぎて盛夏が近いこともあり、ぶっちゃけ暑い。


「うみゃ~、やっぱり街は暑いみゃぁ。ジョンのところは涼しくて快適だったみゃぁ。また涼みにいくみゃぁ」

「またそのうちにね。今は生まれたばかりのピーちゃんを置いていけないし」

「みゃぁ~」


 アーニャが分かりやすくダレている。ミミもシッポも垂れて力無い。背も猫背だ。猫っぽい。

 アーニャは暑いというけど、実のところ俺はそうでもない。気温は多分三十五度近いだろうけど、空気が乾燥しているからか、そんなに不快ではない。日本のジメッとした夏を知っている俺にしてみたら、この程度はまだまだ快適の範囲内だ。

 うーちゃんも、舌を出してるけどそれほど暑そうではない。普通は猫の方が暑さに強くて、犬は暑さに弱いはずなんだけどな。これもファンタジーならではってことなのか?


 冒険者ギルド内は、意外にもそれほど暑くはなかった。掲示板に貼られた依頼書が、時折ヒラヒラとめくれている。何処からか風が入ってきており、それが体感温度を下げているようだ。南国の知恵ってやつかな。

 お昼過ぎのこの時間、冒険者ギルド内の人影はまばらだ。朝に依頼を受けた冒険者はまだ帰ってきてはいないし、新しい依頼は夕方前にならないと貼り出されない。冒険者ギルドが一番ヒマになる時間帯だ。もちろん、それを見越して来てるんだけど。混雑で待たされるのも、人ごみの中に入って行くのも遠慮したい。

 受付カウンターを見るとやはりガラガラで、冒険者が居るのは同じカウンターでも冒険者ギルド内に併設された酒場のカウンターだけだった。昼間から飲んでるのか。羨ましい。

 馴染みの受付嬢であるタマラさんのところへ向かうと、すでにこちらに気付いていた彼女は笑顔で応対してくれた。


「いらっしゃいぃ。今日はどうしたのぉ?」

「うん、新しい従魔を登録しようと思って。さっき生まれたばかりなんだ」

「あらぁ、また増えたのねぇ。今度はどんな魔物なのぉ?」

「セイレーンだよ。蒼い髪と目の」

「そうなのぉ? 珍しい魔物を捕まえたのねぇ。ビート君なら心配ないと思うけどぉ、ちゃんと躾けておいてねぇ? はいぃ、これぇ」


 タマラさんが受付カウンターの向こうから、従魔登録用の用紙を俺に手渡してくる。相変わらずのんびりした話し方だけど、目は笑ってない。基本的に魔物は狂暴で、長く受付嬢をしている彼女は、その危険も十分承知しているからだろう。

 この前のゴブリンだけでなく、この街は度々魔物の襲撃に晒されている。冒険者ギルドは最前線でその対応をするから、必然、タマラさんもその脅威は身をもって感じていることだろう。その彼女がクドクド言うことなく用紙を手渡してくれたのは、俺を信用してくれてる証だ。ウーちゃんという前例があるからこそだ。信用は裏切れない。


 書き上げた用紙を渡すと、後方の別の職員に回された。その処理が終わるまで、情報収集という名目の雑談に興じることにする。どうせ他に冒険者は居ない。

 まず大きなトピック、ジャーキンとの戦争だけど、村長率いる王国軍は国境を越えて、ジャーキン南東部のかなりの地域を制圧したらしい。といっても、主要な街や城塞は何故か(・・・)壊滅状態だったから、ほとんど抵抗は受けていないそうだ。何故だろうねぇ(棒読み)?

 城壁も壊れてたから魔物への備えが必要になってるそうだけど、もともと冒険者で今も辺境の開拓村を治めている村長だ。その辺は慣れたもので、問題なく軍を進めているらしい。

 侵略するつもりが逆に侵略されているジャーキンだけど、帝都で何やら大きな事件があったらしく、現在は政治に混乱が生じているのだとか。軍も混乱していて、組織立った対応が出来ていないそうだ。何があったのかなぁ(棒読み)?

 この分なら、もう少ししたら戦争が終わりそうだ。そうしたら、トネリコさんに頼んで米を輸入してもらおう。早く終わらないかな、俺の食欲のために。


 その他の小さなトピックとしては、その戦争にここドルトンの領主であるバニーちゃんこと、バーナード=ドルトン伯爵がまた向かったことだろう。帰ってきたばかりだったのに、お忙しい事で。

 それほど深い繋がりがあるわけじゃないけど、顔見知りではある。怪我せずに帰ってきてほしいものだ。

 他にも小さなトピックがいくつかあったけど、国内の貴族の醜聞と汚職という、よくある話ばかりだった。俺も貴族だから無関係じゃないけど、興味はない。昼下がりの話題ではあるな。


 そんな雑談を小一時間ほどしたところで、奥の職員から従魔登録が終わったことを告げられた。タマラさんに手を振って挨拶をし、談話スペースで眠り込んでたアーニャとウーちゃんを起こして屋敷に帰ることにする。

 さて、もう状況は収まってるかな?



「ぐぬぬぬ……」

「むむむ……」

「ううう……」

「うふふふ……」

「……むう」


 まだ治まってなかった。ピーちゃんの眠るベッドを囲んで五人が睨み合っている。ドアの隙間から見つめる子供たちも困り顔だ。


「どう、しましょう?」

「仲裁に入るですか?」

「いや、放っておくのが一番だと思うよ? 道理や論理じゃなくて感情の話だからね。説得や仲裁なんかできないよ」

「納得」

「(こくこく)」


 バジルは真面目だから、どうにか諍いを治めたいようだ。でも、争う女たちに男が出来ることなんてないんだよ? これは世の中の真理のひとつ、悲しい現実だ。


「ピー……おはよう? パパ?」


 ピーちゃんが目を覚ました。この緊迫した空気の中でいままで眠っていられたとは、なかなかの大物かもしれない。

 何気ない素振りでドアを開け、寝室に入っていく俺。後ろから子供たちもついてくる。まぁ、危険はないだろう。さっき餌食べたばかりだし。


「うん、おはようピーちゃん」

「ピー? ピーちゃん?」

「そうだよ。君は今日からピーちゃんだからね」

「ピー! ピーちゃん! ピーちゃんはピーちゃん!!」


 起きたピーちゃんがベッドの上で飛び跳ねる。動きは普通の子供だなぁ。どうやらまだ飛ぶことはできないらしい。やっぱ教えないとダメかな? どうやって教えよう?


「ピー! パパ、ピーちゃん、ママ!」

「「「「「!!」」」」」


 ピーちゃんの『ママ』の声に、まだ睨み合っていた五人が我に返る。


「おほほほ! ピーちゃん、ママはここですわよ!」

「うちがママやでー」

「アタイがママだぜ!」

「あらあら、ママを呼んだ?」

「……お母さんと呼んで」


 出かける前から全く進捗がないな。この娘たちはいったい何をしていたのか。不毛とはこういうことなんだろうな。決してハゲてはいないけど。


「ピー? ママ、ママーッ!」

「「「「「!?」」」」」

「!?」


 そう言ってピーちゃんが跳ねていったのは、部屋の入り口で控えていたリリーの腕の中だった。リリーもちょっとびっくりしたようだけど、笑顔でピーちゃんの髪を撫でている。


 まぁ、当然っちゃぁ当然かな。与えた魔素は俺が一番多いだろうけど、抱いてた時間はリリーが一番長いはずだ。まだ殻の中にいたピーちゃんがそれを感じててもおかしくはない。


「そ、そんな……子供に負けましたわ……」

「くっ、うちはまだママにはなれんのか」

「いや、ピーちゃんのママは無理でも、本当のママなら!」

「あらあら、そうね。そのほうが嬉しいし。うふふ、うふふふ」

「……本番に賭ける」


 おおう、五組の視線が今度は俺に! アレは獲物を狙う猛禽の目じゃないか! 背筋が、背筋が寒い、喰われてしまう! この世界には肉食系女子しかいないのか!?

 誰か助けてーっ! ママーッ!!

ママも小学二年生。

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