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俺、冒険者!~無双スキルは平面魔法~(WEB版)  作者: みそたくあん
第5章:準男爵編

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第143話~標準語だと、どうにも締まらない~

 ドルトン伯爵との会談を終え、いよいよジャーキンへと向かうことになった俺たち。先ず向かうのは、ヒューゴー侯爵領の港町ブリンクストンだ。そこでジャスミン姉ちゃんの情報を集め、その後おそらくジャーキンへと潜入することになる。敵地への潜入調査だ。気を引き締めて行かなければならない。

 ジャスミン姉ちゃんを見つけ出したら、そのまま帝都テイルロードへ向かう予定だ。転生皇太子をシバキ倒して、クリステラとキッカの恨みを晴らす。ついでに囚われた海エルフたちの情報を入手して、キッカの叔父であるトーマさんに提供する。可能であれば、救出してきてもいい。きっと酷い目に遭ってるから、助けられるなら早い方がいい。

 予定外にやる事が多い。けど、優先順位を決めてひとつずつこなせば、できない事じゃない。まずはジャスミン姉ちゃんだ。あの鉄砲玉娘を保護……捕獲しないと。


「「「「いってらっしゃいませ、旦那様」」」」

「うん、行ってきます。何かあったら冒険者ギルドへ駆け込むんだよ? 副支配人のイメルダさんには話してあるから。あと、ご飯をしっかり食べて、時間があるときはしっかり遊んで、お風呂に入った後は湯冷めしないうちに早く寝ること。あとは……」

「長いわ! あんたはおかんか!」


 出立の日の朝、注意事項を子供使用人たちへ伝えていたら、キッカに突っ込まれた。昨日の夜に打ち合わせた通りだ。やはり関西弁でのツッコミはいい。以前ノランへ向かう際にもやったことだけど、ギャグは繰り返さないと持ちネタにならないからな。キッカには『いや、うちはええんやけど、意味は分からんな』と呆れられた。いいのだ、オヤクソクとはそういうものだ。

 そんな緩い空気のまま、俺たちを乗せた船は港から飛び立つ。最近増えてきたドルトンの漁師たちが、ポカンと空飛ぶ船を見上げている。これぞファンタジーって絵面なんだけど、意外に日常生活ではファンタジーなことって起こらないんだよな、このファンタジー世界。


「うふふふ」

「暑い」

「坊ちゃん、ブリンクストンまでの航路? 海路? は分かんのかい?」

「暑い。うん、サンパレスまでは前回行ったときにマップを作ってあるからね。サンパレスからは海岸沿いを西へ行くつもり。そこからは飛んでいくんじゃなくて、海を走っていくよ。無用に目立つとジャーキンに警戒されるかもしれないからね」

「うふふ……あら、残念ですわ。こうしてビート様に抱き着いていられるのはサンパレスまでなんですのね」

「うん、暑い」


 目隠ししたクリステラが、甲板に腰を下ろした俺を後ろから抱きしめている。例の高所恐怖症対策だ。いつもはウーちゃんに抱き着いてるんだけど、今回はそのウーちゃんが抱き着かれるのを嫌がった。もう季節は初夏。さすがのウーちゃんも、ずっと抱き着いていられると暑いと見える。仕方ないので、今回は俺に抱き着いているというわけだ。

 そこそこ高空を飛んでいるので、実は気温は低い。むしろ寒いくらいだ。しかし風を避けるために平面で周囲を覆っているため、船の周囲は温室の様になっておりかなり気温が上がっている。平地と同じか、むしろやや高い二十七度くらいの気温になっている。そこへクリステラがべったり張り付いているものだから、かなり暑い。さらに、クリステラが俺に抱き着いているのを見たウーちゃんが、嫉妬からか俺に体を押し付けるように寝そべっているものだから、俺の周りだけサウナ状態になっている。ぶっちゃけ、暑い。ウーちゃん、暑いから逃げたんじゃないの? そんな、舌を出してハァハァ言いながら寝そべってなくていいんだよ? そしてクリステラ、ハァハァ言いながら抱き着かないで。怖いから。

 サマンサの尋ねてきた今後の進路だけど、ブリンクストンの街はまだ行ったことがないから、場所がわからない。サンパレスは前回訪れているので、『僕の冒険世界地図』に追加済みだ。まだ世界どころか王国とノランの一部しかないけど、いずれこの世界全てが記入される予定のこの地図と、平面魔法の『ワールド座標』を組み合わせれば、自分の現在位置がつぶさに分かる。これがあれば、もし『おおっと! テレポーター』なんてことがあっても、『いしのなかにいる』とかじゃない限りは既知の近隣の都市へ辿り着くことが可能だ。迷子札要らず。


「それで、ブリンクストンから先はどないすんのん?」

「それは情報を集めてから、かな。多分ジャスミン姉ちゃんはジャーキンに向かったと思うんだけど、ジャーキンは広いからね。適当に探しても見つかるもんじゃないよ」


 ジャーキン神聖帝国は広大だ。この大陸の四分の一近くを領有している。その面積は王国の倍近い。必然的に資源も人材も豊富で、まともに攻めて来られたら王国の苦戦は免れないだろう。それを食い止めてた村長って凄いな。

 ジャーキン神聖帝国は、元々は小国が犇めいていた大陸西方のいち海洋国家だ。その海軍力をもって周辺諸国を併呑し約二百年前に帝国を名乗った、比較的歴史の浅い国だ。『神聖』なんて名前だけど、歴史の浅い国だけあって権威というものが無く、それを手っ取り早く手に入れようと神様に(あやか)っただけだという。別に宗教国家というわけではないらしい。皇帝を神の代理人として神格化しているそうだけど。神様が実在する世界で神の代理人を詐称するなんて、その大胆さには呆れを通り越して尊敬の念を覚えなくもない……ことはない。バカじゃないかとは思う。

 ともあれ、そんな大国ジャーキンだから、商船が向かう先もひとつじゃない。今は王国との戦争中だから、さすがに帝都直行ということは無いだろうけど、それでも数か所は候補地がある。何処行きの船にジャスミン姉ちゃんが乗ったか、きちんと調べないと追いつけないだろう。ブリンクストンに着いたら聞き込みだ。


「うふふふ」


 それはそれとして、やっぱり暑い。



 ブリンクストンはそこそこ大きな港町だ。近海漁業も盛んで、朝には港に大きな市も立つ。ヒューゴー侯爵領では第二の都市だ。当然人の出入りも激しく、冒険者ギルドへの依頼も多い。

 とはいえ、そのほとんどは畑や漁場を荒らす魔物退治で、意外にも護衛依頼はそう多くないのだとか。なんか聞いてた話と違うなぁ、商船の護衛依頼が多いんじゃないの? と思ってたら、実は冒険者ギルドを通さない『裏依頼』が横行しているのだそうだ。

 というのも、護衛を必要とする商船の多くが、国境を跨ぐ、云わば『密輸』を行っているため、正規に冒険者ギルドを通した護衛依頼を出さないのだとか。正規の手続きをとると、積み荷の検査やら手続きやらで時間と手数料が掛かるかららしい。だから皆密輸に走るのだそうだ。取り締まるにも、夜中に船を出されたら見つけるのも困難だろう。現代と違ってレーダーなんか無いからな。

 だから商船主は冒険者ギルドを通さずに、直接冒険者と契約しているそうだ。当然トラブルがあっても冒険者ギルドの仲裁は無いわけで、雇う方も雇われる方も信用が大事になる。そもそもが密輸という違法行為なわけで、そんな仕事で信用っておかしくない? と思わないではない。しかしこれが不思議なもので、違法行為だからこそお互いに一蓮托生、通常の依頼よりも強固な信頼関係が生まれるらしく、あまり大きな問題は起きていないのだとか。

 そんな話をブリンクストンの冒険者ギルドの受付嬢から聞いた。聞いたというか、愚痴られた。街の規模の割に税収が少ないと言って、王都の本部から度々お叱りがあるのだそうだ。怒られるのは支配人のみだけど、その度にその支配人から職員に八つ当たりがあるのだそうだ。ご愁傷様。


「しかし、参りましたわね。ジャスミン様が依頼を受けた形跡が無いだなんて」

「裏依頼で船に乗ったってことだよな? 個人で契約したなら、相手の商船を探すのは骨だぜ?」

「何処の誰と契約したか分からんってことやからな。ここに来た日にちもはっきりわからんし、これはかなり難しいんとちゃう?」


 朝早くに出たおかげで、その日の夕方にはブリンクストンまで辿り着き、宿をとって一晩明けた朝、俺たちは冒険者ギルドで頭を抱えていた。全く、次から次へと問題を起こしてくれる娘だ。


「とにかく痕跡を探すしかないね。三班に分けて、商人、冒険者、港の労働者に聞き込みをしよう。僕は冒険者に当たってみるよ」

「では、わたくしもビート様とご一緒しますわ!」


 いつもながら、クリステラは即決だ。今日は俺と密着してたからか、テンションも高い。目の届くところに置いておかないと暴走しそうだし、仕方がないか。ウーちゃんも一緒だから、俺の貞操の危機は無いだろう。無いはずだ。


「じゃ、アタイとお姉は商人を当たるぜ」

「そうね。大通りの商館を回ってみましょう。買い物をしながら世間話のように切り出せば警戒されないと思いますし」


 うむ、密輸は公然の秘密みたいだから、その話自体をしてもそれほど警戒されないとは思うけど、念のために遠回しな話の持って行き方はした方がいい。ルカとサマンサの姉妹コンビは宿の看板娘だったし、話術も得意だ。任せて安心だな。


「ほんなら、うちとアーニャはんとデイジーは港やな。時間的に、漁に出てた船も帰ってきてるはずやし、漁師からもなんか心当たりないか聞いてみるわ」

「……海の事は海の男に聞くのが一番」

「みゃっ! 旬の美味しい魚のことも聞いてみるみゃ!」


 なんでだろう? 港班はアーニャが一番年上のはずなのに、キッカが一番頼りになる気がする。デイジーは無口だしアーニャは食い気ばかりが先に立つしで、正直、メンバー的には一番心配だ。けど、デイジーの言う海の男じゃないけど、海エルフのキッカは海の女だ。港の男たちとは通じるものがあるかもしれない。キッカが居れば大丈夫、と信じよう。


「よし、それで行こう。何があるかわからないから、絶対にひとりじゃ行動しないこと。お昼に一度ここ(冒険者ギルド)に集まって報告会ね。それと、一応皆にお金を渡しておくけど、無駄遣いはしないこと。情報料として使ってもいいからね。それから迷子になったら海に向かえば港に出るから……」

「長いわ! あんたはオカンか!」


 うむ、やはり関西弁のツッコミはいい。

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