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俺、冒険者!~無双スキルは平面魔法~(WEB版)  作者: みそたくあん
第5章:準男爵編

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第130話~ゲームや映画では臭いまで伝わって来ない。それが正解~

 リュート海北側に聳える山脈を越えると、そこは針葉樹が密生する樹海だった。山脈を白く覆っていた雪も、山裾では既に融けて新緑が芽吹き始めている。北国にも春が訪れているようだ。

 ここはノラン民主共和国。大陸北方を国土とする大国だ。ただし、その内情はあまりはっきりしない。というのも、この大陸の国家は長期にわたって戦争状態にあり、ノランもその例に洩れず国境を接する国々と交戦状態にあるためだ。

 この世界は情報伝達がまだ発達していないため、情報は噂話や手紙などの人伝(ひとづ)てでしか移動しない。通信の魔道具があるにはあるけど、一般には普及していないし、国外とも繋がっていない。なので、戦争で国境が封鎖されると人の移動が制限されるから、情報が外部に流れなくなる。交戦で捕獲した兵たちからくらいしか得る手段がない。

 そうやって集められた断片的な情報から積み上げられたノランという国の印象は、端的に言うと独裁国家だった。アジアの某半島北側にあるあの国に近い。


 民主共和国を謳うだけあって、政治は国民の代表による決議で運営されている。ただし、その代表を選ぶ権利は国民にない。三宗家と呼ばれる大貴族が存在し、その三宗家当主たちの指名によって議会の代表は選出される。それ以外、議員になる道はない。そんな状況で真っ当な政策が議論されるはずもなく、議会では三宗家に都合の良い決議だけが行われ、議員はそれを承認するだけだ。

 三宗家の家名はゴルディアス家、オーロ家、ゾロト家。各家の間には婚姻による血縁関係があり、実質的にはノラン王家とも呼べる独裁政治体制をこの三家で布いている。

 国土はほとんどが寒冷地で、農業にはあまり適していない。僅かな耕作地から得られる収穫のほとんどが税として徴収され、国民は常に貧困に喘いでいる。

 すぐにも反乱が起こりそうな情勢を押さえつけているのが軍備と教育だ。平民が少しでもまともな暮らしを望むなら軍人になるしかなく、その際に行われる教育では『ノランこそ世界の最先端国家』『外国は無教養な野蛮人ばかり』『偉大なる三宗家を指導者に抱える我が国の民は幸せ』と教え込まれる。選民思想による洗脳を施し、優越感を与える事で不満を抑え込んでいるわけだ。

 主な外貨獲得手段は盗賊行為による略奪。山で行えば山賊、海で行えば海賊だ。襲い、犯し、奪うことで、野蛮人に対してノランが上位者であるという教育を施しているという建前らしい。女子供を攫うのは、野蛮な外国からの救出というわけだ。その後はやはり教育という名の虐待が待っている。つまり非合法な奴隷にされるわけだ。

 以上が冒険者ギルドや商業ギルドから集めた、ノランという国についてだ。


「なんちゅうか、ろくでもないって言葉では表しきれんぐらい、ろくでもない国やな」

「アタイらの家が焼かれたのも教育だっつうのかよ! ざけんじゃねぇ!」

「あらあら、これはわたしたちが正しい(・・・)教育を施してあげなければいけないわね」


 行動を起こす前の情報共有だったんだけど、予想通り皆のノランに対する印象は最悪だった。当然だけど。普段温厚なルカまで、背景に黒い炎を背負ってる。顔がいつもと変わらない笑顔だけに怖い。


 今は平面魔法製葉巻型UFOもどきから降りて、樹海の中に湧いた泉のほとりで休憩中だ。時刻は昼前。別に疲れてはいないんだけど、トイレ休憩は必要だ。

 周囲にはヘラジカや大熊など、結構大型の魔物が居たけど、既にお肉の塊に変わっている。魔石は大森林の魔物並の大きさがあったから、実はここも結構な魔境なのかもしれない。まぁ、大森林で慣らした俺たちなら問題ない。日常みたいなものだ。

 ちなみに今回の復讐旅行について、冒険者ギルドには『海賊の残党狩りでリュート海の北へ行く』と届けてある。嘘は何ひとつ言っていない。残党=ノラン指導部だし、ノランはリュート海の北にあるからな。


「それでビート様、これからどうなさいますの?」

「まずは三宗家についての情報集めかな。全員を排除するのは大変そうだから、各家の現当主と跡継ぎ、その予備候補までを教育(・・)してあげようと思ってる。そのためには、居場所を突き止めないと。出来れば顔も知りたいし」

「でしたら、カガーンへの道中に街があったら立ち寄ったほうがいいですわね」

「でっかい街はやめた方がええかもしれんな。見慣れん余所者(よそもん)が来たっちゅうんを、通信の魔道具で伝えられて警戒されるかもしれん。小さい町や村やったら大丈夫やろ」

「そうだね。もし小さい村があったとしても、まずは偵察してからにしよう。余所者は警戒されるだろうし」

 選民教育が地方の村にまで普及してるとしたら、立ち寄るだけで危険かもしれないしな。



 立ち寄るのは危険。それは間違いない。でも、これはちょっと想定外。危険の種類が違う。いや、ある意味、いつも通りなのか?


「ぐあっ!」

「ベン!? ベンがやられた! 誰か援護に回ってくれ!」

「無茶言うな! 空いてる手なんかねぇぞ!」

「畜生、こいつら東の村の連中だ! 今年は冬を越せなかったのか、いい奴らだったのによう」

「悲しんでる暇があったら手を動かせ! ここが破られたら、うちの村もこいつらの仲間入りだ!」


 樹海を抜けた先の平原で最初に見つけた村、そこが魔物に襲われていた。またかよ。俺の行く先々で町や村が魔物や盗賊に襲われてるんだけど、どういうこと? そういうめぐり合わせなのか、それともこれがこの世界での普通なのか。どっちにしてもろくなもんじゃない。

 襲っている魔物はゾンビ、初めて見るアンデッド系の魔物だ。かなりの数がいる。二百体は超えているだろう。それに対し、丸太を組んだバリケードとこん棒で応戦している村人の数は二十数名。不利なのは間違いない。

 ゾンビの群れは村の東側に集中している。村を囲むとか、回り込むといった知恵は無いようだ。文字通り、頭に血が廻ってないんだろう。

 動きも遅い。ノソノソと足を引き摺るように歩いているのや、腹ばいでズルズルと這っている奴もいる。ゾンビ映画やゲームみたいに、手を前に出して歩いている奴もいる。まさにホラーだ。


 正直、ゾンビと戦うのは遠慮したい。ホラーは苦手なのだ。いや、骨とか筋肉とかは平気なんだけど、腐ったりはみ出たりしてるのが気持ち悪くて。魔物の解体は慣れたから大丈夫なんだけど、ゾンビの解体は勘弁して欲しいってのが本音だったりする。けど、そうも言ってられないか。


「通りかかったものは仕方ない、見捨てるのも寝覚めが悪そうだし、助けるよ!」

「「「「「「ハイ!」」」」」」


 村から南に五百メートルほど離れた荒地に葉巻型UFOもどきを降ろし、平面を解除する。積まれていた荷物がドサドサと落ちる。壊れ物は無いから大丈夫。

 次いで、全員の武器と身体を平面魔法でコーティングする。もし『アンデッドは魔法の武器じゃないと倒せない』なんてことがあっても、これで問題解決だ。平面魔法、鬼イケてる。


「無念ですわ……」

「風魔法ではどうにもならんし、しゃあないな」


 荷物の番に残るキッカとクリステラが残念そうな声を出す。

 このふたりを残したのは、単に相性の問題だ。ゾンビには、殴ったり切ったりする攻撃は有効だけど、突く攻撃は効果が薄い。骨を砕くか、手足を斬り飛ばすかしないと、動きを止められないからだ。キッカの弓とクリステラの細剣では効果的なダメージを与えられない。

 サマンサの槍も突く武器だけど、こちらは振り回して叩きつける棍のような攻撃もできる。ふたりよりはマシだ。

 まぁ、荷物の番も大事な仕事だ。腐らず励んで欲しい。


 ゾンビの群れに向かって、残りの皆で突っ込む。ウーちゃんも俺について来ているけど、心なしかテンションが低い様に見える。まぁ、腐肉だからなぁ。乗り気じゃないのも仕方がない。お腹壊すから食べちゃだめだよ?


「旅の者です! 助けに来っ!?」


 彼我の距離が百メートルくらいになったところで名乗りをあげようとしたら、ゾンビ共が一斉にこっちを向いた。それはもう、気持ち悪いくらい一斉に。いや、実際気持ち悪いんだけど、声で注意を引いちゃったか? 鼓膜、残ってるの?

 そして、ゾンビ共は俺に殺到してくる。めっちゃホラーだ。周りにいるデイジーやルカ、サマンサ、アーニャには見向きもしない。いや、もう目玉は白く濁って見えてないだろうけど。それにしても、なんで俺だけに?

 まぁ、ある意味都合がいいとも言えるか。


「全員散開! 僕が引き付けるから、外側から削っていって!」


 俺の号令で皆が距離を取る。ウーちゃんは理解できなかったのか、俺のそばで身構えている。俺を守ってくれるつもりなのかな? 愛い奴。

 向かってくるゾンビの動きは鈍い。身体強化を使わなくても、普通に走って引き離せるくらいだ。武器は持っていないし、魔法も使ってこない。正直言って、スライム並みの雑魚だ。

 待つのは好きじゃない。ゾンビの群れの中に飛び込んで、左右の剣鉈と鉈を斬りつける。うっ、結構臭い。『腐ってやがる、早過ぎたんだ』なんてボケてる場合じゃない。これは後で装備一式を洗わないといけないかも。

 首、足首、手首。ワラワラと集まってくるゾンビを、とにかく手当たり次第に斬りまくる。でも、斬っても斬っても全然減った気がしない。ゾンビ映画の主人公気分だ。勘弁して。

 手足を斬られた奴はジタバタと暴れているけど、首を斬られた身体は動きを止めている。切り離された頭の方は口をウゴウゴと動かしているから、どうやら頭にゾンビの核になる部分があるみたいだ。てか、首だけになっても死なないのか。いや、もう死んでるけど。ややこしいなぁ。


「頭が弱点みたいだ! 斬り飛ばすか砕くかすれば止められるよ!」

「わかったみゃ!」

「……叩く!」

「……」


 あれ? ルカとサマンサからの返事がない。まさか!? いや、気配はある。ふたりとも、ちょっと離れたところにいるみたいだ。

 見ると、しゃがみこんだサマンサの背中をルカが擦っている。あ~、そういう事ね。臭いか見た目か、とにかく気持ち悪くなっちゃったんだろう。目玉が飛び出してるのとか、首周りに喰いちぎられた痕のある奴とかいるもんな。さもありなん。

 この後、カガーンで生きた人間相手に同じような事をする予定があるんだけど、大丈夫かな? ちょっと心配だ。ちょっとずつ慣らしてあげる必要があるかも。


 とりあえず、今は目の前のゾンビを片付けないと。まったく、次から次へとキリがない。ロケットランチャーで吹っ飛ばしてぇ!

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