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俺、冒険者!~無双スキルは平面魔法~(WEB版)  作者: みそたくあん
第5章:準男爵編

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第122話~新たな目標~

 もう王都に用はない。村長の領地や西方戦線の様子は気になるけど、まずはノランに行って首脳陣をシバキ倒してこなければ。あと、ヒューゴー侯爵家からの調査依頼の続きも。優先順位をキッチリつけて、ひとつずつ確実に消化だ。


 来るときは十日ほどかかった旅程も、帰りは魔法を使って大幅な短縮ができる。もう隠す必要がなくなったからな。空路を使えば半日もかからない。

 しかし、それにはひとつだけ問題がある。そう、クリステラの高所恐怖症だ。

 クリステラが耐えられるギリギリの高さを飛ぶという手もあるけど、周囲への影響や障害物のことを考えると、やはり高空を飛んだ方が安全で快適だ。ここはクリステラに我慢してもらうしかないかな。

 そんなことを、宿の部屋のリビングスペースで皆と話す。

 正方形のローテーブルの周りにはひとり掛けのソファが四つ据えられており、俺の左にクリステラ、右にサマンサ、向かいにデイジーが座っている。ウーちゃんは、いつものように俺の足元だ。俺が右手で撫でる事が多いのに気付いたのか、最近は右側が定位置になっている。賢いなぁ。


「心配ご無用ですわ! こんな事もあろうかと、対策を練っておきましたの!」


 そう言ってクリステラが懐から取り出したのは、厚手の黒い布だった。それを五センチほどの幅に折り曲げると、自分の目を覆う形で頭に結ぶ。目隠しだな。練ってたわりには普通だ。


「これでどんなに高くても恐れる事はありませんわ!」

「いや、でもそれ、周りが見えない分、別の怖さがない?」

「ふふふっ、それも心配ご無用ですわ! そのための手段もちゃんと考えてありますの!」


 言うや否や、クリステラが俺に抱き着いてきた。速い! そして俺の頭を抱えて頬ずりを始める。


「こうすれば恐怖など欠片も感じませんわ! 我ながら完璧ですわね!」

「クリステラ、今、全く逡巡なしで僕のところに来たよね? 実は見えてるんじゃないの?」

「ビート様の気配なら、目を瞑っていてもわかりますわ! 伊達に毎晩、闇の中をビート様のベッドまで忍んで行っているわけではありませんでしてよ!」


 いや、それは大きな声で言っていいことじゃないだろう。既に一線を越えて、ストーカーどころか不法侵入だ。まぁ、実害は出てないからいいけど。罪状に児童虐待が付かなくて良かったな。まだやり直せるぞ?


「というのは冗談で、実は天秤魔法を使って一番大きな魔力に向かって進んだだけなんですの」

「なるほど。坊ちゃんの魔力の大きさは間違えようがないしな」

「……若、スゴイ大きい」


 ほほう、魔力の大きさで個人を判別したのか。

 以前、隠されたものや暗闇の中でも天秤魔法を使えば周囲を確認できるって話をしたけど、それを実践したわけだ。感心感心。なんだかんだ言っても、やっぱりクリステラは優秀だ。

 そしてデイジーも、いつも通り言い回しが微妙だ。実はわざとか? 男としては誇らしい限りだけれども、サマンサの普通さが今はありがたい。ボケばかりじゃ話が進まないからな。


「大分魔法を使いこなせるようになったね。偉いよ、クリステラ」

「おほほっ! これのおかげで、ビート様のベッドにもぐりこむのも容易になりましたわ! やはり『必要は発明の母』ですわね!」


 やっぱり使い道はそこなのかよ! それは必要じゃねぇし、そんな母は嫌だ!

 俺が心の中で否定の声を上げていると、ウーちゃんが俺とクリステラの間に鼻面を押し込んで、グイグイ割り込んできた。ははん、さては俺たちだけが楽しそうに遊んでると思って、やきもちを焼いたんだな? 可愛い奴め。


「むむっ、この手触りと魔力量はウーちゃん? そんな、ちょっとお待ちに、ああっ、ビート様! ……あら? この毛並みも、これはこれでいいですわね」


 無理やり俺から引き離されたクリステラだったけど、すぐにウーちゃんの首にしがみついて顔を埋めていた。ウーちゃんの毛並みは至福だからな、さもありなん。

 まぁ、飛行中ずっと俺にしがみつかれると操縦をミスるかもしれないし、ウーちゃんが身代わりになってくれるなら問題ないだろう。今回はこれで行くか。ウーちゃんの困った顔も可愛いし。後でモフってあげるから、今は我慢してね。



 というわけで、ギザンに着いた。やっぱり空路は速い。途中一回休憩を挟んだのに、半日もかかってない。ウーちゃんはずっと困ってた。可愛い。

 ちなみに、今回の移動手段は以前作ったMe321ギガントではなく、単なる葉巻型のオブジェクトだ。前回飛んだときよりも荷物や人数が少なかったし、逆に魔力は増えてたこともあって、今回は航空力学さんをお呼びしなかった。空気抵抗さえなんとかなればいい。

 表面材質は、春の空に溶け込むマットな青。銀色だったらUFOに間違われてただろう。特撮も合成も無しの本物で、水平移動も垂直上昇も思いのままだからな。しかも、途中でトカゲの魔物を一匹アブダクションしたし。矢〇さんが見たら大喜びだったかも。ちなみに、捕えた魔物はスタッフ(主にウーちゃん)が美味しくいただきました。


「あらあら。ビート様、みんな、お帰りなさい」

「おっ! みんな、おかえり~。けど予定より早ない? なんかあったん?」


 夕方前、ギザンでの拠点にしている宿屋へ到着すると、部屋にいた居残り組のルカ、キッカが迎えてくれた。


「うん、ただいま。ふたりだけ? アーニャは……隣か」

「せや。隣で子供らの面倒みてくれてるわ。意外て言うたら失礼かもしれんけど、アーニャはんは結構面倒見がええな。あの子らもよう懐いてるわ」


 うむ。失礼かもしれないけど、意外だ。食い意地の張った眠り猫みたいなイメージがあるけど、実は料理以外の家事全般をそつなくこなす有能さなんだよな。能ある鷹は爪を隠すと言うけど、猫だけあって普段は爪を隠してるということか。意図してじゃないだろうけど。


「そっか。それで、あの子たちの様子はどう?」

「はい、順調に回復してます。もう普通に食事をとって、散歩もできるようになりました」

「そっか、良かった。やっぱり子供は回復が早いね」


 俺もまだ子供だけど、というセルフツッコミを心の中でしてみる。

 見た目は子供、頭脳は大人。その名は名探偵ビート! しかし、元ネタであるあの探偵の頭脳は高校生だから大人じゃない。当事者の発言を鵜呑みにしてはいけないのは推理ものの鉄則。更には、立場が変われば答えも変わる。真実はいつもひとつとは限らない。

 それはそれとして、海賊総督に虐待されてた子供たちは順調に回復してるみたいだ。おそらくトラウマを負っているであろう心のケアはこれからだけど、まずは身体を癒さないと。全てはそれからだ。

 とはいえ、あの子たちの今後の事はちゃんと考えておかなければいけない。

 故郷の村は全滅してるみたいだから、帰す場所はない。引き取ってくれる親類がいるならいいけど、身内が集まって出来た村だったらしいから、村と一緒に亡くなってる可能性が高い。期待薄だろう。

 この国というか、この世界には孤児院のように子供を預けられる場所もない。身寄りのない子供は奴隷商が引き取って教育し、ある程度育ったら商品として売られていくそうだ。つくづく命が安い世界だと思う。

 だからと言って、俺たちが連れまわすわけにもいかない。年端もいかない子供がついてこれるほど、冒険者家業は甘くない。まぁ、年齢的には俺と大差ないんだろうけど、俺は良くも悪くも普通じゃないからなぁ。その自覚はある。


「みゃっ! 話し声がすると思ったら、やっぱりボスだったみゃ。おかえりみゃ」


 俺が子供たちの処遇で悩んでいると、アーニャが戻ってきた。どうやら声が聞こえたらしい。さすがは獣人、人間とは感覚が違う。こんなに有能なのに、なんでちょっと残念な子のイメージがあるんだろう? やっぱ食いしん坊属性だからか? 昔から『食いしん坊キャラは残念キャラ』と相場が決まってるしな。


「うん、ただいま」


 久しぶりに全員揃ったな。さて、それじゃ王都での出来事と今後の話をするとしますか。今夜は朝が遠そうだ。



 王都での出来事を、叙爵されたことを含めて全て話すと、やはり三人とも驚いたあとで祝福してくれた。やっぱり貴族になるってすごい事なんだな。


「いや、確かにすごいんやけど、それよりその若さで叙爵されたっていう方が驚きやわ」

「そうだみゃ。あのダンテス様でさえ、見習いから十年以上かかって準男爵になってるみゃ。ボスはまだ冒険者になってから一年も経ってないみゃ。異常だみゃ」

「……若、早過ぎ」


 地味にデイジーの一言が辛い。

 しかし俺としても、こんなに早く叙爵されるとは予想外だった。冒険者として地道に依頼をこなし、最短でも五年くらいはかかると思ってた。それが僅か一年……いや、半年くらいか。デイジーの言う通り、早過ぎる。何を生き急いでいるのかと問いたいくらいだ。

 前世では毎日を締め切りに追われるように生きてたけど、それが魂に染み付いてしまっているのかもしれない。まるで呪いだ。


 よし、『自由に生きる』に加えて『のんびり生きる』を人生の目標に加えよう。晴耕雨読、悠々自適のスローライフがスローガンだ。全力でだらけるぜ!


 そうと決まれば、今抱えている課題と依頼を早く片付けてしまおう。『善は急げ』と言うし。……あれ、なんか変だな? ま、いいか。

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