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第10話~やっぱりニクが好き~

 今回の戦利品は魔石ばかり24個。オーク狩ってる途中で絡んできた猿の魔物も狩ったからこの数になった。どれが猿のでどれがオークのかは、よくわからない。やや大きめなのがオークじゃないかと思うんだけど、どれも直径1cm~1.5cmくらいでほとんど差がない。2cmちょいあった、オークのボスの魔石だけは一目で見分けがつくんだけど。


 西の宝物置き場へ戦利品を隠した後、見回りの隙を突いて村に戻った。誰にも気付かれてないようだ。今回も上手くいった。


 素早く共同井戸まで移動し、誰も居ないのを確かめた上で服ごと水を浴びる。解体の時の血とオーク自身の臭いが付いてるからな。洗い落しておかないと、ここからバレないとも限らない。いつもなら小川でバシャバシャやって誤魔化すんだが、その小川が干上がってるから今回その手は使えない。

 服ごと身体をゴシゴシと擦った後、もう一度頭から水を被る。これで臭いは落ちたと思うんだが…カモフラージュの為にちょっと細工しとくか。


 そこらの土を捏ねて、いくつか泥団子を作っておく。更に、ちょっと土を盛って小山を作り、天辺から溝を掘る。上から水を流せば、泥遊びの痕跡の出来上がりだ。泥遊びであれば、びしょ濡れでも左程不審に思われないだろう。母ちゃんには怒られるけど。この村の気候であれば、大抵2時間もすれば乾くし、真冬以外は風邪をひくこともない。多分、村の人達の俺に対する認識は『いつも水(泥)遊びしてるか畑で土いじりしてる子供』だろう。まあ、それくらいであれば奇異の目で見られることもないだろうから、問題ない。


 ふむ、中腹にちょっとした池があってもいいな。真っ直ぐ流れるのも面白味がない。ちょっと蛇行させよう。おっと、川下に水が溜まってるな。もう少し先まで水路を作って…



…はっ、何してんねん、俺。つい夢中になってしもた。


 泥遊びには童心を呼び覚ます、魔性の力があるようだ。気が付くと、泥の小山は既に特撮用ミニチュアセットレベルまで昇華されていた。小さな草が木の代わりに、小石で組んだ石垣は棚田を模している。雑草の葉先で稲まで再現してしまった。捨てきれないデザイナー魂が憎い。


 かなりの時間集中していたと思ったが、まだ太陽はやや西に移動したくらいだった。前世の感覚からすると午後3時から4時の間くらいか。


 今日はよく運動したからか、ちょっと眠い。家に帰って少し昼寝しよう。


 家に戻ったが、母ちゃんはまだ畑らしく、誰も居なかった。男手が見回りや森に割かれてるから、その分仕事が増えてしまったんだろう。


 ちなみに、家に鍵なんて掛かってない。というか、鍵自体付いてない。誰でも出入り自由だ。田舎だから、村全体が家族みたいなものだしな。


 仕事を手伝えないのは申し訳ないが、子供が居ても邪魔なだけだ。濡れた服を適当に物干し用の縄に掛け、全裸になった俺は自分のベッドに潜り込む。固い布にも慣れた俺は、すぐに夢工房へ旅立っていった。



「ほれ、起きるだよ、ビート。」


 母ちゃんに揺り起こされた。窓から入る光がオレンジ色だ。2時間くらい寝てたっぽいな。わりと寝起きは良い方なので、多少目をシパシパさせながらも起きる。


 あ、そういえば父ちゃん達は帰ってきたのか?


「かあちゃん、とうちゃんは!?」


「さっき帰ってきただ。怪我もねえし、大丈夫だぁ。今、旦那様んとこで皆と話してるだよ。」


 母ちゃんも心配だったんだろう。ホッとした感じが伝わってくる。


 村長のところってことは、今後の対応についてかな?ちょっと気になるし、気配で分かってるけど、一応父ちゃんの無事も直に確認しておきたい。


「そんちょーのとこにいってくる!」


「あ、これ、ビート!ちっと待たんね!」


 固い布のシーツを跳ね飛ばしてドアに向かう俺を母ちゃんが呼び止める。う、泥遊びのお小言か?


「フル○ンで何処さ行くだ、ちゃんと服さ着れ!」


 あっ、そういえば全裸だった。えらいとこ見られてしもたやないの!



 服を着て村長の家に行く途中、帰ってくる父ちゃんに会った。母ちゃんの言った通り、怪我はしてないようだ。良かった。今後の対応についての話は終わったのか。俺は父ちゃんと手を繋いで、今日の事を聞きながら帰った。こういうコミュニケーションも大事なのですよ。

 父ちゃん曰く、明後日、村の男達総出でオーク退治に向かうそうだ。当然ながら、俺は頭数には入っていない。

 もう5匹くらいしか残ってないはずだし、この村の男たちはソコソコ強い。多分問題なく退治出来るだろう。今回の騒動も終わりが見えたな。



 その夜は久しぶりの肉だった!


 父ちゃん達は狩ったオーク2匹を持ち帰っていたのだ。英気を養う意味で、肉を食って精気を蓄えようという事らしい。この世界、魔物を倒しても、ゲームみたいに消えて無くならないのがいいね。持ち物も丸ごと残るし。ほんと、魔法と魔物がいる以外は、まるっきり元の世界と変わらない。まあ、それが十分大きな差であるんだけれども。


 村長の家の前に即席の竈というか囲炉裏?が作られ、盛大に薪が燃やされる。木串に刺されたオーク肉が、その周囲に突き立てられる。串焼きだ。ジリジリと遠火で炙られる肉から、香ばしい油の焼ける匂いが漂ってくる。


 これは…バーベキューのタレが欲しい。!


 そのままでも美味いかもだけど、うっすい塩の味でも美味いかもだけど、やっぱりガツンと味が欲しい!


 …いや、作れるんじゃね?砂糖と香辛料と刻んだ香味野菜にお酢代わりの酸味のある野菜汁…行けそうじゃね?



 イケました!


 母ちゃんにお願いしてタレを『こんな感じで!』って作ってもらったら、思った以上にいい感じに出来た。そのタレを肉に絡めてよく揉み、味を馴染ませてから串に刺して焼いてもらう。肉の焼ける香ばしい匂いに砂糖の焦げる甘い香りが混じって、焼いてる間は涎が止まらなかった。

 焼けた肉を一口齧ると、肉汁と砂糖の甘み、香辛料の刺激と香味野菜の香りが口の中に広がる。しつこい油の後味は、野菜汁の酸味でさっぱりと洗い流される。少し癖のある豚肉といった感じのオーク肉によく合う。


 美味い!


 あっという間に一本喰いきって、二本目に手を伸ばす。


「ビート、それ美味そうだな。父ちゃんにもくれろ。」


「とうちゃん。いいよ、おいしいよ!」


 俺があまりにも美味そうに食ってたからか、遠巻きに見ていた大人達の中から父ちゃんがやってきた。是非もない、どんどん食ってほしい。手に持った二本目を父ちゃんに渡す。ほんの僅かに逡巡したあと、父ちゃんは串にかぶり付いた。一瞬目を見開いたかと思うと、ものすごい速さで咀嚼して飲み込んだ。


()にうめぇ!こんなうめぇもん、初めて食っただ!!」


 うむうむ、そうでしょうそうでしょう。父ちゃんもあっという間に一本を食べきって、二本目どころか両手に一本ずつ持って喰い始めた。食い意地張ってるな。イケメンなのに残念なことだ。

 他の大人達も安心したのか、タレ串に手を伸ばし始めた。一口食った後は父ちゃんと同じだ。我先にと手を伸ばし、あっという間に串は無くなってしまった。

 結局、最初の一本しか食えなかった。シューン…。


「ビート、この串の味付けはお前が考えたとサフランに聞いたが、本当か?」


 村長が食べかけの串を持って話しかけてきた。サフランっていうのは母ちゃんの名前だ。喋っちゃったのか。まあ、口止めなんかしてないしな。


「うん、そうだよ。おいしいだろうとおもって、かあちゃんにつくってもらったの。」


 誤魔化すと後々面倒になりそうだし、ここは正直に答えておこう。ボロが出ないように、隠すところは隠すけどな。前世についてとか。


「そうか…。なぁビート、このタレの作り方を村のみんなに教えてくれないか?」


「うん、いいよ。そしたら、みんなおいしいおにくがたべれるね!」


 何か感づかれてる?ちょっと有った『間』が気になるな。しかし今は、特に詮索はしてこないみたいだ。あくまでも『今は』だろうけど。やっぱこの村長、出来る男っぽい。俺も『今は』無邪気な子供を演じておくとしよう。


 『ありがとな。』と笑って俺の頭を撫でながら、村長は皆に向かって声を掛ける。


「今日は皆、美味い肉を食って英気が養えただろう。上手くいけばまた美味い肉が食えるぞ。明後日の討伐では奮闘を期待する!」


「「「オオォォーッ!!」」」


 いい感じの締めが入ったところで、この日は解散となった。また肉が食えるといいな。


----


 オークは排除された。ただし、討伐出来たわけではない。


 男衆が空き地に着いたとき、そこはもぬけの殻だったそうだ。辺りに血の跡や爪痕があったことから、どうやら他の魔物に襲われて逃げたか全滅したのだと思われる、とのこと。

 数が減ってボスも居ないとなれば、そういうことも起こり得るか。なんか肩透かしというか、スッキリしない感じだが、解決したならそれでいい。これでいいのだ。肉は食えなかったけど。


 川の水が止まってた原因だが、オークが堰き止めて蒐場(ぬたば)を作っていたそうだ。蒐場というのは、泥浴び場のことだ。オークは手足が短く背中に届かないため、寄生虫が付かないように泥を体に塗りたくるのだ。その為の泥浴び場を蒐場というのだが、かなり大きい蒐場になっていたそうだ。

 討伐隊はそのまま工兵隊として、堰き止められた川を元に戻したそうだ。今は元通りの小川が村を流れている。


 なんにせよ、解決してよかった。原因は俺だということは墓の下まで持っていこう。世の中、知らないで良いことは沢山有るのだから。

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