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俺、冒険者!~無双スキルは平面魔法~(WEB版)  作者: みそたくあん
第4章:戦国動乱編

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第105話~北の酒場にはオッサンの方がよく似合う~

 ギザンの町は、ノランとの国境である『ドラの衝立』から南に五キロほど離れた場所にある。平野を東西に走る小さな川に沿って出来た細長い町だ。雨量の少ないリュート海沿岸だから、川の周囲に人が集まるのは当然か。人口は二千人程。

 その細長い町は、地理的には川で南北に分けられているが、経済的には東西に分かれており、それぞれ『東町』『西町』と呼ばれている。海岸に近い西町は一般市民が住み、東町は平民の中でも比較的裕福な層と領主が住んでいる。

 この住み分けの理由は実に簡単で、ズバリ海賊対策だ。

 海賊は海の方向、つまり西側から襲ってくる。一般市民が襲われている間に富裕層は逃げ、領主は防備を固めるというわけだ。なんというか、下種い。


 そんなわけで、西町と東町の間には見えない壁があるのだと、西町の酒場で管を巻いていた五十くらいのオッサンが話してくれた。日焼けした角刈りに捻じりハチマキという、いかにも漁師風なオッサンだ。

 まぁ、東町の人はともかく、盾にされる西町の人からすれば隔意があって当然だな。


 俺達の宿は西町にとった。別に住民感情に配慮したとかじゃなく、単に東町の宿屋が空いていなかっただけだ。

 東町の宿は全て軍に抑えられてしまっていた。貴族等の幹部級が泊まっているらしい。兵卒は東町周辺に野営だそうだ。下っ端は辛いねぇ。

 逆に、西町の宿は閑古鳥が鳴いていた。まぁ、この非常時だ。最前線の町に来るもの好きなんて、そうは居ないだろう。そのおかげと言ってしまうと不謹慎かもしれないが、ウーちゃんが一緒でも歓迎してくれたのはありがたい。ペットと泊まれる宿は前世でも少なかったからな。ウーちゃんはペットじゃなくて従魔だけど。


 宿をとった後は皆で情報収集だ。俺とウーちゃん、クリステラは西町、他の四人には東町の酒場へ行ってもらっている。クリステラが東町に行くと、知り合いの貴族に会って面倒な事になったりしかねない。要らぬトラブルは極力避けたいからな。ToL□VEるはもうちょっと大人になってから。えっちぃのは大好きです。


 そんなわけで、西町の酒場で見つけたオッサンに話を聞いているわけだ。


「ちょっと前に大負けしたって聞いたけど、何があったの?」


 そしてせっかちな俺は、早速本題の調査に取り掛かる。依頼を受けたときにおおよその事は聞いてるけど、やっぱ現地で生の声を聴いておかないと。……生ビール飲みてぇなぁ。


「ああ、ありゃ酷かったらしいな。こっから北西にちっとばかし行くと小島が集まった『(かもめ)の巣』っつう場所があるんだけどよ? そこに海賊のアジトがあるってんで、船を集めて潰しに行ったらしいのよ。まぁ、罠じゃねぇかっていうのはお偉いさんも気付いてたみてぇだけどよ、数でもって罠ごと食い破っちまえってんで、二十隻くらいの大船団で向かったわけだ。」


 オッサンはここまで話すと、木製ジョッキに入ったエールっぽい酒を呷った。いいなぁ。


「んで、こっからは生きて帰ってきた奴の話なんだけどよ、鴎の巣の近くに確かに海賊船が一隻居たらしいんだわ。まぁ、たった一隻じゃ二十隻に敵うわきゃねぇわな。案の定、そいつはケツまくって逃げたらしいんだけどよ、追っかけてったら島の陰からうじゃうじゃ小型の船が出てきたらしいんだわ。しかも、それが恐ろしく足が速いらしくてよ。火矢を撃ち込まれて、船という船があっという間に火だるまにされちまったんだってよ」


 大型船相手に、足の速い攻撃型の船か。まるで駆逐艦みたいな発想だな。ジャーキンの転生皇太子の入れ知恵かね? いずれ空母型とかも出てきそうだ。気を付けておこう。潜水艦はまだ難しいだろうがな。俺以外は。


「でも、生き残りが居たんでしょ? そんな足の速い船からよく逃げ切れたね」

「おお、そりゃ運が良かったんだろうよ。なにせ、滅多に雨の降らねぇこの辺りに、珍しく大時化が来たからな。小舟は時化に弱ぇえからよ」


 なるほど、確かに運が良かったようだ。雨が降れば火矢も使えないしな。


「けど、あの辺りは潮の流れが速い上に複雑でよ。燃え残っても流されて帰ってこられなかった船もあったんじゃねぇかな? 帆も焼かれただろうしな」

「ふぅ~ん、流されちゃったのか。その船はどこまで流されて行ったのかな?」


 もしかしたら、どこかに漂着してまだ生き延びてる可能性もあるわけか。かなり可能性は低いけど、魔法使いならその可能性はゼロじゃない。アリストさんは土の魔法使いだったらしいからな。

 まぁ、海で土系の魔法使いがどこまで頑張れるかは疑問だけど。長島さん(ロングアイランド)は例外だ。ダンジョンだし。


「さてなぁ。鴎の巣のどこかってのが一番ありそうだけどよ。あの辺りは本当に流れが難しくてなぁ。海賊どもがあの辺りを知り尽くしてるなら、ちっと不味いかもしんねぇな。騎士団のにわか海軍じゃあ手に負えねぇだろうよ。……俺も逃げっかな」


 オッサンはそう言ってジョッキを呷ると、遠くを見る目をして黙り込んでしまった。俺はオッサンに話を聞かせてもらった礼を言い、テーブルに大銀貨一枚を置いてその場を後にした。まぁ、酒代にでも引っ越し代の足しにでも、好きなように使ってくれ。


 別の客に聞き込みをしていたクリステラに一声かけて合流し、店の前で丸くなっていたウーちゃんを拾って宿に帰る。宿に戻って皆と情報のすり合わせだ。



 緊迫した情勢のリュート海沿岸北東方面だが、実は未だノランとは正式に開戦していない。ここまで荒らされてまだ戦争じゃないとか、寝言は寝て言えと突っ込みたいところだが、政治的にはそのような見解なんだとか。

 海賊はあくまで単なる犯罪者であって、国とは一切関係ないというのがノランの言い分だそうだ。捕縛も処刑もご自由にという事らしい。ただし、国内への上陸は認めないと。それは侵略行為に当たるので、周辺国家に周知した上で開戦に踏み切るという。その場合の悪役は王国というわけだな。

 つまり捜査・逮捕はさせないという事で、実質、海賊を国が保護しているわけだ。犯罪も国益になるなら保護するという事か。まるでどこぞの共産国だな。


「国同士の話はそんな事になってるのか。なんともバカバカしい限りだね」

「全くですわ。現実が見えてないとしか言いようがありませんわね」


 東町から戻った四人から得たのはそんな情報だった。いつの世も権力者というのは現実とはズレてるものなんだな。その他の情報は、俺達が西町で仕入れたものとほぼ同じだった。


「う~ん。こりゃ、現地に行ってみるしかないかな」


 どのみち、死んでるなら遺品、生きてるならその身柄が必要なんだから、一番それが見つかりそうな現地へ行く事は必須だ。


「そうですわね。となると、どのくらいの期間調査するかわかりませんし、食料を調達しませんと」


 確かに、長期泊まり込みになるかもしれないし、食料の準備は必要だ。


 うちのパーティの場合、水の準備は必要ない。キッカの水魔法で出すことが出来るし、俺の平面魔法で大気中の水分を抽出してもいい。冷蔵庫を応用して結露させれば、時間はかかるが抽出できるだろう。これが砂漠なら難しかっただろうが、幸いにも周囲には豊富な水がある。問題ない。


 とか考えつつキッカを見ると、何やら考え込んでるようだ。はて?


「どうしたのキッカ? 何か問題?」

「いや、ちょっと海賊の船の事でな……なんかおかしいねん」

「おかしいって、何が?」


 小型の快速艇使ったって話だろ? 現代でも普通にあったけどな。


「鴎の巣ってとこは潮が複雑なんやろ? そんなとこで小さい船を思い通り操れるもんなんかなって」

「……ふむ。確かに、言われてみればそうだね。大きい船なら奴隷に櫂を漕がせて潮に逆らう事も出来そうだけど、小さい船じゃそんな人数は乗せられないか」


 この世界の船は基本的に帆船だ。風の力がないと前に進まない。一部の軍船だけが奴隷を使った人力での航行を可能にしているが、海賊がそんな船を保有、維持できるはずがない。つまり海賊も王国軍と同じ様に帆船を使っているはずだ。

 それなのに、明確にわかる程の速度差があったという。キッカの疑念も尤もだ。そこに気が付くとは、流石は海エルフ。伊達に耳は尖ってないな。あれは良いものだ。


 前世であれば、小さな船体に大きなエンジンと高性能なスクリューを付ければ小型快速艇を作れただろう。しかし、この世界ではエンジンやスクリューはまだ開発されていない……いや、そうとも限らないか。ジャーキンの皇太子が転生者なら、開発の可能性はゼロじゃない。まぁ、技術レベル的にエンジンの実用化はまだ無理だろうけど。あれは精密機械だからな。足漕ぎ式のスクリューなら何とかなるか? 観光地の小型スワンボートのあれ。

 けど、今回得た情報の中に、船自体が変だったという話は無かった。つまり、見た目は普通の帆船だった可能性が高い。ということは……


「魔法使い、いや、魔道具を使った船か」

「せやな。それが一番有り得そうやわ。風を吹かせる魔道具やったら納得や」


 風の魔法使いを小型船にひとりずつ乗せるというのは現実的じゃない。絶対的に人数が足りない。

 となれば、可能性としては魔道具だ。風を操る魔道具というのは聞いた事がないが、ジャーキンの皇太子なら開発しててもおかしくない。銃の実用化には成功してるしな。


 高価な魔道具を海賊風情が大量に入手できるわけないから、その場合は支援してる者がいるのは確実だ。ぶっちゃけ、国ぐるみだろう。これで『関係ありません』とか言ってるんだから恐れ入る。面の皮厚すぎ、鉄仮面レベルだ。おまんら、許さんぜよ!

 あ、あれは国家権力側だった。


 ん? 海から近づいてくる気配があるな。これは船か? 夕方だから、漁に出てた船が帰ってきたのかも。ここの主産業は漁業らしいし。

 今から港に行けば新鮮な魚が食えるかもしれないな。サッとさばいて一夜干しにしてもいい。調査には保存食が必要なんだし、丁度いい。


「どうやら船が帰ってきたみたいだね。美味しい魚が獲れてるかもしれないし、港へ行ってみようか」

「みゃっ! お魚みゃ!?」


 やはりアーニャは魚という単語に食いついてくるな。単語だけじゃなくて実際に食いつくんだけど。


 そういや、まだこの世界でイカやタコを食ってない。人魚達も食ってなかったし、もしかしていないのか!? そんなバカな!? イカ焼き食いてぇ! 日本酒もキュッと!


 念のために装備を身に着けて準備していると、なにやら表が騒がしくなってきた。はて?


「か、海賊だぁーっ! 海賊が攻めてきたーっ!」


 あれ? 烏賊じゃなくて海賊だった! 一文字違うだけでこの残念感! くそう、俺の期待を返せ! このタコ!

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[一言] 俺の期待を返せ! このタコ! 不覚にも笑ってしまった!
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